第1話:二人で一つの転生
もし残りの人生で1本以外のゲームができなくなるとしたら、君は何を選ぶ?
俺は…
一度考えてみてほしい、朝起きて鏡を見たらいつもと違う顔が目の前に現れたときの衝撃を。
「¢£%#&□△◆■!?」
声にならない声を出してしまった。
しかも、その声すら自分の知っているものとはかけ離れていた。
違う顔違う声、だがこの人物の出で立ちを知っている。
「ロイスロット…」
そうこの顔は俺が人生で一番愛したゲームで見た…
恋愛シミュレーションRPG「人はいつか死ぬ<<5つの願いと5色の魔法>>」
通称「いつしぬ」や「いついつ」で略される。
そこで俺はゲームの主人公ではなく、悪役であるロイスロットになっているようだ。
黒目黒髪幸薄そうな顔でミステリアスな雰囲気がある。
ゲームでは短髪だったはずだが、今は腰近くまで髪が伸びている。
それに、目の下のくまがひどい。
それに、メガネなんてするキャラだったっけ。
「それでもなんかイケメンなのが腹立つな…」
見れば見るほど顔立ちが整っている。
ちゃんとおしゃれしたらどうなることやら。
それにしても…
「よりによってロイになるとは…」
ロイスロット・シャッテンスカー、通称ロイ
『いつしぬ』の主人公のライバルキャラではあるが、ゲームファンの間では賛否両論なキャラである。
正直転生するなら主人公だったり一般モブになった方が楽しく生活できる自信はある。
ところで、なんで俺はこの状況をすんなり受け入れられるんだ?
転生物のアニメや小説の見過ぎだろうか。
たしか昨日までの記憶は仕事での帰り道、同僚と歩いていたら車に轢かれそうになりそして…
『どうやら成功したようだね。』
頭の中で声が響く、そしてこの声は。
「ロイスロット・シャッテンスカー!?」
思わず叫んでしまう
『そうだけど、自分の口から自分の名前を呼ばれるのは違和感があるね…』
俺は確信してしまう、どうやら俺は本当にロイスロットに転生してしまったらしい。
ん?だが、ちょっと待ってほしい。
「転生して元の人間の人格が残ることってあるのか?」
『初めてこの魔法を行使してみたけど、残らないものなの!?』
「俺の世界では聞いたことないな。」
色んな異世界転生物やゲームキャラに転生する作品は読んだりしているが、
そのパターンは読んでない、読んだことがないだけで探せばいくらでもあるのだろうが。
『どうやら私が未熟なばかりに失敗してしまったようだね…』
残念そうな声が脳に響く、少々不憫だ。
「いや俺たちの世界の約束事みたいなもんだから、成功失敗ではないと思う。」
当たり前だが異世界に転生する経験は、俺の人生にはない。
「ロイスロット様!大丈夫でございましょうか!?先ほどから何か叫ばれておりますが!」
と、部屋に初老の男性が駆け込んでくる。
はて?誰なのだろう?
『じいやめ、相変わらず過保護だね。』
ロイスロットは知っているようだった。
たしか設定上ロイスロットは貴族だから、使用人なのだろうか。
「すまない、じいや ちょっと寝ぼけていただけだ。」
この人の名前はわからないが、ロイスロットの声を参考にそう言っておく。
自分の状況を把握することが先決なので、ここは早めに退出してもらおう。
「ですが、いつも夜遅くまで魔法の研究をされているご様子。
体調がすぐれないのでしたら、医者と薬を手配いたしましょう。」
なるほど、ロイスロット曰く過保護というのは本当らしい。
『少し二人で話がしたいからそれは困るな。』
ロイスロットが脳内で呟く、この場合二人というか一人というかどっちが正しいのかわからないが、状況整理は必要だ。
「大丈夫だ、じいや。心配してくれてありがとう。」
過保護ではあるが、心配してくれているのは確かだ。
ここは感謝の気持ちだけ受け取っておこう。
「承知しました。朝食を後程お持ちいたしましょう」
「いや、大丈夫だ。少し遅れるがこちらからいく。待てるだろうか?」
ロイスロットと話すために今は部屋には誰も入れたくない、独り言が激しい少年の図は他人から見たらそれこそ心配になるだろう。
「わかりました、それではロイスロット様をお待ちしております。」
そういってじいやと呼ばれた人物は退出していった。
「それではロイスロット、説明をしてくれないか。」
第三者からみたら、鏡に向かって自分に質問している奇怪な状況だ。
『どこから説明すればいいかわからないけど、魔法を使い僕が君を召喚した。』
なるほど、俺は自分が異世界転生したと思ったが実際のところは召喚されたらしい。
とすれば、何かしら目的があるはずだ。
ゲームのロイスロットだったら、もしかしたら気まぐれで人を召喚する可能性も否定できないが。
聞いてみないことには始まらないか。
「さすがに遊びで召喚したわけではないよな?なんで俺は召喚されたんだ?」
『それは…』
ロイスロットはいい淀む。
『逆にわからないのかな?僕が君を召喚した理由が。』
異世界転生ではなく、わざわざロイから俺を召喚した理由?
