第4話:偶然の邂逅:ホノカ・ワーデンノール
馬車に揺られ一日半途中で盗賊やモンスターに襲われる…
なんてこともなく無事王都にたどり着いた。
王都はロイの領地と違い、人も多く市場で活気づいていた。
『人が多いね。』
『そのうち慣れるさ。』
結局どこでも住めば都だ。
前世だと田舎から上京して、初めて渋谷の交差点を見たときはビビった。
人類はまだこんなにも生き残っていたのか、という謎の感想を抱くくらいには。
ゲームの知識を活かして学園まで行こうとしたが、詳細な地理はわからない。
『ロイ、王都に来たことはあるのか。』
『小さいころに何回かだけ、案内はできないよ。』
『了解、わかった。』
これから過ごす街だのんびり覚えていければいい。
俺たちは大通りを歩き、駅へとたどり着いた。
王都と学園では魔道車という魔法で駆動する汽車みたいなものがある。
王都までは馬車で移動なのに対して文明レベルが違いすぎやしないか。
そういうツッコミどころも含めて、俺はこのゲームを気に入っているとも言えるのだが。
『すごい技術だね、学園まで1時間もかからず着くなんて。』
『全くだな。』
内装も前世のころ使っていた電車に似ている、個室があるタイプではなさそうだ。
混んではいるが、空いている座席があったので座る。
左も右も対面にも制服を身に着けているものが多い。
『当たり前だが、学生でいっぱいだな。』
『学園には学生寮もあるけど、王都住んでる人や下宿している学生は魔道車で通うらしいよ。
僕たちは学生寮だけどね。』
『休日は学生が王都に遊びに行くせいで、混みそうだな。』
魔道車が動き出す、王都内の何駅か止まり終点が学園らしい。
俺はボーっと窓の外を眺める、サラリーマン時代は憂鬱なものだったが、今は旅行気分で内心ワクワクしていた。
しばらくすると駅に止まり、降りる者乗る者で人でごった返し椅子取りゲームが繰り広げられる。
学生服を身にまとう若者がほとんどだが、中には杖を突いている老婆がいた。
どうやらもう空いている席がない。
どうせ1時間もかからずに、学園にはつく。
だったら…
「こちらにお座りください。」
俺は立ち上がり、老婆に席を譲る。
「いいのかい、坊や。」
「はい、慣れてますから。」
「ありがとう、若いのに立派だね。」
席を譲っただけで、そこまで褒めてもらえるとは譲りがいがあったもんだな。
『大丈夫なの?学園までまだ時間あるけど。』
『あぁ、サラリーマン時代は戦場に行くために2時間魔道車内で立つことが多いからな。』
『サラリーマンって過酷なんだね…』
満員電車じゃないだけましだ、あれは本当にストレスでしかない。
前世での記憶を思い出し、げんなりする。
俺は老婆から少し距離を置いて立っておく。
席を譲って気を使わせたくないからな。
つり革はちゃんとあってよかった。
「そこの男!おばあさんにではなく、私に譲りなさい!」
甲高い声で呼び止められる。
編み込まれた、緑色の髪ちょっときつめな目つき。
一般的には美少女なんだろうが、第一印象はよろしくない
「すみません、どちら様でございましょうか。」
誰かはわからないが、穏便に済ませたい。
公共の場で口論等他の乗客には迷惑でしかない。
「あなた名門である『ゲイルイーグル家』をご存じでないの?」
はて、ゲーム内でそんな家名あったか?
『ゲイルイーグル家は風魔法の名門の一つだね、六大貴族の分家にあたるはずだよ』
『ちなみに彼女は面識がないね。』
なるほど、風魔法の名門か。
その情報と彼女の声的に後々でてくるモブ少女のことだろう。
そうなるとまだ彼女にも役割がある、なおさら事を荒立てたくはないな。
「すまない、ご存じでない。
それに君はまだ若いんだから30分くらい立てるだろ。」
「私に使用人と同じように立てというの!?あなたどこの底辺貴族よ。」
なるほど、この世界では貴族は座り、使用人は立つのが列車でのマナーらしい。
周りを見渡すとたしかに、席を立っている人達は俺以外は制服を着ていない。
『どうするの?こちらも身分を明かせば相手も黙って引き下がるとは思うけど。』
ロイの言うことも一理ある、だが目立つような真似は避けたい。
家名を使って、別の貴族と敵対するのもよろしくないだろう。
それに老婆が何者かはわからないが、ロイの現在の身分的に席を譲られて気持ちよく座ることができないだろう。
郷に入っては、郷に従えともある、こちらの世界のマナーに準じておくべきだったが。
思考を回転させているが、なかなか結論が出ない。
「坊や、気持ちだけで十分だよ。
ありがとね」
老婆はそう言って立ち上がろうとするが、その時…
「リゼ・ゲイルイーグルさん。こちらの席に座って。」
「「え?」」
俺とリゼと呼ばれた少女の言葉かぶる。
腰まで長いピンクブロンドの髪に、大きな瞳、目を奪われるような顔立ちと制服越しでもわかるスタイルの良さ。
俺はこの娘を知っている、知らないはずがない。
「ホノカ…」
そう、『いつしぬ』のメインヒロインの一人で、主人公の幼馴染――
『ホノカ・ワーデンノール』
俺にはあって、彼女にはない思い出の数々が蘇る、緊張で思考が止まる。
「あ、あなたは光の名家であるホノカ様!?わざわざ私のために席を立つなど」
リゼの甲高い声により現実に引き戻された。
「座りたかったんでしょ?私は大丈夫だよ。」
「ですが、六大貴族の方に席をお譲りしていただいては…」
「いいからいいから。座って、ね?」
有無を言わせない、笑顔なのに笑っている様子が微塵も感じられない。
「はい…」
リゼはそそくさと席に座る、さすがは六大貴族圧力がすごい。
そのままホノカは俺の隣に立ち、
「君すごいね。
年上の人に席を譲るなんてなかなかできることじゃないと思うよ。」
自然に話しかけてきた。
なんでだ?
