第34話:エピローグ②:みんなを守った代償
「なんといいますか…とても青春しておりますね。」
ミズキが俺に話しかけてきた。
どうやら俺とホノカのやり取りを見ていたらしい。
そうだった、ミズキが隣のベッドにいるんだった。
よく考えたらこういうのって男女別ではないのか、ゲーム世界だしそこはあやふやなのだろうか。
俺はミズキの方を見る。
ミズキはホノカから受け取った本を読んでいた。
真剣に本を読むその姿はとても美しく見えた。
思わず見とれてしまう。
「どうかしましたか?シャッテンスカー君?あまり見られると読みにくいのですが。」
ミズキは視線は本のまま、ポツリとつぶやく。
「ミズキ…」
俺は彼女の名前を呼ぶ。
何を伝えよう?
君が無事でよかった。
危険な目に合わせて申し訳ない。
強がっているだけで、どこか痛い所があるんじゃないか。
いくつか選択肢は浮かぶが、言葉に出てこない。
ミズキと話したいと思うが、これ以上俺がヒロインと距離を詰めていいのかという考えが浮かんで勇気がわかない。
お互い沈黙が続く、ミズキのページをめくる音だけが響く。
「はぁ…」
ミズキはため息をつき、本を閉じる。
そして俺の方を向く。
やはり嫌われたのだろうか?
矛盾しているようだが距離を詰めるのも怖いが、それ以上に嫌われるのも怖い。
ずっと好きだったゲームのキャラクターの一人なのだ。嫌われたくない。
「シャッテンスカー君。」
ミズキが俺の顔を見つめる。
一体何を切り出すのだろう…
「昨日は助けてくださり、ありがとうございました。」
いつの間にか、ミズキはベッドの上で正座してこちらを向いていた。
「シャッテンスカー君が助けてくださらなかったら、わたしは今頃…」
「ミズキ…」
ミズキは小さな拳をぎゅっと握っていた。
「今回の件は全部わたしのせいです。自分の才に自惚れてシャッテンスカー君に決闘を挑んだこと。
その後再戦を果たそうと課外授業で無理なルートを提案したこと、
シャッテンスカー君が事前に注意しろと言っていたのに、ジャドの進言を採用してしまったこと。
わたしがすべての元凶です…」
ミズキはぽつりぽつりと懺悔するかのように、俺に言葉を紡ぐ。
その言葉がナイフのように俺の心に刺さる。
「ミズキは悪くない…」
そう言うことが俺の精一杯だった。
「ですが…」
ミズキの言うこともわかる。
だが、俺はそれを認めたくなかった。
「ミズキは悪くない!」
またそう言って、俺はミズキから目をそらした。
ただ『いつしぬ』というゲームのシナリオの中でミズキは踊らされただけだ。
ミズキの選択に責任があるなんて言いたくない。
「それに俺がもっとうまくやっていれば、みんなを危険にさらすこともなかった。
すまない…」
俺だけがこの世界の未来を知っている。
だとしたら、もっとうまくやれたはずだ。
シナリオを変えずにみんなを危険な目に遭わせない、そんな方法が…
「なぜシャッテンスカー君が責任を感じるのですか?」
「…」
言えなかった。怖かった。
原作のリュウジのハーレムルート遂行のために、みんなの危険を事前に取り除いておかなかった…
そのことを知られたら、みんなに幻滅されるのではないか。
俺さえいなければ全てがうまく回るのではないか。
そういう結論になることが、怖くて怖くて仕方ないのだ。
「何度も言うミズキは悪くない、これは俺がうまくやればなんとかなったんだ…」
いっそすべてを言えば楽になるのだろうか。
堂々巡りの思考が止まらないでいた。
「"ロイスロット君"、こっちを向いてください。」
ミズキは優しく俺に声をかける。
振り向くとミズキが目の前まで近寄っていた。
綺麗な瞳でこちらを見たまま、俺に微笑みかけていた。
「ロイスロット君。」
ミズキは両手で俺の頬に触る。
ミズキの体温を感じる。
「わたしも断言しますが、ロイスロット君のせいではありません。
ジャドの件といい、事前にロイスロット君が何かを知っていたのかもしれませんが、
それはロイスロット君が、すべて解決しないといけないという意味ではありません。」
さっきまで辛そうな顔していたミズキが、とてもやさしく慈愛に満ちた表情を浮かべていた。
