第3話:学園入学に向けて
「本当によろしいのですね?ロイスロット様。」
「あぁ、思いっきりやってくれ。」
というわけで俺は、ロイの見た目を改善することにした。
まずは長すぎてうっとうしい髪を領地内の美容師に切ってもらうことにした。
ゲームのロイも短髪な方だったし、俺としても今の状況は違和感がある。
『こちらとしても助かるよ、髪を切る暇もなかったし。』
『研究バカも考え物だな。』
チョキチョキとハサミの音が部屋にこだまする。
「すまない耳は髪にかからないように、もみあげも短めに、あと前髪も切って梳いてくれるとうれしい。」
「かしこまりました。」
前世でも髪型はそこまでこだわりがなかったが、記憶の限りロイの髪型を再現しよう。
「いかがでございましょうか。」
1時間程経ち、美容師から鏡で髪の様子を見せられる。
「ありがとう、いい感じだ。」
首元がだいぶ涼しくなってよかった。
ゲームのロイがこういう髪型で助かった。
「他に何かご入用でしょうか。」
「そうだな、眉も整えてくれないか。
あとは目の下のクマを隠す顔料みたいなのがあるとうれしい。」
中世ヨーロッパ風の世界だし、コンシーラーが存在しないまたは体に有毒だったりするかもしれないが尋ねてみる。
「顔料ではないですが、最近だとオーヒュードル家が開発した魔法を使ったスライムで化粧するのが流行ですよ。」
スライムかそういう使い方もあるんだな、こういうところでファンタジー感を出されるとは思わなかったが。
それにしてもオーヒュードル家か。
『スライムを顔につけて人体に影響はないんだよな?』
『オーヒュードル家の研究なら大丈夫だと思うけど、そこまでする必要はあるの?』
『見た目の第一印象が大事だぞ?サラリーマンなら必須テクニックだ。』
『サラリーマンってなにさ。』
会話の中で日本語は自然に通じているが、そういう用語は通らないらしい。
『俺たちの世界で言う戦士の名称さ。』
『へぇ、そんなすごいことをしていたんだね。』
『まぁ末端だったけどな。』
自分のため大切な人のため家族のため、時間と労働力をお金に換えるサラリーマンは立派な戦士といえるだろう。
異論は認めない。
まぁ生前そんな相手いなかったが。
「スライムか、おもしろそうだ。
試してみたいのだが手持ちはあるかい。」
「えぇ、ありますが…
男性の方はあまりそういう化粧は行わないのですがよろしいでしょうか。」
「あぁこれからは男性もそういう気遣いが大事だと思うし、あまり気にしないよ。」
「素敵な心掛けだと思います、使い方を教えますね。」
そう言って瓶をとりだし、使い方をレクチャーしてもらう。
「ありがとう、これで胸を張って学園に通うことができるよ。」
「はい、ロイスロット様とても見違えました。
このような仕事ができとても光栄です。」
リップサービスの可能性もあるが、やはりロイは領内だと慕われている様子のようだ。
やはりゲームのイメージとは違う。
髪を切ってもらった後、俺はロイの自室で過ごしていた。
試しに部屋の本棚から一冊手に取ってみて読んでみた。
だが未知の言語が羅列されており読めなかった。
現地の人間とは日本語で話せているのにどういう理屈なのだろう。
ロイに読み上げてもらえば何とかなると思うが、本一冊読み上げてもらうのも酷だろう。
文字の勉強は今後の課題としておこう。
これからの学園での勉学を思い、憂鬱な気持ちになっていると、扉からノックの音が聞こえる。
「ロイスロット様、学園の入学の件で話があります。」
「入ってくれ。」
じいやが部屋に入ってきた。
「ロイスロット様、ご立派な姿に…
じいや感涙物ですぞ。」
「じいや…」
髪切っただけで大げさすぎやしないか。
「これまで迷惑をかけたね、じいや…
これで堂々と学園に行けるな?」
「はい、学園では立派に勉学に励みつつ、将来の良き妻を見つけられますよう心より応援しております。」
良き妻?はて?
