表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マリアージュの銃士隊  作者: ミナモ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/24

第十四話「人を殺せない剣」

 

「得物は、そのデッキブラシで良いのか?」


「お前程度が相手ならこれで十分だ」


「言ってくれるね」


 互いに構えながら、余裕の笑みを浮かべる。


 エディアールは間合いを探りつつ、鯉口を切る。

 機先を制したのはエディアールだった。


 抜刀からの斬撃――。


(来る!)


 それに合わせて、クリスの左手に嵌めているグローブが緋色に変わる。


 ワングリフ――。


『偏角構造強化――角度四十五度』


 クリスはデッキブラシに——刻み込む。


 エディアールの一閃が、デッキブラシを襲う!

 しかし——。


 キィィィンィィンィン!


 打刀は、甲高い金属音を立てて弾かれる。


「な?!」

 エディアールが驚愕の声を上げる。


 斬撃はデッキブラシの柄を捉えていた。

 そのはずだった――。


 しかし、デッキブラシに傷はひとつとない。


 相手の動揺を見てとると、今度はクリスが攻撃を仕掛ける。


 デッキブラシは、攻撃範囲(リーチ)が長い。


 その特性を活かす攻撃スタイル。

 振り回すのではなく、隙の少ない突きを、攻撃の軸に据える。


 エディアールの顔面や下半身と、狙いを読まれないようにしつつ、時折、脚をなぎ払う。


 ――攻守逆転。


 エディアールは防戦一方になる。

 青眼(せいがん)に構えて、デッキブラシの攻撃を的確に受け流す。


 エディアールは間合いをあけると、再び刀身を鞘に納め、居合の構えに入る。

 さらに——鯉口を切る。

 いつでも抜刀できる体勢に入った。


 クリスは警戒して間合いを開ける。

 それでも、エディアールは抜刀!


 キィィンィン!


 デッキブラシの先端を捉える!


 鈍い金属音!


 今度は、僅かに跳ね上げるだけにとどまる。

 しかし、エディアールは、そこからさらに一歩前に踏み込んだ。


 踏み込みからの袈裟斬り――。


 スタン!


 竹を割ったような音——。


 先端——ブラシ部分が転がりながら、広場から遠ざかっていく。


 クリスの手には、柄だけが残されていた。


(こいつ……!)


 今度はクリスが、バックステップで間合いを開けざるを得なかった。


「やはりな……。それが至宝の能力か?」

 エディアールが掴んだとばかりに、笑みを浮かべる。

「角度による素材の強化か……?」


(気づいたか……)

 内心、舌打ちをしつつも、クリスは首を傾げる。


「さて……何のことだ?」


 クリスは惚けるが、エディアールは自信のある表情。


「刃の角度に対して50度……いや、もう少し鋭角か?」

 探るようにクリスを見つめてくる。

「特定の角度のみ、強度が上がるようにしているんだろ?」


「……」

 クリスは何も言わず、黙ったまま。

「それより、お前が持っているその刀……業物じゃないのか?」と、話を逸らす。


「この刀を褒めるか……。まあ、いい——」

 エディアールは鼻で笑う。

「確かに業物だぜ。銘は『蒼月(そうげつ)』――先月、ネットで取り寄せたんだ」


「まあ、お前には——」

 クリスも鼻で笑う。

「不相応な、刀だけどな……」

 先程までデッキブラシだった棒を肩に担ぎ、そう言ってのける。


「言ってくれるね」

 エディアールは胸のポケットから片眼鏡(モノクル)を取り出して左眼に装着する。

「だが、そんな減らず口をいつまで叩いていられるかな?」


 クリスは、相手が装着した片眼鏡(モノクル)が、至宝(カサブランカ)であることを悟る。


 エディアールは居合の構えから一転。

 正攻法の青眼(せいがん)に構え直した。


 蒼月(そうげつ)の切先を、クリスの目線に合わせる。


 距離を測るように、そして静かに……間合いを詰めていく。


 エディアールが切り掛かる――。

 切先の角度を変えながら、変幻自在、縦横無尽にクリスに襲いかかる。


 クリスはその切先の角度に合わせるために、どうしても防戦主体にならざるを得なかった。


 しかし――。

 シュタン!


