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雪、舞い降りる夜の君と僕

「ふう」

一日に一本しかないというバスから降り足元の雪を踏みしめると、青年は息を吐いた。一瞬間の前が真っ白になり、すぐに視界がクリアーになるが、世界は真っ白のままだった。

「・・・・・・雪がすごいところだとは聞いていたけど・・・・・・」

 彼の名は、ひいらぎ せい日本という国のごく平凡な大学生だ。

 その彼が飛行機で日本を飛び出し、列車とバスを乗り継いで雪山にいるのかと言えば、他人に話せる理由が30%、他人に話すのが少しだけ恥ずかしい個人的な理由が70%というところであるが、少し無謀ではなかっただろうか。

 ふもとの食堂のおかみさんは、地元の人でも迷うことがあると聖を止めたが、決意が固いと知ると地図とコンパスを貸してくれた。

 地図とコンパスで進むべき方向を確認した聖は、自分に気合を入れるため右手を振り上げ「よっしゃ」と雄叫をあげ、完全に雪に埋もれてしまっている山道に足を踏み出した。



1時間後

「・・・行けども、行けども、雪ばっかりだ・・・・・・」

 同じような景色ばっかりで、気分が滅入ってくるし、 新雪を掻き分けて進むのは思ったより重労働だった。周りは雪なのに防寒服の中が汗ばむのがわかる。

 コンパスと地図で確認すると、方角はあっている。

 荷物を抱えなおして、聖は雪を掻き分け歩き出した。



2時間後

「いいかげん飽きてきたぞ・・・・・・」

 コンパスと地図を取り出す。再度確認・・・・・・

「方角はいいけど・・・・・・もう少し目印になるものでもないかな・・・・・・」

 首に下げた蒼い石のペンダントを握り、聖はある少女の顔を思い浮かべた。



3時間後

「・・・・・・迷ってないよな・・・・・・とりあえず、あの丘みたいになっている所に行ってみよう」

 雪の中3時間も歩きずくめで、疲労もたまっているが、このまま雪の中で休む気にはならなかった。半分はホーリィに早く会いたいというの理由だが・・・・・・

「これで、てっぺんだ。何か見えないかな」

 一人暮らしが、長いと独り言が多くなるなと、苦笑した。何か確認する時に、いちいち声に出してしまう。

 あたりを見回そうとして、ズルッと足が滑った。聖は積もった雪と一緒に滑り落ちていくが一瞬で止まった。それほど高くは無かったようだ。運がいいことに、頭から雪に埋まる事も無かった。胸から下は雪に埋もれてしまったが……

「無謀だったかな、でもホーリィに迷惑かけたくないしなぁ」

 ホーリィには、訪ねることは伝えていない。いきなり行ってビックリさせようと思ったのも事実だが、今の彼女は尋常じゃないほど忙しいはずだ。彼女、ホーリィはサンタクロースなのだから。



 どのぐらい雪に埋まって空を見ていただろう。いいかげん寒くなってきた。

「よし、行くぞ」

 と、上半身を起こすと目の前に黒い筒があった。その先にはクマのような大男、筒が猟銃だというのに気がつくのに少し時間がかかった。

「あの、どなた様で・・・できたら銃口をどけて欲しいのですが」

 男に駄目もとで言ってみる

「まずは、あんたが名乗りな。話はそれからだ」



「あんたが、ホーリィちゃんのいい人か。娘から聞いているよ。日本の人だってな」

「はい。大学に通っています」

 聖は大男の後について村に向かっている。男の人、アラン=ロッソさんの話によれば、村はもう300m程、西にあるそうだ。やはり無謀だったみたいで、あのまま歩いていたら今頃、遭難という事になっていただろう。

