026 妻と見送られる
北門に人々が集まる。
孤児院からはシスターアンとメル。
冒険者ギルドマスターのフィに、謹慎処分のトットマが率いるハーレムチームが二人を見送るために集まっていた。
門前にはマルクはいるが、ラーミの姿が見えなかった。
「マルク、ラーミさんはどこですか?」
「シスター。いやそれが前日に予約をした馬車を受け取りにいくと言っていたのでもう来ると思う」
「しかし、旅ですか。
また寂しくなりますねぇ……」
「シスターアン、その今まで済まなかった」
「何がです」
マルクは孤児院にお金を寄付し、それ以外は放置していた事を謝る。
「そんな事ですか、別に怒る事ではありませんし、寄付はありがたい事ですし、それは代わりありません。しかし、彼方からの寄付をアテにして運営した事はありませんし、子供達にもそういう教えはしてません」
「なにか、さらに怒られてばかりだな……代わりといってはなんだけど、彼と彼女達が子供達がもっと上手く自立出来るように助けてくれる」
マルクはシスターアンの後ろにいる集団へと顔をむけた。
トットマとミイナが、こちらを見たのでシスターアンへ小さく挨拶する。
「ええ、お話は聞いています。
何から何まで……彼方は……いえ、これから旅をする人間に湿っぽい話はやめましょう。
それでは、少しトットマさんへと話をしてきます」
シスターアンも挨拶をして、そちらのほうへ向かっていった。
周りをぐるりとみると、ギルドマスターのフィはトットマとミイナ以外の冒険者に囲まれて若さの秘密を聞き出しているのが見えた。
フィは、若さとは、歳を取ったと思わない事だ! と熱弁している。
マルクはどうしようかと思っていると、馬車屋の影から、お待たせしましたー! と声が聞こえてきた。
そうラーミである。
全員がラーミの方を向くと言葉を失う。
ガラガラとホロが着いた立派な馬車を――。
ラーミが馬の代わりで引っ張っているからだ。
「おはようございます。
あれ、みなさん変な顔をしていますけど……」
集団から抜け出た、ギルドマスターのフィが代表して話す。
「ラーミ、お前はこの前の話を聞いていたか? 空飛ぶ荷車は目立つと」
「大丈夫です、今回はゆっくりいきますし、飛びませんっ!
ホロが付いていますので、中にいるマルクさんも安全ですし恥ずかしい思いはさせません!」
「そういう問題じゃないだろ……店にもどって馬を買って来いっ」
「で、でも、もうお金ないですし」
「は? ギルドから返金した金があるだろう」
その発言にはマルクも驚いた。
預けていたお金や、家の購入資金の預かり金など色々引いても少しは戻ってきた。
そのお金で馬車と食料を手分けして手配したのだ。
「ラーミ、俺が渡した分などは……」
「マルク、この常識が外れてる奴に少し説教をしてやれ、私が言うよりも訊くだろう。
何を無駄使いしたら無くなるんだ、買ったものを返却してこいっ」
「違うんです、マルクさん。
いえあの、道中色々と寂しいじゃありませんか、残った分は全部これに……」
ホロ付きの馬車、その中が見えるようにちらっと布をめくると酒樽がびっしり詰まれていた。
フィが思わず、お前は酒を売りにいく行商人かっ! と、突っ込んだ。
マルクは腕を組んで黙って後に喋りだす。
「ラーミ……いくら酒が好きだからといって……」
「マルクさんっ! これなんて、四十年前に作られた秘蔵酒ですよ!
相場が金貨五十枚はしますのに、今回は現金一括というので二十枚まで下げさせました!」
思わずマルクの喉がなる。
(あれは、俺が生まれる前の……高すぎで飲んだ事はない……。旨いのだろうか、いや旨いに違いない……)
「そのなんだ……次回から気をつければいい。オレも馬車を引くのを手伝う」
「で、ですよね!」
フィがため息と共に文句を言う。
全員が呆れ顔の中フィだけが突っ込む。
「なわけあるかっ! マルク、お前まで酒に釣られてどうする……私も最近の中央のギルドのやり方には思う所もある、私が出すから戻ってきた時にでも払え」
「いいのか?」
「ギルドマスターじゃなくて個人の貸しと思え。たっく……」
フィが真っ直ぐに旅馬車の施設へと歩いていく。
馬屋の人間が出てくると、馬車をながめる、直ぐに手ごろな馬を連れて来て馬車へと繋げた。
準備が終わった所で、マルクは全員を見渡す。
「その、見送りまで、すまない」
「オジサン、感動して泣く? ねぇ泣く?」
「これ、メルっ」
シスターアンと共にきたメルがマルクをからかう。
マルクは笑うとメルの頭を二回ほど軽く叩いた。
「涙はでないが、それぐらい嬉しい。所でラーミはどこに……」
「ラーミちゃんなら、あっちの姉ちゃん達にもみくちゃにされてるよ」
マルクが視線を動かすと、小さいラーミが、ミイナ以外の女性陣に玩具にされていた。
なんだかんだでBランクの秘密を知りたいのだ。
何故、Bなのか。
B以上の強さよねや、どうやって肉体強化の魔法を覚えたの? など質問攻めで、ラーミは困り果てていた。
本来は止める立場のギルドマスターのフィや、パーティーを率いるトットマとミイナもその秘密を知りたくて、止めたい判断と聞きたい判断で迷っていたのだ。
「そこ、すまない……出発しようと思うのだが、解放してもらえないだろうか」
マルクの言葉で、フィが咳払いをする。
「そ、そうだな。その辺で許してやれ」
ラーミは六人の美少女冒険者にもみくちゃにされて、衣服を直しながら戻ってくる。
「なんで、同性は、手加減しないんですかね……とはいえ、お見送りは私も嬉しいです、ありがとうございます」
シスターアンが微笑みならがラーミにお願いをする。
「ラーミさん、マルクさんをよろしくお願いしますね」
「任せてくださいっ!」
十四才の子供が三十七才の男性を守るというおかしな構図であるが、冒険者ランク的にそうなってしまう。
マルクはその事に思わず小さくわらった。
「では、暫くはオレが馬を操ろう。
ラーミは中へ」
ラーミが馬車に乗る。
暫くはマルクの隣に座るらしく、行って来ますーと、手を振っている。
マルクは馬車をゆっくりと走らせた。
門を抜けるときに、ちらりと横をみていると、ラーミは何時までも見送りする人々に手を振っていた。




