021 妻の機嫌が直る
あの救出劇から三日がたった。
宿に寝泊りしているマルク達は、あれからギルドには行っていない。
暫くは騒がしいからという理由。
さらにマルクが外出しようとすると、ラーミが物影からどこへ行くんですか? と白い眼を向けて見つめているからだ。
(ふー……、これなら何か言ってくれたほうがまだ助かるな。とはいえ、オレが悪いから何もいえない)
マルクは現在は借りている宿の一室で、運動をしている。
そうしないと体が訛ってくるからだ。
ラーミは、反対側のベッドごろごろとしている。
一息ついた所でラーミはマルクへとタオルを渡してきた。
はたから見ると親子その者だ。
「ラーミ」
「なんでしょう?」
「黙って行動して悪かった」
もう何度目かの謝罪を口に出す。
「あのですねー。
昨日も聞きましたけど、もうそんなに怒ってませんよ?
ただ、危険な事する時は相談してくださいねって話です。
用件はそれだけですか?」
(怒っているじゃないか……)
「い、いや。この数日部屋にこもりっぱなしも体に悪い。
その、俺が親のように思っているシスターアンに、紹介したいんだが付き合ってもらえるだろうか?」
ラーミは直ぐに自分のベッドへと戻った。
部屋に付いている鏡台の前に座ると、少し伸び始めた髪を急いでとかし始める。
「そ、そういう事は、前もって言ってくださいっ。
直ぐに用意しますからっ!」
機嫌がよくなったのか、鏡をみては表情をころころと変えていく。
そこに宿の扉がノックされた。
ラーミが立ち上がろうとしたので、マルクが手で制した。
「オレが出よう。誰だ?」
扉を開けないで訪ねると、若い男性の声が返ってきた。
「マルクという冒険者がここに居ると聴いて、オレはトットマ。
彼方が助けてくれた、ミイナの相、痛っ。わかってるって……。
いやミイナ達の相方といえばわかるだろうか?」
マルクはラーミの顔を見てどうすると、無言で訪ねる。
部屋に入れるとなると、何か用があるはずだ。
その用によっては。二人とも孤児院へは出かける事も出来ない。
「別に大丈夫ですよ。
それにしてもなんの用事でしょうかね……」
マルクは扉をあけると、トットマにそしてミイナが立っていた。
「お休みの中ごめんなさい、ギルドマスターからこの宿に居るって聞いて」
「ああ、そうだが……」
マルクが困惑すると、トットマが口を開く。
「その、タイミングが悪かっただろうか?」
「ああ……別に大丈夫だが?」
トットマは特に答えなかった。
それはマルクが汗をかいていて、ラーミが鏡台の前で髪をとかしていたからだ。
二人で一戦を交え、もしかしたら二戦目前だったらどうしようかと思っての発言。
自分の勘違いだったと思い、それ以上は何も言わない。
「悪い。ええっと、今日は色々話したい事があって」
マルクは二人を宿の室内へといれると、椅子へと進めた。
「まず、先日の傷を治してくれた礼。マルクさんの薬草でこの通り動くようになった。
後は女性に人気と、生クリームを使ったケーキを持ってきた良かったら食べてくれ」
トットマは手に持っていた白い箱と、小さな皮袋を小さなテーブルに載せる。
片方はケーキで、片方はお金だ。
「うわ。ケーキって高いんですよねっ! 貰ってもいいんでしょうか!?」
「治療と仲間の命にしては安すぎるが、貰ってほしい」
ラーミが嬉しそうになると、マルクも断れない。
「わかった、素直に受け取ろう」
「マルクさんっ、さっそく皆でわけましょう」
「いや、俺達は別にっ……」
「何を言っているんですかっ! 皆で食べましょう」
大きめのテーブルにケーキを別けると、今度はミイナが喋りだす。
「で、今度は私のお礼の番。
マルクさんにラーミちゃんって、今家を探しているのよね」
「ああ……、どこでそれを?」
「ギルマスよ、あの後に私達グループは危険な事をしたというので三十日のギルド追放処分。で、グループにいるフォーミンって子覚えてる?」
「悪いが、覚えていない」
「一番小さい子で駆け出しのFの子なんだけど、ちょーっとだけ喋っちゃったのよね」
喋ったとは、ラーミとマルクの事だろう。
同じく危険場所に入ったとして処罰の対象になる。
「あ、ちがうちがう。
そういう話じゃなくて、森で彷徨っている間に彼方に会ったって誤魔化したから。
で、何かお礼をしたいって話になって、だったら格安の物件でも探し出してやれってギルマスが言うのよ」
「まさか、格安の物件があるのかっ!?」
「そう、売りに出しているわけじゃないんだけど……。
これも、仲間にユリっているんだけど、その子はいくつかの家があってその一つが余ってるのよ」
「むふータダなんですかっ!」
「もちろんよ」
ミイナの答えにマルクは首を振る。
「いや、多少なりとも支払おう。そのほうがお互いに恩義を感じなくなるはずだ。
それに、失礼を承知で言うが何かあったときにタダの家なんだからと問題になっても困る」
「マルクさんは固いですねー。でも、そういう所が好きですよ」
「さすが冒険者ね。そうね……じゃ、その辺はユリにも伝えるわ」
含み笑いをするミイナに、マルクは少し首をかしげる。
「ケーキもっと買ってくればよかったな……」
トットマがラーミの皿を見て呟いた。
三人の皿にはまだ食べかけが残っているのに、ラーミの皿は綺麗に無くなっていたから。
「トットマ……もう少し女心をわかって、いや、これ以上わかったらダメね」
「ミイナ何がいいたいんだ」
「別に……」
「あわわわ、なにかごめんなさい」
「ラーミちゃんが謝る事じゃないわよ。マルクさんラーミちゃんを借りていいかしら?」
「ん? 俺は別にラーミが好きなように」
「ありがとう、トットマ」
「流石にわかるよ」
ラーミさん行こうか? と手を取られてラーミは慌てる。
え、どこにですか? と混乱するも、ケーキを買おうと言われるとついて行く。
その間に、屋敷の間取りをマルクは聞いていた。
「凄いな……」
「でしょ」
問題の物件は説明によると、閑静な住宅街にある庭付きの二階建。
家というより小さな屋敷だ。
風呂にトイレは別で部屋数は五、さらに庭に井戸があり、屋敷内にも簡易井戸があるという。
マルクが関心すると二人が帰ってきた。
手には大きな箱が何段も重ねており、腕には酒瓶の入った袋もぶら下げている。
もちろんラーミだけじゃなくトットマも似た様な格好だ。
「たっだいまかえりましたー」
「ラーミ……?」
「いやートットマさんに買ってもらって」
「僕らに出きるのはこれ位しかないからね」
「トットマさんは凄いんですね、どの女性店員さんもトットマさんの話術でどんどんオマケが追加されて……」
「え、いや偶然だよ」
「いえいえいえ、これだけ買っても人箱分の値段ですよ!」
ラーミはニコニコ顔でマルクへと酒瓶を渡す。
立ち上がったミイナが、トットマの肩へ手を置く。
「へぇ……女性店員ねぇ。トットマ、後でじっくり聞きましょうか。
それじゃ話はお終い、鍵は置いておくから自由に使って」
二人が去った後に、ラーミがマルクを見る。
「あれ、私変なこといいました?」
「さあな」
(どこも女性が強く、男が尻に敷かれるんだな)
マルクは心の中で笑うだけだった。




