第四十二話「届いた警告」
「おそらくだが……配達証明付きで送られてきたんじゃないか?」
ジャスティンが詰め寄ると、ジャイルズは視線を逸らした。
「だから、郵便局に問い合わせればすべてわかる。だが、貴方が受け取ったのなら、その経緯を聞かせてもらいたい」
ジャイルズは目を閉じると、観念したかのように肩を落とす。
「……はい。仰るとおり……旦那様から……口止めされておりました……」
弱々しい声で、ジャイルズは口を開いた。
「受け取ったのは何時ですか?」
「9月27日です……」
(もう一人のフェルナンからの手紙にあった、約束の日の翌日か……)
「それで……差出人は何方からのものでしたか?」
「確か……ジャクソン・R・グレイ伯爵……と書かれておりました」
(やはり、もう一人のフェルナンの代理人……監獄王を名乗る人物からか)
「その内容証明郵便を受け取った侯爵の反応はどうでしたか?」
「しばらく書斎に籠っていましたが、私を書斎に呼びつけたときには、ひどく怯えたご様子でした」
「怯えていた……?」
「はい。書斎に入ると……何かを燃やしたような焦げ臭い匂いが漂っていました。
そして、怯えた表情で黙ったまま、机の前まで私は連れて行かれました」
「じゃあ、書斎の机まで移動しましょうか」
ジャスティンはそう言って、ジャイルズを連れて書斎の机まで移動する。
「で……この後は?」
「机の上には——灰皿が置かれていて、その上で手紙が燃やされていました」
「どうして、それが手紙だと分かったんです?」
「焦げた封筒の紙片が見えました」
「……これですか?」
ジャスティンが先ほど見つけた封筒の燃え残りを見せる。
すると、ジャイルズはそれをしげしげと見つめる。
「ええ、おそらく……」
(やはり……燃やしたのか——)
「旦那様は私に……」
ジャイルズはすこし躊躇っていたが、やがて口を開く。
「『お前は、配達証明付き郵便は受け取らなかった。私もお前から何も受け取っていない。良いな?』と念を押されました」
「ジャイルズさん——」
ジャスティンは小さくため息を吐く。
「配達証明付き郵便で内容証明が送られている以上、受け取っていない、内容を知らないなんて言い逃れはできませんよ」
「はい……私も旦那様に同じ事を言上しました。ですが……」
ジャイルズはかぶりを振った。
「旦那様は『私の言うとおりにしろ。お前は何も受け取っていない。良いな。何も受け取っていない! それで押し通せ』の一点張りでした」
ジャイルズは嘆息を漏らした。
「当然、私もどう言うことなのか説明を求めました。すると旦那様は『ただの悪戯だ。彼奴が法的な措置を執ることなどできない』と――」
「法的な措置を執ることはできない」
怪訝な眼差しで見つめる。
「――そう仰ったのですか?」
「はい……」と、ジャイルズは口ごもり、小さく頷いた。
(それは言い換えれば、法に縛られることはないとも受け取れる。だから——殺したのか?)
「……わかりました」
腕を組んで考え込むが、考えが纏まらない。
「その他に——」
ジャスティンはダメ元で訊ねてみた。
「何か……変わった事はありましたか?」
すると――ジャイルズは何かを言い淀んだ。
「ジャイルズさん、話してください」
ジャスティンは、お願いしますと、付け加える。
「旦那様が……屋敷の認証端末を急に取り替えると言い出しました」
「認証端末? 今ある顔認証のアレを……ですか?」
ジャスティンは眉根を寄せる。
「はい。旦那様は慌てたご様子で、屋敷にあるすべての端末を取り換えると言い出しました」
「それはいつ頃の事ですか?」
「内容証明郵便が届いた翌日のことです」
「ということは……9月28日ですか?」
「はい……」
「侯爵は身の危険を感じていたのでは? 理由について尋ねてみましたか?」
「理由については教えてもらえませんでした。警備会社に連絡を入れておけとだけ言われました」
「その後に……私も心配になり、アラン様に相談をされてみてはどうですかと、進言したのですが――」
ジャイルズは頭を振った。
「聞く耳を持ってくれなかったのですか?」
「はい……。旦那様はこれは私の問題だと仰られて、誰にも口外するなと堅く口止めされました……」
(怯えていても、従兄弟のアランにも言えない事って……? それとも言えない程の裏の事情があるっていうのか?)
