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マリアージュの銃士隊  作者: ミナモ
第一章

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第六話「二分の一の銃弾」

「それじゃあ……行くとしますか」


 クリスとマレーネは揃って、庭園の方へ歩き出した。


 クリスが庭園に現れると、銃士の表情は一転——。

 笑みが消える。


 忌々しそうに睨めつける。

 表情も険しいものに変わっていた。


 それもそのはずだった。

 追いつめた獲物のはずが、堂々と笑っている。

 無性に——気に入らない。

 苦虫をかみつぶしたような表情で、クリスを睨めつけた。


「悪いな。淑女(レディ)を待たせてしまって。今そこで別の淑女(レディ)と――」

 クリスは隣にいるマレーネを見つめる。

「結婚の約束を取り付けていたところなんだ」

 マレーネは隣で、クリスを見つめてから、頬を赤らめる。

 その上——恥ずかしそうに、もじもじと身体をくねらせ始めた。


(こっちの冗談に乗っかって、演技するとは――)


 苦笑するクリス。


 対して——銃士は笑わない。

 笑えない……。

 当然といえば当然——。

 銃士にマレーネの姿は見えていない。


 冷静さを取り戻すべく、銃士は大きく息を吸って吐く——。

 そして——。


「気にするな。死を前にすれば誰もが臆病になる。幻覚を見る——こともある」

 すました表情で、クリスの冗談を受け流す。


(確かに……。幻覚ではあるな――)

 クリスは言い得て妙だと感心する。


「ようやく死ぬ覚悟ができたか?」


 クリスは鼻で笑う——。

「誰がするか!」

 銃士に向かって言い放つ。


「だったら、どうする?」

 今度は銃士が鼻で笑う。

「泣いて、命乞いでもしてみるか?」


「俺は無駄なことをしない主義だ」


「わからないぜ——。気が変わるかもしれない」


 クリスは首を横に振る。

「殺気がダダ漏れだぜ。殺したくてうずうずしている……。だから、ここに追い込んだ――」

 銃士を睨み——一言。

「違うか?」


 聞こえるほどの舌打ち。

「その訊き方……。気づいていたのか――お前?」


「正解か?」

 クリスはニヤリと笑みを浮かべる。

「領地なんだろ?」


 銃士を一瞥するクリス。

 相手は無言で探るような眼差し。


「ここはマリアージュの領地だ——だから殺せる」


 パチ、パチ、パチ——。

 拍手が三回——。


「どうやら――ただの墓荒らしではないようだ」


(墓荒らし?)

 怪訝な眼差しで銃士を見つめる。


「おいおい! 勝手に罪状を作り上げるな!」


塋域(えいいき)への許可なき者の立入りを禁ずる。犯した者は死罪とする——。ここにいる以上、お前はどのみち有罪だ!」

 銃士は、左腰のホルスターから短銃身(ショートバレル)を抜いた。

「マリアージュの領律(りょうりつ)に則り——お前はこれから裁かれる!」


 クリスは身構える。

 そして――じりじりと、銃士との距離を測るように間合いをあける。


 二人の距離はおよそ20メートル――。


「逃げないのか?」


短銃身(ショートバレル)で、この距離だ——」

 クリスは挑発する。

「当たらない」


「ずいぶんと舐められたものだな……」

 短銃身(ショートバレル)を向ける。

「銃士の所以(ゆえん)を——見せてやるよ」


 クリスは正面の銃士を、まっすぐ見据える。

 迷いのない眼差し——。

「避ければいい——。それだけだ」


「避けるだと?」

 銃士は鼻で笑った。

「お前は銃弾の速――」


「御託は良い!」

 クリスが言葉を遮る。

「さっさと撃て! ――すぐに分かる」


「舐めやがって……」

 少女は肩幅まで足を開き半身に構える。

 片手で短銃身(ショートバレル)を構えると、引き金に指をかける。


 クリスは集中する。


 銃口の角度——。

 引き金に掛けられた指——。

 撃鉄——。


 来る!


 見逃さなかった。

 引き金を絞り込む、僅かな指の動き——。


 銃口から白煙が吹き出す。

 同時——庭園に銃声が轟いた!


