第11話:主人公の友人として、そして悪役として
「ロイ、適当にかけてくれ。」
「あぁ…」
俺はダイニングテーブルの椅子に腰かける。
リュウジの部屋を見渡すと、見たことしかない景色が広がる。
内装は俺の部屋と同じだが、小物が多くて生活感がある。
ゲームではここが拠点だったもんな。
最後にプレイしたのは一か月前なのに、もう懐かしく感じてしまう。
『意外って言うと失礼かもしれないけど、とても綺麗だね。』
『多分ニーナが掃除しに来るからな…』
色々なことが変わってもそれだけは変わらない確信がある。
「ふふっ…」
俺は噴き出してしまった。
「なんか俺の部屋変だったか?」
「いや、懐かしくなってな。」
「…俺の部屋に来るの初めてだったよな?」
リュウジの問いかけに俺は答えなかった。
前世で俺はお前だったんだよと言っても信じてもらえないだろうしな。
今俺の目の前にリュウジがいる。
それが不思議な感覚だし、寂しくもある。
どうせ転生するなら、リュウジの方がよかったなとも思ってしまう。
「まぁいいや、腹減ったし食べようぜ。」
「そうだな。」
適当に学園の売店で買ったパンや飲み物を取り出す。
どうせなら温かい物を食べたかったが、こういう日があってもいいだろう。
俺は買ったサンドウィッチの封を開けて食べる。
レタスのシャキシャキした食感が楽しいし、ハムとよく合う、パンにマスタードを塗ってくれている心遣いもありがたい。
予想以上に学園の購買は素晴らしいものかもしれない。
俺は夢中で食べていたが、ふとリュウジの方を見てみる。
全然食事に手を付けていない。
そうなると相当な悩みなんだろう…果たして俺に解決できるのだろうか。
思春期の悩みであっても、魔法関連であっても答えられる自信ないぞ。
安請け合いはするものではないな。
話を聞く前から後悔はしているが、俺はリュウジを見捨てることはできないだろう。
シナリオ上ヒロインのみんなを助ける意味であってもそうだし、何より俺はリュウジの人柄が好きだ。
この男みたいに誰かと真剣に向き合って、絆を結べたらどれほどよかったことか。
まぁ今更前世の人間関係の後悔なんて、考えても意味がないのだが。
リュウジは黙っている。こちらから話を切り出すべきなのだろうか。
リュウジの顔を見つめるが、珍しく考え込んでいる様子だ。
『リュウジは大丈夫なのかな?』
ロイも心配しているようだ。
『もう少し様子を見よう、無理だと判断したら俺から切り出す。』
『わかった、まかせるよ。』
そして俺はちびちびとサンドウィッチを食べながら、10分ほど待った。
「あのさ、ロイ…」
「あぁ…」
リュウジが俺の方を見ている。どうやら決心がついたらしい。
「相談があるんだが…」
「わかった。」
俺に解決できるかどうかは別として、話は聞けるだろう。
「いや、よく考えたら相談というか…心配事というか…それに俺には直接関係ないからさ…」
いざ話そうとした途端、リュウジの歯切れが悪くなる。珍しいな、ここまでうじうじしているの。
「話せそうなら、とりあえず話してみるといい。意外と思考が整理されるかもしれないぞ?」
埒が明かないので、俺は助け船を出す。
「これから言うことは内緒にしておいてくれ。」
「…わかった。」
翌日言いふらされる前振りみたいなことを言ってきたが、おそらく真剣な話だろう。
だったら、俺とロイの心の内に秘めておこう。
だが、果たしてどういう悩みなのだろうか。
「実は…」
リュウジはまた言いよどむ。
俺は黙って待つことにした。
「実はニーナに好きな人ができたみたいなんだよ!」
「は?」
『え?』
なるほどなるほど、ニーナに好きな人がいると…
俺はリュウジに怒鳴りつけるのをぐっとこらえた。
惚気か?相談風自慢か?
ニーナが好きなのお前だろ?
なんだよ、ゲームの鈍感系主人公か?
