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マリアージュの銃士隊  作者: ミナモ
第一章

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第四話「婚約」

『ふむ――よかろう』

 少女は頷くと、まっすぐクリスを見つめた。

(ぬし)の立場で考えれば、至極当然のことじゃ』


 他の石柱を足場にして、ピョンと――迫り上がった石柱に腰掛けた。


 視線の高さに脚がある。


 わざと――脚を組み替える


『それで――』


 ハッとして、クリスは顔を上げる。


 少女のにんまりとした笑み。

 クリスは恥ずかしさから、視線を逸らしてしまう。


(ぬし)は、(わらわ)に何が訊きたいのじゃ?』

 すました表情で訊ね返してきた。


 クリスは小さく咳払いをする。

「君は先ほど、仮契約と言っていたが――」


『ああ、確かにのぉ……』


「もしかして――この指輪のことか?」

 左手を少女に見せる。


『ん……?』

 怪訝な眼差し。

(ぬし)は何も知らずに、(わらわ)と仮契約をした――そう申すのか?』


「ああ――何も知らない。君には悪いが……」


『はっきり言うのぉ……』

 呆れた眼差しでクリスを見つめる。

『まあ、良い。知らぬのならば教えてやる』

 そう言って、石柱の上に立ち上がる。


(ぬし)は指輪を嵌めたことによって、(わらわ)と婚約をしたのじゃ』


 ――は?


 ……婚約?


 理解が追いつかなかった。


「誰と婚約したって――?」


(わらわ)に決まっておる』


 少女は石柱の上から、クリスの首元に抱きついてくる。


 感触は伝わってこない。

 けれども、少女の姿が目の前にある。

 耳元で聞こえる息遣いも妙にリアルだった。


「ちょ――ちょっと待てくれ」

 クリスは飛び退き、少女を指さす。

 辺りを見回して、本体を探る。

「目の前にいるコレは――お前じゃないだろ?」


 すると、少女はムッとした表情に変わる。

『コレとは何じゃ! コレとは!』

 頬を膨らませてプイッと顔を背ける。


「わ、悪かった――」

 クリスは反射的に謝っていた。

「そ……その……何というか――突然のことで……つい――」

 口ごもるクリス。

 少女はツンとした態度で、横目でちらちらとクリスを観察する。


 やがて……少女の機嫌が直る。

『まあ、良い――(わらわ)にとっても初めての婚約じゃからのぉ』今回だけは許す。


(婚約って……何度もするものか?)

 クリスは心の中で呟いた。


『まあ、故あって縁あって――(わらわ)にとって(ぬし)は特別な存在となったわけじゃ』


(こちらの同意もなく、脳内にデバイスを埋め込んだからだろ?)


『おかげで(ぬし)の見るものや聞くものは、(わらわ)もすべて知ることができるわけじゃ』


 ぱぁと明るい笑顔を振りまく。


『さてと――(ぬし)の名は何と申すのじゃ?』

 少女は首を傾げながら、クリスを見つめる。


(特別な存在とは……聞いて呆れる)

 小さくため息を吐く。


「契約の前に――名前は聞いておくものだろう?」


『無駄じゃ――。聞いたところで、指輪を嵌めた途端、死んでしまう』

 やれやれと言わんばかりに、首を横に振る。


「……死ぬ?」


「そうじゃ。指輪からナノマシンを流し込むのじゃが――その過程で、何故か皆死ぬ」

 ケラケラと笑い出す。


 それを聞いて青ざめるクリス。

「いや……それが原因だろ?」

 彼が小さく呟くと――。


『確かに……思い返してみれば――』

 少女は何かを思い出すように、視線を上に向ける。

(ぬし)の言うとおりじゃ。運良く生き残ったにせよ、精神がおかしくなる奴ばかりじゃった……』

 うんうんと頷いてから、再びケラケラと笑い出す。

『ま――いつでも破棄できるように仮契約にしておるわけじゃ』


(とんでもない契約だ……)

 呆れたように肩を竦めた。


『それで――(ぬし)の名はなんと申すのじゃ?』

 訊ねられたので、クリスは名乗ることにした。


『クリストファーか。良い名じゃのぉ』

 にこやかな笑みを浮かべて、何度も繰り返し呟いていた。


「君の名前は?」ずっと、君とかお前じゃ、おかしいし……。


 すると、少女はクリスを見つめ、首を傾げる。

『ん? (わらわ)か? さあ……分からぬ』


「――冗談だろ?」


『本当なのじゃ――。どうも記憶が曖昧でのぉ。(ぬし)の好きに呼ぶと良い』

 少女はケラケラと笑う。


 はぐらかしているのかと思ったが、そうではなさそうだ。


(好きに呼べって……?)


