深紅の薔薇
長めの昼食を終え、ミーティングの後半が始まる。議題は「今後の活動方針」について。神様の話では、ゲームで追加されたレイドボスは、この世界にも全て実装されているらしい。
乗船前、ゴウト騎士団長に現在の世界情勢を確認してみたけれど、今のところ各地で巨大モンスターが出現したという話は聞いた事が無いと話していた。ドッちゃんの予測では、アップデートで追加された順番に出現するんじゃないかと言う。
たしかに、私たちはゲーム内のイベントを順番通りに攻略し、ストーリーモードのラスボス的存在である暗黒神ザナファを倒した。――という事は、次の舞台はハルモニア大陸から東方のウロギア大陸へと移る。
午前の部と同じく、ミカさんの司会進行でミーティングが始まった。議題は、これから始まる複数のレイド戦について。しかし、ストーリーモードで戦うボスとは想定されている規模がまるで違う。
最初に出現すると予測されている『黒龍ファロール』は、その名の通り空を飛ぶ漆黒のドラゴン。大型アップデートで実装された防衛クエストのレイドボスだ。
第一フェーズでは「バンボウ国」に小竜の群れが襲来する。そして、小竜を全滅させると黒龍ファロールが出現。黒龍を倒せばクエスト達成、王城が陥落した場合はクエスト失敗となる。また、街の防衛率によって報酬のランクが変化する仕様だった。
問題はストーリーモードとは違い、数百人規模のプレイヤー参加を想定した、最初の大規模レイドボス戦となる点。少人数で戦うにしても、この世界の住人たちの助力は必要不可欠だ。それは黒龍だけではない。その後に続くレイド戦も、その全てが暗黒神ザナファ以上の戦いになるのは間違いない。
「人数と戦力差をどう補うか……だね。制限時間はないけれど、都市へ進行させないように、ヘイト管理が重要になりそうだ」
「この世界の兵士は、プレイヤーのレベルに合わせると20といったところでござるからな」
サクラの推測は当たっていると思う。オスロウ国の武闘大会には、それなりに腕の立つ冒険者も参加していたけれど、高く見積もってもレベル50くらいに見えた。ドッちゃんや咲耶も、サクラの推測に同調する。全てのレイド戦にいえる事だけど、この圧倒的な戦力差は作戦で補うしかない。
「次に実装されたのが、砂漠で不定期に発生するレイド戦でしたね」
「そうそう、宝石がおいしいクエストだよね」
ウロギア大陸バンボウ国の南には、広大な砂漠の国「コダ」がある。その砂漠には、ディワームという電撃を操る全長10メートルを超える巨大ミミズ型の環形動物が多数生息している。そして、このフィールドに不定期で出現する「蜃気楼の街」がレイド戦の舞台となる。
街には複数の不死種モンスターが徘徊し、そしてレイドボスとして『守護神メジェド』が出現する。このクエストの達成目標は、単純にレイドボスを討伐すること。
ただ、出現する雑魚モンスターが武具強化に必要な宝石をドロップするため、どちらかというと宝石狙いでレイド戦に参加するプレイヤーが多かった。
「発生が不定期って、どうなるんだろう?」
自分で発言しておいて、馬鹿な質問だと思う。不定期は不定期なのだろうと。でも、広大な砂漠の中で、ある日突然現れる蜃気楼の街を捜すのは、かなり酷な話ではないだろうか。それともゲームのように「緊急クエスト」のアナウンスが流れるんだろうか。
「防衛クエストではないから、見つからなければ後回しにしても良いかもな」
ドッちゃんの言うことはもっともだ。このレイド戦はボーナスクエストとしての要素が強い。武具を強化したい人が率先して参加する感じだったし、難易度も中堅向けに調整されていた覚えがある。
