031 妻と賊になる
扉を開けると、数人の男がこちらを向いた。
覆面は外しており、少年といえる顔つきから、中年を越えたであろうと思う顔ぶれである。
マルクはともかく、場違いなラーミを見て、近くの男が不思議そうな顔で訪ねる。
「道でも迷ったか? それとも……、ギルドの者か?」
マルクはその問いには答えず、大きな声を出す。
「ギルド? 何を言っている、オレ達は昨日襲撃を受けた冒険者だっ!
悪いが、宝を溜め込んでいると聞いてな、全て頂こう」
嘘である。
「馬鹿なっ! この場所がわかるはずがないっ! やはりギルドが……」
「勘違いはして貰っては困る。
お前らの仲間を拷問と回復をさせてな、その一人からこの場所を聞いた。
ギルドに知られると困るのはオレ達も同じだ。
なんせ、お前達の宝を横取りしようとしているんだからな……
嘘と思うなら今朝釈放された奴に聞いてみればいい、そいつだけは後で助けると約束した」
もちろんこれもマルクの嘘である。
何人かの男が、マルクとラーミを指差して、昨日の悪魔だっ! と、叫んでいる。
「なっ……、そうかっ!
内部崩壊に見せかけて宝を全部盗るつもりだなっ!
ゆるさねえっ」
こうなると、周りもそういう者が襲ってきたと勘違いしはじめる。
マルクは腰につけている鉄棒を瞬時に伸ばす。
ほぼ身長ほどの長い棒に切り替わる。
ラーミが、マルクの口上を聞いて惚れ惚れしている。
はっと、我に帰ったのか、ラーミも戦闘体勢へと構えた。
「と、言うわけですですので、抵抗してもしなくても、退治します」
ラーミは腰の袋からクルミを二つ取り出す。
ムツナイの雑貨屋で大量に買った物だ。
十五個入って銀貨1枚というお安さ。
普通の使い方は、割って食べる。
殻は、そこまで固くはないが、道具がないと割れない程度の硬さであった。
ラーミは握ったクルミを全力で投げる。
最初の一個は、誰にも当たらず壁へとぶち当る。
その衝撃で、壁がへこみクルミが壁にめり込む。
二投目を投げる。
賊の一人の股間へと当り、賊の一人はそのまま崩れ落ちた。
マルクをはじめ男性全員が、可哀想な目で崩れ落ちた男を見た。
さすがに悪いと思ったのだろう、ラーミは申し訳なさそうに話す。
「ええっと、狙ったわけじゃないですけど、なにか、ごめんなさい。
取り合えず、続けますっ!」
ラーミはクルミを投げ続ける。
クルミは壁にあたった。
クルミは賊の胸に当った。
クルミは寝そべり、回避しようとした賊へと当った。
クルミはテーブルに当った。
クルミは賊の……。
マルクはクルミを投げ続けているラーミを見て思う。
(命中率は低いのか、その分、賊は回避しにくい……、さて。オレも仕事をしないとな)
倒れた賊を引っ張り、抵抗する者は鉄棒で黙らせる。
そして次々に縛り上げていく。
ラーミの持ってきたクルミが無くなる頃には一階の制圧は済んでいた。
賊はあちこち痛めつけられて悲鳴を上げている。
(少し可哀想な気もするな……)
「マルクさーん。この扉鍵かかってまーす」
ラーミは奥の部屋へと行く扉の前で報告をしてきた。
賊の一人が、ニヤリと笑う。
「その扉は、たとえオークが来たって壊れねえよ」
賊が言うと同時に、ラーミが振り返る。
「マルクさーん。
面倒なので、壁壊しました」
「だ、そうだ……」
「ちょっと上見に行ってきますー」
「ラーミっ!」
マルクが止めるまもなく二階へと突撃していった。
直ぐに野太い悲鳴と、破壊音が聞こえ始める。
賊のアジトに賊が来たぞー!
化け物だっ!
一階の奴ら何してるー!
窓からにげ、来るなっ、来るなーっ!
