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マリアージュの銃士隊  作者: ミナモ
第二章

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第二十一話「オムライスと猟奇殺人」

 

「もしかして……三人とも貴族なのですか?」


「ああ——三人とも貴族だ」

 ジャスティンは頷く。

「年齢、性別、爵位もバラバラだ。共通するのは貴族という身分と、もう一つ——」


「もう一つ?」


「被害者たちは、身体の一部が欠損している」


「身体の一部——」

 マルセイユは少し考え込む。

「その言い方からすると、共通の箇所ではないのですね?」


「ああ、三人とも別々の部位だ。そして、ルヴェ侯爵も何処かの部位が欠損した状態で見つかった——」


 先ほどのウェイトレスが料理を運んでくる。


「続きは、食べてからにしよう」


 マルセイユの前にはオムライスが置かれる。

 トマトキャチャップで味つけられたチキンライスの上に、オムレツが乗せてあるタイプだった。


 マルセイユは目を輝かせる。

「そうだ――」

 思い出したように、携帯端末を取り出す。

「食べる前に写真を一枚」


 写真を撮ってから、オムレツにナイフを入れる。

 黄色い半熟の卵がチキンライスの上に覆い被さる。


「これが……ふわとろオムライス――」

 そこで止まる。

 テレビの食レポのマネをしようとしているが、口がパクパク動くだけで、なかなか言葉が出てこない。


 食レポの第一声に、興味を持ったジャスティンが待ち構えていると——。


「まるで……」


(まるで?)


「黄色いシーツを掛けられた小人さんが、寝ているように——」


「酷い。喩えが……酷すぎる」

 ジャスティンはポロリと本音が零れる。


「ジャスティン様——」

 マルセイユが不機嫌そうに見つめてくる。

「私が初めてオムライスを食べるんです。邪魔しないでください」


「わかったよ……」

 ジャスティンは自分が注文したハンバーガーを食べ始める。


 マルセイユは再び携帯端末で色々な角度からオムライスを撮影し始めた。

「ジャスティン様——」

 撮影しながら、マルセイユが話しかける。


「なんだ?」


「先ほどの連続殺人事件が気になりますので、概要だけでも教えてくれませんか?」


「食事中だぞ?」


「別に——私は気になりませんよ」

 オムライスの写真を撮る手を止めて、ニンマリとした笑みを浮かべる。

「あれ……? もしかして、ダメなタイプですか?」


(ふわとろオムライスを食べながら、連続殺人の概要を聞くつもりか?)


「捜査官ですよね?」


(煽ってくるじゃないか――)


「分かったよ。概要だけ話してやる」

 ジャスティンは乗り気ではなかったが、概要を説明することにした。


「最初の事件は二週間ほど前——9月26日に起きた」


 被害者はヴィルジル・レイヴンズバーグ子爵、61歳の男性。

 彼は総合病院の院長でもある。


 自身の領地内にあるレイヴンズバーグ総合病院からの帰宅途中に行方不明になった。


 帰宅が遅いことを心配した妻のアンジェラが病院に連絡を入れるが、当直の医師と看護婦の証言から、夜の20時に退勤したと告げられた。


 同日22時——領地捜査局に連絡が入り、局員数名が駆けつけることになった。

 局員たちは、子爵の車が病院の駐車場に停めてあることを発見する。

 その後、子爵が帰宅せずに病院内にいる可能性も視野に入れて、捜索を進めていった。


 すると——使用されていない旧棟の第二手術室の手術台で亡くなっているのを発見する。


 死因はロープのようなものによる絞殺――。


「絞殺ですか……?」


「ああ——しかも肝臓が抜き取られていた」


「絞殺後に肝臓を抜き取った……と」

 何かを考え込むようにして、マルセイユはオムライスの中央部分をスプーンで抉る。

 そして、スプーンにのったふわとろのオムライスを口に運ぶ。


「あ……美味しい」

 目を閉じて、恍惚の表情を見せる。

「美味、美味——」

 と呟いたが、忘れていた事を思い出したように、目をぱっと見開いた。


「ジャスティン様――そこのトマトソースの瓶を取ってください」


 ジャスティンは、オムライス用のトマトソースの瓶をマルセイユに渡してあげる。


「次の事件の概要に移っていいか?」


「ちょっと……待ってください」

 マルセイユは、トマトソースをスプーンで(すく)い、抉り取った箇所に、トマトソースを垂らして綺麗に塗りつけたのだ。


 まるで……黄色いシーツを掛けられた小人の肝臓が抜き取られたようにも——見えなくはなかった。


(いや——まさかな……)

 ジャスティンは頭を振る。


「良い感じにできました。次どうぞ——」


(おい、待て——何が、良い感じなんだ?)


