032 妻は王都入り口で保護される
マルクとラーミは、賊から奪った馬車に乗り、夜道を進んでいる。
賊のアジトがあった場所に、冒険者ギルドが押し寄せたからである。
「今頃いそがしいでしょうね」
「だろうな」
何が忙しいかというと、犯人達確保の事だ。
ラーミは賊がどさくさに紛れ逃亡する恐れもあるので、穴を掘った。
それはもうかなり深く。
両手を縛ったまま賊をそこに放り込んできたのだ。
仮に手が使えても短期間では登って来れない深さ。
森を抜ける直前に、暗闇にチカチカと光が現れた。
マルクは馬車の速度を落とすと、光のほうへとゆっくりと誘導させる。
(あれが目的の場所か……)
その光を目指して馬車を走らせると、ムズナイの冒険者ギルドマスターのロウ爺が待っていた。
マルク達が使っていた馬車に乗って隠れていたのだ。
その近くまでいき馬車を止める。
「ふぉっふぉっふぉ、さすが見込んだ二人じゃわい。
こうも旨くやってくれるとはっ」
「その割には、私達を捕まえたり、じんもんしたり、脅迫したりしてましたよね、よねっ?」
「はて……?」
わざと恍けたフリをして、ラーミの質問をはぐらかす。
ラーミは、わざとに、むかつきますっ! と、喋っている。
話が進まなさそうなので、マルクが、小さく咳をして話を進めた。
「回収した金貨などは馬車の中。他に人質が十人いたので、十袋渡した、回収されないように衣服の中へと隠してもらった」
「わかっておる、アッチにはニイケルとマキサスが行っておる、人質から回収する事もないだろう、他には何かあったかのぅ?」
(恍けているふりをしているが、これは何を見たか聞き出そうとしているのか?)
「何かの実験部屋と、人が魔物になった、これがその装置らしい、変化する所は見てないが、戻る所を見た」
「ほう、そりゃおどろきじゃい、では、預かろう」
全然驚いていないロウ爺に、マルクはスイッチ付きの箱を受け渡す。
(全ては知っていたか?)
「さて、そろそろ閉めようかのう。
お主らが使っていた馬車はワシが持ってきた。
というか、お主ら本当に王都に何しに向かうんじゃ?
馬車の中は酒とツマミになるようなのしか無かったぞ……」
ラーミは元気よく答える。
「秘密でーす、しいていえば、悪を滅ぼしに?」
「そのなんだ、誤解を解きに」
(相手は、貴族だし、滅ぼしたらだめだろう……)
納得したのかしないのか、まぁええわいと、ロウ爺が歩き出す。
ちょっとまってろと、言うと、マルク達が奪ってきた馬車へと乗り込み、直ぐに出てきた。
手には金貨が入った袋が二つ握られている。
「謝礼として、金貨百枚ほどかの。
よくやってくれた、使ってくれ」
「ええ、こんなにいいの?」
「その代わり、暫く街には入れないからのう、当然といえば当然じゃろ」
「ありがとう、ロウ爺ちゃん!」
「なんのなんのっ、ではまた、縁があれば会おうマルクにラーミだったな」
ロウ爺は二人に握手を求め、二人もそれに応じた。
マルク達が街道へと戻り暫くすると、その横を何台もの馬車が行ったり来たりとすれ違った。
そのうちの一台に、往復しているのだろうニイケルが乗っていた。
気付くか気付かないか、そのすれ違い様に小さく敬礼をして別れる。
「あっ、マルクさん今の見ました? ニイケルさんですよね」
「ああ……。全ては旨くいったそういう合図なのか、律儀な青年だ」
「ああいう人が、もてるんでしょうねぇ……。
あっ! でも私はマルクさんのほうがいいと思ってますよ?」
「それは、嬉しいな」
(そういえば、地下でみたクリスタル。アレと同じのがニイケルの胸で光ってたような……、だめだな年を取ると余計な事まで詮索しようとする)
