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マリアージュの銃士隊  作者: ミナモ
第一章

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第八話「マリアージュの至宝——ウェディングインペリアル」

 

「ウェディングインペリアル!」


 クリスの叫び声——。


 直後——轟く銃声の、突然の断絶。


 そして、訪れる——沈黙の世界。


 その理由——。


 静止した立体画像のような光景が——視界の先に広がっていた。


 憤怒の表情で、彫像のように動かない銃士。

 リボルバーから発射された弾丸も、銃口の先で止まっている。


 辺りを見回す。そして——。

 一歩前に踏み出してみる。


 動ける……。


「いったい——?」

 戸惑いを隠せない。


(わらわ)が、止めた——』

 後ろにいたマレーネが声を掛ける。


『もう少し……。小娘を出し抜いた、余韻を味わいたかったのじゃがのぉ……』

 蕩けるような眼差し、耽美な夢から目を覚ましたような表情。

 しかし、振り返るクリスを見つめて、嘆息を漏らす。

(ぬし)が、その顔では……』

 マレーネは頭を振った。


「だったら、説明してくれ——」

 左手の甲を前にして、嵌めている指なしグローブを見せる。

「色が変わった——。至宝(ウェディングインペリアルが発動しているんだろ?」

 グローブの色は、漆黒から緋色に変化していた。


『ウェディングインペリアルは、希有(けう)な至宝でのぉ』

 右目の前で、人差し指と中指のピースサイン。さらにウィンク。

『能力が二つある』


「能力が……二つ?」

 クリスはオウム返し。


『伴侶がそれぞれ一つずつの能力を受け持つということじゃ』


「それぞれ……?」

 怪訝な眼差し。

「じゃあ、今の、この状況は……?」


 マレーネはコクリと頷く。

(わらわ)が能力を使っておる。能力名はインペリアル・グレース』


 クリスは催促するように、マレーネを見つめる。

『触れた物体を、支配することができる——』


 ようやく、理解が追いついてくる。


「すると――」

 クリスは左手見つめる。

 グローブを嵌めた手には至宝(ボレロ)が握られている。

「グローブが触れた至宝(ボレロ)を支配したというのか?」


(ぬし)に説明する時間がなかったのじゃ。(わらわ)が能力を使わなければ——』

 右手を拳銃の形にして撃つマネをする。

(ぬし)は射殺されておった』


「助かったよ」

 ようやくの安堵……。

 クリスは素直に礼を言った。


(ぬし)の受け持つ能力については後にしようかのぉ。止まった世界とはいえ——』

 憤怒の表情で固まる銃士を見つめる。

『この場で長話をする必要もなかろう?』


 クリスは頷いた。

 完全に同意見だった。


『数分ほどで時間停止を解除するように設定した。今のうちに逃げるがよい』

 左手に握っていた懐中時計(ボレロ)を、銃士の上衣の胸ポケットに入れる。

 そして、促されるまま、クリスは庭園を後に駆け出した。



 ***


 クリスが霊園に侵入する直前まで遡る——。


 ◇◇◇


 メイドは、少年を追い詰めていた。

 不意の声——。

 顔と視線を少し声の方へ向けてしまった。


 その隙を、少年は見逃さなかった。

 霊園の塀をひと蹴りして軽々と塀に飛び乗る。

 さらに迷いなく、塀の中へと飛び降りた。


「あ! 待て——」

 ネコの様に、塀に飛び乗るメイド姿のマルセイユ。


 塀の中に飛び込もうとする直前に、スーツ姿の青年が呼び止めた。


「どうして止めるんですか?!」

 マルセイユは振り返り、口を尖らせて不服そうな表情を見せる。


「管轄が違うんだ!」

 青年は塀から下りるように合図を送る。


「管轄……?」

 不満のご様子——。塀の上から青年を見下ろしている。

「ここ——霊園ですよ?」


「閉園してるんだ!」

 青年は入り口の(ゲート)を指さした。

「早く下りてこい!」


「閉園って……」

 塀から飛び降りる。

 トトト——。

 足早に青年の側まで近寄ってくる。


「開園の時間はとっくに過ぎている。だが、閉園のままだ——」

 青年は答える。

「何かあったとしか思えない……」


 それでもマルセイユは食い下がった。

「逃げられたのは、ジャスティン様のせいですからね!」

 恨めしそうな眼差しで、スーツ姿の青年を見つめる。


「別に構わない」

 やれやれと頭を振る。

「あの少年はあくまで参考人だ」


「参考人——って! 容疑者じゃないんですか?!」


(そんなに睨むなよ……)


