第四十話「パーティーの始まり」
四人は吹き抜けに面した階段の踊り場に身を潜めた。
クリスは最後にもう一度周囲を確認すると、ルーに頷いてみせる。
ルーは目を閉じ、手にしている起爆スイッチを押し込んだ。
――ドンッ!!
地の底から突き上げるような衝撃音が響き渡り、ホーム全体が赤い閃光に包まれる。
吹き抜けの向こうで火柱が立ち、六本の支柱が次々と弾け飛ぶように倒れていった。
耳をつんざく金属音が続き、線路ごとホームが崩れ落ちていく。
吹き抜けの上階にも瓦礫が飛び散り、看板が落下して火花を散らした。
次の瞬間、轟音とともに爆風が吹き抜けを駆け上がる。
「――っ、下がれ!」
シャルが声を荒げて叫ぶ。
四人は咄嗟にしゃがみ込んだ。
それでも、四人の髪と外套を大きく揺らした。
粉塵が一気に舞い上がる。
だが天井に阻まれ、行き場を失った粉塵が、吹き抜けから階上になだれ込む。
一瞬にして視界は白茶けた煙で覆われた。
やがて音は遠のき、耳鳴りだけが残る。
煙の向こうに見え始めたホームは、もはや瓦礫の山と化していた。
「……派手にやったな」
けほけほと咳払いをしながら、リディが苦笑する。
「当分の間、使い物にならないな」
クリスは粉塵で煤けた頬を拭い、吹き抜けの手すり越しに下を見下ろした。
飲食店が並ぶエリアから悲鳴があがり、次第に人々が駆け出してくる。
その流れに逆らうように、奥にある従業員エリアに向かって四人は走り出した。
◇◇◇
「この先が従業員用のエリアだ。その一画に駅員用の事務室がある」
エディアールを先頭に走る一行は、防火用の扉を潜って中へと突入する。
だが、人の気配はない――。
ギャング達は爆破騒ぎで出払ってしまったようだ。
四人はエレベーターホールに差し掛かる。
すると――三人が前を見据えたまま、急に立ち止まった。
三人の表情が険しくなる。
「マジか……?」
リディが舌打ちをする。
「ここで奴と出くわすとは――」
クリスは通路の先のエレベーターホールを見つめる。
そこには男が一人——エレベーターを待っていた。
後ろ姿だけではあったが、長く伸ばした金色の髪を束ねている。
ダークグレーの上下のスーツには似つかわしくない黒鞘の打刀を手にしていた。
シャルが帯刀している刀に似ていた。
さらに腰にはホルスターをぶら下げていて、リディと同系統のリボルバーが見える。
「もしかして——彼奴か?」
クリスが三人に視線を移すと、三人は黙って頷くだけだった。
エレベーターの扉が開いた。
「マズい! 彼奴、逃げるぞ!」
リディは慌てて走り出した。
「お、おい――!」
言いかけて、クリスは金髪の男に視線を戻した。
すると妙な違和感を覚えた。
エレベーターに乗り込もうとする金髪の男は、打刀を右手から左手に持ち替えていたのだ。
(左手に……?)
さらに右腰のホルスターからリボルバーが消えていた。
(いつ抜いた……?)
「マティアス!」
リディがリボルバーを抜いた。
クリスは視線を男の右腕に移動させるが、身体に隠れていて動きが見えない。
こちらに気づいている素振りを見せることもなく、男はそのままエレベーターに乗り込んだ。
(彼奴——まさか……左脇から――?)
不意に、イヤな予感が頭に浮かぶ。
「リディ! 避けろ!」
クリスは叫んでいた。
ダァン!