 白煙が流れ……銃士は目を疑った。

 目の前に人影が見えてくる。


(ぬし)……凄いのぉ。アレを(かわ)すか――』

 マレーネが小さく感嘆の声を上げる。


「これからだ……」

 クリスの呟き。

「ようやく、スタートラインだ」


 銃士は何事もなかったようにホルスターに短銃身(ショートバレル)をしまう。

 そして、拍手——。


「見事だよ——」


「アンタも、な。煽ってみたが、眉間ではなく心臓を狙ってきやがった」

 小さく舌打ち。

短銃身(ショートバレル)はブレやすいからな……」


「銃口の角度からか——」

 銃士は肩を竦める。


「残りは六発だろ?」

 銃士の右腰の骨董品(リボルバー)を指さす。

「その腰の……ハーランドM——」


「R62だ!」

 銃士がクリスの言葉を遮る。

「ハーランドR62だ! 間違えるな!」


 クリスは眉を寄せる。

「R62……? パーカッション式じゃないのか?」


 銃士が鼻で笑う。

「カートリッジ式だ! こいつはレア物なんだよ!」


「ガンマニアかよ……」

 クリスは辟易したように呟く。


「排莢して装填するんだろ? まさか——」

 ニヤリと笑う。

「時を止めて、装填するつもりか?」


「なぜ……それを知ってる?」

 銃士の表情が険しくなる。

 反射的に右腰のリボルバーのグリップに手を掛ける。


「なんのことだ?」


「惚けるな!」


 クリスは肩を竦める。

「アンタのことは知ってる……」

 指で撃つポーズをする。

「リディ・メルローズ――メルローズ家のご令嬢だろ?」


 すると、銃士は警戒するかのように身構えた。

「お前――何者だ?」


至宝(ボレロ)を使ってくれたら、教えてやるよ」


 すると銃士は鼻で笑う。

「ふん! 誰が、使うか!」


「ああ。使えない――の、間違いだったか?」

 ニヤリと笑う。


「舐められたもんだ」

 銃士は上着のポケットから懐中時計を取り出した。

「加速も遡行も使えるさ」


「限定的に……か?」

 クリスは探る。


「十分だろ?」

 リボルバーを抜くと、懐中時計を銃身の上に置く。

「お前が骨董品と呼ぶこいつも——常に新品のままだ」


「さすがに、時は止められないか?」


「一、二秒なら、止められるぜ」

 ギロリと鋭い視線。

「だが、時を止めて、撃つのは卑怯——」


「丸腰の相手は——卑怯じゃないのか?」

 ニヤリと笑う。


「罪人が! 卑怯もクソもあるか!」


 クリスはくくくと笑い出す。


「何がおかしい?」

 銃士の苛立つ声。


「いや……止まっている的しか、当てたことがないんだろ?」

 クリスの挑発。

 銃士の右目がピクピクと痙攣を始める。


「アンタは俺を罪人と呼ぶが、それはこの領地のみだ。領地の外に逃げ切れば問題ない」


「あ……」

 銃士の殺気!

「逃げ切れると——」


「思っているさ! 六発のみだ! (かわ)せばいい」


「舐めやがって……」

 銃士は苛立ち、歯ぎしりを始める。

短銃身(ショートバレル)(かわ)したくらいで、調子に乗るなよ!」


「お前こそ——長銃身(ロングバレル)を外しておいて、調子に乗るなよ……」


「だったら使ってやるよ」

 吐き捨てるように言い放つ。

「逃しはしない!」


「時を止めるのか?」


 銃士は頭を振った。

「使わない——。罪人への慈悲だ」


「そいつはお優しいことで——」

 肩を竦める。


「だが、逃がしはしない」


 ここだ――。


「いや、逃げ切ってみせる」

 クリスは表情に出さないように、気をつける。

「ここは俺の死に場所じゃない。死ぬとしたら——」


「死ぬとしたら——?」


「天命を全うした時だ」

 不敵に笑ってみせる。


「天命だと?」

 眉を寄せてから、鼻で笑った。

「だったら、望みを叶えてやるよ」


 銃士は持っているリボルバーのシリンダーから全弾抜き取ると、そのうちの三発を懐中時計の蓋の上に乗せた。


(アイツ……何をしているんだ?)

 クリスは何か嫌な予感が走る。


 銃士が歪んだ笑みを見せる。

「二分の一だ――」


 ――二分の一?


「六発中三発だ」

 装填したシリンダーを高速回転——。

「三発のみ、当たれば——時間は加速し、老衰でお陀仏だ」


「これで即死するのも、天命——」

 中折れを戻し、ホルスターにしまう。

「掠って寿命で死ぬのも、天命だ——」


彼女奴(あやつ)……相当な悪趣味じゃのぉ』

 マレーネが呆れたように呟く。


「弾丸の見分けはつくか?」

 クリスは小声でマレーネに訊ねる。

『さすがに(わらわ)でも判別は不可能じゃ。(ぬし)が銃弾に触れていれば別じゃが』


(そうだよな……)

 嘆息を漏らす。

(全弾――受け止める覚悟が必要だな)


 銃士は、クリスの動きを探る。


(早撃ちのスタイルに変更か……)


(タイミングを掴ませないようにするわけか――)


 クリスも身構える。

 静寂の中——クリスは銃士の右手に集中する。


 銃を抜いた。


 ――早い!


 腰の位置ですでに銃口はクリスに向けられる。


 引き金を絞った状態から、左手で撃鉄を叩く!


 重なった銃声が轟く!


 クリスは動けなかった――。

 身体を丸めて、ガードするのが精一杯だった。


(ファニング――かよ……)


「やはり——精度が落ちる」

 ガンスピンを決めて、そう呟いた。

「それにしても、お前――何者だ?」


 銃弾は左腕と右脚に命中していた。

 薄緑色のスウェットに焦げた穴が開いている。


 銃士の探るような眼差し。

「リグまで着込んでいるじゃないか……」


 埋まっている銃弾に触れてみる。

 マレーネを見るが、彼女は残念そうに、首を横に振った。


(ぬし)よ。大丈夫か?』


「ああ……なんとかな——」


『リグが故障しておるのではないのか?』


「問題ない」とクリスは呟く。

 両手足が動くことを確認する。

「俺が着ているリグは拘束衣だ。壊れてくれた方が、本来の力が出せる」


「言うじゃないか——」


 マレーネに言ったつもりだったが、銃士が聞いていたようだった。


「それなら次は、(かわ)してみせろよ」


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