いや、主人公なんだけど。
俺は頭を抱えた。心配した俺がばかだった。
「…時間の無駄だったな。」
俺は席を立ち、帰ることを決意する。
「待てよ!ロイ!それはねぇだろ!?」
リュウジは慌てて、俺に声をかけてきた。
どうやら本当に悩んでいるらしい。
「はぁ…」
仕方ない、話だけ聞いてあげよう。
ニーナがリュウジのことを好きだと認識しているのは、あくまでプレイヤー知識だしな。
現時点でニーナのリュウジに対しての好感度はほぼカンストしていると言っていいだろう、問題は義理とはいえ兄妹ということだけで。
そういうわけでリュウジの悩みは取り越し苦労なのだが、本人はわかってないらしいので話は聞いてやろう。
後は適当に悩みに対して、うんうん言っておけばいい。
「で?どういうところでそう思ったんだ。」
俺は席に座り直し、リュウジの話を聞くことにした。
「最近あいつなんかよそよそしいんだよ…
人混みを歩くとき手をつなごうって言っても、拒否しようとするし。
サラと服買いに行くっていうから、荷物持ちについていこうとしたら、服の時はいいって言われるし。
お風呂入る時はわざわざ自分の部屋に一回帰るし、それに…」
急にリュウジが饒舌に悩みを語り始める。俺は途中から聞くのを諦めた。
どう考えても惚気だろ、これ…
『ロイ、こいつ一発殴ってもいいんじゃないか?』
『いや、さすがに…でも…いややっぱりさすがに…』
リュウジの話はもう聞くだけ無駄だと思ったので、ロイと話すことにする。
そしてあの温厚なロイですら、今のリュウジの惚気に対して色々悩むレベルらしい。
「リュウジモタイヘンナンダナー」
俺は適当に相槌を打つことにした。
もうこれ以上は本当に時間の無駄だろう。
「そうなんだよ!この前なんか手紙を読んでて、俺が来た途端に手紙を隠そうとしてたんだぜ!
きっとラブレターか何かに違いない!」
ん?手紙?
リュウジの言葉に唯一引っ掛かる言葉が出てきた。
はて、なんでだろう。
『ニーナが隠したのはあれじゃないかな?この前話してた。見合いの誘いとか』
ロイが俺に語りかけてくる。
「あー…」
思わず声が出てしまった。
なるほど、たしかにそれなら合点がいく。
リュウジに余計な心配をかけたくない、ニーナの配慮だろう。
とはいえ自分で解決できそうにないから、カレーパーティーの片付けの時に俺にポロっと話してくれたんだったな。
「ロイ?何か心当たりがあるのか?」
リュウジは真剣な顔をして、身を乗り出してくる。
とはいえ、ニーナの秘密を俺が知っているのもまためんどくさいことになりそうだ。
俺は話を逸らすことにした。
「まぁ思春期だし、家族でも隠し事の一つや二つあるだろ?気にしすぎだろ。」
「そうかなぁ…」
「もう少し様子を見よう、時間が解決することもあるしさ。」
それにリュウジには今月やってもらわないといけないことがある。
悩んでいる時間がない。
「そうだな…」
納得したというより、諦めた様子で体を椅子に預ける。
「それよりもだなリュウジ…」
「ロイ…」
リュウジが俺の言葉を遮る。
どうやら話は終わっていないようだ。
「どうしたんだ?」
「俺が…」
リュウジはまた言いよどむ。
俺はリュウジを見つめ待つことにする。
「俺がニーナのことを好きだと言ったらどうする?」
リュウジの声はやや震えていた。そして俺を見つめる目にも恐怖が宿っている。
知ってた。というのは簡単だが、それは野暮だろう。
リュウジからしたら、大事な思いなのだから。
「そうか…」
俺は肯定も否定もしなかった。
「笑わないのか?義理とはいえ妹に恋心を抱いているって変だろ?」
「一般的ではないし、血がつながっていたら止めたかもな。」
リュウジの気持ちを肯定もしないし否定もしない。
俺が『いつしぬ』をやりこんだからと言って、俺がリュウジになったわけではない。
あくまでプレイヤーとしてリュウジを操っていただけに過ぎない。
リュウジが誰かのことをどう思っていたかなんて、あくまで推測でしかない。
勝手にわかるなんて言葉は使いたくない。
「俺から言えることは、あまり現実的ではないということだな。」
「…やっぱ義理とはいえ兄妹で恋愛なんて難しいよな。」
「多分俺が懸念していることと、リュウジの懸念していることはおそらく違う。
誰が何を言おうと恋愛は基本的に自由だ。」
そう問題は別にある。
「ロイが懸念していることってなんだ?」
リュウジの瞳に色が戻る。誰にも話せなかった悩みだろうしな。
「今回の一番の問題は、ニーナの魔法の適性だな。」
「…?それってなんか関係あるのか?」
どうやらリュウジはピンと来てないようだ。
「一応確認するが、ニーナの魔法の適性は土属性にあって、火属性の適性は皆無なんだよな?」
