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番外編 : Sweet dayの君と僕

「パパ、起きて」

 元気な声と共に、聖の腹を衝撃が襲った。「ぐぇ〜」と声を出して飛び起きると娘のティアが自分目掛けてダイブしたのだと分かった。

「ティア。朝は穏やかに目覚めたいとパパは思うのだけど・・・」

「そんなことより早く起きて」

 父親の言葉をそんなこと呼ばわりして、ティアは聖の腕を引っ張った。そんな娘に手を取られ寝室を出ると甘いチョコの香りが鼻をついた。

 そうか、今日は2月14日バレンタインデーだったかと思い出す。小説家である聖は昨日の夜中まで締め切りに追われていたので気にとめなかったが、妻であるホーリィと娘のティアが二人してなにかしていたように思える。

 ま、いいかと頭を書きながら聖は洗面所に向った。


「さあ食べて、パパ」

 ティアが無邪気な笑顔を聖に向けていた。アイスブルーの瞳が聖を見つめている。そのティアの後ろに視線を向けると、困ったような笑みを浮かべているホーリィが立っていた。

 そして、ティアと聖の間にあるもの、それは直径30cmほどあるチョコレートケーキだった。

 聖は最初、訳がわからなかった。自分の目の前にあるケーキが何であるのか。その聖にティアはナイフとフォークを渡してこう言った「さあ食べて、パパ」と・・・助けを求めるようにホーリィの方に目を向けると、彼女は顔を左右に振った。その目が、ティアが一所懸命作ったのだから、食べてくださいと言っている。

 切り分けられてもいないホールのチョコレートケーキに視線を戻すとケーキの向こう側からティアがニコニコと笑顔を向けている。

 聖は甘いものが苦手なわけではない、むしろ好きな方だ。だが、朝からケーキを食べられるほど好きかと聞かれたら、首を縦に振る自信は無い。いくらなんでもヘビーすぎる。

 蛇に睨まれたカエルのような聖に、ティアが笑顔でもう一度言った。「さあ食べてパパ」と・・・


「き、気持ち悪い」

 娘の笑顔に負けて起きぬけにチョコレートケーキを完食した聖はソファーの上にひっくり返っていた。聖の頭に膝を貸しているホーリィがクスクスと笑う。

「なにも全部食べることなかったじゃない?」

「あの期待に満ちた笑顔を前に残せないよ。しばらくチョコは見たくない」

「あら、私のチョコは食べてくれないの?」

「うっ・・・」

 言葉に詰まる聖。

「あはは、嘘よ。さっきのケーキは私とティアの二人からよ。それより問題は・・・」

 ホーリィは部屋の隅の段ボール箱を見る。中身は聖や聖の書いた小説の登場人物に宛てたバレンタインのチョコレートだ。出版社の担当者の話ではまだあるとか。

「ところで、ティアは?」

「今頃日本にいるはずよ」

「なに!一人でか?」

 起き上がろうとする聖の額に手を当ててホーリィが制止する。

「大丈夫よ。ロロが一緒だし、去年のクリスマスに出会った男の子にチョコケーキを持って行くんだって」

 ロロとは空飛ぶトナカイのことだ、なんと人語も30語ほどしゃべる。たしかにお目付け役としては彼以上の存在はないだろう。

「娘なんてそのうちに、誰かがさらって行っちゃうのだからあんまり親ばかしないの」

「ティアが彼氏を連れてきたら、頑固親父になるつもりだよ」

「どうかしら?聖はティアに甘いし、連れて来たら来たでパニックになりそう」

 そう言ってホーリィは聖の顔を覗き込んだ。

 たしかに頑固親父よりパニックになって右往左往する父親の方が自分らしいかもしれないと聖も思うが、認めてしまうのも悔しいので黙っておく。

「ところで聖。そろそろキッチンを片付けてしまわないと、お昼ご飯も作れないけど」

「僕も手伝うから、もう少しだけ」

「そう?だったら思い切り手伝ってもらおうかしら」

ホーリィは聖の頭をやさしく撫でた。


 少年、鈴木聖夜、小学校5年生は義理チョコをいくつか抱えて上機嫌で帰宅すると、玄関の前で少女が座っているのを発見した。

 少女も聖夜に気が付いたようで、聖夜に向い両手を振った。

 黒髪にアイスブルーの瞳の特徴的な少女は去年のクリスマスイブの夜に聖夜の上に落ちてきた少女だった。両親や先生に話してみたが、夢でも見たのだろうと言われ、聖夜自身も夢か現実にあった事か分からなくなっていたが、どうやら現実であったらしい。確か少女の名前は柊ティアだ。

 聖夜も少女に向って手を振り返した。


 わんこチョコケーキ・・・

 ティアが聖夜に持ってきてくれたチョコレートケーキはおいしく、ちゃんと8等分に切り分けられてもいたが、問題はひとつ食べると間髪いれずケーキの乗った皿が差し出される。

横のティアに目を向けると、嬉しそうに微笑むティアの顔があった。

 その笑みを見ると、もう食べれないとティアに告げることが、とてつもなく悪いことに思える。

 そのティアの横に積まれている2つの箱が気にはなるが、今出ている分は全部食べようと、心に決め聖夜は7個目のケーキに手をつけた。


 聖夜の気がかりだった横の箱は開けられることは無く。後で食べてと手渡された。正直、聖夜としてはしばらくチョコは見たくないというのが本音だったが。

「もう帰るの?」

空を駆けるソリに乗るティアに、聖夜が聞いた。

「あまり遅くなると、パパとママが心配するし。また遊びに来るね」

「そうだちょっと待ってて」

 慌てて自分の部屋に戻った聖夜はノートのきれっぱしにメルアドを書いてティアに渡した。

「これ僕のメルアドだから」

「うん。それじゃ、これは私のメルアド」

 ティアは猫キャラクターのファンシーな手帳にメルアドを書いて聖夜に手渡す。

「それじゃ、またね」

 ティアが小さくてを振ると、ものすごいスピードでソリが走り出す。

 あまりに現実離れしていて、夢かと思える出来事だったが、聖夜の手の中にあるメモと机の上に置かれたチョコレートケーキが今起きたことは現実だと告げていた。 なんだか、そのことがとても嬉しかった。

 聖夜は、ティアにメールを出そうと自分のパソコンを起動させた。


END




本編終了後の2005年バレンタインデーに書いた話です。


ホーリィと聖も相変らずラブラブです。

ティアと聖夜は、なんとなく本編のホーリィと聖をトレースさせてみました。最初はケーキと一緒に聖夜君の上に落とそうともおもったのですけどね。(笑)さすがにケーキがぐちゃぐちゃになりそうだし、やめておきました。


それから、ティアの学校は?とか、時差とかは気にせず話だけを楽しんでね。その辺いいかげんです。


ケーキのホール喰い。甘党の自分としては、1度挑戦してみたいのですが、喰い切る自信ないです。


最後に、ここまで読んでくださった方。

最後までお付き合いしていただきまして、ありがとうございました。

またどこかでお会いできるといいですね。

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