 ジャスティンは心の中で突っ込みつつも、次の事件の概要を話し始める。


「二つ目の事件は、一つ目の事件から四日後——9月30日に起きた」


 被害者はアンリエッタ・ヴォルドール公爵令嬢。

 年齢は28歳。

 彼女はバレエダンサーで、国立劇場での公演後、送迎車(リムジン)で帰宅途中に行方不明になった。


 首都(グランディール)の街道で起きた事件のため、初動捜査は警察が担当した。


 送迎車(リムジン)は中央広場の駐車場に乗り捨てるかのように停めてあった。


 ヴォルドール公爵令嬢の姿はすでになく、運転手の姿も消えていた――。


 この段階で警察は誘拐事件も視野に入れて、厳戒態勢を敷いて捜査にあたることになった。

 そして誘拐事件として警察から領地捜査局に正式に捜査協力の要請が入った。


 だが、丸一日経っても誘拐犯からの連絡はなく、翌日10月1日の23時に中央広場の噴水の前で、公爵令嬢は死体として発見されることになる。


 遺体に着衣の乱れはなく、公演後の服装のままで見つかった――。


「発見時――彼女の右脚が切断されていた。そして、近くには義足が置かれていた」


「義足ですか……?」


「ああ、義足だ。切断された右脚に該当する義足が置かれていた」


「右脚を切断——それは太腿からですか?」


「太腿だ。止血処置のないまま切断されていた。死因は出血多量によるものと診断されている」


「なるほど——」と真剣な表情で、マルセイユはオムライスの右側三分の一くらいの位置に、ナイフで切れ込みをいれていく。


「この辺りかな……?」


 オムライスの縦幅の中間付近でナイフを止めると、今度はそこから水平にナイフを入れる。切れ込みとちょうど90度の角度になるようにして、そのまま右にナイフをスライドさせていく。


 ジャスティンは怪訝な眼差しで、マルセイユのオムライスをしばし観察していた。


 マルセイユは切り取ったオムライスをスプーンで(すく)いながら、おいしそうに食べ進めていく。


「ん~美味~」

 ニコニコの笑顔を見せる。


(食べ方は不穏な気がするが……)


 ジャスティンは事件の話しを続ける。

「で——問題は、この事件の被害者が公爵令嬢であったことだ」


「どうしてですか?」


「国内外で著明なバレエダンサーなんだよ。海外公演も行うほどだ。さらに彼女は、ヴォルドール公爵の孫娘にあたる」


「ああ、それはマスコミは放っておきませんね?」


「そういうことだ。連日に渡って、マスコミが騒ぎ立てたんだよ」

 やれやれと肩を竦める。

「彼女の死因が出血死という一点だけで、吸血鬼ノスフェラトゥの仕業だとか途方もないことを言い始めてね」

 嘆息を漏らす。

「さらにレイヴンズバーグ子爵の事件も関連づけられたのさ」


「もしかして、ノスフェラトゥ連続猟奇殺人事件――のことですか? ワイドショーで話題の——」


 マルセイユは話しながら、チキンライスが見えている断面に、ナイフをパテがわりにしてトマトソースを塗って赤く染めあげていった。


「なんだ、知ってるじゃないか?」


「いえ——テレビでながら見をしていただけで、詳しい内容は知りません」

 マルセイユはオムライスからジャスティンに視線を移す。

「殺されたとか……殺した——なんて話しは、猫の世界では日常ですよ。興味の対象外です」


 そう言うと、再びオムライスに視線を戻し、トマトソースを塗り始める。

「はい——オーケーです。次をお願いします」


 トマトソースの塗りが良かったのか、にこやかに微笑む。

「次はどの箇所ですか?」


(お前の……日常って?)


(オムライスが、別の何かにしか見えなくなるだろ……)


 白磁の皿の上に乗せられた黄色いオムライス。

 抉られ、切り取られた断面を覆い隠すように、赤いケチャップが広がっていた。


 ——それでも、ジャスティンは視線を逸らさなかった。


 モヤモヤとした気持ちを振り払うように、ジャスティンは頭を振る。

 そして、何事もなかったかのように、事件の概要を話し始めた。


「次は――ラファエル・デュリュック男爵。45歳の独身貴族だ」


「意味深ですね……。男爵は何処を持ってかれたのですか?」


「財布の中身じゃないのか? 貢ぐために、カードか現金だろうな……」


「ジャスティン様、冗談はやめてください」


(コイツ……自分を棚に上げて)


 マルセイユは左手にスプーン、右手にナイフを持って待ち構えている。


 ジャスティンは小さくため息を吐きつつも、説明を始めることにした。


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