「あ、当たり前のことをしただけだ、他意はない。」
緊張でどもってしまった。
『まずい本物のホノカだ…』
『本物って何さ?偽物もいるの?』
もちろん偽物なんてものは存在しないが、画面越しで見ていた彼女が今隣にいるのだ、慌てないほうが無理じゃないか?
近くで見ると本当にかわいいし、隣に立っているせいでちょっと彼女の体温を感じてしまう。
「どうしたの?私の顔になにかついてる?」
「あ、いや…」
どうやら見とれていたらしい。
「じーっ」
彼女も見つめ返してきて、そして
「もしかしてロイ君?」
小首をかしげながら、俺を見つめてそう言った。
「あぁ…そうだが…」
「よかった!見た目変わってたから全然気づかなかったよ!」
そう言って笑顔で語りかけてくる。
まぶしい、太陽の権化かな?
さて、ここで疑問が一つ。
『ロイとホノカって面識あるのか?』
『六大貴族は社交パーティーで顔あわせるから、みんな顔なじみだと思うけど。
ホノカさんはよくわかったね。
僕は小さい頃しか参加してないから気づかなったよ』
俺はゲームの知識でホノカを知っているからいいが、それくらいの面識でよくホノカはロイだとわかったな。
ゲーム内で1番社交的で友達も多い優等生キャラってのもあるのだろうか。
「ロイ君、このまま学園に向かうんだよね?一緒に行こうよ。」
「え?」
俺の知らないイベントが始まった。
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電車を降りたら、目の前には大きな学園が存在した。
「これからここで勉強するんだねー」
ホノカが楽しそうに笑っている。
『原作通りだな、聖地巡礼ってこういう気分なのか。』
『聖地?正教の聖地なら別の場所のはずだけど。』
『すまない、こちらの話だ。』
カメラがあったら間違いなく撮っていったであろう。
ゲームで見たまごうことなき、俺の知っている学園だ。
「学生寮までは同じ道だから一緒に行かない?」
ホノカが誘ってくる。
正直あまり関わるのはよくないが…
「あぁ。」
考えていることとは別の言葉が口からでしまった…
ロイになったとはいえ、前世で俺が彼女のことを好きなのは変わらない。
断る理由を探すのも難しいし、聞きたいこともあったので一緒に行くのが正しい。
そう自分に言い聞かせた。
「桜がきれいだね。」
「壮観だな。」
通学路では満開の桜が出迎えてくれていた。
舞い散る桜と彼女の桃色の髪が映える。
「数日で散ってしまうのがおしいな…」
「それも桜のいいところだよ。」
とりとめもない話をしているだけなのに、なぜか心地いい。
延々とこういう会話しててもいいが、気になることがあるので聞く。
「ワーデンノール嬢、1個聞いてもいいか?」
「ホノカでいいよ、どうして急に他人行儀になるの?」
ムッとした表情で俺に問いかける、罪悪感でさすがに逆らえない。
「すまない、ホノカ1個聞いていいか?」
「なになに?どうしたの?」
「カグヅチ…
いやリュウジとは一緒じゃないのか?」
ゲームの主人公『リュウジ・カグヅチ』とホノカは幼馴染で家同士も仲がいいはずだ。
だったら一緒にいるものかと思ったが…
「え?リュウジ?久しぶりに王都に来たから、ニーナちゃんと一緒に買い物していくって。」
「そうだったのか…」
知らなかった。
『いつしぬ』のストーリーの開始は入学式からの描写だから、今日リュウジが何をするのかすらわかってなかった。
「どうしてそんなのこと聞いたの?」
「いや幼馴染だし、一緒にいるものかと。」
とはいえリュウジらしい行動だな。
ちなみにニーナはヒロインの一人でリュウジの義妹だ。
「幼馴染だからっていっつも一緒なわけじゃないよー」
「そういうものなのか?」
「そういうものだよ。」
現時点でリュウジとホノカの仲は友人以上のものはないか。
これから学園で接点はいっぱいあるし、そこでリュウジとは友情から愛情に代わることもあるだろう。
「私とリュウジの間になにもなくて安心した?」
「ん?」
安心したとは?くっついてもらわないと困るんだが
「いや、安心はできないな。」
ホノカのためにもリュウジとは仲良くなってもらないと、俺が安心できない。
「ふーん。」
彼女はにやりと笑って、先に歩き出す。
何やらご機嫌のようだ。
俺とホノカは学生寮の前までつく、寮は男女別のためここからは別行動だ。
「残念だけど、ここまでだね。
もっと話したかったけど。」
「学年一緒だし、これから話そうと思えば話せるだろ。」
「もーわかってないなぁ。」
ホノカは文句を言いつつも、笑っている。
「ちなみになんだがホノカ、使用人は連れてないのか。
六大貴族が誰も連れてないのは珍しいのでは。」
「え?うん、自分の力で生活してみたくて、学園内は治安もいいからね。」
やはりここはゲーム通りか、確認できてよかった。
そしてやはり俺の知っているホノカが、今目の前にいる。
「ロイ君も連れてない見たいだけど。」
「あぁ、あまりお金がなくてね。
自分のことは自分でできるし。」
『言っておくけど、使用人を雇うお金はあるからね!』
ロイから反論される、それは申し訳ない。
「あはは…それは大変だね…
もし何かあったら相談してね、できることなら力になるからさ。」
「その際はよろしく頼む。」
「うん、これから学園でよろしくね!」
ホノカは手を振って女子寮へと歩いて行った。