次に実装されたレイド戦の舞台は、ウロギア大陸最南端。雪原に覆われたピトゥリア国だ。バンボウ国と同様、防衛クエスト第2弾として実装された。こちらも第1フェーズでは小型モンスターの軍勢と戦闘。第2フェーズでは、封印を解かれた『永劫神ガタノソーア』が出現する。クエストの達成・敗北条件は黒龍ファロールと同じ。
「問題はフィールドの地形効果でござるな。この世界は五感を感じる。身体能力への影響が甚大でござる」
雪原フィールドの効果は敏捷性ダウン。それに加え、五感のあるこの世界では体温と体力も同時に奪われるはずだ。猛吹雪ともなれば視界まで悪くなる。そのため、非常に厄介なクエストになることは容易に想像できた。ハルモニア大陸で使用した水属性の耐性付きマントで、どれだけ防げるだろうか。
次は大海原を跨いだ先にある島国、ミズホウ大陸の大国「ホウシェン」。江戸時代あたりの日本と中国を足したような文化を持つ国が舞台となる。この大陸には「妖」と呼ばれる、妖怪をモチーフとしたモンスターが多数出現する。
「このクエストは結構好きでした。レイドボス以外は……ですが」
ここでは防衛クエスト第3弾となるクエストが発生する。
名称こそ防衛クエストだが、どちらかと言うと連続レイドボス討伐に近い。雑魚モンスターとレイドボスが交互に出現し、実に99連戦を強いられる。そして最後に出現するのが、『百鬼夜行空亡』。
巨大な球体型のモンスターで、一定ダメージを無効化するシールドを持ち、数々の魔法を使用してくる。「DPS」が初めて設定された高難易度クエストだ。
「DPSだな。スナイパーの私も近接戦闘に参加しないと難しいかも知れないな」
DPSとは「Damage Per Second」の略で、MMORPGで使われる用語の一つ。簡単に説明すると、“1秒あたりに与えるダメージ量”のこと。つまり、定められた時間内に必要なダメージを与えることで、シールドを破壊できる仕組みだった。
このクエストこそが、大勢のプレイヤーを振るいにかけ、引退へと追いやった元凶でもある。
――弱いヤツは参加するな。足手纏いだ。それがスローガンのように使われ、新規参入者は減り、ライト勢がごっそりと引退した。
かくいう私も、このクエストに参加したのは仲の良いギルドメンバーと数回だけ。野良パーティーと呼ばれる、自由参加で組むパーティーでの参加は、怖くてとてもできなかった。舌打ち、罵倒、暴言、外部掲示板での晒し行為。そういった悪意が横行し始めたクエストだったからだ。この話し合いで、考えないようにしていたゲームの嫌な部分を思い出してしまった。
楽しかった事ばかりじゃない。現実と同じで、嫌な事だってあった。でも、だからこそギルド"深紅の薔薇"で仲間たちと過ごした時間を、より尊いものだと感じていたんだ。少しの悲しさと、仲間たちと過ごした日々を思い出す。懐かしさと寂しさが入り混じり、胸の奥が少しだけ締め付けられた。
そうこう考えていると、不意に大食堂全体が大きく揺れ、テーブルの上のティーカップが床に落ちて割れた。地震? いや、違う。ここは海上だ。この揺れは――船全体が何かに衝突したんだ。流氷か、岩礁か……それとも、モンスターか。
私はすぐさま"索敵"を使用し、周囲の状況を確認する。船首前方に複数の大きな赤いマーカー。そして、それを取り囲むように騎士団らしき青いマーカーが複数表示されていた。
「海上にモンスターが出現したみたい!」
「私が行こう。皆は待っていてくれ」
私の言葉を聞くなり、ミカさんは素早く駆け出した。こういう事態も想定して、武具を装備していたのだろう。さすがギルドマスター、常に抜かりが無い。それに比べて……パジャマ姿の自分が、なんだか情けなく思えてくる。
「拙者も見学に行くでござる!」
「そんな恰好で、はしたない。せめて上着を羽織りなさい」
「ふっ、我も肩慣らしといこうか」
