第三十四話「奇襲の入口」
四人を乗せたリムジンは、郊外にほど近い再開発地区で停車した。
「さて……目的地に到着しましたわ」
ウェッジウッドは二人に目配せをして、車を降りる。
メルローズとエディアールの両名は、車を降りるとトランクへと向かう。
エディアールは新しい打刀を、メルローズはリボルバーの拳銃を手にして戻ってくる。
クリスも気が乗らなかったが、三人に続いて降りることにした。
辺りに人の気配はなかった。
開発予定地のようで、建物もまばらな殺風景な場所だった。
目の前に、フラットパネルの仮囲いが左右に広がっていた。
パネルは3メートルほどの高さがあり、中の様子はうかがい知れない。
「何処だ? ここは……?」
「あら? ご存知ありませんの?」
ウェッジウッドは横目でクリスを見つめながら、冷笑を浮かべる。
ウェッジウッドの物言いに、クリスは苛立つが、マレーネに『イライラするでない』と横から嗜められる。
「ああ……初めてきた場所だからな」
クリスは顔を引きつらせながら、笑みを浮かべる。
「ご説明いただけるかな? ウェッジウッド嬢」
すると、ウェッジウッドはやれやれと言わんばかりに、ため息を一つ。
「ここは——廃線になった地下鉄第8環状線のル・ムール駅の前ですわ」
「ル・ムール駅?」
クリスは眉根を寄せる。
「行き先はヴァロンドール駅と言っていなかったか?」
「直接、パーティー会場に乗り込んだところで追い返されるだけだ」
横にいたエディアールが代わって説明を始めた。
「だから、隣の駅から会場に忍び込もうって話だ」
「二人とも、準備は良いか?」
エディアールは、フラットパネルに取り付けられている通用口の扉に手をまわす。
メルローズとウェッジウッドの二人が頷くと、エディアールは扉を開けて中に入っていく。
その後に続く形でクリスも、中に入っていった。
扉をくぐると、背丈よりも高く資材が積まれていた。
壁のように積まれた資材とフラットパネルによって、回廊のように細くて長い通路を形成していた。
人が一人通るのがやっとの、その通路を歩いて行くと、開けた場所に出ることができた。
『ル・ムール駅』の看板が見える。
しかし、地下へと続く階段に降りる手前には、柄の悪い男たちが座り込んで、携帯端末を弄っていたり、ぼんやりと空を眺めながらタバコを吹かしていた。
こちらの足音に気が付いたのか、その出入り口に屯する柄の悪い三人の男が視線を向けてきた。
「誰だ?! テメェら!」
一人の男が立ち上がり、怒声を浴びせてくる。
その声が地下へと反響していくのが聞こえてくる。
さらに、他の二人も立ち上がるとこちらに駆け寄ってきた。
「めんどくせぇな~」
メルローズが頭を掻きながら舌打ちをする。
三人が一斉に銃を構えようとした——その時だった。
メルローズの右手が動くのが早かった――。
ホルスターからリボルバーを抜くと、腰の位置から左手の掌で撃鉄を叩いていた。
ダダダン!
銃口から火花が三回立て続けに上がる。
ファニングによる三連射――。
目の前の男たち三人が次々と倒れ、低い呻き声をあげてのたうち回る。
メルローズは鼻歌混じりに、ガンスピンでホルスターに拳銃を仕舞う。
「おい、リディ! 急に攻撃するな!」
エディアールが、呆れたようにメルローズを嗜める。
「こいつらに情けなんて必要ないさ」
メルローズは倒れ込んだ男たちが持つ拳銃を奪い取ると、「ほらよ」とエディアールとウェッジウッドに一丁ずつ投げて渡した。
「……殺してないだろうな?」
エディアールは倒れ込む男たちを覗き込む。
「どうだろうな?」
メルローズは肩を竦める。
「攻撃を仕掛けてきたのはコイツらだし——ここはクリアリール侯爵の領地内だぜ。殺したって罪には問われないだろ?」
「そう言う問題ではありません」
ウェッジウッドが頭を振る。
「攻撃する時は、前もって言って頂かないと困るという話です」
ウェッジウッドの物言いに、メルローズは舌打ちをする。
「……困る?」
眼差しを鋭くして、メルローズは二人を睨みつける。
「それは、どう言う事だよ?」
ウェッジウッドは呆れたようにため息をついた。
「私はまだ至宝で、この一帯の認識の阻害をしていないのですよ。ですから――」
ウェッジウッドが地下鉄の出入り口から聞こえてくる物音に身構える。
「ほら、来ましたわ!」