先に一階で捕まっていた賊は、先に捕まっていて良かったなと思い始めた頃、天井が落ちてきた。
ラーミが二階からマルクを確認すると、手を振ってくる。
マルクはほっとして、その笑顔に口元を喜ばせた。
(心配するだけ、無駄だったか……)
「じゃ、マルクさん行きますね」
「何をだ?」
マルクが短く返事をした時には、ラーミの顔は見えなくなっていた。
次に、二階で仕留めたのだろう、賊がどんどん投げ落とされてきた。
鈍い音と悲鳴を上げながら賊が積まれていく。
先に捕まった連中は改めて、心底二階に居なくて良かったと思っていた。
最後に、ラーミが天井の穴から一階へと降りてくる。
「マルクさん、ご相談が」
腰を下げて、耳を貸すと小声で話してくる。
「二階に捕われた女性達がその沢山いまして……。あと思ったより、お宝と思われるのが無いんですけど……」
「そうか」
(女性達は問題はない、当初の予定通り。
問題は宝か……、この人数をやしなう食料も少ない、となると地下か)
「ラーミ、ここを頼む。
次はオレが見てこよう」
「え、あのっ?」
二階へと続く階段の裏を調べる。
マルクが思っていた通り、ふたがしてあった。
心配している顔をマルクへと見せるラーミに笑顔で返し、地下の梯子を降りて行った。
降りると空気が違う感じを肌で感じた。
光石の一種なのだろう、地下というのに明るく、いくつか扉が見えた。
手前の部屋へと入ると、貯蔵庫になっており、食料が積んであった。
(なるほど、最初は貯蔵庫か、しかし少ないな……)
二つ目の部屋へと入る。
木製の棚が並んでおり、布の袋が綺麗に整頓されていた。
一つを持つとジャラジャラと音が鳴り、中身を確認すると金貨であった。
(一つ五十ぐらいだろうか、合わせて二十八……。さてさて最後の扉はなんだろうか)
三つ目の扉を開けた。
こちらも木製の棚があり、様々なビンが並んでおり、その下には透明なクリスタルや注射器などがあった。
さらに、中央には拘束できるようにベルトが付いたベッドが一つ。
「なんだこれは……。何かの実験か……」
上空から大きな音を立てた。
地下に居るマルクは天井を見上げる。
一階へと通じる穴からは悲鳴が聞こえ始めた。
「ラーミっ!」
マルクは直ぐに走った。
直ぐにハシゴをのぼると、異様な魔物が数体暴れていた。
「ラーミ、何があったっ!」
「あ、マルクさん。
それが、何人かの賊が急に苦しみだしたと思ったら……」
はっはっはと、急に笑い出す男が居た。
後ろてに縛られているが、その顔は勝ち誇っている。
それに気付きラーミが声をかける。
「あ、二階の一番奥の部屋で隠れていたボスらしき人」
「隠れていたんじゃないな、状況を様子見していたんだ」
反論し、さらに高笑いをだす。
「はっはっは。どうせ逃げれないんだ、みんな死ねばいいんだ。
おい、教えてやろう、こいつらに注射したのは、肉体変化の薬品よ。
この俺様が持っているスイッチを……」
ゴリッ。
鈍い音が響く。
ラーミが、男の手首を強制的に回した。
悲鳴を上げているのをお構いなしに、スイッチらしきものを奪い取る。
理性の無くなった元人間が暴れまわる、いまだ魔物になっていない縛られた男達は震えたり、泣いたり、呆然としていたり様々であった。
悲鳴を上げている男へマルクが近づく。
「アレを元に戻す方法は?」
「お、おしえると……」
「ラーミ、反対側の手首を頼む。それでダメなら足をいこう」
「わっかりましたー、二回転半ぐらい回しますっ!」
ラーミがまだ大丈夫な手首へと、手をやると悲鳴混じりに喋りだす。
「いう、言うから、いいますっ。
スイッチの反対側を押せば症状は止まるはずだ。
ほ、本当だ、そう聞かされている」
(誰にだ……。いや、詮索はしないほうがいいだろう)
「ラーミ」
「わかりましたっ!」
ラーミがスイッチを押すと、それまで無造作に破壊活動をしていた魔物の動きが止まった。
地面に倒れ口から緑色の泡を吹くと、段々と筋肉がしぼんで行った。
最後に残ったのは失神した裸の男性だった。
「うう……。
また汚い物を見てしまいました……」
ラーミは、汚い物を見ないように近くにあった布を男どもに掛けていく。
(仕方が無いな)
「オレが外へと運ぼう。
ラーミ、悪いが外で全員を見張っていてくれ」
「はい」
マルクは、金貨袋を見せびらかしながら賊の前に積んだ。
次に馬車にそれを積み込む。
二階に捕われていた女性にも、手伝ってもらった。
そして女性達を集めて、念入りに話す。
事前にロウ爺と話し合っていた事である、もし作戦中に人質が居たら、人質からマルク達が、賊から金を奪うという極悪非道を行っていたのがばれる。
すべては曖昧にしたいのだ。
ムツナイの冒険者ギルドは関わっていない。
旅の冒険者が勝手に悪さを働いた事。
そしてムツナイのギルドは全く人相の違うマルクとラーミを名前すら変えて、一応指名手配にだす。
燃えさかる洋館を見つけ、残った賊を捕まえる。
賊の背後には街の貴族、国が付いていたかもしれないが不問にする変わりに、大人しくさせる。
全てはこういう事なのだ。
「オレ達の名前を聞いたかもしれないが、忘れて欲しい。
悪党から金を取る悪党。
言い換えれば仲間と思ってもいい、その代わりここに金貨袋を十個置いていく、一人一個。
そうだな、胸の部分にでも隠して持っていってくれ。
館に火をつけるから直ぐにギルドの人間が来るだろう。
オレたちは、ギルドの人間が来たら反対側から逃げる」
女性達は、まさに現金なもので、金貨袋を持たされると顔を見合わせて全員が満足げに頷いた。




