027 妻、悪党を捕縛する
辺りは薄暗くなり、夜営場所へと向かう二人。
いくら街道があるとは言え、街から街の移動はそれなりに危ない。
一定間隔で、旅人などが泊まれる、こじんまりとした広場がある。
「今日は、この辺にしようか」
「そうですね……薄暗くなってきましたし」
夜営の準備を始める二人。
テントは無いので、外で火をたき、馬を近くの木々へ繋ぐ。
後は馬車から食材などを降ろし、食べて寝るそれだけだ。
火で食材を、あぶりながら二人は会話をする。
「なるほど。マルクさんにとっては旅は久々なんですね」
ラーミは、マルクが食事中に久々の旅だなと、いうのを聞いて訪ねた言葉だ。
「あのっ、もっと色々聞きたいんですけどっ!
マルクさん言葉が少なく、判りにくいというか……」
(シスターアンにもよく言われていたが、何を話せばいいのだろうか?)
「すまない。特に面白い話は……」
「待ったです!なんで会話を止めるんですかっ。
そこで、昔の俺はなぁっていうのが定番なんですよ定番!」
「しかし、オチも無い話を聞いた所で、いや、過去の話オチなんて――」
普段余り喋らないマルクであるが、ラーミ相手には喋るようになってきた。
なお、実は二人の口数が多いのは理由がある。
ラーミとマルクが焚き火を囲んでいるその後ろには、積んできた酒タルを既に飲み始めているから。
まだ初日の、言いかえれば半日も経っていないにである。
その近くでは馬が静かに瞳を閉じていた。
「例えばですよ。同期の話や、好きだった人、私の母の印象や、ツードリーの街へ行く事になった理由とかですね……」
「ふーむ、女性は、そんな事まで気になるのか?」
マルクは普段は言わない心の声までも口にする。
「そりゃまぁ気になりますよってか、マルクさんが気にしなさすぎなんですっ!」
「そうだな、ラーミの母親はラーミそっくりだったよ」
「みなさん、そういいます。でも髪なんて母は黒髪で私は赤ですよっ?」
ラーミは生きていた頃の母の姿を言う。
ラーミの母サナ・ランフ・ヴァミューは黒髪でラーミが十才の頃まで生きていた。
貴族であるラーミの父が死に、名前だけの貴族となった母。
貴族の地位を狙ってくる男性が多く、それならばと誰とも再婚はしようとせず、貴族だった頃の財産を長年かけて全て放棄し、亡くなる。
たとえラーミが一人でも生きていけるように、サナはラーミに秘術を教えた。
そして、ラーミが秘術を物に出来たと思った時に、この世を去った。
「本当に、厳しくも優しい母でした」
「その……寂しいか?」
一般な十四才ならまだ両親がいる頃だし、貴族だったら学問に励む時期でもある。
一人冒険者にならざるを得なかったラーミを心配しての発言だ。
「寂しくないといえば嘘でしょうけど、割と清々しました」
「ん?」
「朝から晩まで魔法の特訓ですよ! 幸いというか不幸というか、魔力は父譲りで腐るほどあるらしく、それを朝から晩まで。 いえ、寝てる間も肉体強化に回すんです。
寝てる所にハンマーですよ、内臓破壊だって何度もされたんです!
