030 妻は顔にひっかけられる
夜になり、街の外へ行く事となった。
アジト討伐のために、待ち合わせ場所は街の外であるためだ。
待ち合わせの場所までは、ゆっくりと歩く、後をつけている人間が居ない事を、さりげなく確かめた。
「誰も付いてこないですよね……?」
「そうだな……」
マルクもラーミも安堵した。
ラーミは小声でマルクへと話す。
「ふぅ、これで目的の場所へいけます、森のどこでしたっけ、マルクさん聞いていましたよね」
「もう少し行った先にある墓地で待ち合わせだ」
「え……。
あの、聞いてないんですけど、森の中だけとしか」
「ああ、だから森の中にある墓地入り口で待ち合わせと」
「そ、そうなのですね……」
マルクとラーミが森へ着いて、歩く。
森に入った頃からラーミは無言だった。
「どうした?」
「いえ、非現実的と思っているんですけど、こう不気味というか、居ないと判っているんですよ、判っているんですけど……、何か視線のような物を感じるというか」
マルクは辺りを見回す。
森を切り開いた場所に墓地があり、無機質な墓が並んでいる。
(なるほど、そういわれると幽霊でも出そうな場所だな)
「こっちです」
闇から聞こえる、突然の声にラーミは驚いた。
「なっ――――っ!!!」
悲鳴が出ないのはマルクが強引に口を押さえたからである。
「ニイケルさんか?」
「す、すいません。驚かせるつもりは……」
ムツナイの冒険者ギルドランクCのニイケル。
ギルドマスターロウの推薦で今回の道案内となっている。
特徴である銀髪の天然パーマは、今はフードで隠していた。
「あの、マルクさん。
ボクの事は年下なので呼び捨てで構いません、それとラーミさんの顔が赤く……」
マルクは慌ててラーミの口から手を話す。
「大丈夫かっ!」
「ぜぇぜぇ……。
何とか、危うく窒息しそうでしたけど。
それと、ニイケルさん、もう少し心の準備というかですね……」
ニイケルは、申し訳なさそうに喋る。
「怖がらせるつもりは、なかったのですが」
「い、いえ。ぜんぜん、これっぽっちも怖く無かったですよっ」
「なら良かった、ではいきましょう。
この近くの川に小船を止めています」
ラーミの言葉を真に受けたのか、スルーしたのか、空気を読んだのか、ニイケルは先頭で歩き出す。
怒るタイミングを失ったラーミは慌てて後に続き、マルクのその後ろへと付いた。
暫くすると三人は墓地を越え、森の中へ再度入った。
マルクの耳に水の音が聞こえ始め、暫く進むと小船があった。
「お二人とも、船は大丈夫でしょうか?」
「乗った事が無い」
「あ、私は平気です」
「乗った事あるのか?」
「はい、あれは――」
ラーミが語り始めようとした所をニイケルが止めた。
「すみません、急ぎましょう。お二人は先に乗って下さい」
言われたとおりに、ラーミ、マルクと小船に乗る。
小船という名に相応しく、最後にニイケルが乗ると満席である。
「すまない、船というのはオールがあると聞いたんだが」
マルクは小船を確認していた。
オールが付いていなく、ロープに繋がれているだけであったからだ。
「一応側面についています。
まぁ見ていてください、水よ我命に答えよ……」
ニイケルがロープを外す。
次に、ニイケルの胸元が少し光りだした。
誰も触っていない小船が川の流れと逆そうし始める。
「すごいな」
「ありがとうございます。
水を操る魔法なんですけど、こう川で使うと楽に進めます」
かなりの距離を進んでいく、小船のスピードは衰えず、水面を音を立てないように進む。
ニイケルは笑顔であるが、汗が流れ出ている。
「乗っているほうは楽だが、大丈夫なのか?」
「正直な所、辛いですね。
常に魔力を出しているわけですから体力の消耗も激しいです」
マルクはちらりと、ラーミを見て、ニイケルへと目線を戻した。
(ラーミは常に肉体強化をしてると言っていなかったか?)
