表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/7

番外編 : 魔法の夜の君と僕

 ギフト企画に出そうかと書き上げた作品ですが、なんだか趣旨と違う気がして通常投稿しました。

「ちゃんと勉強しているの? 夏から成績が下がっているじゃないの」

 机に向かう聖夜せいやに母親のヒステリックな小言がのしかかる。そんなことは自分でもよくわかっている。そのことで焦りを感じているのも俺自身だ。

「あなたの将来のためなのよ。今、がんばらなくていつがんばるの」

 いつもこれだ。俺はがんばっているよ。これ以上、どうやってがんばればいいんだ? そんな無責任な励ましより、それを教えてくれよ。イライラが募る。

「世の中、何を言っても結局は学歴なのよ」

「うるさい!」

握っていたシャープペンシルを机に叩きつけ、立ち上がり母親を睨む。

「もう出て行ってくれ! 気が散る!」

 そのまま母親を部屋から追い出す。

 母親は、しばらく扉を叩いて何か言っていたが無視する。

 部屋に静寂が戻ると、聖夜はベッドの上に倒れこんだ。卓上のカレンダーに目を向けるとクリスマスまで後4日、そして年が明ければセンター試験。色々と押さえ込んだ感情が爆発しそうだ。

「会いたいよ、ティア……」

 聖夜は、アイスブルーの瞳に生気をみなぎらせた少女の顔を思い浮かべる。

 彼女とは、友達以上恋人未満といった感じの関係だ。でも、彼女と会うと気分が落ち着いた。別に特別なことはしていない。ただ会って、声を聞いて、話を聞いてもらう、それだけ。だけど、それだけのことがとても大事なことだったんだなと思う。

 だけど、今はそれができない理由があった。実を言うと彼女はサンタクロース見習いで、今頃はクリスマスの準備で忙しいはずだ。それに今年はサンタクロースの免許を取得するための試験があると言っていた。会うには、せめてクリスマスが終わるのを待つ必要がある。聖夜はそのまま目を閉じた。




「うわぁ、雪だ」

 小学生の聖夜は歓声を上げ、窓の外を食い入るようにして見る。

「積もるといいなぁ。健斗けんと君達と雪合戦できるかなぁ」

 雪はゆっくりと、街に白い雪化粧を施していく。聖夜はそれを飽きることなく見つめていた。

「きゃー。どいて! どいて!」

 ドン!少年の上に、悲鳴と共に誰かが降って来た。

「あいたたた」

 女の子の声が聞こえた。

「いてぇー、ねぇ、ちょっとどいてよ。重いんだからさ」

 あまりに非現実的な出来事に、何故、室内にいて女の子が頭上から降ってくるんだという疑問は吹っ飛んでいた。

「あ、ごめんね。今どくね」

 顔を上げると自分と同じ歳ぐらいのサンタクロースの赤い服と帽子を被った女の子が、少年に右手を差し出していた。ちなみに下はズボンでなくミニスカートにひざ下のブーツだ。寒くないのだろうか?

少女は黒い髪で、すごくきれいなアイスブルーの瞳には、押さえ切れないほどの生気がみなぎっている。

「ね、君、大丈夫? ごめんね。ソリから落ちちゃったんだ」

 聖夜は、少女の手を取り立ち上がり、その不思議な少女に聞いた。

「君、誰?」

「私? 私はティア。ひいらぎ ティア。見ての通りサンタクロース、まだ見習だけどね。ねぇ君は?」

「あ、僕は聖夜。鈴木すずき聖夜せいや

「聖夜君か。よろしくね」

 ティアは笑顔と共に右手を差し出した。




 ふと、目を覚ます。懐かしい夢を見たなとボーとする意識の隅で考えた。ティアと出会ったときの夢だなんて……

 おかしい。目が覚めたはずなのに、ティアが聖夜の顔を覗き込んでいた。幼いころのティアでなく、今のティアだ。どうやら膝枕されているらしい。まだ夢を見ているのかと考えていると。ティアが微笑んだ。

「おはよう、聖夜」

 その声を聞いて、急速に意識が覚醒する。

「ティア! ど、どうして?」

 起き上がろうとする聖夜の目を、白く細いティアの手が塞ぎ。周りが見えなくなる。

「聖夜はそのままね。ちょっと疲れているみたいだよ」

 誠也は起き上がるのをやめた、ティアの手のぬくもりが心地いい。

「うん。疲れていた。けど、こうしていると疲れが取れるようだ。でもどうして日本に?」

「試験の下見に来たのよ。聖夜の顔も見たかったから寄ったのだけど。起こしちゃったね」

「いいよ。勉強しなければいけないしね」

 ティアの手がゆっくりとどけられた。ティアはもう一度、聖夜の顔を覗き込む。

「聖夜、だいぶ疲れてる」

「うん。でも足掻けるだけ足掻かないと、落ちてから後悔する」

 そう言って笑ったつもりだったが、実際には頬が少し引きつっただけだ。笑うこともできない状態じゃ限界も近いな。と心の中で思う。センター試験が終わるまで持ってくれればいいのだけど。

