第33話:エピローグ①:みんなからのお見舞い
目が覚めたら知らない天井だった…
そういえば前世でもこんな経験はしたことないな。
体を起こさずに周りを軽く見渡したが、ここがどこなのかわからなかった。
「先生!シャッテンスカーさんが目を覚ましました!」
近くの女子が先生を呼びに行っている。
この声はニーナか?
なんで俺ここにいるんだっけ。
ドラゴンと戦ったとこまで覚えているが、その後の記憶がない。
そのせいかまだ現実感がない、そもそもここはどこだ。
「ロイ!?起きたのか!」
誰かが俺の顔を覗き込む。
リュウジだった。
何やらすごい慌てている。
状況がわかってない。
「すまない、リュウジ…ここはどこだ?」
「学園の医務室だよ!お前、丸一日寝てたんだぞ!大丈夫か!」
リュウジがまくしたてる。
なるほど、丸一日寝てたのか…
それは心配するな。仮に友達じゃなくてもする。
「リュウジ、静かに…
ロイも今起きたばかりだから…」
「あ、悪い…」
どうやらサラも来ているようだ。
俺は上体を起こしてみる。
体は特に不自由なく動くようだ。
後遺症とかがなくてよかった。
体を起こしたおかげで、ようやくサラとリュウジの顔が見えた。
サラも心配そうにこちらを見つめていた。
みんなには迷惑かけてしまったな…
「リュウジもサラも悪いな、心配かけて。
まだちょっと頭がボーっとするが、体は大丈夫そうだ。」
「そうか、よかった…
今ニーナが保険医の先生呼んできてくれてるから、待っててくれ。」
リュウジがほっとしたような表情を浮かべる。
医者に診てもらわないとわからないこともあるだろうが、感覚的には大丈夫だ。
待つ間ロイに話しかけておこう。
『ロイ、そっちは大丈夫か。』
『うん、僕もまだボーっとしていたけど大丈夫そうだよ。
何度か呼び掛けていたんだけど、多分魔力が尽きていたから、念話も届いてなかったんじゃないかな。』
『どうやら、そのようだ。』
ロイと軽く話してみたが、特に影響はなさそうだった。
医者が来たので、一度リュウジ達には退席してもらい問診を受けた。
診断結果は魔力欠乏症という、文字通り魔力が尽きたときに起こる症状のようだ。
たしかに『いつしぬ』でMPが0になったら、ステータスが下がる仕様あったな。
こういうことだったのか。
幸い時間経過で治るとのことなので、明日退院して自宅療養するように言われた。
『大事にならなくて本当によかったよ。』
『全くだな…』
みんなを救えたと言えばかっこはつくが、まだゲームで言うなら序盤も序盤。
ここで後遺症が残るような怪我とかしていたら、この先大変なことになる。
『まぁ、終わり良ければ総て良しだ。今回のことに限ればな。』
『うん、そうだね…
あっ…みんなお見舞いに来てくれたみたいだよ。』
医務室の入り口からリュウジ、ニーナ、サラの3人がこちらを覗き込んでいる。
『心配かけただろうから、そっちに集中してよ!』
『悪い、また後で話そう。』
俺は一旦ロイとの会話を打ち切り、3人に向けて合図する。
合図に気づいて3人ともまた集まってくる。
「ロイスロットさん、お体は大丈夫でしたか?」
ニーナが、心配そうに尋ねてくる。
こうやって誰かに心配されるのは申し訳ないが嬉しいものだな。
「あぁ、ただの魔力欠乏症らしい。大丈夫だ。」
「よかった…」
ニーナがほっと胸をなでおろした。
