比翼連理の君と僕
ある日、フェリア=ロッソ(二十二歳)は、お隣のホーリィ=スノーの家の前を通りかかった。青い髪、アイスブルーの瞳をした妹のような少女だ。去年、祖父を亡くし一人暮らしをしている。
甘い香り。「チョコレートかしら?」
気になったフェリアは、ホーリィを訪ねる事にした。
「ホーリィ、入るわよ」
ノックして、ドアを開けた。チョコレートの甘い香りの中に何かが焦げた臭いが混じっている。
「ふぇ〜えん、また失敗した」
「ホーリィ、一体何をしているの?」
「フェリアさん。ちょっとうまくいかなくて・・・」
鍋の中には、焦げたチョコレート・・・・・・今日は二月十三日・・・・・・
「バレンタインのチョコ?」
ホーリィの手を見ると絆創膏が巻かれていた。「努力の跡よね」と口には出さずに部屋を見回すと、エントロピーが増大している。そして、うまくいかない理由は、どうやらチョコレートの入った鍋を直接火にかけたらしい。
「ホーリィ・・・あなた、湯せんって知ってる?」
「へっ?」
フェリアは額を押さえた。
「わかったわ、教えてあげる。けど、びしびしいくからね」
柊 聖は大学の片隅で、趣味の絵を描いていた。別に風景画ではないので、家に帰ってからゆっくりと描けばいいのだが、2月とは思えないほどのぽかぽか陽気だった為、外で描く事にしたのだ。
今日はバイトもないし、たまにはこんなのもいいなぁと思いながら、親しい女の子からもらった義理チョコをかじる。
義理が四個か。ホーリィはどんなのくれるかな?などと考える。昼前にメールが届いたので、そろそろ来るはずだ。まさか、いつものように空降ってくるなんてことはないだろう。こんなところで、他人に見られたらえらい騒ぎになる。
「柊くん。何をしているの?」
振り返るとそこには、青い髪の彼の待ち人ではなく。腰まである黒髪の美女が立っていた。
「高原先輩。趣味の絵を描いているんですよ」
高原 彩。ひとつうえの先輩。入学したてのころに、図書館で本を探してもらって以来。よく声を掛けてくれる。
高原は、スケッチブックを覗き込んだ。
「モチーフは『兄弟紗』の一文?比翼と申す鳥は、身ひとつにて、頭はふたつあり、二つの口に入る物、ひとつ身を養ふ。綺麗な絵ね」
聖は、照れ隠しに頭をかいた。
「ありがとうございます。先輩は何をしていたのですか?」
高原はニコリと微笑んだ。
「お言葉ね。柊君を探していたのよ。はいこれ」
高原は聖に綺麗に包装された箱を渡す。
「チョコレートですか?ありがとうございます」
聖は、ありがたく受け取る。
「ね、開けてみて」
高原にそう言われ、箱を開けた。
「手作りですか?これ」
「そうよ。ついでに言うと、君が本命なんだけどな。柊君、私が好きだって知らなかったでしょ」
突然そういわれて、頭の中が真っ白になった。
高原先輩が…美人で誰にでもやさしくて密かにファンクラブもあって、まさに八面玲瓏としか言えない女性が、自分に好意をもってる!?
2ヶ月前なら戸惑いつつも舞い上がり、二つ返事で承諾していただろう・・・・・・
「高原先輩。ごめんさい。俺、今好きな人がいます」
気が付いたら、聖は頭を下げていた。脳裏には青い髪の少女の無邪気な笑顔が浮かんでいた。
「そう・・・」
「聖!」
高原の声をかき消した声と共に、聖が芝生の上に伏した。その背中には青い髪の少女が乗っかっている。そうなりながらも、手にもったチョコは一つも落としていない。
「聖、聖、聖!会いたかった」
こういう登場の仕方をするのは、聖が知る限り彼の待ち人、ホーリィ=スノーだけだ。
「ホーリィ、ちょっと、どいてくれないか。すぐ終わるから」
立ち上がり、ホーリィを横に待たせると、高原に向き直る。
「高原先輩・・・」
高原は、少しさびしそうに微笑んだ。
「可愛らしい娘ね…彼女が、比翼の鳥?」
「はい。少なくとも僕はそう思ってます。先ほどの絵(対となる片翼を持った男女が寄添う絵)の片翼のモデルは彼女です」
「そう・・・仕方ないね・・・・・・」
高原が踵を返す。
「高原先輩」
「チョコ、ちゃんと食べてね。貴方のために作ったのだから・・・」
「はい。ありがとうございました」
墓原の声は、少し震えていたが、聖にはこれ以上、かける言葉は見つからなかった。
「聖・・・」
ホーリィが、不安げに聖を呼ぶ.
「少し、風が出てきたから、僕の部屋に行こう」
聖はできるだけ、明るい声でホーリィに言った。
「チョコレートケーキだね、手作りの。ありがとう」
「聖も、もてるよね。手作り入れて全部で5個…」
ホーリィがプイッと横を向く。
そんなホーリィの仕草が可愛らしくて、聖はホーリィの肩に手をまわし抱き寄せた。
「きゃっ、ちょっと、聖」
「少し、このままで…ん!」
ちょっとした違和感。
「ホーリィ、ちょっと手を見せて」
「聖、やだ、放して」
聖はホーリィが逃げないように、左手で抱きしめたまま、部屋の中でも、したままの右手の手袋を外す。
中から絆創膏が巻かれた指が出てきた。左手も同じだ。
「あ、あの、私、料理とか苦手で・・・」
ホーリィは、赤くなって小さな声で呟く。
聖は、自分の腕の中で、小さくなっているホーリィの頭を撫でてそして、もう一度ギュッと抱きしめた。
「聖、苦しいよ。ねえ・・・さっきの・・・ひよくのとりってなに?」
いつまでも、すねているのも嫌なので、ホーリィは話題を変えることにした。
「漢詩でね。玄宗皇帝と楊貴妃が、生まれ変わっても決して離れないと誓った詩・・・・・・『天に在りては 願はくは比翼の鳥と作り 地に在りては 願はくは連理の枝と為らん』・・・・・・嬉しいこと悲しいこと、楽しいこと苦しいこと、幸せなこと辛いこと、すべてをふたりで分かち合おうという詩」
ホーリィが、無言で抱きついてきた。
「本当に、私でいいの・・・」
聖は、唇でホーリィの口を塞ぐ。
「こんな事を、言うのはこの口か。駄目なんだよ。ホーリィとなら空だって飛べそうな気がするけど、他の人じゃ駄目なんだ」
「あの綺麗な人でも?」
「ああ、高原先輩でも駄目だ。もう僕の片翼は、腕の中にあるから」
聖は、もう一度ホーリィを抱きしめた。
僕の腕の中にある、大切な翼。
ふたりであの蒼い空を飛ぼう。
どこまでも、高く。
どこまでも、遠くへ。
いつまでも・・・・・・比翼連理の誓い。
『聖夜に君と』の第2話。ちょうどこのとき(2004年2月)比翼連理、比翼の鳥・連理の枝をテーマに短編を書こうと思っていたときで、ちょうどバレンタインデーとかぶったので、聖夜に君とシリーズで書き上げました。
バレンタインデーと比翼連理の二つのテーマを使ったため、中途半端になってしまった感は否めません。精進します。
このシリーズは、クリスマスから始まって、バレンタインデー、七夕、ハロウィン、そしてクリスマス。イベントのごとに書いてました。ということは、第3話は七夕です。




