第9話:主人公の居ぬ間に
翌日早朝から寮を出る。
『こんな朝早くから起きて何か用事でもあるの?』
『まあな…』
俺は歩きながら桜が舞い散る様子をのんびり眺めていた。朝はまだ肌寒さを感じる。
さて、そろそろ来るかな…
「あれ?ロイ君?おはよー」
ホノカが走ってきた、運動服を身にまとっている。入学早々トレーニングに励んでいるらしい。
「おはよう、ホノカ早朝からトレーニングか?すごいな、まだ入学して二日目だろ?」
「それほどでもないよー昔からの習慣かな。ロイ君はどうしたの?こんな朝早くに。」
「偶然早起きしてしまってな、散歩してたんだ。」
『偶然ねぇ…』
ロイが何か言いたげな声を上げる。
もちろん偶然ではない、狙ってホノカに会い来たのだから。
「へぇ、そうだったんだー」
ホノカは楽しそうに笑う、汗かいているせいかちょっと色っぽい。
「ホノカちょっと話せるか?」
話しやすいように俺は距離を詰める。
「えぇっとなにかな?」
そう言ってなぜか詰めた距離分だけ、ホノカが離れる。
…もしかして嫌われていたのか?
たしかにリュウジとのハーレムルートを目指しているし、今の俺は悪役のロイだ。
だからホノカに好かれなくてもいいし、そもそもゲームと同じならロイとシステム上結ばれたヒロインは一緒に死ぬ運命になる。
とはいえ、こんな早々に嫌われたとなるとさすがに悲しくなる。
なんだろう、無意識のうちにいやらしい目で見てたのだろうか、
女性はそういう視線に敏感だと聞くし。
ゲームでもそうだが、会ってみるとホノカは本当にかわいいし、ゲームの主人公のリュウジを通してとはいえ恋人としてのホノカとの思い出がある。
ホノカ側には何もないのだが。
「嫌なら大丈夫だ、またな…」
嫌われたのならショックだが仕方ない、プランを変更しよう。
「あ!違うんだよ!そういうのじゃなくて…」
「え?」
表情にでてたらしい、慌てて否定される。
「私さっきまで走ってたからその…
汗臭いかも…」
ホノカは恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「…」
こういう配慮ができないところが俺の悪い所なんだろうな…
『ロイ、この場合なんて言えばいいんだ?』
『僕に聞かないでよ、わからないよ。』
『大丈夫、いい匂いだよって返せばいいんだろうか。』
『本気で言ってる?さすがに気持ち悪がられるよ。』
同じ見解で助かった、ラブコメの主人公でもなければさすがに通らないだろう。
リュウジなら言いかねないところがあるが、今の俺はロイなので自重しよう。
「すまない、今すぐ話したいってわけじゃないんだ。トレーニングの続きもあるだろうし、この後話せないか?」
「いいよー、教室でいいかな?」
「あー、できれば通学中でいいか?そんなに長い話でもないし。」
教室だとリュウジの耳に入る可能性が高いからな、それだけは避けたい。
俺のせいでリュウジ本来の行動を変えてしまうと、何が起こるかわからないからな。
「?いいよ、わかったー」
ホノカは不思議そうな顔していたが、うなずいてくれた。
「じゃあ!トレーニングに戻るね!また後で!」
ホノカは颯爽と駆け出して行った。
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「それで話ってどうしたの?」
あの後寮に戻り朝食をとってでると、ホノカが寮の前で待ってくれていた。
頼られるのが嬉しいのか、興味津々にこちらを見ている。
「今日一緒に食堂でご飯を食べないか?」
「え?ロイ君から誘ってくれるとは思わなかったよ。」
ホノカは長い髪を指でくるくる巻きながら目をそらす。
「迷惑だったか?」
「ううん、全然!いいよ!」
よし、これならなんとかなりそうだ。
「それで紹介したい奴がいるんだが、一緒にいいか?」
「えっ…」
え、の発音だけでも色々あるもんだな。
「お友達?男の子?」
「いや女の子」
「…もしかして彼女?」
「……違うぞ」
『何今の間は。』
「何今の間は。」
ロイとホノカに同時に突っ込まれる。息ぴったりだな君たち。
しかたないだろ、世界線が違うとはいえ、俺はサラとも恋人だった時期があるんだから。ゲームの中だけど。
この世界で俺にしか記憶がないとしても、否定するのはなかなかつらいものがある。
「昨日知り合った、ただの友達?だ。」
「本当に?」
ホノカはじーっとにらみつけてくる、こういう表情もかわいいな。
「恋人いるのに、じゃあ他の女の子も一緒にご飯食べようってならないだろ?
