第9話:ミズキに連れられて
「いらっしゃいませ!2名様でございますか?」
「えぇ。奥の個室は空いてますか?」
結局ミズキに連れられ、おしゃれな喫茶店に入る。
どことなくデジャビュを感じるが、気のせいだろうか。
『結局ついてきちゃったけど、よかったの?』
『…よくはないんだが、泣いている女の子を放置して帰るのもそれはそれで罪悪感がある。』
『それは…しかたないか…』
俺の意思が弱いのは認めるが、結局のところ好きなヒロイン達に誘われて拒むのが難しいのである。
その後自分の行動の矛盾に気づいて嫌気がさすのもセットなのだが。
ウェイトレスさんに奥の部屋に案内され、ミズキと二人で入る。
「この喫茶店は昔から通っていて、マスターとはちょっとした知り合いなんですよ。」
ミズキは説明しながら、俺に座るよう促す。
こういうのはレディーファーストとして、こっちがエスコートするんじゃないんだな。
仕方ないので、座る。
椅子がとても柔らかく座り心地がいい。いいお店だな。
そしてミズキも座るーー
俺の隣に…
待て、この席どう見ても4人掛けだぞ?
普通に対面に座るもんじゃないの?
なんで隣に座るの?
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「いつものを、彼のは普通ので。」
俺に選択肢はないのか?
「承知しました~」
そう言ってウェイトレスが去っていく。
『ロイ、これはどういう状況だ?』
『わからないよ…』
ロイもお手上げらしい。
「ロイ君、そんな警戒しないでください。こっちまで緊張してしまいます。」
そう言って、ミズキが俺に微笑む。
笑顔なのが逆に怖い。
「どうでしたか?演劇の方は。」
俺の緊張をよそに、ミズキは話しかけてくる。
『ロイ、なにかあるか?』
正直面白いと思ったが、あまり感想を言うのは得意じゃない。
そしてミズキが隣にいるという状況のせいで、頭が回らない。
『うーん、ストーリーと役者の演技がよかったかな。特にラストの駆け落ちシーンがよかった。』
『なんというか、普通だな…』
『しかたないだろ!?演劇は初めて見たし…』
まぁ俺も似たような感想だからしかたない。
「ストーリーと役者の演技がよかったかな。特にラストの駆け落ちシーンがよかった。」
せっかくなので、ロイの感想をそのままミズキに伝えてみた。
「ふふっ…」
ミズキは口元に手を当ててクスクスと笑う。
「そんなにおかしいか?」
「いえ、お手本のような感想が聞けましたので。」
いつもより口調は柔らかいがちゃんと煽ってくるのは変わらないらしい。
『だそうですよ、ロイ君。』
『ひどいなぁ…』
『まぁミズキはいつものことだ、気を落とすな。』
『僕はミズキに対していったんじゃないんだけどね。』
はて、どういうことだろう。
「ところで本当の感想は何です?」
ミズキが俺に問いかける。
「どういうことだ?」
「いえ、あまりそういう月並みな感想を言うように思えなかったので。」
ミズキは意味深に俺に笑いかける。
笑顔だけでこんなに種類があるんだな。
「ポップコーンがおいしかった…」
「ふふっ、色気より食い気ですか。」
またミズキはクスクスと笑う。心底楽しそうだ。
「悪かったな…あまり感想を言うのが得意じゃないんだ。」
「いえ、ロイ君の素直な感想が聞けてわたしは満足ですよ。」
前世からどうも言語化は苦手だ。
「おまたせしましたー」
いつの間にかウェイトレスが、注文したものを持ってきてくれた。
紅茶とプリンが二人分置かれる。
「それではいただきましょう。」
「…あぁ。」
プリンは俺とミズキで一つずつあるのだが、なぜかミズキのプリンにかかっているソースが黒い。
俺には普通のをって言っていたから、ミズキのは特別製なのか?
「気になりますか?」
ミズキが俺の視線に気づいたようだ。
「まぁ、気にならないと言ったら嘘になる。」
「そうですか。こちらのプリンのソースには東方の国の黒蜜を使っているんです。王都だとこの店でしか出さないんですよ。」
ミズキはうれしそうに語り始める。
「へぇ、甘くておいしそうだな。」
正直よくわかってないが、適当に相槌を合わせる。
「食べてみますか?」
そう言って、ミズキはプリンをこちらに差し出してくる。
「一口もらっていいか?」
せっかくなので、食べてみよう。お互いまだ口をつけてないし。
「はい、では…あーん。」
ミズキはプリンをスプーンですくい、俺の方に持ってくる…
なんで?どうして?Why?