「しかし、なぜこの時期に?今忙しい時期だろ?うちの娘も手伝いに行っているよ」

「ええ、この時期だから、手伝える事もあるんじゃないかなと思いまして」

「ホーリィちゃんは、いい娘だ。泣かすようなことはしてくれるなよ兄ちゃん」

「はい、そのつもりです」

 アランさんは、振り返ってニカッと笑った。

「だったら、一人で山歩きなんてやめな。この辺は地元の人間でさえ迷うもあるんだからな」

「はい、肝に銘じておきます」



「ねぇホーリィ。これ間に合うの?」

 フェリアは、リストに印をつけて、包装の済んだプレゼントに小さなシールを貼る。このシールには識別番号が書かれている。

「ぎりぎり間に合いそう」

「それって、休憩の時間入っているの?」

「・・・・・・・・・」

 フェリアは、あきれたような表情をホーリィに向ける。

「あんたが倒れたら、誰が配りに行くのよ。誰か手伝ってもらえそうな人居ないの?」

「シャルちゃんは、自分の所で手一杯だろうし、他の人もお手伝いにでているはずなのよ」

「村の人間はダメね。あてにならないわ。そうだ、聖君と言ったわよね。彼は?」

 聖の名前を聞いたホーリィの顔が赤くなる。

「だ、だめよ。聖には去年も無理に手伝って貰ったし・・・」

「いいのよ。男の子はこういう時に働いてくれないと、さぁ、今すぐ電話よ。メールでもよし!」

 この村は世界サンタクロース協会という謎の組織のおかげで、電気、ガス、水道は元より光ファイバーケーブルを使った、インターネットの利用も出来る。村自体にもそれなりの補助金も支給されている。

「・・・フェリア姉さん。楽しんでいるでしょ」

「ふふ、お姉さんが品定めしてあげるわよ。さあ、電話電話」

 とその時扉が二度ノックされて、大男が入ってきた。

「何を騒いでいるんだ。外まで聞こえていたぞ」

「あ、お父さん」

「アラン小父様」

「ホーリィちゃんに御客さんだ」

 アランの後ろから出てきた聖を見たホーリィは指を差して、口をパクパクさせる。

「健康な19歳日本人男性だけど、雇う意志はあるかな?」

「聖!!」

 聖は、胸に飛び込んできたホーリィの小さな身体を抱きとめた。



「聖君、ご苦労様」

 フェリアが差し出したマグカップには、ココアが入っていた。プレゼントの包装と、リストとのチェックがすべて終わったのは、つい先ほどのことだ。

「いえ、僕は2日でしたから・・・」

「でも、助かった。ホーリィに休む時間作ってあげられたもの」

 聖は作業机に突っ伏して、寝息を立てているホーリィを見る。ココアが入るのを待てずに寝てしまったらしい。フェリアさんのいう事には1週間ほどろくに寝ていないそうだから無理も無い。

