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第5話(2)

 それから私が目が覚めたのは、窓の外が茜色に染まり始めた4時間後。

 飛び起きるようにガバッと体を起こした。


「えっっ!?!?」


 視界に映るのはいつもの私の部屋だった。変わったことといえば、私がお酒臭いこととラスクの香油の残り香がほのかに纏わり付いているということだった。私は状況が理解できず、一つ一つ邂逅した。


「ラスクに会って、お酒を飲んで楽しくなっちゃって……それで抱きしめられて……今ここ!?」


 邂逅したところで何一つ分からなかった。抱きしめられたあとはどうなったのか。そしてどうやって私は家に辿り着いたのか……。


「……とりあえずお水を飲みましょう」


 お酒のせいか、頭がガンガンと打ち付けられているかのように痛い。私はキッチンに向かい水を一杯飲んでいると、昨日と服装もアクセサリーも違うアセビナが顔を出した。


「あぁ起きたのね。あなた昼間から酒を飲むなんて令嬢としてはしたなすぎるわ」

「申し訳ございません……」

「それで、あのフードの男は何?」

「えっ」


 フードの男……ラスクのことだろうか。私は詳しくは告げずに聞き返した。


「誰ですか、それは」

「あんたをベッドまで運んでくれた怪しい男よ。あんた、道中で寝ていたそうじゃない? 飲んだくれて外で寝ているなんて、ヴィルニフ家を汚す気?」


(なるほど、そういう設定になっているのか)


 状況は少し理解できた。どうやら私はお酒のせいでラスクに抱きかかえられたまま、寝てしまったようだ。


「あの……男性がここに運んでくれたのは何時頃でしょうか?」

「14時前よ。ちょうど宝石商が帰った後だったから良かったわ。それより玄関にあなたの汚いリュックがあるから、早く部屋に持っていってちょうだい」


 アセビナは鼻歌を歌いながらキッチンから姿を消した。あの女はまた無駄遣いをしている……。アセビナに苛立ちを覚えながら私はリュックを取りに向かうも……ここでひとつ気づいたことがある。


「どうして家まで知ってるのよー!?」


 私はリュックを回収し、自分の部屋へと再び戻る。


 リュックから空瓶やグラスを取り出しながら、状況を整理した。


「1時間ほど喋った後抱きしめられ、そして私の家についたのは14時前。神殿からここまでは30分程度だから、すぐに届けてくれたのは分かるけど……どうして家まで知っているのか」


 家名は知っていたはずだが、この広い国の中ですぐに家を見つけられるというのは奇跡に近い。道行く人にヴィルニフ家を訪ねたとしても、徒歩30分の距離の場所でヴィルニフ家を知っている人に出会う確率も低い。しかもあの神殿は裏道や森を抜けた先にある。人に出会う場所に出るまでにも時間がかかる。

 ということを踏まえると、最初から家を知っていたということになるのだが。


「ますますスパイの可能性が高くなったわ……」


 とはいえ、父も病床中の今、ヴィルニフ家は社交界にも顔を出さなくなってしまったし、狙われる何かは検討がつかない。しかしラスクが私もしくはヴィルニフ家を気にかけているのは確かだ。


「どうすればいいのよ……。それにあと6日しかないわ」


 リュックを棚に戻すと、棚の横にあるテーブルに違和感を抱いた。昨日まで何も記してなかったメモ帳に何かが書かれていた。


『明日も同じ時間に同じ場所でまた会おう。ラスク』


「ちゃっかりしているわね……」


 昼間からお酒を飲み、疲れて子供のように寝る令嬢に『明日も会おう』なんて言う男、やっぱり信じられないけれど、明日は今日のお詫びも兼ねて会いに行こうと思う。

 私はメモを剥がすことなく、しばらくはそのまま残しておくことにした。



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