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マリアージュの銃士隊  作者: ミナモ
第六章

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第四十五話「分岐点」

 

(おいおい……乗車拒否かよ?)


「アンタさ……」

 ジャスティンは一つため息を吐く。

「営業区域外で客を乗せたんだ」


 ジャスティンはそう言いながら、運転席のドライバーズIDの名前を一瞥する。


「乗車拒否するなら、走り出す前に説明しないとダメじゃないのか? アルマン・デュヴァルさん」


 ジャスティンの言葉に、運転手は舌打ちをする。そしてバックミラー越しにジャスティンとマルセイユを見つめてくる。


「あんた達、警察には見えないが——何者だ?」


「似たような者だよ」

 バックミラーから見えるように、領地捜査局のバッジと身分証を見せる。


「領地捜査局?」

 視線をマルセイユに移す。

「そっちの……可愛いメイドさんもか?」


「私はアシスタントです」


 可愛いと言われたのが余程嬉しかったのか、マルセイユはニコニコの笑顔で身を乗り出してくる。


「警察関係者なら、どうして警察(あいつ)らに送ってもらわないんだ?」


 デュヴァルという運転手は、警戒した様子で訊ねてくる。


「今ちょっとルヴェ署は忙しいんだよ。こっちとしても手を煩わすワケにはいかないんだ。金は弾むから向かってくれないか」


 デュヴァルは大きくため息を吐いた。


「わかったよ……。送ってやるが入り口までだ。道幅が狭くて逃げ出せないからな」


(逃げ出せない……? どういう意味だ?)


 そう思いつつもジャスティンは、「ああ、それでいい」と返した。


 ジャスティンは隣に座るマルセイユに視線を移すと、まだニコニコしている。


 目が合うと「ジャスティン様……私、可愛いって言われました」とご満悦の様子だった。


 ジャスティンは「よかったな……」と微笑んでから、運転手のデュヴァルに声をかける。


「なあ、どうしてクレールヴァルに行くのを、そんなに嫌がるんだ?」


 するとバックミラー越しに眉を顰めて、ジャスティンを見つめてくる。


「ルヴェ署の警察は何も言わないのか? 本当に……領地捜査局の人間か?」


「ああ、何も聞いてない。外の人間に話したりはしないんじゃないのか?」と、素直に答えるジャスティン。


「ああ、確かに……そうだろうな」

 首をかしげるも得心したようだった。

「領主が殺されたんだ。外の連中にあれこれ探られたくないだろうしな」


 何か知っているような口ぶりだった。


 気になったジャスティンは訊ねてみた。


「それなら、アンタの知っている範囲で良いから、教えてくれないか?」


「ああ、教えてやるよ。もしかしたら、引き返すと言い出すかもしれないからな」

 デュヴァルは運転しながら、ふんと鼻を鳴らす。


「ここ最近になってから、武装した謎の集団が町を占拠しているって噂だぜ」


「ひどく曖昧だな……? しかも、ただの噂話じゃないか」


「だが、信憑性のある噂なんだよ」


「おいおい、いい加減にしてくれよ」

 今度はジャスティンが鼻で笑う。

「アンタ、首都(グランディール)で営業している個人タクシーだろ? 営業区域外のルヴェの噂を、どうやって仕入れるんだ?」


「深夜に呼びつけてくるんだよ」


「誰が……?」


「ソフィア協会の連中さ」


(……ソフィア協会?)


「何ですか? それ……」

 マルセイユが小声で訊ねてくる。


「ヴェール同盟って秘密結社は知っているか?」

 ジャスティンも小声で訊ね返す。

 すると、マルセイユは小さく頷いた。


「そこのフロント団体だよ」


 話の腰を折られたデュヴァルが「続けていいか?」とジャスティンに訊ねてくる。


「ああ、悪い……。続けてくれ」


「そっちの可愛いメイドさんは知らないようだから、詳しく説明するとだな——」


 すると可愛いという言葉に釣られてなのか、マルセイユは身を乗り出しながら、ふむふむとデュヴァルの言葉に相づちを打ち始める。


「革命以前から、ルヴェの領主はソフィア協会の会員なのさ。それでクレールヴァルはソフィア協会の支部がある町なんだ。だがここ最近——その支部が襲撃を受けたんだとよ」


(襲撃とは……それは穏やかではないな――)