「ロイスロット君が何を背負っているのか、わたしにはわかりません。
ただ今回はまだわたしもカグヅチ君達もロイスロット君の信頼を勝ち取れていなかった。
そういうことではないでしょうか。」
「それは…」
ミズキはただただ優しく俺の頬をなで続ける。
「みなさん今回の件で自分の無力さを実感したと思います。
ですが、わたし達の学園生活はまだ始まったばかりです。
これからいくらでも成長できます。いや、します。
いつかはロイスロット君と肩を並べることもできるかもしれませんし、あるいは追い越せるかもしれません。」
「あぁ…」
俺が知っているミズキだった。ゲームでもそしてこの世界でも変わらずに彼女はいた。
彼女にそう言ってもらえるだけで、浄化されそうな気持になる。
俺がここにいていいんだというそういう気持ちに。
「ではこうしましょう、今回の件ロイスロット君のせいではありませんし、わたしのせいでもありません。
反省すべき点はそれぞれありますが、誰のせいでもない、そういたしませんか?」
じっとミズキは俺の目を見ていた。
何も解決になってはいないが、その一言で俺は救われた。
「ありがとう、ミズキ…」
俺は泣きそうになるのをぐっとこらえた。
泣いてしまったら、ミズキにすべてをぶちまけてしまいそうになる。
俺は君たちを幸せにしたい。その気持ちは変わらない。
だから、この気持ちと背負っているものは墓場まで持っていこう。
ミズキは俺の頬から手を離した。
「ロイスロット君、それでは約束通り魔法談義をしましょう。」
「え?」
「昨日約束したじゃないですか、帰ってきたら魔法談義するって。」
「たしかに言ったが、今か?」
「えぇ、夜は長いですし、それに先ほども言いましたがわたし達には信頼関係が足りないと思うのです。
わたしのことをロイスロット君に知ってほしいですし、わたしもロイスロット君のことが知りたくてたまらないのです。」
ミズキは両手で俺の右手を握る。
「わかった…」
なんかずるいな、こうなると断れない。
『ロイ、すまないが頼む。』
『わかったよ、でもよかったみんなのおかげで元気になって。』
『気を遣わせてすまない。』
『ううん、僕もなんて言葉をかければいいかわからなかったからごめんね。』
ロイにも心配かけていたようだ。
いつのまにかこんなにも俺のことを心配してくれる人が増えたんだな。
「ふふっ」
ミズキが笑う。
「なにかあったのか?」
「いえ前から思っていたんですけど、ロイスロット君考え込むとき唇に手を当てる癖があるなって。
気づいたらついおもしろくなって、笑ってしまいました。」
「そういうことか。」
「ただ、わたしとしては好きな癖なのでできれば、やめないでくださると助かります。」
そう言って彼女も唇に人差し指を当てて俺にウインクしてくる。
ミズキがやると様になるな、あとかわいい。
『やっぱ鋭いね…彼女。』
『あぁ。』
敵には回したくないな。
こうしてロイを仲介しながら、ミズキと魔法談義を行った。
残念ながら、俺にはさっぱりだったから、ロイにほとんど任せる形になったが。
そうしているうちに夜も更けていきーー
「ふわぁ…」
ミズキがかわいいあくびをあげていた。
「すみません、もうこの時間には寝ているものでして。」
ミズキが眠たそうにまぶたをこすっていた。
「いい時間だし、そろそろお開きにするか。」
「残念ですが、そうですね…」
ミズキは名残惜しそうに、自分のベッドに戻っていく。
「それではおやすみなさい、ロイスロット君」
「あぁ、おやすみ…ん?」
ミズキの積まれた本が目に入る。
一冊だけピンクと黒の背表紙の本があった。
あれってもしかしてリュウジが持ってきた本では…?
ホノカ、没収した際にそのまま持ってきた本と一緒にミズキに渡したな…
まずい…あの本がミズキの目に入るのは教育上よくない。
いや、ミズキも今は同い年ではあるのだけど。
「ロイスロット君、本が気になるのですか?」
俺がミズキの持っている本に興味があるのがうれしいのか、身を乗り出してくる。
「いや…その…」
そっち系の本が目に付いたからなんて言えない…
「わたしはもう寝るので、貸しておきますよ?どれですか?