普通ならグレます! ええ、絶対にグレます!」
清々したと言いながらも、散々思い出を語る所はやはり多少は寂しいのだろう。
「そ、そうか……で、直ぐに冒険者になったのか?」
「ええ、遺言状はありましたし、財産は全部処分されていたので、好きな食べ物を朝から晩まで食べたらなくなりましたし、それしか方法はないかと……」
「似たようなもんだな、俺も十才でギルドの寮へはいり似たように育った」
「なるほど、なるほど。所で」
ラーミは所での部分から声を落とした。
マルクにだけ聞こえるように、何人かに囲まれていますと伝えた。
マルクも、その存在は少なからず気づいていた。
ただ、こちらに襲ってこなければ無視しようと思っていた所だった。
ラーミは焚き火から火の付いた薪を一本手に取る。
「マルクさんいいですよね?」
「仕方がない……」
ラーミはその松明となった物を暗闇へと狙いを定めて投げた。
松明の火が直ぐ近くでかききえる。
「ほう……」
いつの間にか、二人の周りに数人の人間が立っている。
顔を黒い布で隠し、目だけをぎらつかせていた。
ラーミがその人物に向かって声を出す。
「一応ききますけど、何者ですかね?」
この格好で医者なんていう人間は居ないが決まりみたいな物である。
「金、命、どっちかを置いていけ」
男が短く言うと、刃を黒く塗った剣を取り出す。
「どっちも嫌ですっ!」
「まぁまて、ラーミ。好戦しても意味が無い」
「うわ、マルクさん本気ですか?」
「見たところ、山賊、いや盗賊だろうか? あいにくと金は、二人で金貨数枚しかない。
ここで我々を襲っても見入りがないと思うんだ。どうだろう? 冒険者ギルドに言ってみては?」
マルクの問いに答えずに、黒服達はマルクとの距離を詰めていく。
中には既に剣を抜いた者までいた。
「ぬかせ、その酒と馬を売れば多少は増える……ん、ガキがなんのようだ?」
ラーミはいつの間にか喋っている男の前に居た。
男はラーミの腕を掴み人質にしようとする。
しかし、ラーミはその腕を払いのけると回転を加えた蹴りを放った。
「うるさいです。せっかく、せっかくですよ!
いい雰囲気だったのに、なんなんですかっ!」
残った賊が数歩下がる。
しかし、誰も逃げないのは何かしら仲間意識でもあるのだろう。
「こいつ! ただのガキじゃねえ」
「そうですよ、私はマルクさんの妻なんですからっ!」
微妙にかみ合ってないのは、飲んでいたからである。
それでも賊のほうは、ラーミの周りを囲んだ。
一方誰にも相手にされないマルクは、どうにかして賊を改心させようと考えているが、飲んでいるために思考が追いつかず、思考を追いつかせようとまた酒を飲むのループに入っている。
(そうか、ラーミを止めさせて、そこで改めて、なぜ賊をやっているか聞こう!)
マルクは立ち上がる。
「ラーミ、辞めるんだ。彼らも深い訳があるはずだ、協力出来る事があるなら協力しようじゃないか」
「なるほど、さすがはマルクさんですっ! では、早速起きている人を探しましょう。マルクさん大変です!」
「どうしたっ!」
「起きている人が一人もいません」
ラーミの言うとおり、既に立っている者は居なかった。
全員がうめき声を上げて地面へと倒れている。
「なら、しょうがないなっ!」
テンションが少し高いマルクは、なぜか笑いながら賊をロープで固定していった。
「で、マルクさんどうしましょう!」
「そうだな……本来は近くの町へと引渡しだな」
「面倒ですね、埋めましょう!」
「なるほど、それはいい考えだ埋めよう」
話を聞いていた賊は、最初冗談と思っていた。
しかし、ラーミとマルクが穴を掘り始めた所で本気とわかり大きく叫んだ。
近くにムツナイと言う町がある、どうかそこに連れて行ってくださいと。
◇◇◇
翌朝には酔いが覚めた二人は、縛ってある賊、累計八名を見て溜め息をついた。
夢じゃなかったのかと……。
掘った穴を埋め、全員を馬車へと押し込むと、重すぎて馬が動いてくれなかった。
結局マルクが単体で馬へと乗り、ラーミが人力で馬車を引くという変わった案へとなる。
たまに縛り上げた盗賊が馬車から落ちるが、両手両足を縛っているので逃げようが無い。
その度にラーミが拾いに行って、馬車へと戻す。
口には当然さるつぐわとして布を巻いてある。
一回目に落ちた山賊は文句を言い出す。
二回目に落ちた山賊も文句を言う。
五回目に落ちた山賊は悲願した悲鳴をあげ。
十七回目に落ちた山賊は、もう泣いていた。
ムツナイの街の壁が見えてきた。
マルクは手前で馬から降りると、徒歩で近づく。
若い門兵が欠伸をしながら、警備に当たっており、マルクをみては片手を上げた。
「やぁ、旅人さん、いら……」
マルクに挨拶をした門兵が固まる。
マルクの後ろに、馬の代わりに馬車を引いてくる女の子が居たからだ。