ロイスロットが少し間を置いて語りだした。
『僕はここ数年予知夢を見てきたんだ、全部同じ夢だ。』
『僕が僕以外の六大貴族達を皆殺しにする夢だ。』
『そこで僕は魔法を研究して数年、ようやく作れたんだ。この世界の理から外れ、僕を助けてくれる救世主を召喚する魔法を。』
なるほど、そういうことか。
ようやく合点がいった、ロイスロットが見た夢はおそらくこのゲームでのバッドエンドの展開だ。
つまり、ロイスロットはそのバッドエンドを見たうえでそれを防ぐ方法を考えたのだろう。
その結果が今俺の身に起きていることか。
好きなゲームの世界に来れたからと言って、ロイスロットになれてうれしいかどうかは別問題だな。
「ちなみになんだが、その未来を回避さえすれば俺は元の世界に帰れるのか?」
『ごめんなさい…自分の都合のことしか考えてなかった…現状召喚した人間を元の世界に戻す方法はない…』
ロイスロットの申し訳なさそうな声が脳に響く。
「それにいいのか?どうやら体の主導権は俺のようだが、
なんとかしないと残りの人生、俺に好き勝手されて生きることになるぞ?」
『本当は召喚後脳内でアドバイスをいただいて、僕が解決する予定だったんだけど…
作った魔法が不完全だったようです…』
どういうおっちょこちょいだよ、不確かな要素に人生賭けすぎだろ。
『それでも僕は彼らを殺すという未来は避けたいんです…彼らはどう思っているかわかりませんが、僕にでも優しくしてくれた友達ですから…』
はて?俺の知っているロイとは違うな。
六大貴族つまり主人公とヒロインの面々は社交界で知り合いなのはたしかだが、
ロイスロット自身にそこまで主人公やヒロインたちに思い入れがあったのか?
ゲームでの主人公がロイと関わることはそこまで多くない。
そのため、俺はロイスロットがそういう思いを秘めているとは知らなかった。
そしてロイスロットの言うことが正しいのならば、俺が介入しなければ彼らはバッドエンドを迎え、死ぬことになる。
それだけは原作ファンとしても避けたい。
俺にとって『いつしぬ』は人生の一部みたいなもんだからな。
だとしたら取れる選択肢は一つだ。
「わかったよ、俺にできることがあるなら協力する。」
俺にできるかは知らないが、頼られることは嫌いじゃない。
『いつしぬ』はかなりやりこんでいるので、前世の知識を使えばバッドエンド回避も不可能ではないだろう。
『いいの?』
「どうせ元の世界に帰れないんならしかたのないことだろう?だったらこっちの世界で楽しむさ。」
それに……
「元の世界に未練なんてものはないしな、しいていうなら前の世界で俺は親より先に死んだことになるってくらいだ。」
『それは…ごめんなさい…』
ロイスロットの声のトーンがさらに落ちる、さすがに言い過ぎてしまった。
「それよりもさ、これなんとかならないか、このままだとお前と会話するときひたすら独り言を話すやばいやつになるんだが。」
これ以上、ロイが自分を責めないように話題を変える、後悔先に立たず、なってしまったものはしかたないのである。
『それでしたら、魔法で思考をリンクするのはどうでしょう、思いついたことを言葉を介さずに伝えられますし。』
「いやさすがにそれはやめておこう。」
いくら前世では年を取って落ち着いてきたとはいえ、これからゲームのヒロインたちに会うのだ。
俺が彼女たちをどういう目で見ているかまで伝わるのは、さすがにまずい。
思考の源泉かけ流しなんて、もらう側も送る側もきつすぎる。
そしてロイスロットのこの発言で確信した。
今俺が頭の中で考えていることはロイスロットにはわからないようだ。
『だったら、私に何か伝えたいことがある場合は手のどこかを唇に当ててください、その間だけ念話で会話できるようにしましょう。』
できるようにしましょうって言ってできるものなのかそれは…
『魔法を生成しました、試してみてください。』
俺は左手の人差し指を唇に当ててみる、そして。
『マイクテスマイクテス』
『なんですか?それ。』
『俺の世界のテスト方法だ、深い意味はない。』
『どうやら成功したみたいですね。』
良かった、これなら独り言が激しい人から、パっと見物思いにふけっている人になった。
『これから話すことは色々あるが、まずは朝食へ行こうと思う。』
『そうですね、じいやがうるさいですから。』
『これからよろしく頼むなロイ。』
『よろしくお願いします。救世主様。』
そうやって俺は唇から指を離し、立ち上がる。
よかった、悟られていないようだ。
ロイ、お前が見た夢はお前が助かる唯一の方法だった。
バッドエンド以外の道を進んだ場合、ロイは死ぬ。
各ヒロインの個別ルートだろうが、主人公がハーレムルートを歩もうが、
どの未来へ行ったとしてもお前は死ぬ。
それを俺は意図的に隠した。
ロイが心変わりを起こさないとも限らないからだ。
『いつしぬ』のシナリオ上、個別ルートだとロイだけではなく、他のヒロインも死ぬ。
それを避けるためには、ゲームの主人公にハーレムルートを築いてもらうしかない。
そしてそれが何を意味するかも。
言葉にできない感情を抱えつつ、俺は部屋から出た。
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