第32話:ゲームの悪役:ロイスロットの力
ドラゴンはジャドを咀嚼している。
それが終われば、今度はこちらの番であろう。
俺はもはや立ち上がる気力も残っていない…
残りの魔法スクロールやポーションはミズキに渡してしまっている。
回らない頭で必死に考えているが、打開策なんてものが思いつかない。
『すまないロイ…もう打つ手が思いつかない…』
もしかしたらロイの方が何か思いついてくれるかもしれないという淡い期待を抱いた。
『ごめん、僕もなにも思いつかないよ…』
ロイが悲痛な声で俺に謝罪する。
しかたない、そもそも体の主導権は俺が握っているんだ。
その状態で的確に魔法を使ってくれていただけでも非凡の才を持っているのだろう。
『僕がもっと魔法の研究をしていたら…
僕がもっと自分を鍛えられていれば…』
ロイの悲痛な声が頭に響く。
『お前は悪くないよ、ここまで頑張ってくれた。
そもそもロイの魔法がなかったらとっくに死んでいたよ。』
慰め合っても事態は解決しないが、死ぬときには一緒の相手がいるというその点ではありがたかった。
『…せめて僕もサラみたいに精霊と契約できていたら、こうはならなかったのに。』
ロイは後悔の言葉ばかり口にしていた。
何もできない自分を呪うかのように。
だが俺はそんなロイの発言が引っ掛かった。
ロイが精霊と契約していない?どういうことだ?
俺の知っているゲームの設定と食い違っている。
何かそこに糸口があるかもしれない。
どうせこのままだと死ぬのだ、聞いてみる価値はある。
『待ってくれ、ロイ…
今までの影装甲や影剣って闇の精霊の力を借りて生み出していたんじゃなかったのか?』
『えっ…?僕はまだ精霊と契約してないよ。影の魔法は僕がここ数年で作った魔法だよ。
精霊の力は一切使ってない。』
またしてもロイの発言はおかしい。
俺の知っている情報と違う。
ゲームのロイは、この時点ですでに闇の精霊の力を使っていたはずだ。
俺はてっきり、今までの影魔法も精霊の力によるものだと思っていた。
それがそもそも今まで使っていなかった?
俺が考えていた前提が崩れていく…
それならばもしかして…
生き残れる可能性はある!
ただし、あまりにも危険な賭けだ。
原作のロイは闇の精霊の力を使い過ぎた結果、悪役として主人公達に立ちふさがることになったのだから…
でも、このまま何もしないまま死ぬわけにはいかない。
俺は覚悟を決めた。
『ロイ、今から闇の精霊の力を借りることはできるか?』
『え?僕、一度も成功したことがないよ!?』
『どうせ死ぬんだ、試してみる価値はあるだろう…
俺はできると信じる。』
一か八か、仮に精霊の力を借りることができたところで勝てるかもわからない。
だが、俺は信じることにしたーー
ゲームのロイスロットが持っていた力を。
『…わかった、やってみる。』
ロイも覚悟を決めたようだ…
リュウジ、四人のヒロイン、そしてロイーー
『いつしぬ』の主要人物六人は、それぞれ異なる魔法属性を持っている。
そしてゲームの世界に存在する六大貴族は何なのか。
それは精霊の力を借りられる一族を指す。
だからきっとロイにできるはずだ。
『闇の精霊よ…』
ロイの言葉に応じるかのように、俺の体の周りに黒い何かが集まってきている。
『本当にいい?契約していない精霊の力を借りるということは…
何かしらの代償を払うってことになるよ。』
ロイが俺に問いかける。
だが、答えは一つだ。
『死ぬよりかはマシだ。
それに俺達はまだ死ぬわけにはいかないだろ。』
『…そうだね。』
もしかしたら悪役である俺たちがここで死ねば、逆にリュウジやヒロイン達にはいい未来が待っているかもしれない。
ロイという元凶がいなくなりさえすれば、シナリオはもっと円滑に進むかもしれない。
だが、俺は死にたくない…
いつかロイが死ぬ運命だとしても、せめてみんなの幸せの糧となって死にたい。
いや、すべて言い訳だ。
ただ死ぬのが怖い。まだ生きていたい。
俺のわがままのために、俺はロイを利用する。
気が付いたらドラゴンは食事を終えていてこちらを見ていた。
そして凄まじいスピードでこちらを食らおうとしている。
『いくよ…』
『あぁ…』
俺の周りにいた黒い何かが俺の体を完全に包む。
そして…恐ろしい量の情報が脳を駆け巡った。
理解しきれない大量の情報が脳を上書きしていく。
黒く…黒く…黒く…
何もない真っ黒なものが脳を支配した。
あぁ…なるほど。ゲームのロイはこの力を使い過ぎておかしくなってしまったのか。
息ができない、動悸がすごい。
そして…何もかもが遅く見える。
ドラゴンはこちらへ向かってきているはずなのに、その動きは止まっているように見えた。
待っていたら、1日経ってしまうのではないだろうか。
俺はドラゴンの顔まで歩み寄り、右手で押し返した。
途端に世界のスピードが元に戻り、ドラゴンが悲鳴を上げた。
そのまま首が地面に激突する。
だが、さすがはドラゴンだ。
すぐ起き上がり、こちらへ炎のブレスを吐こうとしている。
実力差を察して逃げてくれるなら、見逃すつもりだった。
残念ながらそれは無理なようだ。
俺は左手から闇の力を集めて球体を形成していく。
なぜこんなことができるのか考えなくていい、ただできることがわかってしまう。
「さようなら…」
俺は左手で大きくなった闇の球体をドラゴンに向かって放つ。
そして、ドラゴンは跡形もなく消滅してしまった。
まるで今まで存在しなかったかのように何も残らなかった。
「やったな…」
どんどん脳に理解できない情報が埋め込まれていく。
ロイの声も聞こえない。
そしてそのまま俺の意識もブラックアウトしてしまった。




