023 妻は家を買う!
翌朝、孤児院の入り口でシスターアンとメルに見送られ出発した。
周りに誰も居なくなった所でラーミが口を開く。
「所で、マルクさんが孤児院にお金を送っていたとは、知りませんでした。
だから物が何もなかったんですね」
「隠して居た訳じゃないが、いう事でもなかったからな……」
「でも、もう渡すだけなのは辞めた方がいいとおもいますっ!」
シスターアンと同じ事をいうので、マルクは聞きなおす。
「なぜだ……シスターアンも寄付を断り続ける」
「えっとですね。
マルクさんのは犬猫にご飯を上げているようなもんです! それが悪いとはいいませんけど……本当に考えているなら、何か自立できる様な事を教えるとかもですね……。
ごめんなさい、少し言い過ぎました」
マルクが無言で聞いているので、ラーミは謝ってくる。
首を振り、ラーミの頭へ手をあて撫で始めた。
「ちょ、マルクさん。髪がくしゃくしゃになるので辞めてくださいっ。
おこですか? おこなんですよねっ!?」
「ああ、すまない。怒っているわけじゃなくて、感謝のつもりだったんだ」
(なるほどな、無意識に施しをしたと勘違いしていたのかもしれない、落ち着いたら考えてみるか)
「でも、お金も大事ですし、それで解決できるのもありますし……ごめんなさい。
事情も知らないのに言い過ぎました」
「いや、確かに金を渡して満足してたのはあった、色々と考えよう。
とはいえ、ラーミに諭されるとはな」
「あー、もしかして子供扱いしてますかっ!?」
マルクはもう一度ラーミの髪をなでると、辞めてくださいーとラーミが嬉しそうに文句を言う。
(定期的に何かあればいいのだが……)
定期的にある仕事など滅多に無く。
あったとしても冒険者ランクEのマルクに話が来るはずもない。
どうするべきかと考えていると、ラーミが大きな声でマルクへと確認した。
「あの家ですか?」
橋を渡ったあたりで、ラーミが指を差す。
聞いていた通りの庭と屋根が見えた。
マルクはメモした紙をみると、住所の確認をする。
「ああ、そうらしい。思っていたより手入れはされている」
「そうですよね。これで、あの値段なら破格と思います」
お金のほうは結局手持ちの生活費以外を渡すという事で話し合いを終えた。
なので多額の貯金などは底をついた状態だ。
外見を眺めていると、老婆が近寄ってくる。
「もし……」
「なんでしょう」
「この家を買いなさるのかえ?」
「そうだ、近所の方だろうか?」
入ればをガタガタと鳴らしている老婆が話しかけてくる。
手には杖を持ち、眼が充血していた。
「悪い事はいわねえ、ここは呪われた家だ……」
老婆の長い長い演説が始まる。
曰く、この家には一家四人が暮らしていた。
母、父、息子、赤ん坊だ。
強盗に襲われ三人が死んだ。
赤ん坊だけが見つからず、強盗に連れ去られたと思っていた。
そうしてから暫くたった夏の日。
新しい若夫婦が入居して静かに暮らしていた。
ある晩子供の泣き声が聞こえ……天井裏を開けると……。
「――――、何が、あったんですかっ!」
「何だと思う? じょうちゃん……」
「赤ん坊が生きていたとかです……よね……」
「へん。真夏の家で飲まず食わずで生きられる赤ん坊が居たら、もう赤ん坊じゃないねぇ。そう見たんだよ。腐った肉塊をね……若夫婦は気絶してね、起きた時にはその塊は無かったのさ……。
でも、毎晩泣き声が聞こえ……おお怖い、怖い」
老婆は言いたい事だけをいうと杖を使い歩き出していく。
マルクはラーミのほうをみると青ざめているのがわかった。
(なるほど、そういう理由か)
「ラーミ」
「な、なんでしょう!」
「怖いのなら、違う家を探してみようか」
「マルクさんは怖くないんですかっ!?」
俺か? 格安だったし何かしら訳があるだろうなと、それにオレは霊に鈍感らしく感じなければ怖くない、それに」
どうせなら会って見たいと言おうとしたが、ラーミが震えているのでマルクは口を閉ざす。
本当はラーミは怖いのだ。しかし、怖いというと子供扱いされると思っての強がりである。
当然周りにはバレバレであるが、ラーミ自身は誤魔化せていると思っていた。
「私も別に怖くはありませんしっ! いい家じゃありませんかっ!