『もしかして、学園って婚活の場でもあるのか?』
『そういう面もあるみたいだよ、王族だったり僕たち六大貴族だと政略結婚もあるみたいだけど
うちは落ちぶれている身だから、あまり期待できないんじゃないかな。』
なるほど、ゲーム内で貴族設定のくせにやたら自由恋愛だなこいつらと思っていたが、そういう側面もあるのか。
だったら、あとは主人公をアシストしつつヒロイン達にくっついてもらえばいい。
「馬車を手配しましたので、明日から学園に迎えますぞ。」
「わかった、ありがとうじいや。」
「制服も式典用の礼服も我が領内で最高のものを準備しましたぞ。」
「手際がいいんだな。」
ありがたいことだが、いかに使用人といえどここまでやってくれるものなのだろうか。
そう考えているうちにロイから頼まれごとをされる。
『これから僕の言葉をじいやに伝えてほしい。』
「じいや折り入って頼みがあるんだが。」
「なんでございましょう。」
「僕がいない間屋敷と領内の統治は任せた。
基本的には役所の人間や自警団の現場判断に委任すると伝えてほしい。
だけどもしもの時はよろしく頼む。」
ロイの言葉をそのまま口にする。
「私にそんな大役…
それに学園に同伴する使用人はどうするおつもりですか。」
「じいや以外に頼める人はいないよ、それに使用人を連れて行くつもりはない。」
「ですが六大貴族とあろうものが、使用人を連れてないとなると…」
「お願いじいや、僕は僕の力で切り開きたいんだシャッテンスカー家の未来を。」
「…わかりました、謹んで不在の間この家を守ります。」
ロイの言葉を受けてじいやはうなだれながらも、承諾した。
『ごめんね、勝手に決めてしまって。』
『ロイが決めたことだし、俺には政治がわからないから別にいい。』
前世だと一人暮らしが長いので、使用人がいなくても俺は生きていける、学園には食堂もあると記憶している。
それに、ロイがバッドエンド以外の道を歩むのであれば数年以内に死ぬ可能性が高い。
ロイが不在時の段取りを先に決めておいた方がいい。
翌朝、学園へ向かう馬車が来ていた。
これから俺たちは学園に向かうことになる。
やっと前世で培ったゲーム知識を活かせるのではないだろうか。
彼らと出会い過ごすことにわくわくしつつも、その後の未来が頭によぎり憂鬱な気もちになる。
だがロイと同じく、俺も彼らの幸せを願っている。
妥協をするつもりはない、やるならゲームの主人公とヒロインたちのハーレムルートだ。
みんなを俺が幸せにする。
心に誓って、屋敷の玄関をでる。
使用人たちが待ち構えていた。
「ロイスロット様、おたっしゃで。」
「体には気を付けてください。」
笑顔で挨拶してくれる者、涙を浮かべている者、多種多様だ。
間違いなく感じるのは、ロイに対する好意だ。
「ありがとう、みんな行ってきます。」
今生の別れになるかもしれない挨拶をして、馬車に乗る。
馬車は少しずつ走り出し、学園の方へ向かう。
街道を通っていると、領民や自警団と思しき人たちが声をかけてくる。
「ロイスロット様、がんばってください!」
「ロイスロット様の門出に万歳!」
あまりにもたくさんの人がロイに対して声をかけてくる。
『みんなに慕われているじゃないか、今までどんなことをしているんだ。』
『え?わからないよ、僕は魔法の研究しかしてなかったし、政治はじいやや現場の人たちに任せていたから。』
素っ頓狂な声で返される。
それにしてはあまりにも慕われすぎている気がする。
ゲーム上での印象とはかけ離れた言動、そして領内での人望。
とても悪役とは思えない。
ロイスロットお前は一体何者なんだ。




