第29話:会いたい男子(ミズキ視点)
「ふぅ…さすがに骨が折れましたね。」
カグヅチ君達を逃がすために、モンスター達と戦った。
時間にして20分ほどだとは思うが、命がかかっている状況だと体感時間がおかしくなる。
とはいえ、わたしが残るのが当然だろう。
カグヅチ君に小言を言いつつも、自分もシャッテンスカー君に勝つための判断をした。
そしてそのせいで、不確かな情報を採用してみんなを危険な目に遭わせてしまった。
すべて自分の責任である…
「シャッテンスカー君がわたしのことを足手まといだと言っていたのは、
的を射ておりましたね…」
自分でいうのもなんだが魔法の才能に関しては、同世代でも抜きんでていると思っている。
周りからも小さいころから天才ともてはやされ、
実際に魔法を使った研究成果を、学園に入学する前から数多く残している自負もある。
学園でも新しく学ぶことがなく、儀礼的に入学して魔法の研究に学園生活を費やすつもりでいた。
だが実際はどうであろう。
同じ年齢のシャッテンスカー君には簡単に決闘で負け、課外授業ではこの様である。
わたしが持っていたのは自信ではなく、ただの驕りのようですね…
入学して一か月で気づけてよかったのかもしれない。
まだ学園生活は始まって間もない。
ここから帰れさえすれば、やり直す機会はいくらでもある。
ここ数日で色々あった。
特にシャッテンスカー君との出会いや、カグヅチ君達と過ごした課外授業だけでも、得たものは計り知れない。
これから新たに学べることもあるだろう。
「はぁ…」
息を整えて顔を上げる。
落ち着いてはいるが、またモンスターがでてくるかわからない。
「ミズキ様!ご無事でしたか!」
森の奥から誰かが声を上げてこちらに駆け寄ってくる。
自分の護衛であるジャドだ。
ジャドとは学園入学の際に雇われた護衛のため、親しくはない。
だが知り合いに出会えて少し安堵を覚える。
「よくここがわかりましたね?」
「私はミズキ様の護衛ですよ、どんな状況でも駆けつけます。」
そう言ってジャドはわたしに微笑みかけていた。
「そうですか、わたしはいい護衛を持ったようですね。」
「その言葉ありがたき幸せでございます。」
さて、これからどうやってここを出ようか?
「森を抜けるまでモンスターが出る可能性もありますが大丈夫でしょうか。
わたしはあまりもう力になれそうにありません。」
現状をジャドに伝える。このままだと彼がわたしを守りつつ森を抜けることになる。
「ドラゴンや他のモンスターに襲われていたんですから、仕方ありませんね。
疲労が心配でしたら、ミズキ様を背負って差し上げましょう。」
そう言って、ジャドがわたしに近づく。
わたしはそれを聞き…
彼に杖を向けた。
「…どうしたのですかミズキ様?」
「それ以上近づいたら撃ちます。」
先ほどから彼の言動には違和感を覚える。
その直感をわたしは信じた。
「どういうことですか?」
ジャドも怪訝な表情を浮かべている。
「いくつか聞きたいことがありますが、まずはなぜあなたはここにいるんです?」
「それは私がミズキ様の護衛だからです!」
「…この課外授業は学生以外の参加はできないはずですが?」
先生たちが最初の説明で言っていた、基本貴族しかいない学園だ。
護衛じゃなくても、付き人なしだと生活できるかどうか怪しい人もいる。
そういうのも含めて、学生たちの力でどうにかするのが今回の課外授業の目的だろう。
つまり、ここにジャドがいることがおかしいのである。
「それは…聞いたのですよ!カグヅチ達に!
