035 妻は敵をあざむく
準備を終えたマルク達は、カーベランスへと再度向かった。
保険は多いほうがいい、という事で今回は別な門からの入場である。
中年の門兵が、忙しそうに入場チェックをしている。
トットマが馬車を引いて手続きをしようと近くへよった。
「お疲れ様です、門兵さん」
「やぁ、入場かい? 身分証があればそれを、なければ普段は金貨三枚で入れるんだけど……。ちょっと制限がかかっていてね、申し訳ないが時間はかかるよ?」
「へえ、何かあったんですか?」
「余り大きな声じゃ言えないが、別門で指名手配されている誘拐犯に逃げられてね。
っと、君達は冒険者か」
「そうですね、出稼ぎって奴です。
十人分のギルドカードですのでよろしくお願いします」
中年の門兵は、トットマから預かったギルドカードの束を、別な若い門兵へと手渡して、話を続けた。
若い門兵は、詰め所へと走る。
部下なのだろう、詰め所で犯罪歴があるかないか簡単なチェックをするはずだ。
「どうだい? この辺で中年男性が少女を誘拐し逃げたんだけど何か見なかったかい?」
トットマは、首を振って、
「いや……。今来たばかりでみなかったかな」
と答えた。
「まー、そんなものだろうね。照会は直ぐに終わる、ほら……。
ん? なんだあいつ、手招きなんてして。
ちょっとここで待っていてくれないか」
中年の門兵は、顔色を変えて若い門兵の場所へと向かった。
トットマからみると、二人の門兵はこちらを見て何かを話している。
そして、冒険者カードの束をもってトットマの所へ戻って来た。
「すまない。ええっと、マアルさんと、ラツ……君か。
二人の確認だけしたい。
すまんね、部下がギルドカードを照会してもなにも出ないっていうから」
それもそのはずである。
マアルとラツ、つまりはマルクとラーミの出したギルドカードは偽造であるからだ。
「わかった、なんだったら全員呼んで来よう。
そのほうが良いだろう」
トットマは馬車に戻って、全員を呼び出す。
ミイナを先頭に七名の女性と、女装したマルク。
そして最後に男装したラーミが馬車から降りてくる。
「ラツ君は君か……」
ラーミは男の子っぽく振る舞い喋る。
「そうだよ、兄さんに無理いって成ったばっかりなんだ」
「可愛らしい冒険者だな、なるほど。
登録したばかりなら何も出ない時がある」
黒髪のラーミをみて中年門兵は納得したようだ。
「マアルさんは、どなたかな? こちらもFランクという冒険者らしいが」
マルクは集団から一歩前にでた。
ワンピースの上からフード付きローブを着て、今は頭から全てを隠している。
「お、大きいな……、悪いが顔を見せてもらっても……」
マルクは黙って首を振った。
マルクの隣にいた同じく長身の女性、アケミが説明をしだす。
「悪いが、姉は人見知りが凄いんだ。
その……、この王都で結婚相手を探していて、結婚相手以外には素顔を晒したくないと思っているし、村の掟なんだ。覗き込むだけにしてもらえないだろうか?」
無茶苦茶な嘘であるが、トットマもそういう理由なんだと、謝り、他のメンバーも何も言わない。
それが当然のような顔をして中年門兵を見たりしている。
子供組のメンバーなどは、ねーまだはいれないのー? など、他のお姉さん組へと、質問をしていた。
もちろんそれも、門兵に聞こえるようにだ。
「わ、わかった……。すまないな、職務だから、怪しい人間は一応審査しないとだめなんだ。
ちらっとだけ覗かせてもらうよ」
中年門兵はマルクの顔を下から覗き込んだ。
日焼けした肌を隠すように塗りたくった化粧に、ピンクの口紅。
眉間のシワはアクセサリーで目立たなくしている。
そして、射抜くような眼光で、中年門兵を見返していた。
「ひっ!」
思わず尻餅を付く。
マルクが隣にいるアケミの耳元へと口を寄せた。
アケミはわざとらしく何度も頷く。
「ふんふん、なるほど……、聞いてみよう。
門兵さん」
「な、なんだ……」
「姉は門兵さんの事を気に入ったらしい……。
良ければ名前と住んでいる所を教えてもらえないだろうか?」
「は…………?」
「だから、姉が結婚相手として、彼方と付き合いたいと言っている。
こういうのはお互いの気持ちがあるから、先ずは名前と住んでいる所とおもって」
マルクはモジモジと手を組み。
中年門兵を鋭い眼差しで見続ける。
「やっ! 俺はしがない門兵だからなっ!
結婚なんてダメダメ。
さぁ、入場を許可しよう、うん。王都には俺よりももっといい男が沢山いる。
そう、いるから安心してくれ。
なんだったら、俺よりもアイツのほうが若くて良いとおもわないか?」
中年門兵は、一部始終を見ていた若い門兵へと指を差す。
若い門兵はたまったものじゃない、直ぐに反論をする。
「じ、自分は恋人がいますのでっ!」
「馬鹿野郎、おまえ昨日まで恋人欲しいっていってたじゃないかっ!」
「今朝出来たんですっ、今朝っ!」
二人の喧騒をみて、アケミがトドメの一撃を言う。
「姉は二人一緒でも構わないそうだ。私の村では旦那になる人物は六人までは許される」
六人とは、この場にいる見える範囲の門兵の数であった。
青くなった門兵達は急いで、ギルドカードを返すとトットマ達を入場させた。
マルク達とトットマ達は再度馬車に乗り込んだ。
城下町へと馬車でゆっくりと入る。
馬車でいける宿屋までのんびりと馬を歩かせる。
三台あるうちの真ん中の馬車の中では笑いを堪えるのに必死な面々がいた。
人数は、マルク、ラーミ、アケミ、手綱を握っているのはミイナである。
マルクは馬車の中でフードを外しため息を吐く。
ピンクの口紅をつけたまま真面目な顔をする。
「しかしこれで、入れた。
早く宿にいって、化粧を落とし普通の格好がしたいな」
アケミは、盾を磨きながら、ぶっきらぼうにいう。
「何言ってるんだい?。
マルクさん達は別な所で問題を起こしたんだ、街に入っても暫くはその格好だろうね」
「な……」
「いやだって、そうだろう。
門兵や、その時に居た人間は町の中にいるんだろ?」
マルクはその事実を知らされ肩を落とす。
ラーミは、どんまいですっ! とマルクの肩を叩いた。
「情報収集はわた……ボクに任せてくださいね、マアルおねーちゃん」
言い切った後に、落ち込むマルクをみてはラーミは笑い出す。