「マルクさんたちが襲われた場所、そして最近襲われた場所を、ボクらは地図に書き込み調べました。
ロウ爺……、いえロウギルドマスターに言われ調べていたんです」
小船は段々と減速していく。
ゆっくりと岸に着くとニイケルは最後に口を開いた。
「そして、襲われた場所を線で結んだ中心近くに、アジトを発見したんです」
その言葉と共に、大きな建物の影が小船から見えた。
音を立てないように岸へとあがる。
ニイケルが小声で二人に聞く。
「すみません。ボクは道案内という事で……」
「えー、一緒に戦わないんですか」
「ボクの顔を相手に見られると、困るんです。
本来は一緒に戦いたいですが、ボクの顔を相手に見られる事により、ムツナイの冒険者ギルドが関わっていると、ばれてしまいます。
なので、あなた方二人ならお強いし、昼間の追撃という事で選ばれたんですけど」
ニイケルが戦えるなら、最初から外部の冒険者になんて頼まない。
マルクはラーミにそれを伝えると、それもそうですねと、思い出し納得した。
マルクはゆっくりと茂みの中を移動する。
二階建ての洋館があり、どの窓にも黒いカーテン、もしくは木板が張られている。
「徹底しますねー。廃墟みたいにも見えるんですけど……」
「いや、玄関前の道が随分と硬そうで、踏み慣らされているな」
「さすがマルクさんですっ」
「で、どうやって行く?
詳しい打ち合わせは現地でやろうって話であったが」
ラーミは任せてくださいと、胸を張る。
不安がよぎるマルクであれば、今の所戦力はラーミのほうが上、黙って聞くことにする。
「では。作戦、特攻野郎Aチー……」
「しっ。誰か来る」
「あの、まだ言い切ってないんですけどっ」
黒ずくめの賊が帰ってきたのだ。
マルクはラーミと共に茂みへと腹ばいになる。
視線が低くなるが、隠れるためにはしょうがない。
賊は五人、さらには縛ってある女性を担いでいる男もいた。
賊の一人が立ち止まる。
女性を担いでいた賊が立ち止まり、止まった賊へと声をかけた。
「どうした?」
「いや、ちょっくらションベン」
「はー……。我慢できないのか」
「いいじゃねえか、これからションベン以外の物もだすんだしよ」
「ちげえねえ」
ションベンをするという賊は、真っ直ぐにラーミとマルクが隠れている場所へと歩いてきた。
ボロン。
ジョババババ。
何ともいえない匂いが、ラーミの顔近くに漂う。
すっきりしたのだろう、水音が小さくなっていく。
「ふう、すっきりした。
貴族様から金を貰って、女もさらえる。
最高の仕事だな……っと」
足音が遠ざかる。
扉が開き、閉まる音が聞こえると、辺りは先ほどと同じく、静寂に戻った。
マルクはラーミへと声をかける。
「ラーミ……、その大丈夫か?」
「何がです?」
表情の消えた顔で、返事をする。
「いや、その……。取り合えず川へ戻り顔を洗おう」
「そうですね」
二人は川まで戻ると、ニイケルが驚いた顔で出迎えてくれた。
「どうしたんですかっ、何か問題でもっ。
あれ、ラーミさんそっちは川ですけど……、気合を入れなおしています?」
顔を何度も洗うラーミに、疑問を抱く。
マルクが、ニイケルに黙って洗わせてくれないか? と、話すと、理由はそれ以上詮索しなかった。
「お待たせしました、行きましょう」
「ああ」
二人は館へと戻りだす。
「そういえば、毎回思うのだが……、その作戦名はどこからくるんだ?」
「今は無いですけど、実家にあった本からです。
今回のは、国から不遇な扱いをうけた男性四名が、後にチームを組み、日用品を使って悪を切るお話なんですよ」
「なるほど、それで、それを買ったのか」
「はいっ」
ラーミは腰につけた、五つの小袋をパンパンと叩く。
二人は先ほどの水溜りの場所を越え、鍵の掛かっていない扉へと手を掛けた。