王国史ですか?王都密室殺人事件ですか?それとも水魔法理論応用学ですか?」
意外とミズキは濫読家のようだ。俺には何一つわからないが。
「いや、そのピンクと黒の表紙の本を、そのままこっちに渡してくれないか?」
このままミズキの目に入らないようにするしかない。
「何でしょうこの本?最近話題のファンタジー小説とかでしょうか。女性のイラストが表紙ですし。」
ミズキが不思議そうに表紙を見ている。まずい…
「ま、まぁそんなところかな。悪いけど、借りるよ。」
そう言って、俺が本を手に取ろうとしたが…
「ロイスロット君が興味を持つ本が気になりますので、少し読ませてください。」
そう言って、ミズキが先に手を取り読み始めた。
「あっ…」
時すでに遅し。
ミズキはページをめくるたびに表情から笑顔が消えていき、そして…
「ホノカさんとの関係を考え直さないといけませんね…
仮にも病人にこんな本を持ってくるだなんて…」
そうだった、ホノカがリュウジから本を没収したときミズキはまだ寝ていたのだった。
「誤解なんだ!ミズキ!!」
俺は必死にこれまでの経緯を説明した。
どうやら信じてくれたらしく、ミズキはやれやれと頭を振り…
「つまりこの本の内容がわたしの目に入らないようにするために、この本を欲しがったと。」
「はい…そうです…」
なぜか俺が怒られているような形になって理不尽だ。
「では、別にロイスロット君はこの本を読みたかったわけではないんですね?」
「……はい…」
「なんですか…?今の間は。」
いや異世界のそういう本って興味あるんだもん。
そういうのを読みたいというより、どういう内容なのかは知的好奇心が騒ぐ。
決してやましい気持ちがあるわけじゃない。
「仕方ないですね、はい。」
ミズキは俺に向けて本を渡す。
「あぁ、ありがとう。」
俺は本を受け取ろうとするが、なぜかミズキは本を放さない。
「ミズキさん?」
「…ロイスロット君はカグヅチ君に無理やりその本を渡されたんですよね?」
「ソウデスヨ。」
そういうことにしてもらおう。
「つまり、読まないんですよね?その本を。」
「ハイ…」
「読まずにリュウジさんに、突き返してくださいね?」
ミズキの笑顔が怖い。
「ハイ、アシタリュウジニコノホンヲカエシマス。」
有無を言わせない笑顔だった。
「そうですか…
そういうお年頃なのでしょうが、やはり気を付けてくださいね?」
そう言って、ミズキは手を放した。
残念だが、仕方ない。明日ちゃんとリュウジに返そう。
「ふわぁ、さすがにねむります。おやすみなさいろいすろっとくん。」
眠気が限界なのか、ミズキの呂律が回らなくなってきている。
「ロイでいいぞ、毎回呼ぶのめんどくさいだろ。」
「とてもすてきななまえだとおもいますが、これからはそうよばせていただきます。
ふふっ…とのがたをあいしょうでよぶなんてはじめてです。」
ほぼ目を閉じた状態で、ミズキが言っている。
相当眠いらしいな。
「おやすみなさい、ろいくん。またあした。」
「あぁ、また明日…」
ミズキは既に寝息をたてていた。
『悪いな、ロイ。
本当は1番会話しないといけなかったのに。』
一人になり、眠気もまだこなかったので俺はロイに話しかける。
『ううん、色々解決してよかったよ。お疲れ様。』
『あぁ、お前のおかげでなんとかなったよありがとう。』
『…僕の魔法がもっと強ければ、ここまで君に苦労させることはなかったのに。』
『ミズキも言ってただろ、もう誰のせいじゃないよ。問題はこれからのことだ。』
『わかった、ありがとう。これからどうするの?』
『一旦は自分磨きだな。体力も魔力も自己研鑽で地道に伸ばしていこうと思う。』
あてはないが、剣術等も習って、戦闘技術を磨いておきたい。
『闇の精霊の力をもう借りたくはないからな…』
『そうだね…』
あの力は強力だが、代償がある。
そして精神も闇の精霊の影響を受ける。
まだ推測の域だが、ゲームのロイスロットが悪役になってしまったのもその影響が強いのだろう。
じゃないと、ゲームのロイスロットと今俺が話しているロイの性格の違いが説明できない。
『闇の精霊の影響は大丈夫?どこか痛くない?』
『あぁ大丈夫だ、ちなみにどういう代償なんだ?』
『人によるみたい、視力や聴力等の五感が使うたびに衰えるとか、
魔力や体力が弱くなったりとか、記憶とか。』
『うーん、どれも大丈夫そうだな。ちゃんとホノカのスリーサイズもちゃんと言えるぞ?』
『それは忘れてあげなよ…!?
