036 妻は敵を知る
王都ガーベランスで、そこそこに高い宿屋に二人は泊まる事になった。
トットマ達は空気を読んだのか、団体だからなのか別な宿へと向かった。
部屋の中では、大股開きで椅子に座るマルクと、ラーミが居る。
「あの、マルクさん……。
そんなに大きく足を開けていると、スカートの中が見えそうです」
「す、すまん」
いくらロングスカートといえと、長いので巻くって座っていれば中身もみえそうにはなる、マルクは慌てて、足を閉じる。
「さて……、ギルドにいって」
「ああっ! ギルドに行って……、どうするんだ?」
「遺言状ありますよね」
「ああ」
(オレとラーミが結婚するきっかけになった紙だ)
ラーミは、そのまま説明を続ける。
「ギルドの受付などではなく、その上のギルドマスターなら何とかなるかもしれません」
「アテはどうする?
一般冒険者がノコノコといって会ってくれるような人物ではあるまい」
「その辺は大丈夫です。
それに、早いほうがいいかなと。
マルクさんもずーっと化粧してるわけにはいかないでしょうし」
「そうだな……」
マルクは重い腰をあげる、外に行くという事は女装のままで出る事になるからだ。
男は男らしく生きろ、とシスターアンに教育されてきたからだ。
(こんな姿は間違えても見せれない……)
二人は部屋をでて、近くを散歩するといって宿を後にした。
王都冒険者ギルド。
今まで見たギルドよりも数倍大きい建物だった。
マルクとカレンはその扉を開け中へ入る。
少年冒険者が入ってきた事を確認する、冒険者達。
ラーミの男装であるが、疑いもせずチラッと見ては目線を外す。
次に入ってきた冒険者に一同ぎょっとした。
背は高く、体つきが男のように筋肉質でありながら顔まで隠すローブを着ている。
ローブのすき間からスカートが見え隠れして、周りには女性だというのをアピールしているからだ。
化け物が入ってきた……。
女性でいいのか?。
馬鹿、男だろう。
筋肉質で中々美人な女性じゃないか。
しかし、スカートをはいて、あっ!。
どうしたっ? 先ほど花婿を探している化け物冒険者が街へ入ったと聞いた……。
まじか、眼を合わせるなっ。悪いが俺じゃ抵抗してもお持ち帰りされそうだ。
などなど囁きが聞こえる。
ラーミが、男の子を演じ近くのカウンターへと背伸びする。
顔が油まみれで、頬にぶつぶつが付いて、尚且つ、けだるそうな男性が受付をしている。
「こんばんわっ!
ギルドマスターに大事な話があるんだけど」
「なんだ、餓鬼かよ。
面会の約束、手形などはあるか?」
その、嫌な態度にラーミは一瞬怯むが、笑顔で対応する。
腰につけているポーチから一枚の古びた紙を取り出した。
顔が油まみれで、頬にぶつぶつが付いて、尚且つ、けだるそうなギルド員は、不機嫌な声で小さく読みあげる。
「なになに『王都冒険者ギルドマスター・ラックは、この紙とメダルを持つ者と面会をいたします』」
「です、これがメダルです。嘘か本当かは一度見てもらえば……」
ラーミは、メダルをカウンターの上へと置いた。
白銀に輝いてたメダルを見て、顔が油まみれで、頬にぶつぶつが付いて。
尚且つ、けだるそうで、憎たらしい顔のギルド員は、カウンターに置かれたメダルを指で弾いて、床へと飛ばした。
次に持ってきた紙をびりびりに破いて後ろへ捨てた。
余りの事に呆然となる。
「バーカ。
これだから田舎者は、今のギルドは、ぼくちん。
ナル様のパパである、スライクだ。
どうしても、ギルドマスターに用事っていうなら、それそうおうの物をもってこい。
おい、床がきたねえぞ、誰か掃除しろっ」
顔が油まみれで、頬にぶつぶつが付いて、尚且つ、けだるそうで、憎たらしい顔のギルド員ナルは、指で輪を作って落ちたメダルを探しているマルクとラーミを、見下し話す。
簡単に言うと金、賄賂を出せというのだ。
ラーミとマルクは、必死で転がったメダルを探してる。
「マルッ……、マアミお姉ちゃん。
あっちに転がっていきました」
ラーミが、小走りに動きマルクもそれに続いた。
メダルを見つけ大事そうに掴むラーミをみて、マルクの顔色が変わってきた。
(何なんだあの態度はっ、ギルド員、いやギルドマスターの息子といったが、そんな態度が許されるのかっ!)
