第6話:シナリオにはない合同イベント
「ふぅーやっと着いた!お疲れ様、ロイ君!」
「あぁ…お疲れ。」
王都から学園の寮まで帰ってきた。
その間ホノカと話していたので退屈はしなかったが、さすがに疲れた。
一日中対面で人と話す経験はほとんどない。
人としてボロが出ないか冷や冷やしっぱなしだった。
「ごめんな、ホノカ。荷物まで持たせてしまって。」
「ううん、全然大丈夫だよー」
さすがに調子に乗って色々食材やら調味料を買い過ぎてしまった。
結局ホノカに持たせてしまうことになってしまった。反省だ。
「これ、ロイ君の部屋まで持っていくね?」
「え?さすがにそこまでは…」
持とうと思えば全部持てる量だし、それに女の子を部屋にあげるのはまずい…
ホノカはヒロインなわけだしなおさらだ。
「やっぱダメかな?」
ホノカは困り眉を浮かべてこちらを見つめていた。
どうしてもこういう表情されると断れなくなる。
まぁ部屋で見られて困る物はないが。
「別にいいが、もてなしもできないぞ?」
学生寮に備え付けてある、家具一式しかないためお茶も出せない。
「大丈夫大丈夫、男子寮がどうなっているか気になるし。」
ホノカはそう言って俺の荷物をぎゅっと抱きしめて、ウインクをする。
俺は諦めてため息をついた。
これはもう連れて行くしかないな…
「…ここが俺の部屋だ。」
「お邪魔しますー、おぉちゃんと片付いているんだね。」
ホノカは入って俺の部屋をきょろきょろと見回す。
「片付いているんじゃなくて、何もないだけだよ。」
「床とかもきれいだし、ちゃんと掃除はしているみたいだね。」
それはロイがうるさいからな…
こまめに掃除をする習慣がついてしまった。
両手がふさがっているため、ロイに軽口も叩けやしない。
「じゃあこれはキッチンまで持っていくね。」
「あぁ、ありがとう。」
そういってテキパキとホノカは食材を運んでくれた。
「それで、ロイ君は何を作るの?」
「うっ…」
なるほど、それが知りたくてわざわざここまで来たのか。
手伝ってくれた手前、ここで説明しないのも気が引ける。
ホノカにはもう剣の練習にも付き合ってもらう約束をしているわけだし。
ホノカの方が上手だったってことだ。
諦めてここは説明するしかないか…
「…カレーだよ、カレーを作りたいから色々買ったんだ。」
「カレー?異国の料理の?」
「あぁっ…」
よかった、一応カレーの概念はちゃんとあるようだ。
日本人が作ったゲームだから存在するとは思っていたが、世界観がやっぱりわからん。
『ロイ、もしかして異国の料理を作ったら何かしらの法律に引っかかったりするのか?』
『聞いたことはないけど、そもそもそれいいはじめたらお米だってだめだろうし。ただカレー?を作るの?』
『あぁ、前世だと得意料理のうちの一つだしな。』
『そうなんだ、楽しみにしているね。』
さすがに杞憂のしすぎだったらしい。これで心置きなくカレーを作ることができる。
「見たことないんだけど、どうやって作るの?」
「基本具材を炒めて煮て、後は特製のソース?と言えばいいのか、それを作る。それを白米にかけて食べるんだ。」
「へぇ!そうなんだ!」
ホノカが目を輝かせて、運んでくれた食材を見ていた。
俺が思ってた以上に興味があるようだ。だったら…
「どうせなら作るところ見ていくか?面白いかはわからないが。」
「うん!手伝うよ!」
ホノカは満面の笑みを浮かべていた。
俺は早速ホノカに説明しながら、カレーを作っていった。
「よし、できたぞ…」
「おぉー!いい匂いだね。」
軽く味見をしてみたが、うんおいしくできた。
『これがカレーなんだ。』
『あぁ、久しぶりにスパイスから作ったがうまくいってよかったぜ。』
この世界にもカレー粉自体や、カレールーが流通していたらもっと楽できたのだが…
まぁスパイスから作るのも嫌いではない。
ある意味転生してから一番前世の知識が役に立っているのでは…
いや、考えるのはやめよう。
「ホノカも食べてみるか?」
「いいの?!」
「あぁ、手伝ってもらったんだし、食べたいならどうぞ。」
味見用の皿から、作ったカレールーをホノカが舐めている。それだけの仕草がなぜか様になっている。
「うん、おいしい。もっと辛い物だと思っていたけど、そうでもないんだね。」
「あぁ、やろうと思えば辛くはできるんだが…
俺は辛くない方が好きなんだ。」
「そうなんだ!うん、おいしいよ。」
ホノカは目を閉じて、味の余韻を楽しんでいるようだった。
そしてホノカは頷き、目を見開く。
「ロイ君…」
ホノカが俺を見つめる。
それ以上の言葉は必要なかった。
「わかったよ…食べていくか?」
「いいの?」
「どうせたくさん作るんだ。大丈夫だよ。」
「ありがとう…」
「こちらこそありがとうな。」
「え?」
今日はホノカに手伝ってもらったし、これからも頼ることになった。
なにより自分が作ったものを食べたいと言ってくれるのはうれしい。
なんだかんだ素敵な一日になった。
「ロイ君、それってどういう…」
「ロイ!お邪魔するぜ!」
ホノカが何かを言いかけていたが、突然俺の部屋の扉が開く音がした。
扉の方に視線をやると、リュウジが笑顔で俺の部屋に入ってきていた。
「お兄ちゃん、部屋に入る前にノックくらいしないと…」
「迷惑…」
リュウジの後ろにニーナとサラがいた。
どうやらシナリオ通り3人で遊んでいたらしい。
ただ、なんというかタイミングが悪すぎるな…
リュウジに内緒で、ホノカを部屋に招き入れている状況…
何かしらの罪に問われるのではないだろうか。
「やぁ、3人ともどうしたんだ?」
まだホノカが俺の部屋にいることはバレてないようだ。
ここはうまく立ちまわるしかない。バレたらあらぬ誤解を受けそうだ。
「ロイ!これからみんなで飯行かないか?」
なるほど、もう今日はイベントもないからご飯を誘いに来てくれたのか。
気持ちは本当にありがたいが、如何せんタイミング悪すぎる。
「ありがたい話なんだが、今日はもう作っててな… また誘ってくれないか?」
結構多めに作ったから、全員誘えるのだが
ホノカと一緒にいることを、リュウジに知られるのはよろしくない。
ここは断るしかない。
「そうか…残念だな、わりぃまた今度誘うわ。」
「あぁ、誘ってくれてありがとうな。」
そういって、三人とも部屋から出て行く。
ふぅ、これでなんとかなったな。と思った次の瞬間。
ピピーッ!ピピーッ!と甲高い機械音が鳴った。
「きゃっ!?」
ホノカの悲鳴が聞こえる…
俺は急いでキッチンに入って、ホノカを探す。
「ホノカ、大丈夫か!?」
「ロイくん!あれ!」
びっくりしたのか、ホノカは俺を見かけるなり抱きついてくる。
ホノカの感触を振り切り、俺はホノカが指さした方を見る。
あれは…炊飯器?
