22、文化祭②
喫茶店のメニューが決まる。無難に、スパゲティはナポリタンとミートソース、グラタンにラザニア、それからインドカレーを出すことにした。デザートはチーズケーキ一択だ。
ミートソースはソースを手作りする。
ニンニクとオリーブオイルをフライパンに入れ弱火にかけて、香りが出たらひき肉を入れ完全に色が変わるまで炒める。更にみじん切りの玉ねぎとセロリ、人参を加えて炒め合わせたら、小麦粉を入れて粉っぽさがなくなるまでよく炒めて馴染ませる。そこにトマト缶とブイヨンを加えてよく煮込む。ナツメグを入れるのも忘れない。
味付けをケチャップとソースで甘めに仕上げれば、ジュワッとひき肉とトマトの旨味と甘みが広がるミートソースの完成だ。ラザニアにもこのミートソースが使いまわせる。
試作にとかんなぎにミートソースを出せば、かんなぎの顔がぽっと彩られた。出来たて熱々のミートソースは、かぐわしいにおいがする。真っ赤なミートソースと、淡い黄色のパスタのコントラストがまた食欲をそそる。仕上げにかけたパルメザンチーズの白もまた、ミートソースを完璧な色合いに仕上げていた。
はやる気持ちをを抑えながら、かんなぎはパスタをくるくるとフォークに巻き付ける。そして小さな口を目一杯開いて、ぱくり。
「……! この甘みと酸味、肉の旨味がたまらぬな」
「だろ? レトルトとはまた違った旨味があるよな。新鮮っていうか」
「先日食したなぽ……な……」
「ナポリタンな」
「うむ。あれも美味じゃったがあれとは麺がまるで違うな」
「ああ、あれな。あれは前日に麺を茹でてあるんだ」
ナポリタンは簡単に見えるが、少しだけ趣向を変えた。
まず麺は前日に茹でて水で洗って、冷蔵庫で一晩寝かせる。ナポリタンのもちもちした食感を出すためだ。これをケチャップとソース、隠し味の醤油で味付けした玉ねぎ、ピーマン、ハムとあえて完成だ。むっちりした真っ赤なパスタにピーマンの緑。そしてここでもパルメザンチーズは良い役目を果たす。赤と白の組み合わせは、どうにも食欲をそそられる組み合わせだ。
「それからその前の……グラタン……」
「トマトのグラタンが神楽の気に入りだもんな」
「玉ねぎは最強、じゃったか。グラタンの玉ねぎは確かに美味いな」
思い出しただけで口の中が幸せになる。牛乳のクリーミーな味と程よい塩気、ホクホクのじゃがいもにシャキッとした玉ねぎ。上に乗ったとろけたチーズとカリカリのパン粉も最高だった。
やはり、武弘の料理はなにより美味い。
とはいえ、そんなかんなぎも一点だけ、武弘に言えないことがある。
試作の度に出されるチーズケーキだ。流石に毎日となると、飽きてくる。武弘には口が裂けても言えないが。
ちなみにチーズケーキは、あの店を参考にしている。かんなぎと一緒に食べた、半熟のチーズケーキ。
出されたチーズケーキにフォークを突き刺し、そのまま口に運ぶ。甘酸っぱい、トロトロのチーズケーキが口内で溶けた。
かんなぎからすれば、これでも充分美味いのだが、武弘は納得行かないらしい。もう何回も試作を繰り返している。
「武弘、まだ作るのか?」
「いや。なーんか、このチーズケーキ今ひとつなんだよな」
「そうか? 十分美味いと思うが」
「うん。帰ってまた試作するから、そん時はよろしく!」
ここ数日、武弘は不幸のメールどころではなかった。むろん、かんなぎのまことの名前も。
文化祭までの期間に、メニューと原価率の計算をしなければならないからだ。だが、それが性に合っている。
武弘にとって料理と、料理に関することは、いくら時間をかけても苦にならない。メニューを考えている時間が好きだ。試作を重ねる時間が好きだ。
だが、かんなぎはそうではない。この二週間、半熟チーズケーキの試作を味見させられて、舌が馬鹿になりそうだった。
あの店のチーズケーキとは異なるものの、これはこれで美味いのだから、少しは妥協すればいいものを。
しかし、先に述べた通り、かんなぎは口には出さない。武弘が生き生きとしていることに、かんなぎは少なからず安堵していた。
かんなぎと出会ってからの武弘ときたら、毎日呪いのメールのことばかりで、たまに料理で息抜きするものの、頭がパンクするのではと心配していたほどだ。
「さて、儂も本格的に探すかのう」
かんなぎは人間の居場所を探る力がある。だからこそ、武弘の名前も、学校も、こうも簡単に探り当てた。
だがそれは、相手の顔を知っている場合のみである。そして、同じ力を持つ人間は探ることが極めて難しくなる。
巫女の力と巫女の力、あるいは陰陽師の力は、お互いがお互いを干渉する。そのため、相手がかんなぎと同等の能力を持っている場合、かんなぎの能力はまるで意味をなさなくなる。
「難儀なことよ」
つぶやき、かんなぎは夜の闇へと紛れていく。昼間は武弘と学校、土日は探偵の仕事、ならばかんなぎに残された自由時間は、武弘が帰った後の夜のこの時間のみだ。
夜の闇に紛れ込み、かんなぎはとある人物を探し歩く。