「あのな——マルセイユ。あの少年は養子だが……」

 青年はため息を吐く。

「爵位を持った歴とした貴族だ」


 マルセイユは睨むのを止めた。


「身柄の拘束は、内偵を十分に行ってからだ。それを——」

 青年のギロリとした眼差し。

「なんだ、さっきのは?」


「う……」

 マルセイユの言葉が詰まる。


「お前——昨日の辞令の内容は覚えているか?」


「ジャスティン様の家猫になりました——」


「それはジャンナッツ家の屋敷猫からの辞令だ」

 ジャスティンと呼ばれた青年は、頭を振る。

「もう一つあっただろ?」


「もう……一つ?」

 何故か、そのまま沈黙。

 思い出そうと視線が上を向く。


「お前——緊張していたのか?」

 ジャスティンは、ため息を吐く。

「昨日は、借りてきた猫みたいだったからな。表情も硬かったし……」


「な?」

 マルセイユの顔が赤くなる。


「俺が言っているのは、領地捜査局の辞令だ」

 マルセイユを一瞥。


 やはり……マルセイユは黙ったまま。


「まあ、いい。掻い摘まんで説明すると――」

 ジャスティンは頭をひと掻き。

「お前にも領地捜査局の局員と同等の権限が与えられている」


「ただし、犯人等の身柄確保に限っては——例外だ」


「……例外?」

 マルセイユは首を傾げる。


(やはり、忘れているな……)


「俺の許可が必要になる。あくまで俺の補佐役なんだ」

 ジャスティンは踵を返して、歩き出す。

「行くぞ——四輪馬車(キャリッジ)を待たせてある」


「あ、待ってください」

 後ろについていきながら、青年の後ろ姿を、じぃっと見つめる。

「私を……つけていらしたのですか?」

 不審の眼差し。


「こっちは猫の手も借りたいって言っただろ?」

 振り返り、マルセイユを一瞥する。

「忙しくて、そんなヒマはない」


「でしたら、どうして……」

 言いかけて止める。

 ふと、赤煉瓦の塀を見つめる。


「霊園——」

 この場所に心当たりがあった。

 ジャスティンの母と姉の墓碑がある場所……。

 軽々しく……踏み込んでは行けない場所——。


 マルセイユはそれ以上何も言わなかった。


 しばらく歩くと、四輪馬車(キャリッジ)が見えてくる。


「あの……どちらに?」

 御者に目的地を伝えるジャスティンに話しかける。


「本来の待ち合わせ場所だ」


 キョトンとした表情で、首を傾げる。


「メールを確認しておけ――」

 ジャスティンは四輪馬車(キャリッジ)に乗り込む。

「急遽、捜査要請が入ったんだよ」

 そう言って、嘆息を漏らす。


 マルセイユが乗り込むと、車内の天井を叩いて、ジャスティンは出発の合図を送る。

 ゆっくりと馬車が動き出す。


「それじゃあ、テトレー屋敷の件は……?」

 マルセイユは当然の疑問を口にする。


「引き続き、捜査は続行だが――」

 マルセイユを一瞥。

「少年が逃げ込んだ霊園の管轄は、近衛省なんだよ」


「近衛省?」


「王国なき今……不要の部署なんだが——」

 ジャスティンはそう言って、携帯端末を取り出す。

「領地捜査局が、管轄区域外の場所に無断で踏み込めば、騒ぎ出すかもしれない」


「そういうものなんですかね?」


「そういうものなんだよ……」

 ジャスティンは小さくため息を吐く。

「閉園している理由もわからないんだ。慎重に行動しないと……」


 マルセイユも小さくため息を吐く。


「だから、局長に動いてもらう。近衛省に監視カメラの映像の提供、或いは、少年を拘束していたら、身柄引き渡しの要請をしてもらう」

 局長宛にメールを送信した。

「それまでは一旦保留――」


「保留ですか……」

 不服そうな表情。


「そう、残念がるな」

 ジャスティンは、マルセイユにファイルを渡す。

「情報共有だけは引き続き行う。今朝までにわかったことが載っている」


 マルセイユは、手渡されたファイルをペラペラと捲る。

 解剖結果の(ページ)で止まる。

 指をなぞっていく。

 検体——アルフォンソ・テトレー伯爵。男性。年齢82。

 死因——。


「心臓発作だそうだ——」

 ジャスティンは窓の外を眺めたまま、そう呟く。

「伯爵は、頭部損壊の前に、すでに事切れていたらしい……」


「指輪は——」

 マルセイユは顔を上げる。

「関係してないのですか?」


「その結果を見る限り、断定していない」

 窓の外から、顔をマルセイユに向ける。

「薬指の神経節から、何かに侵食された形跡はあったとしか書いてない」


 マルセイユはファイルを確認していく。

 左腕から頸部——そして心臓付近に浸食の跡……。


「死因とまでは断定していない。いや——」

 ジャスティンは頭を振る。

「断定できないんだ」


「それは——見つかっていないからですか?」


「ああ——」

 マルセイユの問いに、ジャスティンは頷いた。

「まだ、指輪が見つかっていない」


第九話以降も順次投稿していきます。

ここから少しずつ物語が広がっていきますので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

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