皆、長いミーティングで微妙にフラストレーションが溜まっていたのか、ゲームでいう緊急クエストに参加するようなテンションで食堂をあとにする。残された私とドッちゃんは、お互いに顔を見合わせ、「やれやれ」と肩をすくめた。
「海上戦闘か……やはり、ゲームとは違うな」
「うん。私たちも見にいこっか」
少し遅れて、私とドッちゃんも船首へ向かって走り出した。私の前を走るドッちゃんの背中。その先には、冗談を交えながら罵り合う3人。そして遥か先頭を走るのは、我らがギルドマスター。
6人揃ったこの感じ――なんだか凄く懐かしい。自然と胸が高鳴り、嬉しさが込み上げてくる。ステータス上昇効果のある武具を纏っていない。それなのに、身体は羽が生えたように軽かった。気持ちのあり方だけで、こうも変わるものなのか。
甲板への扉を潜ると、船首には大勢の騎士が集まり、船体には触手のような物体がいくつも絡みついていた。巨大ダコの足? いや、あの"しゃもじ"の様な形状は、巨大イカの触腕部分だろうか。たぶん、俗にいうクラーケンというヤツか。
それにしてもでかい……。直径1メートル以上はありそうな太い触腕が、船体を海へ引きずり込もうと絡みついている。本体はいったい、どれくらいの大きさなんだ。しかも、複数の赤いマーカーが密集している。クラーケンの群れに接触したというところか。
「んんっ?」
よくよく見ると、船首に集まる騎士団の最前線で、ハーフパンツ姿の少年が飛び回っていた。あれはアルラトだ。正確には少年にも少女にも、大人にもモンスターにさえ擬態できるので無性となるらしい。
私の言いつけを守って、複数の腕を生やすことなく戦っている。しかも、私の戦闘スタイルを真似している様に見え、思わず視線で追ってしまう。…なんか、"蚤"みたいだな。
「蚤でござるな」
サクラの言葉が、まるで私の心を見透かしたようで少し動揺する。
「あ、落ちた」
調子よく飛び跳ねていたアルラトが足を滑らせ、大海原へと落下する。少しだけ驚いたけれど、ああ見えてレイドボスだから、死ぬことは無いと思う……。
入れ替わるように、騎士団に交じってミカさんが戦闘へ参加する。ミカさんが天へ向けて長剣を突き上げると、船首の上空に無数の光の矢が出現した。次の瞬間、光の矢がレーザーの様に多様な角度から降り注ぐ。
それらは騎士たちの身体をすり抜け、クラーケンの触腕だけを襲った。まるでフレンドリーファイアを無効化している様な挙動だ。戦闘に参加していた騎士たちは、奇跡でも目の当たりにしたかのように唖然と立ち尽くす。
例えるなら、光のイルミネーションを見ているような感覚。数百本もの光の矢、その1本1本が触腕へと突き刺さり、光の粒となって消えていく。そこへ薄着のサクラが豊満な身体を翻し、鮮やかな桜の花弁をまき散らしながら触腕を両断する。
「おおおおっ!」
呆然と立ち尽くしていた騎士団から歓声が上がる。サクラの零れそうな胸や、程よく引き締まった太腿。そして、桜の舞い散る華麗な剣技。男性騎士たちは、その全てに魅了されていた。
「怪我人はこちらへ。重傷者から順に運んでください!」
咲耶は怪我人の救助を始め、そのドッちゃんは後方から狙撃。目では捉えられない速さの銃弾がクラーケンの触腕を貫き、破裂させる。それはまるで、見えない槍の投擲を喰らったかのような圧倒的な破壊力。
「聞け、天蓋に囚われし雷神よ。汝が怒り、汝が嘆き、汝が1000年の咆哮を今ここに解き放て――我は命ずる。蒼天を裂き、愚者の魂まで焼き尽くせ! 雷皇級神罰!」
ハーデスの魔力で引き寄せられた雷雲が一瞬にして発生し、大空を支配する。幾多もの雷撃が海面へと直撃した。ああ……生態系が破壊される。漁業においては禁止されていそうな攻撃だ。
