第7話:主人公とヒロインと悪役で食事を
「ロイスロット君、お招きにあずかり光栄です。」
ミズキが満面の笑みで俺の部屋を訪れた。
どうやら、リュウジとはうまくいったようだ。
「はぁ…」
なぜかリュウジはテンション低いが、ミズキの笑顔を見る限りきっと仲良くなれたのだろう。
「来てくれてありがとう、ミズキ。何もない部屋だけど、くつろいでくれ。」
「えぇ、ロイ君が作る料理楽しみにしております。こちらお土産のクッキーです。」
そう言って、綺麗な包みを差し出してくる。
開けてみたら前世で言うなれば、銀の缶に入っているタイプのクッキーだ。
カレーの材料費より高いのではないだろうか、大丈夫か?
「ありがとう、大事にするよ。」
「そう言ってもらえるのもうれしいですが、さすがに食べてくれると嬉しいです。」
ミズキは手に口を当ててクスクスと笑っていた。何か知らないが受けたらしい。
「ロイ君、サラダ準備できたよー」
ホノカがキッチンから大皿を持って出てくる。
準備は整ったようだな。
「よし、ミズキも来たことだし。食べようか。」
「おぉ~!」
俺は6人分の米をよそって、カレーをかける。
せっかく作ったのに、今日一日でなくなりそうだな…
まぁいいか、みんな仲良くなるための必要経費だと思おう。
「へぇ、これがカレーか!」
リュウジが目を輝かせている。テンションが高くて何より。
問題は口に合うかどうかだな…
「冷めちまう前に、早く食べようぜ!」
「お兄ちゃんはしたないよ…」
まぁ、熱いうちに食べたほうがいいだろう。
「それではいただきます。」
「いただきますー!」
それぞれ食事の挨拶をし、スプーンを手に取る。
俺は味見をしているから大丈夫だが、果たして俺の作ったカレーはみんなの口に合うのか?
妙な緊張感が走る。
リュウジは一口食べて、また一口食べていた。終始無言である。
「ロイ…」
「どうだ…?」
「うまいな、これ…」
リュウジは信じられないものを見たような顔で言った。
そのまま黙々と食べ始める。
よかった…どうやらちゃんと口に合ったらしい。
「うん!おいしいよ!ロイ君。」
「これどうやって作るんですか!?」
味見をしていたホノカはともかく、ニーナの口にもあったようだ。
料理好きな人にそこまで言われると嬉しいな。
さて、問題なのはミズキとサラだ。
明らかに食が進んでない。
「やっぱ合わなかったか?」
隣にいるミズキに声をかける。
「いえ、おいしいとは思うのですが。あまり辛い物を口にしないので…すみません…」
だいぶ、辛くないように作ったが、ミズキも子供舌な方だからちょっと難しいか。
珍しくしおらしい態度をとっている。
とはいえ辛さだけが問題なら試してみるか。
「生卵を入れてみないか?辛さを抑えられるし。」
「生卵合うんですか?」
「おそらく…」
中世ヨーロッパ風なのにこの世界なぜか生卵が流通している。
実際学園の喫茶店にあるミルクセーキは、生卵が入っているのを確認しているが、どこで使い道があるのかわかってない。
でもこのゲーム世界の人間には不思議なことに生卵に抵抗がないようである。
「ロイ君のお勧めなら、試しましょう。」
そう言って、ミズキは皿をこちらに差し出す。
「じゃあ、入れるな?」
「えぇ…」
俺は卵を割り、カレーに落とす。
ミズキは丁寧にかき混ぜて、カレーを口に運ぶ。
「どうだ…?」
「はい、先ほどより辛さがマイルドになっておいしいです。」
そう言って、俺に微笑みかける。思わずドキッとしてしまう。
なんとかなってよかったな。
後の問題は、サラだな。明らかに辛い物苦手そうだし。
「サラ無理しなくて食べなくてもいいからな?」
「…」
サラは首を横に振るが、明らかに食事が進んでいない。
「大丈夫だ、辛いのが苦手ならしかたがない。サラダとかは食べたほうがいいと思うが。」
「…ごめんなさい…。」
サラは悲しそうな顔をする。こればかりは仕方ない。
「代わりにお米のおいしい食べ方を教えるよ。」
俺は生卵をとき、炊飯器から取り出したご飯にかける。
「ほら卵かけご飯だ。これなら食べられるだろ?カレーは俺が食べるから大丈夫だ。」
「ありがとう…」
サラは卵かけご飯を一口食べていた。
「おいしい…」
サラは俺に微笑んだ。ほとんど味付けしてない状況だがよかった。
今度醤油がないか探してみるか…
ピピーッ!と炊飯器が鳴る音が聞こえる。どうやらもう一つの方もできたようだ。
俺はキッチンから炊飯器を持って、ダイニングに戻る。
「ほら、サラ。デザートあるからご飯もちゃんと食べよう。」
俺は炊飯器を開ける。中にはチーズケーキが入っていた。
一時期、炊飯器でチーズケーキを作るのにハマっていたから試しに作ってみたが、この世界でもうまく作れたようだ。
「おいしそう。」
サラは物欲しそうにチーズケーキを見ていた。
「ご飯食べ終わったらな…」
「うん…」
サラも黙々とご飯を食べ始めた。小動物みたいなかわいさがある。
「ロイ…」
「ん?」
「ありがとう、大好き…」