チェックポイントに逃げてきたあいつらが教師たちに言っているのを聞いてここまで来たのです!」
見え透いた嘘を堂々と吐かれるのは気分が悪いですね。
「あなた一人でですか?」
「そうです!知らせを聞いてミズキ様の身を案じて一人でここに来ました。
危険だと止められても、ミズキ様の命には代えられません!」
疑問が確信に変わった。
「その場合あなたが出てくる場所は森の入り口の方向からであって、奥側からでてくるのがおかしいのです。」
「え?」
「さらに言うなら今来たように装っていますが、それこそがおかしいのです。
仮にカグヅチ君達がチェックポイントに来てすぐあなたがこの森に向かったとしましょう。
この森からチェックポイントまで1時間はかかります。
カグヅチ君がチェックポイントについて1時間、そこからあなたがチェックポイントを出てここに来るまでに1時間
わたしがカグヅチ君達と別れて1時間も経ってません。子供でも分かる計算だと思うのですが?」
ジャドの顔から笑みが消える。
「あなたはこの森に潜伏していて、わたしが消耗するのを見計らって現れた。違いますか?」
こうやってジャドに説明して時間をかけている間に打開策を考えている。
「あなたの目的は何ですか?」
だが自分一人でできることはほとんどない。
「ハハハハハぁ!!」
ジャドの笑い声がこだまする。
「さすがですよミズキ様、大正解です。」
拍手をしながらわたしを見る。とても不愉快だ。
「あなたは色々恨みを買い過ぎたのですよ、もしくは才能があり過ぎた。」
「どういうことですか?」
「あなたが作り出した数々の研究、特にスライムを使った研究です。
あれはとても素晴らしい、おかげでスライムを使った水質汚染の改善、安価なスライムで使える化粧用品と領民国民ともに人望を集めてらっしゃる。」
「それはどうも。」
たしかに自分には非凡な魔法の才能があると自負があるし、それを使って領民含め色々な人間に貢献してきた。
才能に嫉妬する人間はいるかもしれないが、この状況にいたるまでの恨みがあるのだろうか。
「あなたの発明で、どれだけの人間が損をしたと思っているんです?」
「理不尽な難癖ですね、人に役に立つ発明で生活を豊かにしてあげることが貴族の使命では。」
「あなたにとってはね。そう考えない貴族もいるのですよ。」
貴族として領民のためにできる限り尽くしている。だからこそわたしは慕われている。
亡きおじい様の教えでもあり、わたしの目標でもある。
「だからこそあなたは恨まれたのですよ。」
「なるほど、それであなたがわたしを殺しに来たと?」
優れた才は身を亡ぼすとはいうが、ここまで理不尽な目にあわされるものですか。
わたしは間違ったことをしていないというのに。
「まぁ、あなたを殺すためにお金を積んだ人間にはそう言われております。
ですが、私はあなたを殺すつもりはありません。」
「…どういうことです?」
「私はミズキ様をお慕いしております。このまま私のものになってくれませんか。」
「ずいぶんな告白ですね。」
わたしは彼が言っていることが理解できなかった。
理解したくなかった。
「どうです?大人しく私と一緒に来てくれませんか。
あなたの美貌や言動がとても魅力的ですので、
さらに魔力も優秀です。あなたとの子ならとても優秀な魔法使いが生まれるでしょう。」
なるほど、そういう目的でわたしに近づいていたわけですか。
「自分で言うのもなんですが、わたし結構殿方には好かれるんですよ。」
「えぇ、知っております。」
「そしてあいにくわたしはそんなに安い女ではないのですよ。」
わたしはジャドを睨みつける。
ここで素直にしたがってもいい思いはしないだろう。
わたしにもまだやりたいことがある。
「…残念ですが、無理やりでも連れ去らせていただきます。」
ジャドはこちらに向かって、走り出す。
残りの魔力を使って、行使する。
一撃で倒せはしないだろう、だったら。
「水の壁よ。」
シャッテンスカー君との決闘でも使った魔法。
相手の足元を起点に、水を噴き上げる。
できるだけ高く水の壁を形成する。
「ぐっ!」
ジャドが水の壁に巻き込まれ、上空へと打ち上げられる。
その隙にわたしは走り出す。
何とかしてこの場から逃げなければ…
木の根に足を取られそうになる。思うように足が動かない…
わたし自身、体力も魔力もだいぶ消耗してしまっている。
「そう簡単に逃げられると思いましたか?」
もう追いついてきたのですか!?
すぐ逃げたのにも関わらず、背後から足音が迫ってくる。
振り返っている暇はない。恐怖で足がすくみそうになる。
それでも足を必死に動かした。
だが、足音は容赦なく近づいてくる。
次の瞬間、背中に強い衝撃が走った。
そのまま後ろから押し倒されてしまう。
倒れた衝撃で息が詰まる…
「離しなさい…」
わたしはジャドを睨みつける。
「とてもいい表情ですね、私のミズキ。」
名前を呼び捨てにされて、嫌悪感で鳥肌が立つ。
「このまま私と一緒に逃げましょうね。」
「誰があなたと…」
わたしはなけなしの魔力を振り絞り、また水の壁を形成する。
「おっと…」
今度は読まれていたのか、ジャドは一度わたしから離れ水をかわす。
水はただ上空に飛んで行っただけだった。
「同じ手は二度と通じませんし、この前の決闘の際にも君の手の内はわかるよ。ミズキ。」
「…そうですか。」
もう魔法は撃てない。そしてもう動く気力もない。
「さぁ、もうわがままを言わないで私と一緒に来るんだ。」
もう乱暴をされずにやり過ごすしかない…
「…ごめんなさい、もう立てないもので。」
わたしはジャドの方を見上げる。
「…しかたないですね、私が抱えていきましょう。」
ジャドはゆっくりとわたしの方へ歩み寄る。
もうできることはなにもない。
まだシャッテンスカー君との再戦も果たせてないのに。
わたしは目を閉じた。
ごめんなさい、みんな。ありがとう。
体を抱えられる感触がした。
「ミズキ!」
「なっ!?」
ジャドの慌てた声を聞いて、おそるおそる目を開く。
目の前には、シャッテンスカー君の顔があった。