あとは…寿命とか。』
『恐ろしいこと言うな、1番わからないじゃん!それ。』
『そうだね、だからこそもう使わない方がいいと思う。』
『あぁ…』
どちらにしろ、もう使わないようにするしかない。
俺のためにも。
『なぁ、ロイ。』
『どうしたの?』
『俺が未来から来たって言ったら、信じるか?』
リュウジやヒロイン達には打ち明けられないが、ロイには知っておいてもらったほうがいいだろう。
『信じるよ。』
ロイは即答した。
『あっさりだな。』
『だって僕が自分の未来の夢を見て、呼んだんだよ?』
『それもそうだな。
だったら、俺があらゆる未来を見てきたって言ったら?』
『そんなことができるの?』
『あぁ、だからどんな未来かお前に教えてやる。』
そして俺はリュウジとして、ゲームの内容をロイに語った。
ホノカの兄が死んだことが原因で、ホノカと一緒に騎士団長を目指す未来。
ミズキが死んだ祖父の汚名を返上するために、一緒に魔法の研究を行う未来。
ニーナが別の貴族と婚約を持ちかけられ、兄妹との関係に悩みながらも一緒に添い遂げる未来。
サラの一族が六大貴族から外され、学園生からいじめられながらも共に強く生きて誇りを取り戻す未来。
そして、そういう問題を全て解決する、俺たちが目指しているハーレムルートの存在。
ロイがどのルートでも死ぬということは言えなかったが、できる限りの情報をロイに語った。
『だから今回あの5人でグループを組んでもらったんだ。』
『そこまで考えられてたんだね、ごめん時々疑うような真似をして。』
『しかたないさ、意味不明な行動している自覚はあるからな。』
『これからはちゃんと信じて協力するよ、よろしくね。』
『あぁ、頼むよ。』
俺は心が痛んだ。
ロイが協力して、ハーレムルートを目指すということは、
自分を犠牲にしてリュウジ達を幸せにするということだ。
そしてロイが死ぬという情報を俺は隠し続けている。
『すまない。そろそろ眠くなってきた。』
俺は会話を打ち切る。
『もう夜も遅いし仕方ないね、今日は寝ようか。』
『また明日もよろしくな。』
『おやすみ。』
俺は目を瞑る。
すまない、ロイ。
俺はもう一つ嘘をついている。
闇の精霊の影響で失った代償。
俺の代償は記憶のようだ。
『いつしぬ』で得た記憶が既にいくつか欠落している。
ハーレムルートの条件はまだ頭に残っているが、詳細が思い出せないでいる。
後悔先に立たずというのは、このことだろう。
俺は果たして彼らを守れるのだろうか。
ミズキの言葉で持ち直したが、やはり一人になるともっとうまくできたのではないかという考えに支配される。
異世界に転生したのが俺でなかったら、そいつがうまくもっとやってくれたのではないか。
そういう考えが脳裏に浮かぶ。
それでも俺は…
みんなを幸せに導きたい。
導く義務がある…
それと同時に思う。
目が覚めたら、前世の世界に戻ってますように。
今までのことはただの夢で、ここが現実ではありませんでしたと。
どうかお願いします、神様。
リュウジ達を無事ハーレムルートへ連れてあげてください。
そして、ロイスロットも救ってあげてくださいと。
そう願い、俺は眠りについた。
第一章、最後までお読みいただきありがとうございました!
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第二章も引き続きよろしくお願いします!