「それで……認証端末は、何に変更しようとしていたのですか?」
「指紋認証に切り替えると仰っておられました」
「指紋? 顔認証をやめてですか?」
(侯爵は何を考えていたんだ? 今どき指紋認証なんて……)
表情に出ていたのか、それを見たジャイルズは詳しく説明を始めた。
「当初は虹彩認証に変更する予定でした。ですが、警備会社にモノがないらしく、発注から取付けまでに半年以上は掛かると言われたそうで……」
「なるほど――急場しのぎで指紋認証に切り替えようと考えたわけですね?」
ジャスティンはそう言いつつも、納得していない自分がいた。
「はい……警備会社からは指紋認証であれば、二週間程で取り付けることができると言われたそうです」
(9月28日から二週間か……。すると——)
「今日か、明日くらいに工事が入る予定だったんですか?」
「はい。ですが、事件当日に私の方でキャンセルしました」
(まあ……今更だから、当然か)
「ジャイルズさん、貴重な証言、ありがとうございました」
ジャスティンはそう言って、ジャイルズを下がらせた。
「何ともワケの分からない事件ですね?」
ジャイルズが書斎から出て行くと、大人しく聞いていたマルセイユが口を開く。
「確かに……」
ふむと唸って、ジャスティンは椅子に座って、腕組みをする。
「時系列で見ると――まず『もう一人のフェルナン』からの手紙が届いていたはずだ。消印から推測するに9月22日頃だろうな」
「ええ。9月26日の午後8時にレイヴンズバーグ総合病院の旧棟に呼び出す内容でしたからね」
「ああ……。悪戯だと思い込んでいたんだろうな、この時の侯爵は――。翌日の9月27日に、配達証明付きで内容証明郵便が送られてきて、さぞや驚愕しただろうな」
見慣れない書面を受け取った時の侯爵の表情が容易に想像できる。
「私……その内容証明郵便について詳しく知らないのですが……?」
マルセイユが恥ずかしそうにする。
「別に恥ずかしがるほどのことじゃない。借金とか、法的なトラブルがない限り使う機会はほとんどない――」
「俺はたまに金の無心で、屋敷猫に宛てて内容証明郵便を送るから知っているだけだし……」
「え? ジャスティン様、お金に困ることがあるのですか?」
「色々あるんだよ……」
ため息を吐いて、ジャスティンははぐらかす。
「話が逸れたが、簡単に言うと——同じ書面を三通作るんだ」
「三通……ですか?」
マルセイユは神妙な面持ちで聞き返す。
「ああ——三通だ」
ジャスティンは頷く。
「で、そのうちの一通を郵便局が保存するんだ。そうすることで郵便局に書面の内容を証明してもらう仕組みだよ」
マルセイユは納得するが、すぐに首を傾げる。
「ですが、侯爵は手紙を燃やしたみたいですけど……?」
「よほど都合の悪い内容だったのか、あるいは……動揺したのか」
(その可能性が高い。ジャイルズに口止めするくらいだからな)
「しかも、侯爵は怯えていたようですね?」
「ああ、そうだな。翌日の9月28日に認証端末を取り替えようとしていたみたいだし……」
ジャスティンは呆れたように嘆息を漏らす。
「だが、馬鹿げた話だよ」
マルセイユはそれを聞いて、首をかしげた。
「顔認証から指紋認証に変えることが——馬鹿げているのですか?」
その質問に、ジャスティンは頷いた。