銃声が轟いた。
すると、リディがよろけながら膝をついた。
「「リディ!」」
ルーとシャルが叫び、駆け出した。
クリスも走り出す。
ルーとシャルがリディの傍らに座り込んだので、クリスはエレベーターホールへと駆け出す。
拳銃を構えて金髪の男に狙いをつけるが、男が乗ったエレベーターの扉が、ゆっくりと閉まっていく。
男は不敵に笑みを浮かべて、後方の三人を見つめていた。
「リディ!」
ルーの悲鳴にも似た声に、クリスも三人の元へ戻ることにした。
「大丈夫ですか?」
ルーが心配そうにリディの顔を覗き込む。
「――ってぇ……。至宝で、一瞬だけ時を止めて避けたんだが——」
リディは顔をしかめながらも、ハハハと、笑ってみせる。
「脇腹を掠ったみたいだ。あの野郎……背中越しから狙ってきやがった」
心配そうに見つめるルーを安心させようとしているようだった。
「でも……」
ルーは不安げにリディを見つめる。
「ルー! 行くぞ!」
シャルは立ちがる。
「リディもまだ行けるよな」
「ああ……」
そう言って、リディも脇腹を押さえつつ立ち上がる。
三人はエレベーターホールに駆け寄ると、男が降りた階を確かめる。
「2階の駐車場だ」
「クリス! 悪いが、俺たちは奴を追う」
シャルの強い意志のこもった言葉に、クリスは小さく頷いた。
「因縁の相手なら仕方ない」
クリスは肩を竦める。
「俺は、オルフェウス会のボスを捕まえる」
「……一人で大丈夫ですか?」
ルーが心配そうにクリスを見つめてくる。
「誰に言っているんだ?」
クリスは鼻で笑ってみせる。
「俺が駆けつけるまで、くたばるなよな……銃士さんたち」
三人は顔を見合わせながら、笑みを浮かべる。
「お前こそ——俺たちが駆けつけるまで無理するなよ」
シャルはそう言うと、エレベーターに乗り込んだ。ルーとリディもそれに続く。
エレベーターの扉が閉まっていく。
クリスはそれを見送ると踵を返して、走り出した。
◇◇◇
通路の先、その突き当たりに駅員用の事務室があった。
クリスは躊躇うことなく、扉を蹴破って室内に飛び込む。
すると、男達が待ち構えていたかのように、銃弾を浴びせてきた。
クリスは瞬時に、男達の位置と人数を捉える。
(……四人か)
銃弾を物陰に隠れてやり過ごす。
(さてと……この人数を、どうやって処理しようかな?)
首を傾げていたクリスは、閃きが走る。
ペロリと唇を嘗めつつ、持っている拳銃からマガジンを抜き取った。
(物は試しだ……)
マガジンを左手で握りしめて、至宝の能力を発動させる。
グローブが緋色に変化していく。
『銃弾はすべて命中する――』
再びマガジンを拳銃に戻しながら、マッドな笑みを浮かべる。
「さてさて……銃弾はどんな軌道を描くんだ?」
銃声が止んだタイミングで、クリスは飛び出すと狙いを定めることなく、引き金を四回連続で引いてみた。
すると——。
銃声とほぼ同じタイミングで、男達がパーカッションのように、呻き声を上げて次々と倒れていく。
銃声が止んだ室内を見渡したクリスは、口笛を吹き鳴らす。
(なるほど……理解した)
(俺の殺意のあるなしで、当たる箇所は自由に変えられるみたいだな)
クリスは悠然と室内を歩いていく。
物陰を探りながら、ボスを探す。
その中の一人——左脚に銃弾が命中して倒れている男の方へと、クリスは近づいていく。
男は苦痛にもだえながらも、クリスに向かって、不意の反撃を試みる。
それを見て、クリスは再び発砲する。
――ぐあっ!
男は苦痛の叫び声を上げた。
「止めておけ。死にたくなかったら、抵抗はしないことだ」
男に近寄ると、声を潜めて訊ねる。
「ボスが何奴か、教えろ」
男は首を何度も縦に動かして頷くと、目線と首の動きで、その先に居ることを教える。
クリスは、その先にある長机に向かって銃口をむける。そして、ゆっくりと歩いて行く。
回り込むようにして長机を覗き込むと、一人の男が机に背を預けるようにして座り込んでいた。
灰色の髪をオールバックにして、髭を蓄えている男だった。
男はクリスに向かって銃を突きつけるが、クリスはそれよりも早く、男の銃を蹴り飛ばす。
拳銃は男の手から離れて、床を転がって遠ざかる。
「アンタが——」
クリスは銃口を男の頭に押しつけた。
「オルフェウス会のボスか?」