「ソフィア協会の関係者から聞いた話なのか?」


「ああ……実際、俺も呼びつけられたんだよ」


「どうして営業区域外の個人タクシーを呼びつけるんだ?」


「そりゃあ、俺の営業努力だよ」

 バックミラー越しだが、デュヴァルの得意げな顔が見て取れる。

首都(グランディール)から此処まで送り迎えをすることがあるからな。ちゃんと名刺も配っているんだ」


(そんな営業努力するなら、身なりをもう少しきっちりした方が……)


「ジャスティン様……顔に出てますよ」と、マルセイユに肘でつつかれる。


 デュヴァルは気にせずに、話を続けた。


「で、その関係者が言うには、ルヴェ領のタクシー業者は領外には出る許可が下りないらしい。それで乗車拒否されるんだと」


 ジャスティンは半信半疑だった。


「それは、おかしな話じゃないか」

 鼻で笑いながら、こう訊ね返した。

「タクシーで領外に出られないとしても、ソフィア協会なら専用車くらいあるはずだろ?」


「それが、何者かに襲撃されて、すべて大破されたんだと——」

 デュヴァルは運転しながら、肩を竦めた。


「襲撃? ソフィア協会を、か?」

 ジャスティンは眉根を寄せる。


「警察に泣きついても捜査もしてくれないって嘆いていたよ。で、本部に要請しても検問が敷かれていて、領内に入れさせてもらえないと言っていたぜ」


(検問? ソフィア協会の専用車を入れさせないように……?)


「移動手段を潰したっていうのか?」


「ああ。さらに昼間は警察が尾行してきて、領外に出ようとすると難癖をつけて拘束されるんだと――」


(身柄拘束とは……? やりすぎではあるが、領律(りょうりつ)に何かしらの記載があれば、領内に限りできない話ではない)


「で、アンタはそれを鵜呑みにしたのか?」


「最初は信じなかったよ。ほら――営業区域外で客は乗せられないが、貴族様と緊急事態は別だろ?」


「ああ、なるほど。緊急事態を装って呼びつけたと思ったのか?」


 デュヴァルは頷く。


「だが……それも3日続けてとなると話は変わってくる。しかも、どいつもこいつも皆一様に怯えているんだ。さらに俺も襲われたからな」


「襲われた?」


「ああ、殺されかけたんだ」


「そいつは……穏やかな話ではないな」


「3回目の客を乗せていた時だよ。ヌーヴェル=ルヴェを走行していると、軍用の大型車輌が一台追いかけてきたのさ。そこから映画並みのカーチェイスさ。車体を押しつけてきたり、後ろから打つけたりで――」

 デュヴァルは身震いをした。

「あの時はホントに死ぬかと思ったぜ……」


「よく逃げ切れたな?」


彼奴(あいつ)ら——領外には追ってこなかったんだよ。だが車体はボロボロになったから、ソフィア協会に多額の請求書を送りつけてやったよ。二度とあんな思いはゴメンだ」


 そんな話をしていると、道路が二手に分かれているところで、タクシーは止まった。


 ドドドド——。


 排気音が静まり返った車内に響く。


「領地捜査局のお二人さん、運命の分かれ道だ――」

 デュヴァルは振り返って、ジャスティンを見つめる。

「左の森を突っ切った先にある町がヴェリーヌ。右の丘を回り込んだ先にある山間の町がクレールヴァルだ」


 ふと、ジャスティンはアデル嬢の言葉を思い出す。


『ご存知ありませんわよね。領内にある、ルヴェの一族が住んでいた小さな町ですわ。モンソレイユの丘を超えた先にある森のその奥にあります――』


「森を突っ切った先にある町が、クレールヴァルじゃないのか?」


「誰からそんなデタラメを聞いたんだ?」

 デュヴァルは鼻で笑う。

「そっちはヴェリーヌだぜ。俺としてはそっちに向かってもらうと助かるんだが……」


 マルセイユもアデル嬢の言葉を思い出したようで、訝しげにジャスティンを見つめてくる。


 ジャスティンは少しばかり考え込んでいたが、口を開く。


「右に向かってくれ。目的地はクレールヴァルだ」


 その言葉に、デュヴァルは大きくため息を吐いて、かぶりを振った。


「……わかったよ」


 呆れたように呟いて、右にハンドルを切るのだった。


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