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マリアージュの銃士隊  作者: ミナモ
第八章

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第五十六話「予定調和の推理劇」

 

 応接室が静まりかえる。


「ちょ……ちょっと待ってくれ、ジャンナッツ警部」


「何でしょうか? アラン署長」


「フェルナンが二人いただと? 警部は、フェルナンが双子だったと言いたいのか? 私は彼の従兄弟だが、そんな話、聞いたことがないぞ!」


「でしょうね。貴方は本当の従兄弟ではありませんから」


 ジャスティンは冷ややかな眼差しを、アラン署長に向ける。


「―――!」


 すると、アラン署長役の男は言葉を詰まらせてしまった。


「ジャスティン君、それはダメだ。メタ的な発言は禁止だよ。興が冷める」

 監獄王は、ジャスティンを指さして抗議してくる。


「ああ、そいつは申し訳ない。いささか結論が早すぎた」

 ジャスティンは、わざとらしく頭を下げる。

「では……侯爵は一人ではなく、フェルナンAとフェルナンBの二人が存在していたと仮定しましょう」


 ジャスティンはアラン署長に顔を向ける。


「これで納得して頂けますか? アラン署長」


 すると、アラン署長は無言で頷いた。


「結構――では……10月9日22時過ぎに帰宅したフェルナンをフェルナンAとします。彼は書斎に入室しました。このフェルナンAが書斎で殺害されたのであれば、犯人の侵入経路は何処になりますか? アラン署長」


「バ……バルコニーに通じる扉……なのか?」


「その通り。書斎の扉の開閉がログに残る以上、書斎への侵入経路はバルコニーに通じる扉と天窓の二つしかありません。天窓から侵入された形跡はありませんでした。こちらに座るマルセイユが調べてくれました」


「素晴らしい! 皆さん、マルセイユ嬢に盛大な拍手を!」


 監獄王の言葉と共に、応接室にいる者たちが一斉に拍手をし始める。


 拍手慣れしていないマルセイユはおどおどしながら、ぺこりとお辞儀をする。

 ジャスティンはやれやれと言わんばかりに、ため息を吐いた。


「続けてもよろしいかな?」


 すると、拍手は鳴り止む。


「さて、犯人の侵入経路は自ずとバルコニーに通じる扉ということになります。実際に庭師のカロンさんがバルコニーの下にハシゴを立てかけた跡を発見しています。ですが、バルコニーに通じる扉は外側からこじ開けられた形跡も鍵穴に傷もありませんでした。となれば内側から開けたと考える方が自然です。まあ……鍵をかけ忘れていた可能性は残りますが……。この際、考えないことにします」


「すると、警部は旦那様が自ら犯人を招き入れて殺されたと仰るのですか?」

 執事のジャイルズが、声を震わせて訊ねてきた。


「招き入れてはいますが――」

 ジャスティンは、ジャイルズを見返す。

「殺されてはいませんよ」


「え! 殺されて……いない?」

 驚いた表情のジャイルズ。


「ええ。書斎が殺害現場ではないのです」


 応接室がザワついた――。


「書斎が殺害現場ではない? だったら、何処で殺されたと言うんだ?」


 再び、アラン署長が訊ねてくる。


(まったく……こいつら乗せるのが上手い)


「侯爵の死因は絞殺によるものです。心臓が止まった状態とはいえ、止血がされないまま右腕と右脚が切断されれば当然血は流れます。ですが、書斎にあった血痕は僅かでした。このことから書斎が殺害現場ではありません」


「すると侯爵は……いや、ジャスティン君の呼び方に倣えば、あの遺体はフェルナンBであり、フェルナンBは別の場所で殺害されて、フェルナンAの共犯者によって書斎に運び込まれた――そう主張するのかな?」

 監獄王がジャスティンに訊ねた。


 ジャスティンは頷いた。


「そう見るのが妥当でしょう。10月9日に、侯爵は鉄道事業者との打ち合わせをされています。その後、モンソレイユ邸に帰宅するまでに2時間ほどの空白時間があります。その間におそらく入れ替わっています。つまりモンソレイユ邸に帰宅したのはフェルナンBではなく、フェルナンAだったのです」


 再び応接室がざわめき始める。


「ちょっと待ってください。入れ替わった? 入れ替わったとは、どういうことですか?」

 執事のジャイルズが、声を荒げて訊ねてきた。


「ジャイルズさんが長年にわたって仕えていたのは、フェルナンBにあたります。フェルナンBが帰宅途中に何者かによって拉致され、殺害されました。その入れ替わりで帰宅したのがフェルナンAだった――ということになります」