うれしいが、お菓子一つでこんなに好感度上がるのは心配になるな。
「ロイ!おかわりしてもいいか!」
結構多めによそっていたのに、リュウジはあっという間に平らげていたようだ。
「あぁ、いいぞ…」
「よっしゃー!」
そうやってみんなで談笑しつつ、楽しく食事をした。
リュウジはずっとカレーに夢中だったが…
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楽しい食事会はあっという間に終わってしまった。
せっかく連休中にゆっくり食べようと思っていたカレーがなくなってしまったが、それもいい思い出だろう。
あの後、みんなが片付けを手伝ってくれて解散となった。チーズケーキはサラが残りを持って帰っていった。
「あのロイスロットさん、ちょっといいですか?」
みんな帰っていったと思ったが、珍しくニーナが俺に話しかけてきた。部屋は別とはいえ、リュウジと一緒に帰らないなんてことあるんだな。
「あぁ、どうしたんだ?」
「えっと、その…」
ニーナはうつむいてしまう。何か悩み事でもあるのだろうか。
「よし…!」
ニーナは両手の拳をぎゅって握って顔を上げた。
一体どんな言葉が飛んでくるのだろうか…
「ロイスロットさん、私にカレーの作り方を教えてください!」
「へ?」
「ダメですか?」
「いや、ダメじゃない。」
予想してなかっただけだ、イベントにもないことだがまぁいいだろう。
「了解、夜遅いから実演はできないが口頭でいいか?」
「はい!お願いします!」
そう言って、ニーナはメモ帳を取り出した。
俺は残った調味料を見せ、口頭で説明した。
元々料理をしているだけあって、ニーナは二、三質問しただけで納得していた。
「ありがとうございます!今度作ってみますね!」
「あぁ、リュウジも喜ぶと思う。」
リュウジがおいしそうに食べてたから、作ってあげたいと思ったのだろう。
義兄思いの優しい子だ。
「えぇ、おにぃ…兄と過ごせるのもそう長くないでしょうから。」
「え?」
「私、もう親から色んな人に見合いを提案されているんです…学園を卒業したらおそらくは…」
そう言ってニーナは顔を伏せる。
「なんというか、早くない?」
「私はカグヅチ家では、落ちこぼれですから…
火の魔法は一切使えないですし。そういうことでしか、カグヅチ家に貢献できません。」
ニーナは悲しそうに呟く。
ニーナの適性は土魔法にあるからな。しかも将来的に土の精霊と契約を結べるほどの才能を持つ。
残念だが、六大貴族の各家はそれぞれの適性と精霊の力を使える人間が当主になる。
リュウジとニーナが義理の兄妹なのにも、そういう背景がある。
リュウジは元々カグヅチ家の人間じゃない。火の魔法の適性が高いから養子になっている。
基本的には魔法の才能は遺伝するらしいが、ニーナに火の適性がないため跡継ぎにはなれないということだ。
だがおかしい、ニーナの婚約イベント周りの話はもう少し後のはずである。
それにニーナが婚約者に悩まされるのも、ニーナの個別ルートだけだ。
ハーレムルートだと婚約者騒動はそもそもなかったことにされる。
色んな人から見合いの話が来ているという情報も気がかりだ。
俺の知る限り相手は一人だけのはずだが、見合いだから色々話が来ているのか?
現時点ではシナリオの不整合なのか、ゲーム通りだがリュウジが知りえない話が裏で動いているのか判断がつかない。
だが、ニーナに婚約者ができることなんてあってはならない。
ハーレムルートに行ってもらわないといけないからな。
「嫌なら、断ればいい。」
「でも…私は…」
わかっている、今言っても気休めにもならないだろう。自分だけでなく家の問題だからな。
だが、ニーナにはこんなところで折れてほしくない。シナリオ上まだ大丈夫かもしれないが。
「リュウジがいるから、カグヅチ家は大丈夫だ。なんとかなる。」
「ですが…」
ニーナはスカートの裾をぎゅっと握っていた。
「それに神官目指しているって言っただろ?まだ今は勉学や興味あることに集中した方がいい。」
「…」
「結婚するにしても学園卒業してからだろうし、時間が解決するかもしれないし、別の何かがあるかもしれない。」
ニーナはうつむいたまま聞いている。
ミズキの時みたいに俺の想定通りにシナリオが進むとは限らない、だが…
「きっと大丈夫だ、今時政略結婚なんて流行らないしな。今は学園生活を楽しんだ方がいい。」
俺がなんとかする。たとえどんな困難があっても、ハーレムルートまで持っていってやる。
「…私帰ります。」
ニーナはそう言って立ち上がる。俺の言葉は届かなかったかもしれない。
仕方ない、現状ニーナにとって俺は兄の友人でしかない。
「今日はありがとうございました、ロイスロットさん。また料理教えてください。」
「…あぁまたな。」
ニーナはそっと扉を閉めて出て行った。
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