「あぁ、だから火の適性が高い俺が、カグヅチ家の養子として引き取られたわけだが。それが問題なのか?」
「それだけが問題なわけじゃないが、カグヅチ家にも問題があると言えばある。」
「うちの家の問題?」
六大貴族はそれぞれが各属性の魔法適性が高い名家の称号である。
本来それぞれが対等な関係のはずだが、六大貴族にも暗黙の序列がある。
六大貴族の中でも優秀な騎士や魔法使いを輩出している、ホノカやミズキの家は序列が高い。
そして養子が必要なくらい人材が足りてないカグヅチ家はだいぶ落ち目な方なのである。
余談だが、序列最下位は間違いなくうちのシャッテンスカー家だろう。ロイが現当主をしている位だし精霊もまともに使えない。
「要はニーナは政略結婚において、優良物件にも程があるということだ。」
火の魔法の適性がないだけで、魔法の才能はある。現カグヅチ家当主の実の娘で品行方正な性格。そして何よりかわいい。
家事も得意で気遣いもできるし、面倒見がいい。着やせしているだけでスタイルもいい。
俺がロイじゃなかったら、嫁にほしいくらいだ。
「現状のカグヅチ家の状況を鑑みると、他の六大貴族にニーナを嫁がせたほうがいいということになる。」
「なんか嫌な話聞いちまったな…」
リュウジががっくりと肩を落とす。
「まぁこれが現実だ。」
リュウジに受け入れてもらわないと始まらない。
「なぁ…ロイどうにかできないのか…?」
自分が置かれている現状を知り、藁にも縋る思いなのだろう、俺に助言を求める。
実際のところリュウジの悩みとニーナの悩みを同時に解決する方法はある。
リュウジ次第でもあるのだが。
「簡単なことだ、実力を示せばいい。」
「どういうことだ?」
六大貴族の序列といっても、ふわっとしたものであるし、今回序列一位を目指さないといけないわけではない。
「つまり、次世代の六大貴族の中で火の名家がトップクラスに強いということを示せばいい。」
ゲーム通りカグヅチ家、いやリュウジが俺たちの世代をけん引する。
そうなることで、ニーナの扱いも変わってくるし、二人が恋愛関係になっても困ることはなくなる。
元々カグヅチ家の当主の血を引いてるのはニーナの方だし、手放したくはないだろう。
「いいたいことはわかった、それで俺はどうしたらいいんだ?」
リュウジは俺の話を真剣に聞いていた。
俺の知っているリュウジが目の前にいる。
「数週間後に学園同士の魔法を用いた、実技大会がある。実技大会と言いつつ内容は1対1の決闘だ。」
「俺がその大会に出ればいいのか?」
「あぁ、六大貴族はほとんど参加することになるだろう。
だからリュウジ…その中で結果を残せ。」
「…わかった。」
リュウジが頷く。
そう、リュウジには結果を残してもらわないといけない。
何故ならそれがハーレムルートの条件の一つだからだ。
リュウジが決勝まで負けない、厳密には準決勝で戦う。
六大貴族の土の名家の一人、ニーナルートに密接にかかわってくる男ーー
『アレク・ロックハート』
リュウジには彼を倒してもらわないといけない。
仮にリュウジが負けると、裏でアレクとの婚約の話がニーナにやってくる。
ニーナの個別ルートだと、アレクとニーナの結婚式に乱入して、色んな立場を賭けてニーナに告白するリュウジが見れて好きなのだが…
ハーレムルートには関係ない、というか個別ルートに入ってしまうため、リュウジには勝ってもらうしかない。
それに俺もニーナのことは好きだが、それ以上にリュウジと一緒にいてほしいとプレイヤーとしては思う。
『ルートによってはニーナがロイとくっついたせいで、三日寝こんだことあるからな。』
『それは今僕に伝える意味ある…?知りたくなかったんだけど…』
『誰かには吐き出しておきたい気持ちがあるんだよ。』
「よくわからないけど、優勝すれば丸くおさまるってことか?」
リュウジの目は真剣だった。
負けられない理由を作ったことに意味はあったようだ。
今回のイベントに関しては、俺が介入しにくいしな。
リュウジにやってもらうしかない。
ただ…
「二位でいいぞ。」
「え?」
「優勝するのは俺だからな。」
そういって、俺はリュウジに向かって笑顔を向ける。
ここは悪役としてふるまわせてもらおう。
順当にいけば、決勝はロイとリュウジになる。
そして、どうやってもシナリオ上負けイベントとなり、ロイが優勝する。
ロイがプレイヤーから嫌われている理由の一つでもある。
「やるからには負けないからな!」
リュウジは俺とは違って、邪気のない笑顔で俺に言い放つ。
「あぁ、決勝で会おう。」
だとしたら俺は悪役として、リュウジを待つことにしよう。
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