 ふと、迫り上がった石柱に現れた名前を思い出す。


「なら――マレーネはどうだ?」

 迫り上がった石柱を指さす。

「そこの石柱に表示されていたぞ」


『ならば――それが(わらわ)の名前なのじゃろう』

 少女は振り返り、クリスの指さす石柱を見つめる。

『マレーネ――。ふむ……悪くないのぉ』

 名前を口にして、うんうんと頷く。


「決まりだな。俺のことはクリスと呼んでくれ――マレーネ」


『クリストファーの愛称呼びか――。それも悪くないのぉ』


「そいつは良かった――」


 マレーネを見つめ微笑むが――。


 ふと……我に返る。


(マズい! こんなことをしている場合じゃなかった!)


 すると、マレーネが近寄ってきて、顔をマジマジと覗き込み始める。


「お、おい……?」


『クリス――(ぬし)は意外に男前じゃのぉ』


「ちょ……引っ付くな。今は、そんなことをしている場合じゃないんだ!」


『照れておるのか? 可愛いのぉ』

 抱きつきながら、頬をくっつけてくる。


(ぬし)が婚約をしてくれなければ、(わらわ)は暗闇の中、独り閉じ込められたままじゃからのぉ。感謝しておるぞ――クリス』


「そいつは良かったな……。だが、しばらくすれば、俺も天に召されてしまうよ」


『なんじゃ? (ぬし)……死にそうなのか?』

 マレーネは抱きつくのを止めて、心配そうに見つめてくる。


「ここに来る道すがらな……」

 クリスはここに辿り着くまでのことを説明する。


『なるほど、のぉ。それは確かに、危険な状況じゃのぉ』


 クリスは名案を思いついた。

「だからさ。しばらくの間、ここに(かくま)ってくれないか?」


 するとマレーネは申し訳ない表情を見せる。

(わらわ)はそうしてやりたいのじゃが……。おそらく、それは叶わぬと思うぞ』


 不満げにマレーネを見つめる。

「叶わぬというのは?」


(ぬし)はまだ仮契約の状態じゃ。つまり――この塋域(えいいき)においては、異物という扱いになる』


塋域(えいいき)……?」


(まさか……皇女神(すめがみ)の――?)


『そうじゃ。マリアージュの塋域じゃ。だから、もうそろそろ――』

 少女が言いかけるや否や、クリスは眩い光に包まれる。


 次の瞬間――クリスは御殿(みあらか)の外にいた。

『ほらのぉ。(わらわ)の言うた通りじゃろぉ』


(マズい――来る!)


 隠れる場所を探すべく、辺りを見回していると――。

 今まさに、庭園に人影が現れるところだった!


 急いで、クリスは御殿(みあらか)の物陰に隠れる。


「おい! 腰抜け!」

 若い女性の声が聞こえてくる。


『なんじゃ?』

 マレーネは聞き耳をたてつつ、クリスを見つめる。

『今聞こえたのは、女子(おなご)の声の様な……』


「いつまで隠れているつもりだ!」


(言われてみれば――確かに……)


「祈りの時間は十分に与えたはずだぜ!」

 男っぽい言い回しだが、若い女性の声であった。


『まさかとは思うが――痴情のもつれではあるまいな?』

 マレーネが、ジト目で見つめてくる。


「おいおい……婚約者を疑って、そういう目で見てくるなよ」

 クリスは気まずくなり、マレーネから離れ、壁越しから覗いてみる。


 先ほどの銃士だ。

 見間違うはずがない……。


 マスケット銃を肩に背負い、両腰のホルスターには、骨董品が二丁――。


 外見は銃士——。

 だが、紅毛の長い髪を三つ編みに束ねている少女が、そこに居た。

 まさか……自分と同い年くらいの少女だとは思いもしなかった。


「ほら、あそこに居る銃士に殺されそうなんだよ」


 疑いの眼差しを向けるマレーネだったが、少し気になったみたいだった。

『どれどれ?』と、クリスと同じように、壁越しからのぞき見た。


 すると――。


『ほぉ……彼女奴(あやつ)はグランディールの三銃士――メルローズの娘じゃのぉ』


(三銃士……?!)

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