024 妻は妻ではなくなる
ラーミは家を買う事に決めた。
怖い事は怖い、そう思っているが安いのだ。
とはいえ、今日から住む事は無理なのでギルドへ行く事になる。
何時もの買い取りカウンターには、今日も眼鏡をかけたミーアが座っている。
マルクは、挨拶と用件を先に言う。
「すまない。先日頼んだ家の事で相談に来たのだが」
「あっ、マルクさんにラーミさん。
丁度良かったです、宿に迎えに行こうと思ったんですよ。
ギルドマスターが二階で待ってますので、奥へどうぞ。」
「ギルドマスターが? 何のようだろう?」
「そこまでは……」
カウンターの奥へと通されて、そのまま二階へ上がる。
マルクとラーミは不思議な顔をしながらも、ここ数日で何度も来たギルドマスターの部屋をノックした。
ノックをした。
ノックをする。
何度もノックをするが無反応である。
二人で帰ろうかと相談していた所、部屋の中からガタガタと音がする。
扉が唐突に開くと、髪はボサボサで口元には文字が反転したインクがついている、ギルドマスターのフィが顔をだした。
「ああ、なんだ。
お前達か……やっと来たか」
「俺達に用事があるとか? こちらも家の事を相談しに……」
「とりあえず入れ」
室内は以前と変らず、粗末な事務机に、来客用の豪華なソファーとテーブルがあるだけだ。
フィは自らソファーへ座ると、二人を座らす。
欠伸をしながら話し出した。
「ええと、色々ありすぎてな……いつの間にか寝てた」
テーブルにある書類を何枚も手に取ると、手で髪をかきあげるた。
「まず、家から行こうか。
おまえら、どういう理由かは詮索しないが、何故か道に迷っている冒険者に道を教えただけで家を譲り受けようとしているんだよな」
簡単にいうと、数日前のオークの集落に拉致された女性冒険者達。
それを、お前らは、なんらかの手段で助けたのは、こっちは全部知っているけど、面倒だし説明は聞かない。
「えっと、じゃぁ何でしょうか?」
「二人とも結婚して何日目だ?」
「え? ええっと……」
ラーミが指を折り曲げ数えていると、マルクが横から、七日ぐらいだと、伝える。
「よろこべ、結婚は中止だ」
「は?」
「え?」
余りの事で間抜けな声を出す。
何時もは暇そうで、何かあると面白そうな顔で動くフィであるが、今の顔は少し不機嫌だ。
「今回は、違約金も入らない、よかったな。
家もそんな大きな家は要らないだろう、マルク一人だったら以前の場所に小屋でも建てたほうがいいだろう。そうしたいならギルドでそれぐらいは出してやる」
「話が全然見えない、何故だ……」
「それもそうだな……ほれ」
一枚の紙を手渡してくる。
王家とギルドマークが入った公式な書類であった。
文字がかいており、マルクは内容を読み上げる。
「貴族ラーミ・ランフ・ヴァミューは、他の者、貴族サンフラ・マリュ・クロと既に婚約を上げているので、その婚約は認められません。
この婚約書を無視する場合、マグナ冒険者ギルドマスターフィ氏は、マグナ冒険者ギルド所属マルクは命令書違反で冒険者を剥奪する事」
場が静かになる。
誰も何も言わないなか、ラーミが両手をテーブルに叩きつけた。
その衝撃でテーブルが二つに割れた。
割れた事に気にしていないフィに、ラーミも割った事に対して謝りもしない。
それほど怒っているのだ。
「そんな話はしりませんし、なんですかこれ!
なんでマルクさんが冒険者を剥奪されないといけないんです!」
ソファーに座っているフィは足を組みかえる。
ため息と共に話の続きを喋る。
「別に知る知らないは関係ないんだ。
王都からの書類があるからな、『冒険者は自由な風であれ……』」
フィが呟くとマルクがその呟きに反応する。
「ギルドの看板にある文字ですね」
「ああ、私が昔好きだった冒険者がよく口癖で言っていたよ。
今は支部も増え、規則規則とうるさくてな、私もマグナのギルドマスターとして書類には従わないといけない」
ラーミがマルクの横で震えている。
「書類一つで婚約なんて馬鹿ですかっ!」
フィとマルクは目が点となり、当然無言になる。
書類一つで、マルクとラーミは結婚したからだ。
「ラーミ、それを言うと俺との結婚がだな……」
「マルクさんはいいのです、運命みたいな物ですから」
言っている事が無茶苦茶であるが、ラーミはそれでいいらしい。
ラーミの怒りの矛先はギルドマスターへと向かう。
「フィさん! 酷すぎです! 放置、そう放置しましょう。
そんな書類は知りません」
「お、おい……」
「私に言われてもな、王都にお前らの結婚の書類を送ったら早便で届いただけだ、私はどうする事もできない。それ所がこのままにすると、マルクお前は良くて投獄されるぞ」
さらっと凄い事を言う。
「なんで、マルクさんが投獄されないといけないですかっ!
そして、なんでマルクさんも怒らないんですかっ!」
怒りの矛先がマルクへと移る。
「ああ、その……すまない。長年Eランクの冒険者をしていると、そう怒る事もなくなるというか。
数日後に飲む酒があればいいという生活をしていたものでな」
「そんな考えだからEなんですよっ! 悪いとは言いませんけど、もっと感情を前にだして暮らすべきです! そもそも、私の事はどうおもっているんですかっ本当に大事と思っているんですかっ。
指輪をくれたのは嘘だったんですかっ!?」
自分が怒られないとわかり、フィが悪乗りして話に乗ってきた。
「そうだな、前々からお前の事は知っていたが、どうも感情が薄い。
そもそも何のために冒険者をしているんだ?」
「大事と思っている、それは間違いないと思っている。
抱きたいといわれると、そうでもないのは事実だ」
フィが茶化しに入ってくる。
「なんだ、お前らまだまぐわって無いのか」
ラーミが興奮したまま話す。
「ええ、無いですっ! 私の体の事を思って数年間は我慢するって話で……」
「犬猫じゃないんだから、さっさとまぐわっとけばいいものを」
マルクは首を振りフィの意見を珍しく即座に否定する。
フィは別に反対されたかといって不機嫌でもなく、珍しい珍獣を見る目でマルクを見ていた。
「犬猫じゃないから、大事にしたいと思っている。
確かに、俺は男としてダメかもしれない。
冒険者に関しては孤児院の出身というだけで職は限られているからな……自立するためになったと言うべきか」
「だれも成り立ちを聞いているんじゃない。冒険者になってお前は何を目指していたんだ?」
「…………すまない、質問の意味はわかるのだが、答えようが無い」
何も目指していないのだ。
十才を過ぎた頃から冒険者になり、薬草を採ってきた。
たまに危険な仕事もしたが、後はまた薬草を採る。
「そうですよっ! 今からでも遅くありません。夫婦でSを二人そろってSSを目指しましょう!」
「その夫婦が解消されるって話なんだけど、お前ら聞いていたか?」
話は振り出しにもどる。
結局地方都市であるマグナのギルドでは、どうしようもない事。
ラーミが持ってきた遺言証も効力はあるが、新しく王都から送られてきた結婚違反証の効力が上な事。
後から作ったほうが効力があるという事は、このまま放置しておいたら、マルクは捕まるだろうとフィは言っていた。




