表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マリアージュの銃士隊  作者: ミナモ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/27

第七話「二十年の占有」

「それなら次は、(かわ)してみせろよ」


 銃士は、クリスの動きを探り始める。


 クリスも身構えながら集中する。


 銃士は余裕の笑み——だが、油断はない。

 右手の指を動かしながら、抜くタイミングを探っている。


 先ほどの攻撃——。

 (かわ)せなかったが、お陰で収穫もあった。

 銃士のクセが、何となくわかった……。


 抜くときに、右足に重心がシフトする。

 その動作への移行時——僅かに、ブーツのつま先が地面を掴む。


 おそらく……本人は気づいていない――。


 そう思いたいが……。

 誘導(ミスリード)——その可能性もある。

 考え出したらキリはない。


 銃士のブーツの先——。


 来る!


 銃士が銃を抜いた――。

 腰の位置から、左手を撃鉄に叩けつける!


 ファニングによる早撃ち!


(かわ)せる!)


 タイミングは完璧だった!


 だが——!


 銃口の向きに微かな違和感。

 僅かに左に傾き。


(陽動かよ!)

 クリスは動きを止める。


 銃弾はクリスを掠めるように……後方に――。


『跳弾じゃ!』

 マレーネの声!


 ウソだろ……。


『右後方165度から背中じゃ!』

 確かに右後方から、反射音!


 クリスは右脚で地面を蹴って背面跳び――。

 身体を捻って反転!

 からの——。

 ゆっくりと見える弾丸。


 ——くっ!

 リミッターが外れてるんだ!

 動くだろ! 左腕!


 ドサリ!

 うつ伏せに倒れ込む。


『だ……大丈夫か?!』

 マレーネが心配そうに覗き込んでいる。


「ああ、何とかな……」

 クリスは直ぐさま起き上がると、握りしめていた左拳を開ける。

「これも違った――」

 銃弾がコロッと地面に落ちていく。


(ぬし)——アレを掴んだのか……?』

 マレーネは驚嘆の声を上げる。



「弾丸を——掴んだ……だと?」

 銃士は唖然とする。

 立ち上がるクリスの後ろ姿を目の当たりにして、動揺する。


 クリスは振り返り、銃士を睨む。


 銃を握る右手の震え……。

 視線が定まっていない——。


 見逃さなかった。

 クリスは、ここぞとばかりに駆け出した!


 迫り来るクリスに、怯み、銃士は一歩後退——。

 気圧されまいと、ふたたび銃を構える。


 だが、対応が遅れる……。


 リボルバーを構えて、再びファニングを試みる!


 しかし!

 銃口の震えが、精度を大きくブレさせる!


(それじゃあ、当たらねぇよ……)


 確信したクリスは、ここぞとばかりに飛びかかる!


 銃声が、立て続けに二回——轟く。

 銃弾は、ことごとく掠めるようにして、クリスの後方へと飛んで行く。


 最後の一発を打ち切る前に——間に合った!


 クリスは少女の右腕を掴み上げる事に成功する。

 銃口は天を仰ぐ——。


「なんだよ……その力――」

 右手を掴みあげられた銃士は苦悶の表情。


 銃士はリグを着込んでいる。

 にもかかわらず、力ではクリスに圧倒されていた。


「そのリグ……壊れてるんだろ?!」

「ああ! 壊れてる! だから本来の力が戻ったのさ!」


「クソが!」

 銃士が毒づく。

 右腕が使えない!

 銃士は左手で、上衣のポケットから至宝(ボレロ)を取り出した。


 銃士の左手に懐中時計が見える。

 クリスは使わせてなるものかと、銃士の左腕を押さえ込む。


 銃士には決定打がなくなった。

 それでも、銃士はなりふり構わない様子だった。

 頭突きや膝蹴りを仕掛けてくる。


 取っ組み合いの状態がしばらく続く。

 こう着状態に嫌気がさしたのは銃士だった。

 左手に握っていた懐中時計の蓋を、なんとか開くことに成功する。


「そんなに近づいて良いのか?」

 荒い息づかいの中、銃士が笑う。


至宝(ボレロ)は使わないんだろ?」

「ああ……使わないさ」

 銃士は左手のスナップを利かせる。

「欲しけりゃ——くれてやる」


 左手を離れた懐中時計が、放物線を描きながら、クリスの後方へと遠ざかる。


 銃士を突き放すと、クリスは駆け出した!


 視線は懐中時計に向けられる。

 左手を伸ばし——クリスは飛びついた。


 ダイビングキャッチ!