噂ですよ、噂っ格安なんですよねっ、一応は見てみましょう」
庭へと入ると、マルクは思わず口を開く、隣にいるラーミも、そこそこ関心している。
先ほどの怖さは、薄まったようだ。
「すごいですねー」
「ああ、オレの住んでいた家より凄い」
「あの、マルクさんが住んでいた家と比べると、どこも凄いとしか言いようが無いんですけど」
「なるほど、確かにな、しかし中々思い入れのある家でな」
「あっ、ごめんなさい。それの家を燃やしちゃって……」
「オレのほうもすまない」
(どうやら、前の家の事を言うのは禁句になりそうだな)
ミイナの説明した通り、庭付き、二階建ての建物。
井戸も見え、離れが二つ見えた。
トイレと屋外風呂だろう。
(オレは詳しくないが、ここまでの作りなら宿にしても儲かるのでは……?)
二人は玄関を抜け建物に入った。
大きな玄関ホールに、右のほうには、らせん階段が設置されていた。
そのまま二階の廊下へと繋がっており、そこから一階部分の玄関ホールが見える仕組みだ。
一階は耐火素材で出来た料理場、カマドとその横に小さな井戸も着いている。
さらに庭へと繋がっている裏口があった。
これも説明されていたので然程驚くような事はなかった。
その他には暖炉つきの部屋がある。
二人で暖炉の部屋にいた時に、どこかで泣き声が聞こえた。
マルクの耳には、そう聞こえ、思わずラーミを見る。
ラーミは、突然見つめられたので、少しだけ照れている。
「なっ。あの……、もしかして誰も居ない部屋を見て気分が高まったとかとかです!?」
「いや、なんでもない……すまない」
「あー、そうですか、いえ。
こちらこそ、ごめんなさい」
(ラーミには聞こえていない? 怖がらせる事もないか)
一度玄関ホールへ戻り二階へと上がる。
二階は三部屋あり、一部屋が離れていた。
「一個はゲストルームですかね。
残り二つは寝室に使えそうです。
でも、寝るのは一緒に寝ますし、マルクさんしょさいでも作ります?」
「書斎か……。
俺は趣味らしい趣味も持ち合わせていない、作っても無駄になるだろう」
「じゃぁ。住むとしたら、空き部屋にして、将来は子供部屋って所ですかね」
マルクは驚きで止まる。
ラーミはマルクが止まったのを気にせず、隅々を見ていた。
(そんな先を考えていたのか……)
マルクがラーミを見ていると、どこかで大きな音がした。
さすがのラーミも音に気づきマルクを見る。
「何の音でしょうか」
「見に行こう」
「お願いします」
マルクは音の原因を探し一階へと戻った。
音の反響からして厨房のほうだろうと進む。
先ほど開いていたはずの扉が鍵がかかっている。
マルクは困りまわりを見ると鍵が壁にかけてあった。
ガチャリとあけると誰も居ない。
先ほどまで誰か居たような空気感があり、マルクは慎重になる。
さらには床には先ほどにはなかった皿が粉々に砕け散っていた。
そして裏口の扉が風になびいてバタンと閉まった。
(風が入ったか……。その拍子で厨房の扉もしまったのだろう)
マルクは戸締りをしっかりするとラーミの元へ戻った。
風のせいだろうと、一文を加えありのままの事を話すと青白い顔になる。
「すまない、怖がらせてしまったが」
「いえ、ですから大丈夫ですっ! でも、後は屋根裏なんですけど……。
マルクさん見てもらってもいいでしょうか」
マルクは言われたとおりに屋根裏へと顔を入れた。
ぐるりと見渡しても、特に問題はなさそうである。
「特に何もない」
「で、ですよねー。安心しました」
「で、どうする?
部屋数や作りは素人の俺から見てもいいとは思うが、ラーミが住まないといえば断ろう」
ラーミは腕を組んで悩み始める。
「…………わかりましたっ!」




