020 妻は雑魚を蹴散らす
空の色が変り始めてきた。
日が落ちる瞬間、その時が作戦の合図だ。
「ラーミ頼んだぞ」
「おぺれーしょんめておですっ! 後ろの大岩が隕石を表していてですねっ。
あ、はい。
そんな目で見なくても真面目にしますから」
ラーミは崖から集落へ向けて、ゆっくりと降りる。
ラーミいわく、これぐらいの崖なら命綱無くても大丈夫ですけどと、言うが着地の時に、大きな音が出るので却下になる。
マルクの持つロープが二回ほど引っ張られた。
ラーミが無事降りましたという合図である。
上から見る事しかできないマルクは胸の部分を押さえている。
(やはり、オレが行った方がよかっただろうか? 危険すぎる。 だめだ、そっちにいったらオークが居るっ! ふう、そう、そのまま右から回るんだ。 違う! 檻の横は見張られているっ!)
そんなマルクの気持ちも知らないラーミは、建物の影から影を移動している。
途中なんどもロープが絡まないように戻っては隠れてを繰り返して目的地へとついた。
見つからないように裏側へ付くと小さくミイナへと話す。
「と、言うわけでロープです。
直ぐにおりへ縛ってくださいっ」
ミイナが笑顔で返事をする。
「ありがとう、可愛い子。
ここは危険だから直ぐに戻りなさい」
ミイナがロープを二本受け取った瞬間、上空からマルクの声が響く。
「ラーミっ! 直ぐににげろおおおおおおおっ!」
女性冒険者達が振り返ると、青い肌をした巨大なオークが小屋から出ていたのだ。
ハイオークである。
その目は檻の中の獲物と、その獲物を逃がそうとしている、新しい獲物を捕らえていた。
マルクは叫びながらもロープで降りようとしていた。
間に合うはずも無く、ハイオークは小屋の中にある巨大な棍棒を取り出し、ラーミへと突進していく。
ラーミはその棍棒を片手で受け止めた。
ハイオークも檻に居た女性冒険者達も目がテンになった。
「こんな雑魚ぐらいなら大丈夫です!」
ラーミはハイオークへと、腰を落としひねりを加えた正拳突きを繰り出した。
その衝撃でハイオークの上半身が木っ端微塵へと消える。
下半身だけになったオークはそのまま地面へと倒れた。
「さ、ボスが来る前にそのロープをおりへって……。
あれ? みなさんどうしました?」
ラーミは周りをみる。
群れのボスであるハイオークが一撃で殺された事もあり、残っていた周りのオークは一斉に小屋へと逃げた。
ハイオークより知能が少ないオークですら、ご丁寧に小屋に鍵をかけ、その音は集落のあちこちから響く。
ラーミが困った顔になり、崖を降り始めていたマルクへと大声で叫ぶ。
「マルクさーん。 ええっと、どうしましょうー」
マルクは我に返り、急いでロープを下った。
あたりを警戒しながら足早にラーミの所へ合流した。
檻の中にいるミイナが代表して口を開く。
「そ、その感謝する。
できればこの檻を開けれるか? 今なら危ない事をしなくても帰れそうだし……」
マルクはガチャガチャと鉄の檻を調べる。
丁寧に鍵が四つも付いた頑丈な奴で、当然マルクには壊せそうにない。
近くの小屋の窓が開く。
ラーミ以外の全員が息を飲み注目すると、マルク達と小屋の中間に何かが投げられ、窓がまた閉まった。
「マルクさんあれって……」
「ああ、鍵だろうな」
ジャラジャラとした鍵の束が投げられたのだ。
「じゃ、取ってきますね」
「まて、罠かもしれないからオレがいこう」
そんな事はないと思っていても、心配なのでマルクが取りに行った。
当然何事も無く拾い、檻の所まで戻る。
ガチャガチャと鍵を開けると、捕まっていた女性達が檻から出てくる。
「その……助かった。私の名はミイナ代表して礼を言いたい」
「とりあえず、ここを出たほうがいいだろう。
正面の出入り口は他の冒険者が来て、封鎖してるらしい。
悪いがあのロープで上へ上がってくれないか……?」
「そうだな、ここはまだ敵地」
ミイナは横目でラーミを見ている。
ミイナからさっきのがボスだと教えられてから、ラーミは集落を探索していた。
畑の作物を抜いてみたり、干してある布の匂いを嗅いだりと緊張感ゼロである。
「ラーミ、帰ろう」
「はーい」
ラーミに声をかけて集落から脱出をする。
最初にラーミがロープを登ると、女性冒険者達がのぼり、最後にマルクがのぼりロープを切って集落側へと投げ込む。
今回の目的は脱出なので誰も何も言わなかった。
安全な場所まで出た時にミイナが口を開く。
「本当にいいのか?」
「ああ、君たちはオークの隙を突いて逃げた事にして欲しい」
「しかし、他の冒険者を命がけで助けたとなると報奨金も出る可能性が大きい、いや、ギルドの信頼も上がるだろう。それに、その……不遇な通り名だってあるんだろ?」
ミイナは知らなかったが、崖上で他の仲間が教えてくれたマルクの通り名、雑草王である。
そこで色々情報を交換した。
ギルドマスターが怒っている事、トットマは怪我をしていたが、治るだろうな事など……。
「言わせたい奴に言わせておけばいい、間違いではないし気にしてない、それにそうなるとオレ達も危険区域に行った事がばれる」
「そ、そうか……。トットマも回復すると聞いたし、この礼はいつか必ず。
じゃぁ皆かえろ……何をしてるんだ何を」
ミイナとマルクが会話している中、他の女性達はラーミを囲んでいた。
「ミイナ、聞いてくれ。この子はこの男性の妻らしい」
「すごくないー?」
「お肌すべすべー……」
「お姉さまだって負けてませんしっ!」
中央にいるラーミがマルクへと助けを求める。
「マ、マルクさーん。助けて……っ!
のわ、誰ですかっ! 背中に手を入れないでくださいっ。
あのっ、だからと言って前は良いとは誰もですねっ!」
マルクは、ミイナに声をかける。
「すまないが離してあげてくれないか?」
「そ、そうだな。
はいはい、助けてもらった恩人に酷い事をしない。
話は聞いていたか? 私達は先に帰る。あくまで自力で脱出した。
いいか? ではいくぞっ!」
ミイナが先に歩くと、次に他の女性たちも後に続いていった。
「疲れたな……、こういう時は一杯やりたいな」
「そうですねー。でも今日はダメですよ?」
「な、なぜだっ?」
「罰です! 妻に黙って危険な事をした罰ですよ!」
「いや、それは酷い。 ラーミ聞いてくれっ!」
「ききませーんー、だってマルクさん、私が聞こうにも言わないんですから」
マルクの疲れは、まだまだ取れそうに無かった。