「ホーリィね。去年、クリスマス前にお爺さんを亡くしたのよ。でも、自分がお爺さんの分も配るんだって、結構無理して日本に行ったのよ」

 聖は、何も言わずにフェリアの話に耳を傾けていた。

「帰ってきたら、やたら明るくてね。無理しているのと思ったら、昔1度だけあったことのある男の子と再会したっていうのよね。聖君ありがとうね」

「いえ、僕もホーリィと再会できて良かったです」

「ねぇ、聖君にホーリィのこと頼んだら迷惑かな?」

「・・・・・・明日は聖夜ですね」

 フェリアは意味を計りかねたようだ。

「ほら、ホーリィ。ちゃんとベッドに行かないと風邪を引くよ」

 聖は、ホーリィを抱き上げる。

「小さい奇跡くらい起きても不思議じゃありませんよ」

 聖は、小さく笑った。



 聖なる夜、クリスマスの夜、サンタは夜空を駆け巡る。

 夜明けまで数時間、聖とホーリィはビルの屋上にいた。

「このビル、去年のビルだね。ホーリィからクリスマスプレゼント貰ったさ」

「この辺では一番高いビルだもの。はい、聖」

「うん」

 ホーリィからフェリアさんの持たせてくれたココアの入ったカップを受け取る。

「さすがに寒くなってきたね、聖」

「ホーリィおいで、二人でいれば寒くないよ」

 誰もいない屋上で、二人寄り添う。

「そうだ。ホーリィ、目を閉じてくれるかい」

「うん」

 ホーリィは素直に目を閉じた。そのホーリィの首にネックレスをかけてやる。涙の形をした淡青色の宝石のついたペンダント。

「いいよ。メリークリスマス、ホーリィ」

 ホーリィは、ペンダントを手に取る。

「これ、私に?」

「そうだよ。これからは、ホーリィだけのサンタクロースだ。その石ねアクアマリンといって、この石を身につけていると幸せになれるそうだよ」

「ありがとう、聖」

 ホーリィがギュッと抱きついた。聖はホーリィの髪を撫でる。

「あ、雪」

 気がつくと、白いものがちらついている。

「ホワイトクリスマスだね」

「ホーリィの村だと、珍しくないだろうけど、ここで見ると感慨深いものがあるなぁ」

「そんなこと無いよ。この街で始めて聖とあったときにも、二人で雪が降るのを朝まで見ていたじゃない。聖とこうしていると、その頃の事思い出すよ」

「そうか……」

 どれほどそうしていただろうか。二人で寄添っていても寒くなってきた。

 聖は、今日ホーリィに伝えようと心に決めていたことを言う為に、口を開いた。

「ホーリィ、俺もサンタクロースになれるかな?」

「えっ?」

「サンタクロースになれるかな?」

「私に、プレゼントくれたよ」

「うん、ホーリィだけのサンタクロースもいいけどね。大学を出たら、ホーリィの住む村に行こうかと思っているんだ。今回、村まできたのはそんな事を考えていた為なんだよ」

「聖には無理って言ったら」

「それでも行くかな」

「どうして?」

 ホーリィのアイスブルーの瞳が、聖を見つめていた。

「それは・・・」

「それは?」

 ホーリィをギュッと抱きしめた。

「ホーリィと、ずっとこうしていたいから」


数年後

「パパ、朝だよ。起きて」

「昨日、〆切だったんだ。寝かせてくれ」

 アイスブルーの瞳をした小さな女の子が、もぞもぞと毛布の中にもぐり込む父親の黒い髪を握る。

「だめ、パパとママとティアで朝ごはん食べるの」

「ティアは言い出したら、聞かないからなぁ」

 父親は、あきらめて毛布の中から這い出すと、娘の黒い髪を撫でて起き上がる。

「さあ、食卓へ向かいますか。お姫様」

「パパ、変だよ。大丈夫?」

 娘の冷たい言葉に、呆然と拗ねながら娘の後をついていく。

「こら、ティア。パパは寝かせてあげてって言ったでしょ」

「いやー。みんな一緒がいいの」

「しょうがない娘ね」

「いいよ。食事は家族そろって食べた方が、おいしいからね」

 そう言って青い髪にアイスブルーの瞳をした妻を抱き寄せ、結婚前より上達したキスをする。

「パパ、ずるい。ティアも」

「ははは」

 娘にせがまれて、笑いながら頭を掻く。

「あなた、今回はどんなお話を書いたの?」

 いたずらを思いついたような少年のような瞳で、意味ありげな笑みを妻に向ける。

「サンタクロースの女の子に、恋した青年のお話さ」



さらに数年後のクリスマスの夜

「うわぁ、雪だ」

 少年は歓声を上げ、窓の外を食い入るようにして見る。

「積もるといいなぁ。健斗君達と雪合戦できるかなぁ」

 雪はゆっくりと、白い雪化粧を施していく。

「きゃー。どいてどいて」

 ドン!少年の上に、悲鳴と共に誰かが降って来た。

「あいたたた」

「いてぇー、ねぇちょっとどいてよ。重いんだからさ」

「あ、ごめんね。今退くね」

 声からすると女の子だ。顔を上げると自分と同じぐらいの歳のサンタクロースのような赤い服と帽子を被った女の子が、少年に右手を差し出していた。少女は黒い髪で、すごくきれいなアイスブルーの瞳には、押さえ切れないほどの生気がみなぎっている。

「ね、君、大丈夫?ごめんね。ソリから落ちちゃったんだ」

 少年は、少女の手を取り立ち上がる。

「君、誰?」

「私?私は、ティア、柊 ティア。見ての通りサンタクロース、まだ見習だけどね。ねぇ君は?」

「あ、僕は・・・」


聖なる夜の新しい物語が始まる・・・

私がこのような話を書くのは、結構珍しく、いつもは拳銃をバンバン撃ちまくったり、剣や刀を振り回したり、魔法で敵をなぎ倒したりしている話を書いてます(笑)

ともあれ、聖とホーリィの物語はこれで幕引きとなります。ラストとしては陳腐な部類に入りますが、聖夜の物語はハッピーエンドが相応しいですよね?


※今回で本編は終了ですが、もう一話お付き合いお願いします。

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