第7話:主人公が観測できないシナリオ
食堂から出た俺は廊下をのんびり歩いていた。
中途半端に食事したせいか空腹を感じるがしかたない。
『全くロイめ、ひどいやつだな…』
『僕はなにもしてないよ!?』
ロイをからかっててもしかたがない。一旦教室に戻るか。特に予定もないし。
踵を返して廊下を歩いていると、曲がり角から本の怪物が現れた。
下半身は人間、なぜかスカートを履いている、
問題なのは上半身だ。何冊もの本が積み重なり3M以上もの大きさになっている。
そしてそいつはそのままこちらにぶつかってきた。
本の雪崩に襲われ埋もれてしまう。
「いてて…」
本の怪物だと思っていたが、俺がぶつかったのはちゃんと人間だったらしい。
「大丈夫か?」
俺は女の子に手を差し伸べる。
「大丈夫だよー、前見てなくてごめんね。」
「前を見てないというより前が見えないだと思うけどな。」
俺の手を取った少女を、引き上げる。
「ありがと~ってロイ君?」
え?本の怪物の正体はホノカだったらしい。
「なんでこんなに本を持ってたんだ?」
さすがに女の子一人で持つ量じゃない。
「職員室に寄ったところ先生に頼まれてね。さすがに一回は想定してないと思うんだけど、めんどくさいから1回で運ぼうとしちゃった。」
てへっと舌をだしながら、落ちている本を拾っていく。大変そうなので、俺も手伝うことにした。
「半分持つよ。」
「え?そんな申し訳ないよ!」
「さすがに一人でこの量は放っておけない…」
「馴れあうつもりはないんじゃなかったの?」
ホノカがニヤッと笑っている。
「…えぇっと。」
まさかホノカにもいじられるとは思わなかった、悪い気はしないが。
「冗談だよ、ありがとう。優しいんだね。」
ホノカがちょっと顔をそむけた。
女性の優しいは特に褒めることがない時に使うものだと聞いたので、軽く流しておこう。
俺はホノカが持っていた本を半分ほど回収し、持つ。
「ん?」
何だこの重さ… これ女の子が持てる重さか?
そしてこんなイベントゲーム内であったか?
「もってくれてありがとー、これで前が見えるよ。」
ホノカの方は笑顔で持っている、さっきはこの倍を持ててたってことは…
「ホノカって力持ちなのか?」
「女の子にそんなこと聞く!?単純に身体強化魔法をかけているだけだよ。」
ホノカが頬を膨らませて抗議していた。
なるほど、ゲームでは各キャラ技や魔法を使っていたが身体強化魔法というのがあるらしい。
ゲームの戦闘中では常時使っているのか知らないが、ゲームではそんな説明がなかったので省略されているのだろうか。
魔法で補えるとなると、この世界では男女に身体能力差はあまりないのかもしれない。
ゲーム上のステータス見ても、ホノカの方がリュウジに勝る部分はあったし。
「そういえばリュウジとお昼約束してなかったっけ?」
教室でのやり取りを見られていたらしい。
「早く食べ終わってしまって、混んでたから外に出たんだ」
嘘は言っていない。
「ふーん?そうなんだ?」
ホノカもただの雑談として話を振ったのか、深堀はされなかった。
『なんというかホノカにはまともな受け答えをしているね。』
それはそうである。何せこんなイベント知らないのだから、どうしても素の自分に近い受け答えをしてしまっている。
それにゲームでのロイはシナリオライターが複数いるせいで、性格が安定しない。
ファンだとしてもロールプレイするのが難しいのである。
無言が続くのもしんどいので、今度はこちらから話を振ってみることにした。
「リュウジはニーナと今も楽しく食事しているんじゃないかな。」
「相変わらず仲いいね。」
幼なじみだから二人が仲いいの知っているか。
そう、リュウジは今はニーナと一緒に過ごしているんだ。
ゲームだとプレイヤーは主人公のリュウジ視点じゃないと『いつしぬ』の世界を観測できない。
つまりそれ以外の視点はブラックボックスと化している。
リュウジはこの時間ロイがなにをしているかを知ることはできないし、ホノカが今ここにいることも知らない。
原作同様リュウジはこの時間、ニーナと一緒に昼休みを楽しんでいるだろう。
その間ホノカが裏で教科書を運んでいたということなんて何も知らなかったし、知ることができなかった。
リュウジという人間が一人しかいない以上どうしようもないことである。
悲観的な見方をするならばリュウジがヒロインのだれかを幸せにしている間、別の誰かが不幸になってないとも限らないということだ。
そして今の状況、俺がホノカに接触してしまったことが、ゲームのシナリオに影響を与えるかどうか確かめようもない。
「また難しそうな顔しているね?」
ホノカが俺の表情を心配そうに見つめていた。
ちょっと考え過ぎたらしい。
「いや、やっぱちょっと重いなと思って。俺も身体能力強化の魔法使えたらよかったな…」
「あはは、でもロイ君も魔法は得意だよね?使えるんじゃないの?」
「どうなんだろう…?」
よく考えたら魔法ってどうやって使うんだ?
ロイとは自然と魔法の念話で話していたが、他の魔法はどうなんだ?
『僕だって身体能力強化の魔法くらい使えるよ!』
ロイが俺に語りかけるが両手が本でふさがっているため、俺の方から念話が送れない。
「魔法も得意不得意あるらしいからしかたないかもね。」
「そうなのか、俺は使えないかもなぁ…」
『あーもう!見てなよ!』
ロイがそう言った途端、腕から重みを感じなくなる。どうやら身体強化の魔法を使ってくれたらしい。
体の主導権は俺だが、魔法の主導権はロイ側にあるようだ。
「ホノカ、どうやら俺にも使えたようだ。」
「よかったー」
こういう風に好きなゲームのヒロインととりとめのない会話するの楽しいな。
ゲームファンとしては、一度は妄想したことのあるシチュエーションだろう。
「まっ、なくても余裕だけどな。ってうおっっと!」
といった瞬間腕に急な重みを感じる。危ない落とすところだった。
『余裕なんでしょ?だったら魔法いらないよね?』
ロイに根を持たれていたらしい、こういうところは歳相応の反応だな。
「やっぱ魔法なくてもいけるな!」
「お!すごい!男の子だねー」
そうやって雑談をかわしながら、ホノカと教室に向かった。