まだあまり関わりあいがないのに、ニーナは本当にいい子だな。
ゲームと変わらず誰にも優しいニーナを見て安心する。
「これ兄と私からお見舞いのフルーツです。」
そう言ってベッドの隣にある机に置いてくれた。
前世含めて一度も入院したことなかったから、新鮮だな。
「ありがたくいただくよ。」
サラも何か袋を取り出し、机に置く。
「…クッキー。」
まさかサラが誰かにお菓子を渡すとはな…
作中でもあまり見られない行動についうれしくなってしまった。
「ありがとう、サラ。」
「うん…」
今度スイーツでも奢ってあげよう。
「俺からはこれを持ってきてあげたぜ!」
そういってリュウジは俺に本を渡す。
内容はわからないが、黒とピンクの表紙に女性が載っている。
しかもなんか格好がいかがわしい。
これってもしかして…
『ロイ、これ何の本だ。』
『こういう時に話振らないでよ!言わないよ!』
反応で完全に理解してしまった。
そりゃ異世界にもあるよな、そういう本くらい。
禁書とかになってないだけいい世界なのだろうか。
男としてはどういう内容なのかちょっと気になるし、後で読んでみよう。
とはいえ、さすがに反応には困るな…
「お兄ちゃん!」
ニーナが顔を真っ赤にして、リュウジに怒っていた。
怒っている姿もかわいいな。
「どうしたんだ?ニーナ?」
「お見舞いにこんな本持ってくる人なんていないよ!常識ってものがないの!」
「こんな本ってどんな本だ?」
リュウジはニヤニヤ笑っている。
「その…えっ…な本はお見舞い向けじゃないよ…お兄ちゃん…」
ニーナがゆでだこのようになってしまっている。
そういう反応を見ると、リュウジがからかいたくなるのもわかってしまう。
「へぇじゃあどういうときならいいんだ?」
「お兄ちゃん、本の中身見せてこないでよ!」
原作ファンとしてはうれしい、リュウジとニーナの掛け合いだが、これどうやって収拾をつけるんだ…
「こらリュウジ!ニーナちゃんをいじめない!」
「いて!」
ホノカがリュウジに軽くチョップをかましていた。
ちょうどホノカがお見舞いに来てくれたようだ。
「ホノカさんお兄ちゃんが…」
「リュウジこの本は没収ね」
「えぇ!?それロイのお見舞いなのに!」
「普通はこんなのお見舞いにしないの!
ロイ君も男の子だから興味あるのかもしれないけど、ちゃんと断ってね。」
「…俺も怒られるのか。」
正直興味はあったため、強くは言えない。
「というか、ホノカ遅くないか?
一緒にロイのお見舞い行くのかと思ってたが。」
「あぁ、ミズキちゃんの件でね、ロイのお見舞いついでに本を何冊か持ってきたの。」
ホノカはやれやれと本を机に置く。
ん?ミズキ?
そうだ、自分が無事で安心していたが、俺はとんでもないことを忘れていた。
「ミズキはどうなったんだ…?」
何のんきに話していたんだ、まずはミズキの心配をすべきだろうが。
みんなでお見舞いに来ているのにミズキだけ来ていない…
口は悪い時はあるが、なんだかんだ礼儀正しい子だぞ。
まさか、あの後何かあったのでは…
「いや、それは…」
リュウジが言葉を濁す。
「落ち着いてください、ロイスロットさん」
ニーナが俺をなだめる。
「落ち着いてられるか!ミズキは大丈夫なのか!?」
こんなところで寝てられない、ミズキを探さなくては。
何かあっては遅い、もしものことがあったらどうする!?
