21、文化祭①
出来上がったトマトのグラタンを皿に盛って、武弘はかんなぎの前に差し出した。
トマトを皿の真ん中に、サラダとポテトサラダを付け合せにした。
まるで宝石箱のような盛り付けだった。
「すごいな。まるで先日食したチーズケーキのようだ」
「見た目はな。焼いたトマトの甘みとグラタン、チーズがよく合うんだ。めしあがれ?」
残りのひとつ、武弘の分のトマトのグラタンの盛り付けもそこそこに、出来立てをと武弘は出来上がったグラタンをテーブルに運ぶ。かんなぎはそのグラタンを目で追いながら、自身もテーブルの前のソファに腰かけた。
「貴様は食さぬのか?」
「俺はあとでいい。冷めないうちにどうぞ?」
「……ともにがいい」
「は? なにわがまま」
「貴様が言ったのだぞ。ひとりで食べるのは寂しい、と」
「言ったけど……」
「つべこべ言わずに作ってこい」
かんなぎの圧に押されて、武弘はキッチンへいそいそと戻る。手際よく、もうひとつのトマトのグラタンを盛り付けると、その皿を持ってかんなぎの真ん前に座る。
「お待たせ」
「では、食すか」
「はい、召し上がれ」
先程あんなことがあったのに、かんなぎには日常茶飯事なのだろう。
トマトがじゅわっと汁を滴らせている。
かんなぎは、グラタンにスプーンを入れ、すくった。
チーズが伸びる。グラタンの具材は、簡単に鶏ハムと玉ねぎだ。
すくったグラタンをふうふうと冷まして、かんなぎはそれを口に入れた。
牛乳の甘み、それから玉ねぎの旨味。チーズが濃厚でもちもちしている。
「次は、トマトの器を崩しながら食べてみて」
武弘に言われて、かんなぎはトマトの器をスプーンで崩し、グラタンと一緒に大きな口でぱくり。
「トマトが甘いな」
「そう。トマトは加熱すると甘くなる。グラタンと相性がいいし」
「これは美味いな……!」
食感が楽しいのか、かんなぎのスプーンが止まらない。
なるほど、余り物の食材でも調理法によってこれほどまでに味も食感も、全てが変わるとは。
「トマトもそうじゃが。貴様の言う通り、玉ねぎは最強だな」
「だろ? 玉ねぎ入れとけば大抵うまくなる」
「なるほど、覚えた」
「いや、神楽は今後は料理しなくていいし。いや、するなら俺がいるときに教えてやるから、な?」
必死の武弘に、かんなぎは頬を膨らませる。存外子供っぽい一面もあるのだなと、かんなぎも武弘も、トマトのグラタンを堪能した。
翌日、何事もなかったかのように登校したかんなぎと武弘だったが、ひとつ、問題が浮上した。それが、武弘が早退する前に正に言われた、「文化祭の役割決め」である。
かんなぎも武弘も当日不在であったため、委員長の独断で役割分担が決められた。
「神楽はウェイトレス。しかもメイド。で、天野は裏方。料理の担当」
「ええ、俺外観作るとかそっちの裏方がいい……」
「なに言ってんだよ。オマエ進学先調理師の専門学校だろ? じゃあ今その腕を披露しないでいつ披露するんだ?」
「だから、そこまでの腕じゃないんだって」
武弘はクラスメイトに自分の料理の腕を披露したことがない。なぜなら、自分の特技を他人に知られるとあとあと人づきあいが面倒だからだ。
かんなぎには武弘の特技をあれだけ大々的に披露しているが、あれは呪いのメールの手掛かりを知るためと、なにより武弘のプライドを保つために致し方のないことだったのだ。
それが、よりにもよって喫茶店の裏方で料理なんて、面倒なことこの上ない。
しかもかんなぎがメイド服だと聞いて、武弘は気が気じゃなかった。
「メニューは考えてあんの?」
「まさか。それは天野頼りだよ。頼むよ~!」
文化祭の委員長の田中が、武弘に胡麻をする。そもそも、田中がくじに負けて、文化祭の出し物が喫茶店しか残っていなかったのが間違いだ。
出し物の候補はほかに、お化け屋敷や歌声喫茶などもあったそうだが、田中の独断でメイド喫茶になったのだそうだ。
しかしながら、田中がくじ引きで負けたという話も怪しい。はなからメイド喫茶を狙っていたのではと思うほど、田中はノリノリなのである。
「面倒くさいなあ」
「そう言わずに。他校の生徒も来るから、張り切っていこう!」
他校、の言葉に武弘の顔色が変わった。他校、つまりこの学校に一斉に近隣の高校生が集まってくる。
これはチャンスだと思った。かんなぎに言われた、「呪いのメールの出どころを探す」それがかなう、千載一遇のチャンスだと。
「時に武弘。メイド服とはなんだ?」
「あっ、そっちの問題が残ってたんだった!」
長く生きていながら、現世のことに疎いかんなぎに、メイド喫茶をどう説明しようかと、武弘はうんうんと頭を悩ませた。