俺と同じで友達少ないから一緒にご飯でも食べて親交を深めようとかそういう感じのやつだ。」
「それで私なんだ?」
「他に頼める人いないからな」
「へぇ~そうなんだ?」
「あぁ。」
他に知り合いがいないしな。
「うん、いいよ…、昼休み空けておくね。」
ホノカが嬉しそうな笑顔を浮かべている、やはり頼られることに喜びを覚えるタイプなんだな。
「ありがとう、それともう一つ頼みたいことがあるんだがいいか?」
「えーと、なんだろう?」
基本的に前向きに聞いてくれそう、優しい子だ。
「悪いがニーナも連れてこれるか?」
「え?ニーナちゃん?別にいいけど…」
ホノカがちょっと考えるそぶりを見せ、そして…
「私だけならいいけど、ニーナちゃんまで呼び出すなら、誰が来るのか教えてほしいな?」
それもそうだ。さすがにニーナに誰が来るかわからないけど、一緒にご飯食べようなんて伝えられないよな。
「同じクラスのサラって子だよ。」
隠す必要もないので素直に伝える。
「サラちゃんってあのサラちゃん?」
「多分そのサラだ、ウィンドホーク家の。」
「さっきも言ったが、人付き合いは苦手そうだったから声をかけた。」
「なるほどね、私も気になってたから声をかけようと思ってたんだーきっかけをつくってくれてありがとう。」
ホノカも似た考えをもっていたらしい。余計なお世話だったかもしれない。
「うん、納得がいったよ、この後ニーナちゃんにも声をかけておくね。」
「ありがとう、それでなんだが…」
「わかってるよ、リュウジには知られたくないって感じでしょ?」
「えっ…?」
なんで考えがバレたんだ…
「そんなに難しい顔しないでよ。」
ホノカが苦笑いを浮かべる。
「サラちゃんとニーナちゃんを会わせたいんだよね?
だけどニーナちゃん自身を動かしたいなら、私じゃなくてリュウジに声をかけたほうが早いじゃない?
ほとんどリュウジと一緒にいるだろうし。」
ホノカは困惑している、俺に向けて説明してくれる。
「それでニーナちゃんにOKをもらえたとしても、リュウジが来る可能性が高くなる。
だから私経由でニーナちゃんを誘おうとしたってことじゃないかな?」
「どう?あってるかな?」
ホノカはいたずらっぽく笑った。
「だいたいあっている…だけどサラとニーナだけを会わせたいってわけじゃなくて、ちゃんとホノカにも紹介したいと思っていた。」
「そうなんだ…」
そして考えるそぶりをして、ホノカは言う。
「リュウジに知られたくない理由は聞いてもいいのかな?」
「ごめん…それは言えない。」
それだけは絶対に言えるわけがない。
「そっか…残念」
「すまない、協力してくれるのに。」
「ううん、いいよ別に。ロイ君からご飯誘ってくれたのはうれしいし!」
そしてホノカはハッとした表情を浮かべる。
「昼休みリュウジとニーナちゃんが離れる方法考えないとね…」
そこまでケアしてくれようとしてくるのか、気遣いの塊だな。
ただその点は問題ない。
「その心配はないよ、今日はリュウジはクラスメイトの男子と一緒にご飯を食べるから。」
「え?」
ホノカは驚いた表情を浮かべている。
「ロイ君がなんでそれを知っているの?」
しまった…今日リュウジは確かにクラスメイトと食堂に行って、ミズキと話す…
ゲームのシナリオではそうなっているが、その情報を出すのはまずかった。
「…昨日クラスでそういう会話を聞いただけだ」
苦し紛れの嘘でごまかすしかなかった。