そして、アルラトが落ちたままだけど大丈夫だろうか。私が参加するまでもなく、クラーケンの群れは一瞬で制圧された。騎士たちの大歓声が甲板上に響き渡る。ちなみに、アルラトは無事だったようだ。後々、「神様、酷いよ!」とハーちゃんに怒っていたけどね。
騎士団が言うには、この海域は大型モンスターの生息域らしい。結局、話し合いの結果、ミーティングは途中で終了。この海域を抜けるまで持ち越す事となった。その間、私たちも交代で船の護衛に参加する。サイズが大きいだけで、レベルカンストした私たちからすれば雑魚モンスターの分類。余裕である。
◆
数日後、ミーティングの続きが行われた。前回に引き続き、ゲームでのレイド戦を思い返しながら皆で情報を共有する。細かな作戦については、追々考えていくようだ。
「次は……"クロノシナプティック・ネクサス"の暴走でしたね」
えーと、簡単に説明すると、機械都市ギュノス国のマザーブレインが暴走。再び鎖国したギュノス国へと潜入し、中央管理システム『G.O.O.クトゥル』を破壊するというクエストだ。
ゲームでは「仮想シミュレーション」という形で実装されたクエストだから、本当に暴走したわけではない……という設定だった覚えがある。この世界でもシミュレーションなら良いんだけど。
前回みたいに国を破壊した損害賠償で、借金を負うなんて事が無いと良いけど……。今度こそ、強制的にリボ払いの契約を結ばれそうで怖い。
「そもそも前回、我々はマザーブレインと戦ってはいないでござる。ラスボスはDOS殿だったでござる」
サクラの言葉を聞いて、当時の事を思い出す。あの時は、操られたドッちゃんと戦ったんだっけ。その後、中央管理システムとの戦闘は無かった。
「うん、あっ――そういえば、ハーちゃんと合流したのもクリスタルタワーだったね」
「……ふむ。このクエストはストーリーモードの高難易度版。語るまでもあるまい」
えーと、クエストは確か……。第1フェーズは街全体が戦闘フィールドとなり、中央に聳え立つクリスタルタワーを目指す。ルートは東西南北にある4つの大門からスタート。パーティーがそれぞれの大門に配置された時点で、クエストが開始される。
第2フェーズは、クリスタルタワー内部での戦闘。通路が自動で開閉し、ランダム生成型のダンジョンとなる。ここでは難易度別に2つのルートが用意されている。地下の中央管理システムへ直接向かう最短ルートと、弱体化デバイスが保管されている最上階を経由する迂回ルートだ。
実装当時は、ストーリーモードの焼き直しだと非難されていた覚えがある。迂回ルートは攻略時間が増えるかわりに、レイドボスが弱体化。最短の直行ルートは上級者向けで、弱体化が無い代わりにドロップ報酬のランクが上がるというメリットがあった。
なお、どちらのルートを選ぶかは、4つのパーティーで事前に話し合っておかないと揉める原因になるので、注意が必要だった。
「次は南極タクティカ大陸の実装。対『聖神ヒプノス』戦でしたね。私と相性の悪いクエストです」
聖戦士最高位"ロード"や上級職"パラディン"に耐性を持つ、"聖神"とのレイド戦。逆に、ハーちゃんのような魔法攻撃職最高位"カオスソーサラー"や、私の職業"忍者"が使う暗殺系特殊技能には、ダメージの上方補正がかかる特殊なレイドボスだ。
レイドボスは空中に浮いているため、まずは遠距離と中距離から攻撃して落下させる。その後、近接戦闘で一気にダメージを与える。これが基本戦法だった。レイド戦で唯一、私が前衛として活躍できるクエストでもあった。
「そして最後――『創造神アザドゥ』」
サービス終了前に実装された、アビスダンジョン100階層「この世の果て」に潜む最強のレイドボス。残存した複数の上位ギルドによる連合軍が力を合わせ、ようやく勝てるほどの強さだ。私も何度か参加したけれど、勝利経験は1度しかない。
