14、アクセサリー
街中をふたりで歩くと、やはり悪目立ちすることは変わらなかった。変わらないのだが、一駅隣に移動しただけで、街の雰囲気もがらりと変わる。
喫茶店ののち訪れた街にはおしゃれな人間があまた行きかっており、個性的なファッションも目立つ。だからか、かんなぎの着物姿が妙に街になじんで、武弘はほっと息を吐き出した。
「武弘、あの店は?」
「ああ、ジュエリーショップぽいな」
「あのような輝きを放つものが、買えるというのか?」
「まあ。値段もリーズナブルっぽいし。入ってみる?」
どこかかんなぎの顔が生き生きしていることに武弘は気づいた。やはりかんなぎもただの女の子、きれいなものには目がないし、おいしいものには興味がある。当たり前のことだが、武弘は今日、今、ここにきて初めて、かんなぎの『普通』な部分を垣間見た気がした。
ふたり並んで店内に入る。
「いらっしゃいませえ。ペアリングですか?」
「ち、違います」
「ペアリングとは?」
必死に武弘が否定するのに対し、かんなぎは前のめりに店員に聞き返す。
「ペアリングっていうのは、彼氏さんとおそろいの指輪のことです」
「おそろい……それはなにか意味があるのか?」
「またまた~。彼女さんったら面白いですね?」
店員が武弘にウィンクする。やめてくれ、と武弘は思う。かんなぎの背中を押しながら、
「あ、俺たち自由に見て回るんで」
「かしこまりました。なにかご用の際はお気軽に」
にこやかな店員は接客業の鏡だと思う。かんなぎの不可解な言動にも、プロの接客は光っていた。あそこまで笑顔で応対されると、こちらがいたたまれなくなってくる。
「なんだ武弘。儂はペアリングなるものを知りたい」
「だから、ペアリングっていうのは……」
「いうのは?」
もにょもにょと武弘が言いよどむ。かんなぎは「面倒くさい」そう言いたげな表情で武弘をにらんだ。のち、武弘が早口で説明する。
「付き合ってる男女がおそろいのものを身に着けて……アピールするっていうか」
「アピール?」
「付き合ってる、私は彼のもの、彼は私のもの。あと、結婚を前提にしてる男女が身に着けたり」
「結婚……」
ようやくかんなぎも状況を理解したらしく、むっと口を結んで店内のアクセサリーに目を移す。
武弘ははあっと息を吐き出す。納得した、のだろうか。どちらにせよ、周りからは『そんなふう』に見えているのかと、この店を出たらもう少し距離を取って歩こうと武弘は思った。
店内を見て回ると、かんなぎがとあるコーナーで足を止める。じっと見入ったり、そこを行ったりきたりする。
「それ気に入った?」
「それ?」
「うん、さっきからずっと見てる」
しゃらしゃらと揺れるのは、イヤリングだ。きれいなガラスビーズと天然石が揺れる、シンプルだがかわいらしいデザインである。
「いや、珍しいものだと見ていただけで」
「そう? でも、神楽に似合うと思うな」
「貴様はそうやって女をたぶらかしてきたのか?」
「たぶら……はあ!? なんでそうなる!?」
どぎまぎして、武弘はかんなぎのそばを離れてメンズのアクセアサリーコーナーに足を向ける。女性のものに比べて男性のアクセサリーはごついものも多い。だが、武弘はアクセサリーなんてこれっぽちも興味がない。なぜなら、調理の仕事を目指す武弘にとって、それらは無縁のものだからだ。
アクセサリーは衛生上料理人は身に着けない。指輪だけでなくネックレスもピアスも、料理に混入することを防ぐために、なにひとつ身に着けてはいけない。
そもそも、爪ですら毎日チェックして短さを保つ必要があるのだから、料理というのはいつの時代も食中毒と異物混入との戦いであった。
「あ。神楽。どうした?」
「飽きた。次に行くぞ」
「わかった。で、あのイヤリング買ったの?」
「いらぬ。そもそも儂がアクセサリーなど、似合うわけもない」
「そんなこと……」
ない。そう言いかけて口をつぐむ。なぜそこまでかんなぎに言及する必要があるのだろうか。かんなぎは無意識だろうが、あのイヤリングが欲しいのは明らかだ。だが、それを指摘したところで、余計なお世話であるし、かんなぎ自身も認めないだろう。
ならば、この話題は終わりにして、さっさとこの店を出るのが得策だ。
「わかった。次行くか」
時間にして三十分。かんなぎと武弘は、アクセサリーショップを後にする。かんなぎが最後にあのイヤリングを振り返ったことに、武弘は見て見ぬふりをした。
「次どこ行きたい?」
「どこでも」
「うーん、そう言われても」
この街に詳しいわけでもない武弘はうんうんとない頭をひねる。彼女いない歴イコール年武弘は、生まれてこの方デートプランなど立てたことがないのだから、スマートにエスコートできないのは致し方ない。
どうしようかとあてもなく歩いていると、街中でチラシを配るアルバイトと出くわした。
「お兄さんたち、プラネタリウムとか興味ないですか?」
「あ、プラネタリウム?」
「そう。隣の駅なんだけど、最近オープンしたばかりで、このチラシ持っていけば特別価格で入れますよ?」
「へえ……」
武弘はチラシを受け取って、それをまじまじと見る。プラネタリウム。武弘も未経験の場所ゆえに興味がある。
武弘が持つチラシを、かんなぎが覗き込む。
「神楽、星見に行く?」
「星?」
「そう、人工の星なんだけど」
ほう、と興味を示したかんなぎに、次の目的地はプラネタリウムに行くこととなった。