マルクが一言文句を言おうと一歩前に出たときに、扉が壊れるほどの勢いで音を立てた。
全員が入ってきた人物を見る。
顔が油まみれで、頬にぶつぶつが付いて、尚且つ、けだるそうで、憎たらしい顔のナルが直立不動になり、その人物の名前を大声で言う。
「これはこれは、サンフラ・マリュ・クロ様っ!
直ぐに父を呼んできます」
サンフラ・マリュ・クロ様と呼ばれた人物は背の高い男性だった。
年はマルクよりも上に見え、顔の頬に大きな十字傷があった。
腰には剣が釣り下がっており、その鋭い目で辺りを見回す。
先ほどの、顔が油まみれのギルド員がガマカエルとするならば、ヘビに似た男性であった。
二階から、ガマガエル。
もといナルと、これまたナルに似て太った男性が降りてくる。
違いがあるとすれば顔のボツボツがない所だろうか。
熱くもないのにハンカチを使い汗を拭きながら降りてくる。
「これはこれは……。
サンフラ様、御用でしたらこちらから向かいますのに」
「スライクっ! お前に依頼した話はどうなっているっ!」
「例の女性ですよね? それはもう全力で探しています、サラと言いましたっけ」
サンフラは黙って歩くと、ギルドマスターであるスライクのの近くへ歩いた。
全員が注目するなか、サンフラは突然剣を抜きスライクの頬へ剣を使いペチペチと叩く。
「その娘、ラーミだ。
連れて来れないなら別な者をギルマスにしてもいいんだぞ? 成りたい奴は他にもいるだろう」
「そ、そうは申しますか。
サンフラ様、門兵が取り逃がしたと聞いてますが、門兵は冒険者ギルドの管轄ではなく、サンフラ様の……」
マルクとラーミはドキっとした、その張本人であるからだ。
サンフラは不機嫌な顔を、さらに不機嫌な顔にする。
「お前の口は俺に意見を言うためにあるのか?。
既に変装し、街にいるやもしれんし、元の街や国外へ移動してるかもしれない。
お前は先ほど全力だ。と言ったな。
なら、なぜ冒険者がここに、こんなに居る。
特級依頼はどうした。
それとも、お前の言葉は嘘なのか?」
特級依頼とは、その支部のC級以上の冒険者達全員にギルドマスターが命じる事が出来る依頼である。
本来冒険者に上も下も無いはずであるが、冒険者には様々な特典があるんだからその辺の事はお願い聞いてよね、という命令だ。
もちろん好き勝手だせる命令ではないし、過去に出された例とすると、魔物の大量発生。
敵国からの進行を止める、自然災害からの人々の救出などだ。
不意にサンフラが構える剣が動く。
スライクが条件反射で動いたが、その首筋は切られ赤い血が流れ始めている。
「なるほど、自分の身を守るのには、早く動くのだな。
もう少し遅かったらお前の息子がギルドマスターだったな」
スライクは、切られた場所をハンカチで止血すると大声を上げた。
「と、特級依頼を出す。
連れてきたら金貨、百枚、いや二百枚だ」
その金額にギルド内がざわつく。
人探しだけで二百枚なのだ。
残っている冒険者が、ギルドマスターに詰め寄る。
二言は無いか?。
情報だけはいくらだ?。
その間にもギルドから出て探そうとする者や抜けかげはダメだと喧嘩が始まったりもした。
マルクとラーミは混乱にまぎれて、冒険者ギルドを後にした。




