星降る夜の君と僕
クーラーのないボロアパートで暑さに耐えかね、あることを思い立った僕の上に、狙い済ましたかのようにホーリィが降ってきた。
・・・・・・まぁ、いつものことであるのだが・・・・・・
そして、事態を飲み込めていないホーリィを、バイクに乗せ連れ出した2時間後、僕らは、とある山の中にいた。
「ねぇ、聖。一体どうしたの?こんなところに連れてきて?」
僕は、黙って夜空を指差した。街の明かりのせいで、僕の住むアパートからは到底拝むことのできない満天の星空が広がっている。
ホーリィはきょとんとしている。頭の上に?が浮いているかもしれない。
「ホーリィは、見慣れているかもね」
僕は、以前見せてもらった、ホーリィの住む村の写真を思い出した。星空がきれいで言葉を失ったのを覚えている。本物を見ることができたら、1時間は呆けているかもしれない。
「でも、今日は七夕なんだ」
「たなばた?」
天の川の東に織女と呼ばれる麗しい乙女がおりました。織女は機織を天職としており、毎日明けても暮れても機を織りつづけ、髪を繕う暇さえもなかった。そんな織女の姿を見た天帝は可哀そうに思い、天の川の西に住んでいた牽牛という男と結婚させることにしました。
しかし、幸せな結婚生活にすっかり酔ってしまった織女は、一日中、牽牛の傍から離れず機織の仕事を放棄してしまった。それを知った天帝は不心得千万と怒って、「即刻天の川の東に戻って機織の仕事をするがいい。愛に溺れて仕事をなおざりにするとは何事じゃ!今後牽牛とは年に一度だけ会うことを許すことにするから、そう心するがよい!」と織女を叱りつけました。
織女は天帝の言いつけに背くことも叶わず、天の川の東に戻り、牽牛に会える日を待ちわびながら、懸命に機を織り続けたのでした。
待ちに待った7月7日に雨が降って天の川の水かさが増すと、ふたりは東と西の川岸からただ恨めしげに水面を見つめ続けることしかできないのです。そんなふたりを見かねたカササギが、天の川を渡す橋となって、織女を東から西の川岸へと渡してあげるのだそうです。
「そういう、伝説があるんだ。あれが天の川で、上の方で明るく輝いているのが織姫。天の川を挟んで、下の方で輝いているのが牽牛」
僕は、持ってきたシートの上に仰向けに寝て、星空を指差しながらホーリィに説明した。ホーリィも、僕と同じようにして星空を見上げている。
「この日に、短冊に願い事を書いて、笹に吊るすんだ。星に願いを…てね。ロマンティックだろ?」
ホーリィが、僕の右手を握った。
「ホーリィ?」
ホーリィの方を向くと、彼女の悲しそうな顔があった。そして、その瞳から流れ落ちる一筋の涙・・・・・・その涙に一瞬、パニックになりかかる。
「ホ、ホ、ホーリィ・・・」
「聖・・・残酷だよ・・・1年に1回しか会えないなんて・・・・・・織姫も牽牛もかわいそうだよ」
気が付いたら、僕はホーリィを引き寄せてギュっと抱きしめていた。どうしようもなく抱きしめたかった。愛しいかった。
「そうだな、残酷な話だな・・・・・・」
ホーリィは自分を、織姫に投影したのかもしれない。今でさえ、1ヶ月に1回会えるかあえないかの僕たちだ。ホーリィがサンタクロースとしての移動手段がなかったら、1年に1回どころか、数年に1回ぐらいしか会えないだろう・・・・・・
そもそも、ホーリィがサンタクロースでなければ、出会うことすらなかったのかもしれないけど。
「聖・・・苦しいよ」
ホーリィがつぶやくように訴える。力が入りすぎてしまったようだ。少し力を緩めた。
目の前には、まだ涙に濡れるホーリィのアイスブルーの瞳・・・僕たちはどちらともなく口づけを交わした。
「聖、何をしているの?」
「ほら、短冊。笹じゃないけど、一応吊るしておこうと思ってね」
「なんて、書いてあるの?」
ホーリィが短冊を覗き込む。そして、暗がりでもわかるほど、頬が赤く染まった。
「聖……」
「僕の本心だよ」
「うん」
ホーリィは、赤くなったまま頷いた。
短冊には、単純な、そして使い古された一文が記されている。
『君といつまでも』
星降る夜、七夕の夜のお話です。
第二話と内容は大して代わっていないことに、今更ながらにして気がつきました。
話の背景が、バレンタインデーから七夕に代わっただけ・・・・
i らんどで発表したときには、七夕の逸話ってそんな話だったんですね。との声もいただきました。