復活回数には制限があり、確か1人3回まで。3回蘇生し、4度目の死亡者が出た時点でクエスト失敗。参加者全員がフィールドへと強制送還される。
そのため、回復役も不用意に範囲蘇生魔法を唱えられない。死亡回数は自己管理、自己申告が必須。さらに"DPS"や"弱点属性変化"まであり、理不尽仕様全部盛りのようなレイド戦だ。まさにSMOの集大成。エンドコンテンツの一角だった。
このクエストだけは、少人数やソロでの攻略など不可能なレベルだった。皆は項垂れ、一様に暗い表情を浮かべる。このクエストだけは別格。とてもじゃないけど、勝てる気がしない。
「創造神は倒せる想像ができないでござるな」
「……親父ギャグですか?」
「いや、そんなつもりはなかったでござるが……」
サクラの天然ボケに、咲耶の最速のツッコミが光る。
「ぷっ……」
その光景を見て、誰かが思わず吹き出した。笑いを我慢している時ほど、誰か1人が崩れると周囲までつられてしまう。ほんの小さな言葉の応酬だったけれど、張り詰めていた空気が一気に崩れ、皆は盛大に噴き出して笑った。
「まぁ、今から考えても仕方がない。1つずつレイド戦を攻略し、その中で何か閃きがあるかもしれない」
ミカさんの前向きな言葉に、皆の士気も少し上がったように見えた。
「あと、この"未討伐"という項目なんだけれど、DOSとサクラの話では戦闘を行っていないと聞き及んでいる」
――赤龍。迷いの森にある洞窟地下の主で、レイドボスのチュートリアル的な存在だ。この世界の赤龍は温厚で、戦うことなくオスロウ国へと進むことができた。当時はイベントをスキップしたという感覚しかなかったけど……恐らく、問題はないと思う。
次に、現在どういうわけか仲間となっている、アビスダンジョン20階層のレイドボス"アルラト"。ラトは特別な存在で、神様によって仲間となるようフラグ変更が行われた。現在は"索敵"のマーカーも青く変化していることから、正式な仲間としてシステムに認識されている様だ。
そして、一番謎なのがアビスダンジョン40階層のレイドボス、次元鍵主魔人ヨグトス。フロアはもぬけの殻、存在自体が行方不明という……。
「魔人ヨグトス。クトゥルフ神話の"ヨグ=ソトース"という邪神がモデルとなっている」
「"門にして鍵"とか、"全にして一、一にして全なる者"でしたっけ?」
ハーちゃんと咲耶が深い知識を披露する。クトゥルフ神話という単語はどこかで目にしたことがあるけど、詳しくは知らない。ただ、SMOのボスの由来がクトゥルフ神話から来ている、という話は聞いたことがある。結局、居ないものは居ないのだから、得をしたと考えるべき――という話に収まった。
1番厄介なのは、アルラトのようにアビスダンジョンの外へふらふらと出歩いていた場合だ。レイドボスと突然フィールドでエンカウントするなんて、嫌すぎる。
ミーティングが終わりに近づいた頃、船の汽笛が一度聞こえた。この世界では、入港を知らせる合図だ。港には無数の貿易船が停泊しており、賑わっている様子。私たちは船を下り、港に用意されていた大型の馬車へと乗り込む。そこから西へ数時間。私たちは懐かしい機械都市へと帰還した。
街はまるでパレードでも行われているかのような賑やかさで、祭りが開催されているかの様な雰囲気だった。
「凄いですね。ゲームとはリアリティが桁違いだ」
機械都市の壮大さに、ミカさんも感動している様子。そうか。アビスダンジョン内部に転移した彼は、ここを訪れるのは初めてなんだ。新鮮に感じるのも当然だろう。ゲームの画面越しに見るのと、肉眼で見るのとでは、同じ光景でも一味も二味も違う。
「――まずは、冒険者ギルドでしたね。案内します」