心臓を締め付けられるような悲しみが俺の中に広がっている。
「ふわぁ…」
俺の隣のベッドからあくびが聞こえた。
ベッドの方を向くと、敷居になっていたベッドのカーテンが開く。
「そんなにわたしのことが心配なんですか?シャッテンスカー君。」
ベッドの上にミズキがいた。
どうやら、彼女もまた医務室で休んでいたらしい。
「ミズキ大丈夫なのか!」
「ロイ!落ち着けって!」
身を乗り出そうとしたが、リュウジに止められる。
「えぇ、わたしもシャッテンスカー君と同じただの魔力欠乏症ですので、明日には退院しますよ。
昨日カグヅチ君達にお見舞いはもらいましたので、今日はお見舞いを控えてもらっていただけです。」
「だが…」
その発言を聞く限り、昨日から目を覚ましていたのでは。
だとしたら、魔力欠乏症以外に別の何かが発症してたりするのではないだろうか。
俺が無事でも、ミズキに何かあったら意味がない。
「ロイ、落ち着いて…」
「サラ…でも…」
サラが俺の手を握ってきた。
「大丈夫、ミズキは今日退院予定だったけど、ロイが目を覚まさないから無理言って今日も入院してるだけ。
明日には二人とも退院できる。」
そう言ってサラは俺に微笑みかけた。
「サラさん…」
ミズキの笑顔が固まっている。
どうやら図星だったのか。
「よかった…」
俺は安堵した、とりあえず大丈夫そうだ。
「…」「…」
俺とミズキの間に気まずい沈黙が生まれてしまう。
「そうだ!ミズキちゃん頼まれていた本持ってきてあげたよ!」
空気を察したホノカが話題を変えてくれる。
「えぇ、ありがとうございます。ホノカさん。」
笑顔が張り付いたままだが、ミズキは本を受け取る。
どうやら、この空気はホノカでも駄目かもしれない。
「あんまり長居してもダメだよね!
ほらリュウジ、ニーナちゃん、サラちゃん帰るよ!」
「え?おい!」
そのまま3人ともホノカに押されて出て行く。
「ロイ君、昨日は助けてくれてありがとうね…」
ホノカは残り俺にお礼を言ってきた。
後ろを向いているため、表情は読めない。
「間に合ってよかったよ、ホノカは大丈夫だったのか?」
「うん、怪我くらいなら魔法で治るし。」
「そうか…それならよかった。」
それだけで助けてよかったとは思う。
次に同じ場面に遭遇して、また同じ選択ができるかはわからないが…
「ただ助けてもらった身で言うのはよくないと思うけど、
ロイ君だけが危険な目に遭うのはやめてほしいかな。」
「…」
俺は答えられなかった。
ホノカの言いたいことはわかるが、だったら俺はどうすればよかったんだ?という話になってしまう。
「ごめんね…いじわる言っちゃったね。」
「いや、ホノカは悪くない…」
ホノカもわかってて言っているのだろう。
そう、今回の件は俺たちは被害者だ。
誰も死なずにすんだだけで、ボタンのかけ違い一つでもっと悲惨な未来が待っていたかもしれない。
あるいは俺がもっとうまくやれば、誰も危険な目に遭わなかったのだろうか。
「ロイ君…」
ホノカがこちらを振り向いていた。
「これだけは覚えておいて。ロイ君と会えなくなるのは嫌だよ。」
笑顔であるが、今にも泣き出しそうにも見える。
その表情が俺の胸を締め付けた。
「…肝に銘じておく。」
俺がロイでなければもっと慰めの言葉も言えたかもしれない。
だが俺がロイスロット・シャッテンスカーである限り、これ以上ホノカに踏み込めない。
「私、強くなる。ロイ君に負けないくらい強くなって、そして――
次はロイ君と一緒に戦えるようになるね!」
ホノカは真剣な表情で俺に宣言をする。
「ホノカならできるさ。」
あぁ、君は強くなる。安心していい。
このゲームをやりこんだ俺が保証する。
「ホノカ~置いてくぞ~。」
リュウジが心配したのか、戻ってきたようだ。
「ごめん!すぐいく~!」
残念ながら、時間のようだ。
「ロイ君!また学園でね!」
そう言って、ホノカは笑顔で手を振って去っていく。
「あぁ!」
決してシナリオ通りにいってはいないかもしれないが、俺は良き友人を持ったものだ。
それだけで生きててよかったなと思う。