この国はそういう文化なの?
「ロイ君、口を開けてくれないと食べさせてあげられませんよ?」
ぐるぐると思考を駆けめぐらせていた俺は、ミズキに窘められる。
俺が悪いの?これ。
「はい、あーん。」
「…あーん。」
俺はミズキの圧に耐えられず口を開ける。
スプーンがゆっくり俺の口に運ばれる。
「どうですか?」
やばい、緊張で何も味がわからない…
「どうやらお気に召しませんでしたか…」
どうやら俺の表情を見て、口に合わなかったのだと思ったらしい。
「いや、違う…」
「いえ、無理しなくても大丈夫ですよ。合う合わないはありますから。」
口ではそう言っているが、ミズキは少し寂しそうな顔をしている。
罪悪感がすごい。
仕方ない…ここは素直に伝えるか。本意ではないが。
「違うんだミズキ、緊張して味がわからなくなっただけだ。」
言っておいてなんだが、かなり恥ずかしいな。
「そうですか、ではもう一口たべてください。」
ミズキの顔に笑顔が戻り、またプリンをすくって俺の方に持ってくる。
え?もう一回するの?
「はい、あーん。」
「…あーん。」
諦めてまた食べる。
さっきと違って、プリンの滑らかさや黒蜜の甘さが口に広がる。
「おいしいな…」
「ふふっ、よかったです。」
自分の好きなものを認められたからか、うれしそうだ。
「それではもう一口どうぞ。」
そう言って、またミズキはスプーンを差し出す。
これ以上されたら、なんか癖になりそうだ。
「…あーん。」
俺は口を開けてスプーンを待つ。
スプーンは俺の口の前で止まりーー
方向転換してミズキの口の方に運ばれていった。
「ん、やはりおいしいですね。」
そう言って俺の方を見て笑う。
しまったはめられた。
「ロイスロット君、そんなにわたしにあーんされたかったんですか?」
いつものようにミズキはからかってきた。
俺は自分のプリンをミズキの方に差し出した。
「どうしましたか?ロイ君。」
「やるよ、好きだろ?プリン。」
ゲームの知識で、ミズキが1番好きな食べ物はプリンなのは知っている。
「よろしいのですか?」
「あぁっ…」
俺は色々察してしまった。
「ごめんなさい、ロイ君。」
「どうしたんだ?」
「演劇の感想を語りあいたいと言いましたが、あれは嘘です。」
ミズキは少し悲しそうな表情を浮かべる。
「本当はこの店のプリンをロイ君に食べてほしかったんです。」
「そうか…」
ゲームだと一枚絵だからわかっていなかったが、この店がどこなのかもわかってしまった。
そうだ、このお店はミズキとミズキの祖父との思い出の場所でありーー
ゲームだとリュウジとの初デートの場所である。
…だが、これ本来リュウジが来るはずの場所じゃないか?
どうしてこのタイミングでミズキが俺を誘ったのかはわからないが。
またシナリオから外れたことをしてしまったのではないだろうか。
「ここのプリンはおいしいんだが、いかんせんポップコーンを食べ過ぎてしまったからな…
せっかくだからミズキが食べてくれ。」
「わかりました。」
その後俺とミズキは授業のことや、休みの間何をしていたかの話をした。
ホノカとのことは、知られるのはよくないと思いしなかったが。
ミズキはとても楽しそうに色々な話をしてくれた。
気が付いたら紅茶はとっくに冷めていた。
「ロイ君、今日はありがとうございました。」
「こちらこそありがとう、楽しかった。」
二人でそのまま学園の方まで一緒に帰った。
辺りはもう暗くなり始めていた。
『ロイ、聞きそびれたんだが1個いいか?』
『ん?どうしたの?』
『この国って男女問わず、あーんするのは普通なのか。』
『…んなわけないでしょ、子供じゃないんだから。』
『やっぱりそうか…』
ミズキのからかい癖も困ったものだな。まだ思い出してドキドキする。
「どうですか、ロイ君。せっかくですから、このまま夕食も一緒にでも。」
「そうだなぁ…」
学園だとリュウジ達がいるし、気は進まないな。とはいえ、断る理由はどうするか。
考えていると、あっという間に寮についてしまった。
「お!ロイ!ちょうどいい所に来たな!これから飯食いにいかね?」
なぜかリュウジが寮の門の前で待っていた。




