013 妻を援護します
マルクは着替えてからギルドへ向かう事にした。
ギルドは夜だからと言って閉まる事はない。
さすがに夜から朝にかけて人は減るが、常に誰かはいる。
家に帰ったのだから一晩寝て、翌朝行く事でも問題ないのであるが、マルクが高級な素材を外に置いておくのも心配という事で向かった。
ラーミは心配性ですねぇと言うが、性分だとマルクは笑う。
夜と言っても、まだ暗くなり始めたばかりである。
朝依頼を受け、夜に報告をして一日を終える、そういう冒険者が多くギルド内にいた。
「混んでますねー」
「この時間だからな……では、連絡をしてくるので」
「はいっ、外で待ってますね」
マルクは外にラーミを残して一人ギルド内へと入っていく。
何時もの買取カウンターへと向かう、夜も眼鏡を掛けたギルド員のミーアが座っていた。
「あら。マルクさん、薬草ですか?
在庫がまだありますのでマルクさんからはあと数日は買い取る事ができませんけど……」
もはや、受付のミーアにとってマルク=薬草の人と認識されている。
マルクもマルクでギルドに来ると、無意識に買取カウンターに来ないと、条件反射のようになっていた。
「すまない、買取ではなくて依頼を終えて来た」
「ええっと、お待ちを……、あっもしかして昼間のっ!? 不備があったでしょうか? 依頼書をお願いします」
マルクはそれもそうだと、依頼書を手渡す。
先日にマルク達がランクBの依頼を受けたのはミーアも見ていたはずなのに、ミーアは依頼書を受け取ると、
「薬草採取の依頼依頼……」
と、つぶやいている、やはりマルクは薬草の人なのだろう。
言葉が止まり、依頼書とマルクを交互に見たあとにカウンターに両手を着いて立ち上がる。
一瞬ギルド内の全員視線がミーアに集まった。
咳払いをすると、
「マルクさん、本当ですか?」
と、小さく聞いて来る。
「何が本当かはわからないが、依頼通りに品は持ってきた」
「わ、わかりました。品物はどこに」
「それだったら、外でラーミが見張っている」
ミーアは立ち上がると直ぐに外へ駆け出した。
駆け出したものだから、冒険者の何人か様子を見に行く、他のギルド員もその様子を呆気に取られていた。
マルクはどうしたものかと迷ったが、外に行く事にした。
外ではラーミを中心にして、人だかりが出来ていた。
ギルド員のミーアが興奮して話しかけており、周りには冒険者が集まり始めてる。
ラーミはマルクを見つけると、ぴょんぴょんとジャンプしながら手を振る。
「あ、マルクさーん」
冒険者達がマルクを中心に道を譲る。
まっすぐにラーミの場所へとたどり着いた。
「ドラゴンの素材なんですけど、審査は明日になるそうで」
「ラーミさんっ。大声でドラゴンと言われてはっ!」
注意するミーアも大声で、自らの口を押さえたのも遅かった。
周りの冒険者達は騒ぎ出す。
ドラゴン、聞き間違いか?
俺は確かにきいたぞっ!
本当に素材があるのか? ちょっといい武具が作れるぞ。何年も放置されてる依頼じゃないのか?
あれ、あの小さい子って昨日ミッシェルを打ち負かした子じゃないの?
自称Bランクの子かじゃぁこっちの男は雑草、いや薬草マスターの奴か。
などなど。
ひときわ大きい男がラーミの前へ出た。
頭はツルツルで夜というのに袖なしのタンクトップ、その両腕は筋肉でおおわれている。
「おい、本当にドラゴンの素材なのか? いるんだよ、ドラゴンといって別の素材をもってくる詐欺冒険者がっ」
「どこの誰かは知りませんけどっ、ケチをつけないで下さいっ。
正真正銘のドラゴンです!」
「誰か知らないって……、昨日会っただろ。
豪腕のミッシェルだっ!」
自己紹介をされてラーミは黙って腕を組む。
「ごめんなさい。覚えてません」
「こ、このっ……」
周りの野次馬から失笑がもれ始めると、マルクが前にでる。
「昨日は妻が失礼な事を言ったミッシェルだったかな?」
「おう、旦那のほうはちゃんと覚えているようだな、本当に持ってきたのかっ?」
「嘘ではなく、正真正銘のドラゴンの素材だ、ちょうどサンガク山で迷子になってしまってな、そこで偶然手に入れたんだ」
「う、嘘を吐くなっ! ここからサンガク山まで往復で帰ってこれる日数じゃねえ」
「ならば。ふもとの村にサンガク屋という宿があるから確認してほしい、オレ達が泊まった証拠として宿帳があるはずだ、後は門兵に聞いてくれれば俺達が出入りしたのが記録されているはずだ」
ここまで言われると、ミッシェルも黙り始める。
ギルドから騒ぎを聞きつけたギルドマスター、フィが欠伸をしながら出てくる。
「なんだなんだ……この騒ぎは、私もまぜろ」
本当に暇らしいギルドマスターのフィが、眼を輝かせて間に入る。
マルクとラーミ、そして豪腕のミッシェルの言い分を聞いて何度もうなずいている。
「よし、ミーア。布を剥せ」
「え、いいんでしょうか……」
「かまわん、ラーミもそれでいいだろう?
本当に竜の素材だったら嘘かどうかもわかる、見物人も納得するだろう」
フィの提案にギルド員のミーアが異議を唱える。
「ですが、ギルドマスターっ!
規定ではBランク素材は取りあいになるのでなるべく……静に……」
ミーアの声が小さくなっていく。
これは高級な素材がギルドに入ると、それを買う人間が多くなるために取られた処置であった。
ギルドを通さず依頼を受けた人間に直接買い取りを申し込む人間も居たり、それを防止した規約でもある。
「誰かか騒ぎを大きくしたからな」
「すみません……」
「二人ともそれでいいか?」
ミーアが小さくなる横で、ファがマルクとラーミへ確認する。
「俺はラーミに任せよう。
ラーミが居なければ手に入らなかった素材だ」
「私は別にいいですよ」
「じゃ、そこのミッシェルといったな。荷を解け」
突然指名されてミッシェルは驚く。
「疑惑の眼を向けたんだ、適任だろう。そもそも、ギルド内で揉め事はだな……」
「ミッシェル解かせて頂きますっ!」
フィが文句を言い始めると、ミッシェルは慌てて荷を解く。
これ以上、フィの文句を聞いていると、ミッシェル自身が処罰の対応の話になるかも知れないからだ。
直ぐに爪や皮が出始め、最後にまだ生きている眼が出たときに悲鳴を上げた。
「な、なんだこれ!」
生きた眼の瞳孔がミッシェルを見ては大きくなっていく。
「ほう、まだ生きてるな……。
どうやら本当にドラゴンの素材らしい、新鮮な奴は暫くは動くからな。
ミーア、他のギルド員に伝えて来い。
武器、防具、それに、薬品屋の店主を呼んで来いっとな」
ギルド員のミーアは情けない声を上げて反論する。
「よ、呼んで来いってもう店終わってますよぅ」
「来ない奴はほおって置け、完全に固まる前の極上のドラゴンの素材が入ったと伝えろ。
さて野次馬の諸君、この二人はサンガク山で道に迷い偶然手に入れたと言っている、その言葉を信じるならば、場所を追求した所で何も出ないぞ。
二人とも依頼金の用意は準備がいる、奥の個室を開放するからそこで待っていてくれ」
マルクとラーミはそのまま個室へと通される事となった。