 ジャスティンは右手と左手を交差するようにして説明する。


「まさか! そんな……こと――」

 ジャイルズがわなわなと震え出す。


「ジャイルズさん、貴方はあの日、帰宅した侯爵に僅かな違和感を感じたと証言しましたね?」


「ええ、確かに……。旦那様は足を引き摺っているように見受けられました」

 ジャイルズは首を横に振った。

「ですが……私が見間違うはずがありません」


「ええ。貴方が見間違うくらいに、フェルナンBとフェルナンAはそっくりなんですよ。書斎の顔認証が突破できるくらいにね」


 ジャスティンは侯爵に視線を向けた。

 しかし、侯爵は何も言わずに紅茶を飲んでいた。


 かわりに、隣に座る監獄王が話し始めた。


「なるほど――それでフェルナンBはフェルナンAを恐れて、認証端末を顔認証から指紋認証に切り替えようとしていたというのかな? 顔がいくら似ていたとしても指紋までは似せることは難しいからな」


 ジャスティンは頷く。

「そういうことです。実際には手遅れでしたけど……」


「すると――だ」

 監獄王がジャスティンを指さす。

「ジャスティン君、君は私の隣に座る彼が、そのフェルナンAだとでも言うつもりなのかな?」


「二人のうち一人は遺体となっているのです。でしたら——」

 辟易したようにため息を吐いてから、ジャスティンは答えた。

「それ以外にないでしょう?」


「だとすると、共犯者は――この私だと言うつもりなのかね? ジャスティン君」


 ジャスティンは鼻を鳴らして、監獄王を見つめる。


「当然ですよ、監獄王。ただ、私は――貴方一人だけが共犯者だとは断定しませんけどね」


 ジャスティンは監獄王から視線を外すと、その後ろにいる六人に視線を向けた。


「ほう――私以外にも、共犯者がいるとでも言うのかな?」


 「フェルナンBの遺体を担いでハシゴを一人で登るのは骨が折れますからね。複数人でバルコニーから遺体をつり上げた……。そう考えると——」


 ジャスティンは応接室を見回した。


「私は、ここに集まった方々全員が――共犯者だと思っているんですが。……如何ですか?」


 壁に掛けられた時計の秒針の音が聞こえてくる程に、応接室は沈黙が支配した。


 パチ……パチ……

 暖炉の薪が弾ける音――。


 やがて、監獄王と隣に座る侯爵が、揃って拍手をし始める。

 それに合わせて、後ろに並ぶ六人も拍手を始めた。


「見事だよ、ジャスティン君。ここまでは完璧だ」


「そいつはどうも……」

 ジャスティンは軽く会釈をする。


「では、事件の真相をお聞かせ願おうかな?」


「真相と呼べるかどうかは分かりませんが――」


 ジャスティンはキャスト達の方へと歩いて行く。


「ここに集まったキャストの皆さんは、フェルナンAによってバルコニーから書斎へと招き入れられました。そしてフェルナンBの遺体、さらにその近くに義肢と義足を置きました。そして監獄王――貴方は書斎にあるゴミ箱から受任通知書が燃やされているのを発見する。或いは……貴方が自ら燃やしたのかも知れませんね」


「君の推理に補足するとだね、私は燃やしてはいない。フェルナンBが燃やすことも想定に入れて、準備しておいたのだ。それを破いて、君に見つけてもらえるようにゴミ箱に入れておいたのだよ」


「なるほど、物は言い様だ。俺のために、ね――」

 ジャスティンは肩を竦める。

「あとは退室のログ情報の通り、退室は1回のみ。あなた方全員が一斉に書斎から出て、モンソレイユ邸の住人と入れ替わった。以上が10月9日の22時から10月10日の2時頃までに起きた出来事の一部始終です」


 すると応接室に一斉に拍手が上がる。


「素晴らしい! ほぼ正解だよ、ジャスティン君」


 しかし、ジャスティンは憮然とした表情で、監獄王を睨み付けていた。


「おやおや……ジャンナッツ警部にはお気に召さなかったようだね?」

 侯爵はジャスティンの不満げな表情を読み取ったようだった。


「当然だ。拍手を止めろ! 不愉快なんだよ。この人殺しの狂人集団が!」


「やれやれ……ひどい言われようだな」

 監獄王は呆れ気味に、大げさに肩を竦めた。


「それなら人殺しを、物語に仕立て上げようとする連中をなんて呼べば良いんだ? 教えてくれよ、監獄王!」


 すると、監獄王は首を横に振る。そして人差し指を目の前に立てた。


「ジャスティン君……君はただ一点に於いてのみ、勘違いをしているんだ。だから、その様に我々を侮辱する発言をしてしまうのだよ。それは改めるべきだ」


「俺が勘違いだと?」


「ああ、そうだ。君は重大な勘違いをしている」


「だったら、もったいぶらずに教えてくれよ。俺の重大な勘違いは何だ?」


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