咲耶が先頭に立ち、ミカさんを先導するように大通りを歩く。ミカさんとハーちゃんは無駄に目立つので、フードを深く被って姿を隠している。
しばらく歩くと、冒険者ギルドの建物が見えてきた。船内で、皆と話し合って決めたことが1つある。それは――ギルド"深紅の薔薇"の再結成。この世界に転移した際、ギルドシステムは解除されており、私たちはソロの冒険者として、それぞれ名を連ねている……そんな状況だった。
冒険者ギルドへ足を踏み入れると、見知った顔ぶれが駆け寄ってきた。その騒ぎに気付いた他の冒険者たちまで集まり、瞬く間に人だかりができる。
「おいおい、久しぶりじゃねぇか! サクラ!」
「カジノクィーンもいるぞ!」
「まじか!」
冒険者ギルドの酒場は、一気に大騒ぎとなった。同行していたゴウトと騎士団が人々を抑え、ギルドカウンターまでの道をつくる。懐かしい顔ぶれに、私は「ごめんねぇ」と声をかけながら先へ進んだ。
ただ事ではない護衛の数に気付いた冒険者たちは、少しだけおとなしくなる。サクラが慣れた口調で、カウンターの受付嬢に声を掛けた。
「久しいな。今日はギルドを設立しようと思い参上した。あと、友のギルドカードも新規に作成を願いたい」
「サクラ様、お久しぶりです。では、こちらが記入用紙になります」
サクラは2枚の記入用紙を受け取り、ミカさんへと手渡した。
ミカさんは用紙に手早く記入し、受付嬢へ提出する。そして、深く被っていたフードを下ろした瞬間、フロア全体から驚きの声が上がった。その場に居た全員が、光の粒子を纏う絶世の美女を前に動きを止める。
男性冒険者はもちろん、女性冒険者までもが、ミカさんへと視線を奪われていた。こうなると分かっていたから、フードを被ってもらっていたんだ。ギルドカードを新規作成するため、素顔を晒さないといけない。だからフードを下ろした。ただ、それだけにも関わらず、フロアの雰囲気が一気に神聖なものへと変わったような錯覚を覚えた。
「……ハッ! す、すみません。見とれてしまいました。――こほん。ギルド名"深紅の薔薇"。そして、ギルドマスターは新規登録のミカエル=アルファ様でお間違いないですね?」
「はい、お願いします」
ミカさんの声を聞いた受付嬢は、一瞬だけ驚いた表情を浮かべた。それもそうだ。ミカさんも声は男だからね。サクラたちで慣れているとはいえ、ここではミカさんは新顔。「呪いで男の声になっている」という設定に納得していたとしても、不意に驚いてしまうのは致し方ない。だが、そこはプロ。すぐに表情を戻し書類を受け取った。
そして、書類は正式に受理された。ミカさんは晴れて"Dランク冒険者"となり、この世界でのギルド"深紅の薔薇"の再結成が完了した。
ミカさんはローブを脱ぎ、酒場に集まった冒険者たちへ向けて、改めて挨拶をする。
「お集まりの皆々様、若輩者ですがよろしくお願いします」
――美しいまでの謙遜。この機械都市にいる冒険者の中で、ナンバーワンの実力者だと断言できる。ミカさんは、それくらい強い。数日もあれば、あっさりとSランクへ昇格すると思う。
声を聞いた冒険者たちも、受付嬢と同じように一瞬だけ驚いた表情を浮かべる。しかし、すぐに例の「呪い設定」を理解したようだ。
彼の神々しい姿を目にした酒場の冒険者たちは、大歓声を上げた。それは、彼の美しさだけに向けられたものじゃない。Sランク冒険者で構成された私たちギルドメンバーへの賛美や、"深紅の薔薇"の再結成を祝福する意味も込められている様だった。
こうして、ギルド"深紅の薔薇"の名は冒険者ギルドを中心に大々的に国中へと広まっていくのだった。
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