ウェッジウッドとエディアールは身構える。
「銃声を聞きつけて、巣穴から兵隊アリがワラワラ出てきてしまうでしょう?」
ウェッジウッドの言う通り、銃声を聞きつけた者たちが次々に地下鉄の出入り口から顔を出してきた。
数にして十人程だった。
柱や階段に身を隠しながら、こちらに向けて自動小銃や拳銃を発砲してくる。
大量の銃弾を一斉に雨あられのように浴びせてくる。
クリスを含めた四人は堪らず、資材置き場に身を隠した。
だが、銃弾の雨は止むどころか、さらに増していく。
「おいおい、お前ら大丈夫か? 会場にたどり着く前に、ここでパーティーを始めるつもりなのか?」
クリスの揶揄した物言いに、ウェッジウッドが噛み付いてきた。
「クリス! 貴方のお仲間でしょ!」
ウェッジウッドがギロリと睨み付けてくる。
「攻撃を止めるように伝えてください!」
「この状況で、俺がアイツらの仲間に見えるのか?」
クリスは呆れた眼差しをウェッジウッドに向ける。
「ウェッジウッド、お前は脳の検査をしてもらった方が良いんじゃないのか?」
「ハハハ! 確かに!」
メルローズが面白がって笑う。
「笑い事ではありません!」「お前が原因だろ!」
ウェッジウッドとエディアールが、同時にメルローズに突っ込んだ。
『なんじゃ、此奴ら……?』
マレーネも呆れたように三人のやり取りを見つめていた。
『個々の能力は高いがチームワークはなっておらんのぉ』
マレーネの率直な感想に、クリスも呆れ気味に頷くしかなかった。
「と、とりあえず——応戦しないと……」
ウェッジウッドは両手を震わせながら拳銃を構えるが、安全装置が掛かっているので、トリガーが引けず戸惑っていた。
「おい、テトレー! 俺に協力しろ!」
エディアールがクリスに声をかける。
「このままじゃ埒が開かない」
「協力はしてやるが——」
クリスは一つため息を吐く。
「テトレーはやめろ! クリスと呼べ!」
エディアールは舌打ちする。
「わかったよ! クリス!」
エディアールは片眼鏡を装着する。
「俺が至宝で銃弾を防ぐから、お前は攻撃を担当してくれないか?」
「シャル! あたしもついて行くぞ!」
メルローズがリボルバーを中折れにして、銃弾を詰め直しながら、そう言った。
「リディ、お前はルーの側にいてやってくれ!」
「何でだよ?」
不服そうなメルローズに、エディアールがウェッジウッドを指差す。
「銃の扱いも侭ならない彼女奴を、そのままにしておけるか!」
ウェッジウッドは、首を傾げながら銃口を覗き込んでいた。
メルローズはそれを見ると、慌ててウェッジウッドから拳銃を取り上げる。
「リディ……それは私の――」
ウェッジウッドは取り上げられたことに不満を露わにする。
「じゃあ、あたしは援護に回る」
メルローズは、ウェッジウッドから取り上げた拳銃のマガジンを取り外して放り投げた。
「ああ、任せるよ」
エディアールは不満げなウェッジウッドに声を掛ける。
「ルー、お前は認識阻害を頼む」
「わ、わかりましたわ!」
ウェッジウッドは拳銃を諦めて、赤い装丁の本を開く。
「クリス! 行くぞ! 俺の後ろを着いてこい!」
そう言うと、エディアールは資材置き場から飛び出して行く。
クリスも近くにあった鉄パイプを手にすると、その後を追うように飛び出した。
エディアールは至宝を発動させる。
その能力——空間の支配によって、雨あられの如く飛んでくる銃弾が火花を放ちながら、弾道が逸れて行くのが見て取れる。
『ほう……此奴は器用じゃのぉ』
クリスの横にいるマレーネは感心する。
クリスも銃弾が逸れていく光景に、言葉も出なかった。
「どういう仕組みなんだ?」と、クリスはマレーネに小声で訊ねる。
『空間の支配で、大気を固定しておるのじゃよ』
「大気って――窒素とか酸素か?」
『そうじゃよ。圧縮して固定しておるのじゃが、平面状に固定するのではなく円錐状に固定しておるのじゃ。さらに此奴、主が先ほど見せた偏角構造強化とやらを、見よう見まねで付与させておる。故に――弾丸が逸れて行くのじゃよ』
「小難しいことを……」
クリスは嘆息を漏らしながら、たまに投げ込まれる手榴弾を敵陣に蹴り返して、エディアールを援護する。
地下鉄の入り口付近に隠れていたギャングたちが一斉に飛び出してきた。
エディアールは、静かに打刀を鞘から抜いた。