 スタン!


 木材が切り落とされる音が、広場に響く――。


 すなわち、デッキブラシの柄の先が少しずつ削られていく。


(――くっ!)


 堪らず間合いを広げようとするが、エディアールはその行動すら見逃さなかった。


 クリスの動きを先読みして、さらに間合いを詰める。


 エディアールは、クリスを完全に捉えていた。


 姿勢を低くして居合の構えに切り替える。


(まずい!)


 クリスは防御にまわらざるを得なかった。


 エディアールの抜刀――。


 一閃が走る。


 デッキブラシの柄は、真っ二つに断ち切られていた。


「残念だったな——」

 エディアールは余裕の笑みを浮かべる。

「角度による素材の強化は、別の角度からは脆くなるんだぜ」


「まったく……大したもんだよ」

 クリスは真っ二つにされた木片を、後方へ投げ捨てる。

「お前は至宝(カサブランカ)で、攻撃の度に、俺に気づかせないように僅かに移動させていたんだろ?」


「前や後ろに半歩ほどな。だから角度の調整に、対応しきれなかった……」

 クリスは呆れたような表情を見せる。

「器用なことをしてくれる――」


「それに気づいているお前も中々だ——」

 エディアールはクリスの言葉に、僅かな警戒心を覗かせる。

「これで……分かっただろ?」


「ああ……」

 クリスは俯き、小さい声で呟く。

「よく分かったよ」


「だったら――」

 エディアールが何かを言いかけた時だった。


「お前が人を殺せないってのが――」

 クリスが鼻で笑った。

「よく分かったよ」


「――!」

 その言葉にエディアールの表情が険しくなる。


「お前の太刀筋は見事だよ、エディアール」

 やや呆れ気味にクリスは呟く。

「良い師範について修練を重ねたんだろう? それは相対すればよくわかる」


 エディアールは無言を貫いている。

 ただ、クリスを見つめる眼差しは鋭かった。


「だが、その太刀筋には——」

 不敵な笑みを浮かべる。

「僅かだが迷いの色が見えるぜ」


「……黙れ」


「お前の剣術は、上澄みの――」


「黙れと言ってる!」


 クリスは止めない。

「純粋かつ洗練された剣術だ——」


 むしろ饒舌に話しを続けた。


「だが、それはどこまで行っても——」

「貴族様の——」

「貴族様による——」

「貴族様のための——」


「剣術なんだよ」


「己の精神を鍛えることはできても、人を殺すことはできない」

 憎悪を内包した、歪んだ笑み。


「勘違いするなよ、エディアール。俺は別に侮辱しているワケじゃない」

 クリスは頭を振る。

「お前は、圧倒的な力量の差を見せつけることで、相手の心を折る戦術をしているんだ」


「殺さない剣術の体現だ——」

 クリスは賞賛の拍手を送る。

「実に……素晴らしいよ」


「黙れ!」

 エディアールの内心を抉る。


 クリスは尚も語り続ける。


「至宝の扱いについてもそうだ」

「空間の支配という能力があれば、俺を圧倒することは容易い」

「それがどうだ?」

「間合いを僅かに動かす程度に留めている」


「だから——殺せる間合いに入っても殺せない」


 エディアールは手に持つ刀を、握りしめる。


「お前よりメルローズの方が、よっぽど怖かったぜ」

 尚も煽る。

彼女奴(あいつ)は、完全に殺しにきていたからな」


「うるさい黙れ!」

 エディアールの咆哮!

「だったら! 貴様は人を殺したことがあるのか?!」


「いいや――」

 クリスは肩を竦める。

「ないね」


「あ? ないクセに、偉そうなことをほざくな!」


 それを聞くと、くくくと、声を押し殺して笑い始める。


「何が可笑しい?」

 エディアールは苛立ちを顕わにして、クリスを睨めつけた。


「だったら——どうするんだ?」


「どうする……だと?」


「お前には、俺の心が折れている様に映っているのか?」


 クリスに問われて、言葉に詰まるエディアール。


「虚勢を張っている様に見えているのか?」


 エディアールは視線を僅かに逸らし、黙り込んでしまった。


「互いに譲れないものがあるから——決闘をしているんだ!」

 クリスの怒号!