どうやらお米が炊けた音がなっただけらしい。
よかった…流通してない魔道具だからびっくりさせてしまったようである。
「大丈夫だよ、ホノカ。」
そう言って声をかける。
「そうなの?」
「あぁ…お米を炊く魔道具だ。害はないよ。」
それを聞いてホノカは胸をなでおろす。
「ロイ!?大丈夫か!?」
音を聞きつけてリュウジが帰ってきた。
俺を探して、そのままキッチンの方まで入ってくる。
「ん?ロイにホノカ…?何をしているんだ?」
「え?ホノカさん」
リュウジ、ニーナ、サラにホノカと一緒にいる所を見られてしまった。
何て最悪なタイミングで入ってくるんだよ、お前は。
「な、なんでもないんだよ!」
ホノカもあわてて俺から離れる。
まずい、何か言い訳を考えないと。
「あぁ、ちょうど今日買い物の帰りにホノカに会ってだな。
俺が料理するから興味を持ってついでに手伝ってもらってたんだ。」
俺はホノカに目配せする。
「そ、そうなんだよ~。偶然ロイ君と会って、料理を手伝って。ついでにご飯をごちそうになろうかなって…」
ホノカの目が泳いでいる。嘘つくの苦手そうではあるが。
「ふーん?」
リュウジは鍋の方を見ていた。俺が何日分も作っているから、カレー用の大きい鍋を今回使っている。
リュウジはすねたように俺を睨んだ。
「ホノカはよくて、俺はだめなのか?」
「それは…」
リュウジは悲しそうな顔を浮かべる。
いや、そこじゃないだろ。ホノカと俺が一緒にいる所に嫉妬しろよ。
大丈夫だろうか、この主人公。
「ロイ、やっぱ俺達も一緒に食べちゃダメか?」
リュウジが俺に追撃をしてくる。どんだけ一緒に飯を食べたいんだ?
「お兄ちゃん急に言ったら迷惑だよ、それにホノカさんだって多分…」
ニーナがリュウジを止めようとしてくれている。よし、チャンスだ。このまま便乗させてもらおう。
「それに、今回作ったのカレーなんだ。初めて作ったし、口に合うかわからないからさ。」
「え?カレー作っているんですか!?」
ニーナが身を乗り出してきた。
まずい、ニーナは料理好きだからそっちに興味が湧いたのか。
とはいえ、ニーナは兄を窘めた手前食べてみたいとは主張できずにいるようだ。
いい子ではあるが、なんというか難儀な性格だな…
俺は一度天を仰いだ。
もうこうなったらしかたない…
このまま全員が交流するイベントにしてしまおう。
ゲームではこの日のリュウジは買い物に行った話しか描写されてなかったし、影響はないはずだ…
「わかった、みんなで食べよう…」
「いいのか?」
「あぁ、でも口に合わなくても知らないけどな!?」
「おう!大抵のものはおいしく食べられるから大丈夫だ!」
リュウジは笑顔で言う。
たしか偏食家だけど、食べようと思えば食べれるんだよな確か。
「ごめんなさい、ロイさん…」
ニーナは申し訳なさそうに謝ってくる。相変わらずいい子だな。
「サラも大丈夫か?」
「…ロイがいいなら。」
サラは俺を見て少し微笑んでくれた。うれしいようでよかった。
だとしたら、やることを増やそう。みんなが楽しめるように。
「すまないが、ニーナとホノカとサラはサラダを用意してくれないか?」
「はい!わかりました!」「任せて!」「…」
三者三様な返事をもらう。正直サラダを作るのは苦手なので、任せたい。
「なぁ、ロイ…俺は何をすればいい?」
「大丈夫だ、お前にはちゃんと任務がある。」
「そうなのか?」
「あぁ…お前にはミズキを呼んできてもらいたい。」
「え?ミズキも誘うのか?」
「いや、一人だけハブるわけにはいかないだろう?」
ここでリュウジがミズキを誘ったら、その分好感度を稼げるかもしれないしちょうどいい。
「わかった、誘ってくる!」
言い終わるや否や、リュウジは部屋から出て行った。
よし、こうなるともう一品作るとするか。
俺はもう一つの炊飯器を準備した。