「マルクさん、考え事です?」
「いや、そういうわけでもない。
さて、夕方まで一気に進もう」
二人はそれから馬車を走らせる。
何度か休憩を入れつつだ。
暗くなり手ごろな場所で止めると、夜営の始まりだ。
火をつけ、酒を飲み、ツマミを食べる。
今朝まで三つのタルに入っていた酒は既に一つは空になっていた。
ラーミはぶどう酒を飲むとマルクへと寄り添う。
「勝利の美酒って奴ですね」
「そうだな」
「にしても、二日で百枚ちょっとの稼ぎですか」
「そうだな……。それだけ危険な依頼だった、ラーミじゃなければ無理だったろう」
「もう、すーぐマルクさんは、自分を下に見るんですから。
思ったんですけど、マルクさんそんなに弱くないかと」
ラーミの言葉にマルクは驚く。
万年Eの自分に、本当にランクB、実際はもっと上なんじゃないかというラーミは、マルクはそこまで弱くないと言うからだ。
なので、今度訓練しましょうねーと、ラーミは嬉しそうだ。
マルクもそうだなと、返事をしてぶどう酒を追加で飲みだした。
残りは王都までは後は順調だった。
大きな街にはいかないで、途中にある小さな村などで食料だけ買い込むと直ぐに出発をする。
それの繰り返しであった。
明日には王都に着くだろうと、最後の夜営だ。
酒タルは全て空になっており、今は水を飲んでいる。
「にしても、思ったよりも金貨は減りませんね」
「高級な物を買ったわけじゃない、毎回酒を補充していたが、普通な酒だったらそこまで高い物じゃないからな」
「そうなんですよね、お酒でもいいですけど、そう何度も何度も高いのを飲みたいとは思いませんし。
六十日ぐらいは遊んで暮らせますけど、何か大きな、そう家を買うなどには足りませんし、王都のギルド着いたらとりあえず預けちゃいましょうか」
「そうするか」
とりあえず、貯金という事で落ち着く。
ラーミは欠伸をしはじめた。
マグナを出てから早くも十二日ほどがたった。
寄り道をした分遅くなったが、そのほかは順調どおりである。
とはいえ、さすがに疲れも溜まったのだろう。
本来なら街から街で一泊していくような旅が理想であるが、ほぼノンストップで来た分の疲れが、マルクにもあった。
「さて、明日は忙しくなるだろう、早いが睡眠にしよう」
「ですね。どういう事かしっかりと説明して貰わなくてはっ」
翌朝に残った始末をして馬車を走り出した。
王都カーベランス。
中央に城があり、それを守るように配置された人口の川に、街を囲む高い城壁が特徴的だった。
二人は身分証を見せ、入国しようとする。
若い門兵が、マルク達、旅人に決まった挨拶をする。
二人の冒険者カードを確認するのに小部屋へといった。
戻ってきた若い門兵、さらには別な門兵も増えている。
若い門兵がラーミへと真面目な顔で話しかけた。
「ラーミ・ランフ・ヴァミューさんで間違いないですね?」
「え、はい。そうですけど? で、こちらの渋い男性が夫のマルクさんです!」
(何もそこまで持ち上げなくても……)
持ち上げられて、どうしていいかわからず少し照れる。
「わかりました。
では、ラーミさんはこちらの部屋で手続きがありますので」
ラーミが一人別部屋へと行く。
変わりに屈強な門兵が入れ替わりに入ってきた。
(なんだ?)
四方八方からマルクに対して、鉄棒で身動きを取れなくするように突いた。
丈夫なローブで、その両腕を縛り上げる。
「うぐっ、な、なにをっ」
「冒険者ギルド所属マルク。
サンフラ・マリュ・クロの婚約者、ラーミ・ランフ・ヴァミューを誘拐した罪で逮捕するっ!」
マルクの周りには他にも、入国を待つ人間が沢山おり、マルクはその視線に晒されながら捕縛された。




