第2話:二人で一つの朝食を
身勝手な行動で主人公たちに迷惑をかける屑、散々ストーリーをかき回した挙句何も成し遂げられずに死んだ雑魚。
残念ながらこれがゲームファンの間の一般的なロイスロットの評価である。
ここまで嫌われている最大の理由は、ただ死ぬだけでなくヒロインまで道連れにしてしまうことだ。
その上で各ヒロインの個別ルートに入ると、別のヒロインがロイを好きになる。
そして彼の死自体、ゲームのシナリオに直接関係ない。
俺は嫌いではないが、嫌われる理由もよくわかる。
「おはようございます、ロイスロット様。」
食堂にいくまでの廊下で何人かの使用人とすれ違う。
みんな笑顔なところを見ると、どうやらロイは使用人から慕われているらしい。
「おはよう、今日もありがとう。」
『珍しいですね、使用人にまで挨拶するなんて。』
『そんなものなのか?』
貴族の作法はわからないが、挨拶をされたら挨拶で返す。
お礼と挨拶は安売りしてもいい数少ない言葉だと思っている、感謝の気持ちは大事だ。
『救世主様はすごい方なのですね。』
そもそもなんだ救世主様って。
呼ばれ慣れてなさすぎて、鳥肌が立つ。
こういうのは早めに言っておくことが大事か。
『ロイ、まず敬語で話すのはやめてくれ、俺はそこまで立派な人間じゃない。
そしてその救世主様って呼び方もやめてほしい。』
『ですが、あなたは救世主として。』
『いらない、これから俺は君の体を使って余生を過ごすんだ、一心同体の相手にずっと敬語使われる方が疲れる。』
『わかりました… いや、わかったよこれでいい?』
物分かりがいいやつで助かる、だがとてもじゃないが悪役には向かないな。
そう会話しているうちに、食堂にたどり着く。
「おはようございます、ロイスロット様、どうぞお入りください。」
使用人によって扉を開けてもらい、中に入る。
食堂は広いが、過度な装飾もなく落ち着いた内装になっていた。
六大貴族という設定の割には、質素すぎるともいえるが倹約家なのかもしれない。
事情があるのかもしれないし、本人には言わないが。
「おはようございます、食事のご用意ができております。おかけになってお待ちください。」
先ほどじいやが席を引いてくれる、礼を言い俺は椅子に掛ける。
『そういえばじいやって名前なんだ?』
『えぇと…なんだっけ…いっつもじいやって呼んでたから忘れちゃった。』
さすが貴族というべきなのか、使用人の名前を覚える価値もないというのか。
じいやこんなにいい人そうなのに。
内心同情してしまった、じいやには中身を悟られないよう立ち回ろう。
そして俺もロイに名乗るのはやめておこう。
名乗っておいて、忘れられるのは悲しいからな…
「私はうれしいですぞ、ロイスロット様が外に出て食事をしてくださるなんて。
朝は食べないか、お食事をお部屋まで運ばないと食べてくださらなかったのに。」
じいやがハンカチで涙をぬぐっている。
『その歳で引きこもり生活とはなかなかやるな。』
『仕方がないじゃないか、魔法の研究で忙しかったんだから。』
気持ちはわからなくもないが、一緒に食事をしてくれる人がいるなら食べておいた方がいいと思う。
…とは考えてみたものの、他は使用人だから一緒の席で食べることはないのか。
そうこうするうちに、食事がテーブルに運ばれてきた。パンとスープのみだ。
元の世界では朝食は摂らない習慣だったので、これくらいの量がありがたい。
「王立魔法学園への入学が近づいてきましたな。
亡き父君母君も喜んでおられましょう。」
じいやがしみじみとつぶやく。
そういえば、ゲームをプレイしていてもロイの家族に言及はなかったな。
一応確認しておこう。
『ロイ、この屋敷お前以外に家族はいないのか?』
『そうだね、闇の一族であるシャッテンスカー家は戦争の影響でもう当主の僕しかいないんだ。』
『そうだったのか…悪いことを聞いたな。』
『もう数年前のことだからね、大丈夫だよ。』
ロイはさらっと流したが、話を聞いているうちに厄介なことに気づいた。
俺が知っている情報はあくまで、学園入学後ゲームの主人公を通してのロイだ。
入学以前のことは何も知らない。
ゲーム上で語られていないからだ。
『それよりも今後のことだよ。
さっきも言った通り僕は学園生活を通じて、学友達を殺してしまうらしい。
だからその未来を変える手助けをしてほしいんだ。』
ロイにとって過去のことよりも、未来の方が大事らしい。
そちらの方が俺も協力できるからいいのだが。
『いつしぬ』の主人公やヒロイン達は俺にとっても恩人みたいなものだし。
死ぬ未来なんてみたくない。
だから…
『召喚されたからには、お前の友達は幸せに導いてやる。』
『うん…お願い。』
協力することにする。
『だがあくまで俺流でやらせてもらうからな。』
『うんそれでいいよ、最悪な未来を回避してくれるなら。』
ハーレムルートに行くために、不審な行動しないといけないときがあるからな。
それを止められたら、どうしようもない。
だからここで言質はとっておく。
『契約成立だな、ちなみに学園の入学までどれくらいなんだ。』
『三日後だと思うけど。』
なんだって…もう三日後本編始まるの?
『なあ、ロイ… こういう転生物って数年の猶予をもらえるのがお約束じゃないのか?』
『どういうお約束なのさ?』
予想より時間がなさすぎた…
俺はパンとスープを残さず食べきる。
『学校生活楽しみだなぁ、久しぶりに外に出るし。』
『あぁ、そうだな…』
俺は返答に迷った。
ゲームの主人公やヒロイン達に会えるのはもちろん楽しみだ。
だがこの先の未来、自分が死ぬ可能性だってある。
ロイの何気ない一言でそれを自覚してしまった。
だが、このまま何もしないわけにはいかない。
もうさっそく動かねば…
「じいや悪いが用意してもらいたいものがある。」
時間がないのであれば、その中でできるかぎりの準備だけ行おう。