「ねぇ聖夜、ちょっと付き合ってもらえる?」

 ティアともう少し一緒に居たかった聖夜は頷いた。




 聖夜がティアにつれてこられた場所は、この辺では一番高いビルの屋上の上だった。ティアが不思議な道具で作り出した空間のおかげで、風や寒さは感じない。

 街が一望でき、光の海のような夜景がきれいだった。

 二人で腰掛けて夜景を眺めているうちに、聖夜は色々たまった胸のうちをティアに話していた。ティアは時折あいづち打つ程度で、聖夜の話を黙って聞いている。

「俺はどうしたらいいんだろう。もう限界だよ」

 弱気になった聖夜の瞳に光るものが盛り上がるが、聖夜は必死にこらえる。しばらくの沈黙を置いて、隣に座っていたティアが立ち上がった。

「ティア?」

「聖夜はそのままね」

 ティアは聖夜の背後に回ると、聖夜の背筋を伸ばさせる。そしてそのまま背後から誠也の首に腕を回した。ティアの顔が聖夜の顔のすぐそばに並び、背中からはティアの体温が伝わってくる。

「ねぇ聖夜。その気弱な顔はなぁに?」

「えっ?」

 聖夜はわけもわからず聞き返す。けれどティアはそのまま続ける。

「その目はなぁに?」

「……」

「その涙はなぁに?」

「……」

 聖夜は、ティアの問いに答えられない。口から出たのはこの期に及んで気弱な言葉。

「でも、俺にはできないよ。がんばれない……」

 聖夜の首に回したティアの腕に力がこもる。

「聖夜も他の人たちもがんばっている。でもちがう。聖夜はこれ以上がんばるらなくていいんだよ」

 ティアの声は、なんだか子供に何かを言い聞かせているようだ。

「今の聖夜は、疲れて自分の限界を自分で作ってしまっているだけだよ。がんばるんじゃない、自分で作った限界の蓋をはずすだけで良いんだよ」

「でも俺は……」

「私は知っているよ。聖夜は、自分で考えているほど弱い人じゃない。聖夜が自分でそう信じていなくても、私は知っているし、信じている」

「ティア……」

 不思議だった。自分いくら言い聞かせてもダメだったのに、ティアの言うことだとできるような気がした。

 不意に頬に柔らかくて、あたたかな感触が触れる。それがティアの唇の感触だと気が付くのに数秒かかった。

「女の子が使える男の子を元気にする魔法なんだって、お母さんが言ってた。ここまでサービスするつもりはなかったんだから」

 はにかむように笑うティアを、聖夜は可愛いと思った。

「ありがとうティア。少し元気が出てきた。もう少しだけがんばるよ」

「聖夜。がんばったらダメだったら」

 すねたようにティアが言った。

「そうだね。がんばらずにがんばるよ」

「なによそれ」

 ティアが笑い、それにつられて聖夜からも笑い声が漏れた。

「聖夜。やっと笑ったね」

「ティアのおかげ」

 聖夜は久しぶりに笑った気がした。作り笑いではなく心からの本当の笑顔。ティアが僕にくれた笑顔。

 そして改めて気が付いた。自分がティアにとことんイカレテしまっていることに。

 春にはこの想いを伝えたいと思いながら、聖夜は思いっきり笑ったのだった。


 最後までお付き合いありがとうございました。


 今回のネタばらしです。

 『ウルトラマンレオ』第4話「男と男の誓い」のモロボシダンのセリフより拝借したものがあります。

 元のセリフは、「その顔は何だ! その目は何だ! その涙何だ!」ですが、以前からこのセリフ使ってみたかったんですよね。今回シチュエーション的にチャンスだということで組み込んでみました(笑

 見ていないのでよくわかりませんが、ウルトラメビウスでも使ったみたいですね、このセリフ。


 聖夜に君とシリーズ(仲間内ではキミボクシリーズと呼んでましたw)は、書いていて楽しいのでお気に入りの作品です。(たいていの作品は、お気に入りなんですけどねw)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