「殺すのがイヤなら! お前が泣いて負けを認めろ!」


「す、素手で……何ができる?」


「関係ない!」

 クリスはエディアールから距離をとる。

「無手の技を知らないのか?」


「だったら——懐に入らせなければ問題ない!」

 エディアールは刀身を指で撫でる仕草をする。

「認識だ。至宝(カサブランカ)で、空間を切断する認識をすれば良い」


「太刀筋の迷いを補填するか」

 不敵な笑みを浮かべる。

「だが、そう上手く、書架を断ち切った様に斬れるのかな?」


 エディアールからの返答はない。

 無言のまま刀身を鞘に納め、柄頭(つかがしら)を押し込む。


 エディアールは居合の体勢に入る。


 クリスも身構え集中する。


 互いに睨み合いながら、じりじりと自身の間合いを探っていく。


 エディアールが……鯉口を切った。


 何度も見たその手順(ルーティン)を、クリスは見逃さなかった。

 鯉口を切る——その動作が、間合いの半歩手前。

 すでにクリスは気がついていた。


 瞬時に間合いを詰める!


 今まで機先を取ってきたエディアールは、僅かに対応が遅れた。


 だが——。

 瞬息の抜刀――。


(——の野郎! さらに速度を上げるのか?!)


 クリスは右脚の蹴りを繰り出す!


(間に合え!)


「な?!」


 クリスの蹴りが速かった!


 柄頭(つかがしら)を右足で押さえ、抜刀を封じ込む!


 さらに——。

 柄頭(つかがしら)の上に乗り上げ、刀を抜かせない。


 勢いそのまま——。

 右足を軸に、左膝をエディアールの顔めがけて蹴り上げた!


 しかし——。

 エディアールもクリスの膝蹴りを、咄嗟に右腕で防御(ガード)する。


 体勢を崩す二人。


 防御(ガード)した分、エディアールは体勢を立て直すのが早かった。


 クリスは勢い余って、ゴロゴロと転がる。


 エディアールは刀を抜くと、上段から起き上がるクリスめがけて振り下ろした。


 クリスの頭上に迫る白刃——。


 ——限界だった。

 マレーネはその場で立ち上がる。


(ぬし)よ!』

 堪えきれず、叫んでいた。

『避けるのじゃ!』


 瞬間!


 時が止まったかのような静寂が、広場を支配した。


 微動だにしない二人――。


「迷いのない――」


 クリスは、僅かに笑みを浮かべた。


「見事な太刀筋だったぜ」


「し……白刃取りだと?」


 エディアールは鼻白む。


 クリスは、両の掌で白刃を挟み込んでいた。


「ああ――これを狙っていたんだ」

 そう呟くと、左手のグローブが緋色に変化していた。


 刀身に――物語が刻まれていく。



蒼月(そうげつ)は——飴細工の如く、その身は(はかな)く砕け散る』



 白刃が、わずかに震えた。

 次の瞬間――。


 エディアールの持つ刀が儚い音と共に、刀身が砕け散った――。


 キラキラと輝きを放ちながら金属片が、粉々になって舞い散る。


 ……何が起きた?


 一瞬の思考停止――。


 クリスは、その隙を見逃さなかった。


 呆然とするエディアールに向かって、掌底を叩きこむ。

 膝から崩れ落ち、そして——。

 エディアールは、意識を失った。



 ◇◇◇


 通信が途絶えて15分が経過していた。


 不安で堪らなかった……。


 何度も連絡を入れてみるが返事がない。


 彼の身を案じた彼女は立ちあがろうとした時だった。

 テーブルの上に携帯端末が乗せられる。


 彼の携帯端末だった。


「あの……相席よろしいでしょうか?」


 不意の声——。


 ゆっくりと顔を、声の先に向ける。

 すると、そこには見知った少年が微笑んでいた――。


 標的である——クリストファー・テトレーだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