「やはり、お前の狙いはソレ(至宝)か?」


 カチャリ——撃鉄を起こす音。


 起き上がると、銃士はリボルバーを構えていた。


 シリンダー内に残された弾丸は一発のみ――。

 銃士とクリスとの距離は5メートル。


 クリスは手にした懐中時計を、握りしめる。


「残念だったな……」

 銃士はあざ笑う。

「そいつは、お前には扱えないぜ」


 クリスは座ったまま銃士を見つめる。


「いくら念じても無駄だ——」


「登記が必要——だからか?」

 クリスはゆっくりと立ち上がる。


「知った上で……手にしたのか?」

 怪訝な眼差し。

「強がりはよしな」


「強がりに見えるのか?」

 こわばった表情のクリス——。


「ああ、見えるぜ!」

 銃士は鼻で笑う。

「選択を誤ったな! お前が奪うべきは銃だったんだよ」


「いや違う……」

 クリスは頭を振る。全否定——。

至宝(ボレロ)を手にすることが、最善とまでは言わないが最良——」


 銃士がそれを聞くと笑い出す。

「最良だと? この距離で、あたしが外すと言うのか?」


「弾丸はどっちだ?」

 クリスは鼻で笑う。

「時間を加速させる弾丸か、それとも、普通の弾丸か——」


 それを聞くと銃士の表情が険しくなる。


「この距離では、(かわ)すのは無理だ」

 クリスは肩を竦める。

「だが、致命傷は避けられる。——普通の弾丸ならな」


「クソ野郎が……」

 銃士の声が震える。

「二分の一だと言いたいのか?」


「ああ。至宝を手放したアンタは、二分の一の選択に迫られる——」


 すると——。

 くくくと笑い始める。

「それが狙いか……。重圧(プレッシャー)をかける腹づもりか——」

 銃士は歪んだ笑みをクリスに向けた。

「確かに肝は冷やされたが……」



「残念だったな——」


 パチン――。

 銃士は指を鳴らした。


「この距離なら、至宝(ボレロ)を手にしなくても、使えるんだよ」


 今度はクリスが怪訝な眼差しを向ける。


「お前の目論見は外れたな——罪人」

 蔑んだ笑みを浮かべる。

「望み通り。天命を全うさせてやる! 刑の執行だ!」


「そいつは助かる……」

 クリスの小さい呟き声——。


「あ?」

 銃士は不快な表情に変わる。

「お前——この状況を理解しているのか?」


「ああ、ちゃんと理解しているぜ!」

 すると、クリスは大声で笑い出す。

「加速させているんだろ? 至宝(ボレロ)に触れている物体の!」


「煽った甲斐があったぜ! メルローズのご令嬢!」

 さらに、相手を挑発する。


「気でも触れたか……?」

 銃士は鼻白む。

 だが、銃口は向けたままだった。

 至宝(ボレロ)を手放した瞬間、射殺できるようにしていた。


 笑い声が止まる。

「なあ、アンタ——」

 クリスは晴れやかな笑みを浮かべる。

「取得時効って——知っているか?」


 銃士は怪訝な眼差しを向ける。

「取得……時効……?」


「その様子じゃ、知らないようだな——」

 クリスは肩を竦める。

「まあ……無理もない」


「二十年だ——」


 睨み合いが続く。

 長い……沈黙。


「長いだろ……? 俺はもちろんだが、アンタも、まだ生まれてやいない」


「お前……何を——」


「所有の意思を持って――」


「黙れ! ここはマリアージュの領地内だ!」

 少女は声を荒げて叫ぶ!

皇女神(すめがみ)の領地で、市民の法律が、及ぶことなんてねぇんだよ!」


「いや——及ぶのさ」

 クリスが平然と答える。

領律(りょうりつ)に記載がなければ、法律が及ぶ——」


「知るか! 知った事じゃねぇんだ! 法律談義はあの世でやれ!」

 銃士はクリスの話を遮り、捲し立てる。


「そう言うな。ここからが重要なんだ——メルローズのご令嬢」

 クリスが笑みを浮かべる。

「マリアージュの領律(りょうりつ)に、占有についての記載はない」


「あ? 占有……?」

 銃士は眉根を寄せる。


「だから、平然と——」


「公然に——」


「二十年間、占有を続けた者は——」


「時効により――」


 時効により……?


 クリスの口元が綻んだ。

「所有権を――原始取得できるんだ」


 ……え?

 原始……取得……?


 銃士は、思考が追いつかなかった。


 しかし……何か……。

 何かが、おかしい――。


「まだ気がついていないのか?」

 クリスの言葉で、我に返る。

「アンタが加速させているのは、俺ではないんだぜ」


 何を……言っているんだ?


 懐中時計(ボレロ)は、アイツの手に——。


 違和感の正体。


 目の前の少年——変化がない。


 銃士は鼓動が高鳴るのを感じた。


「お前……どうして?」


 クリスが鼻で笑う。

「老衰してないかって——」


 彼の容姿に変化がない!


 時は加速しているはずだ!


 だとしたら……。

 何の時間を進ませているんだ……?


 すると、クリスが口を開く。

「左手に嵌めている、このグローブだ!」


「グローブ……?」


至宝(ボレロ)が触れている、このグローブの、時間だけが加速しているんだよ」


 それを聞いて、銃士がハッとした表情に変わる。

「バカな?! 身につけている者にも影響が――」


「俺は占有者だ」

 にっと笑う。

「まだ……俺に付属していない」


「まさか……?」

 銃士はふと頭を過る。


 ここは——マリアージュの塋域(えいいき)

 マリアージュの——。


「至宝——なのか?」

 声は震えていた。


 クリスは銃士をまっすぐ見据える。

「ありがとよ——。おかげで二十年、占有できた」


(ぬし)よ! よく引き伸ばしてくれたぁ!』

 興奮の声と共に、マレーネが現れる!

『移転登記が完了したぞお! 至宝の名を呼ぶがよい!』


 クリスが叫ぶ——その瞬間。


 銃士は自分の醜態に顔を赤くした。

「ふ、ふざけるなぁ!」

 怒号と共に、引き金を絞り込んだ。


 銃口から火花が上がった!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