第27話:届かない背中(リュウジ視点)
第5チェックポイントを通過した俺たちは、そのままミズキが言った近道となる森のルートを進んでいる。
「はああぁ!」
ホノカがモンスターを倒す。
これで何体目だろうか。
森へ入ってから2時間以上、出口は見えていない。
モンスターも強くはないし、ほとんどが単体で出没することが多く、
1回1回の戦闘はそこまで労力がかかってないが、いかんせん数が多い。
「いっぱいいる…」
「一体一体はそんなに強くないけど、こう数が多いとね…」
「まだこの森も半分くらいなのかな?」
「さすがにこの数は想定外ですね…」
少しずつだが俺達も消耗している。
まだ余力はあるが、おそらく森を抜けるにはもう少しかかるだろう。
「ちょっと休憩して、進もうぜ。」
「待ってください、このまま進むのは危険すぎます…」
「だけど、このままだと…」
ミズキはしばらく考え込み、そして…
「わたしからこのルートを提案しておいていうのもなんですが、今なら間に合います。引き返しませんか?」
そう提案してきた。
「だがそうしたら、ロイには負ける…」
「命あっての物種だと思いますが?」
ミズキの言うことももっともである。
死んだら元も子もない。
それでも俺はロイに負けたくない、追いつきたいと思う。
「なんていえばいいかわからないけど、ロイなら逃げないと思うんだ。」
俺でなくロイがこのグループにいれば的確に判断して、みんなを導いていたはずだ。
「シャッテンスカー君が優秀なのは認めますが…」
ミズキはしばらく逡巡していた。
そして
「カグヅチ君はシャッテンスカー君ではありませんから。
今回は無理だと思います。」
はっきりと言い切ってきた。
「なんだと!?」
自分でもわかってはいるが、だからこそ腹が立って反抗してしまう。
「今回は1番最初の課外授業だろ?だったら先生たちもそんな危険な場所に連れてこないはずだ!だからいけるって。」
「自分でも無茶なことを言っているって理解していませんか?
それでだれかが大けがをしてカグヅチ君は責任をとれるのですか?」
「だがよぉ!」
「喧嘩はだめだよ!お兄ちゃん!」
ニーナが俺の腕を引く。
「ミズキさんの言うとおりだよ?今は闇雲に進んでも危険だと思う。
それに絶対勝たないといけないわけじゃないでしょ?」
「だが…」
迷っている俺の頬をニーナが手で包み…
「ミズキさんだって言ってたでしょ、今回は無理だって。
今回は無理でも、次は勝てるかもしれないでしょ。
一緒に頑張ろう。ね?ミズキさん」
そう言ってニーナはミズキの方を見た。
「…えぇ、カグヅチ君の今後の頑張り次第で勝てるかもしれません。
学園生活ははじまったばかりですし。」
「そうだよ、リュウジ!みんなで強くなろうよ!」
ホノカも便乗してきた。
「…あぁ、そうだな」
言われてみたらその通りだ、ロイと自分を比較して勝手にやけになっていた。
まだ入学した最初のイベントだ。
いつかは必ず勝つ機会はあるだろう。
いや、そうしてみせる。
「悪い、みんなここは一旦引き返そう。」
「…リュウジはいい子」
背伸びしてサラが俺の頭をなでてくれた。
課外授業が始まるまではどうなるかわからなかったが、意外といいグループになったのかもしれない。
「そうと決まれば、一回チェックポイントに戻ろうか。」
そう言った瞬間、俺達は恐ろしい咆哮を耳にした。
轟音が森を駆け抜ける。
規則的に鳴る地響き、揺れる地面。
それと同時に木が倒れる音も聞こえる。
何か、触れてはいけないものが近づいてきている。
「何の音!?」
みんなも動揺を隠せないでいた。
一体何が起こっているんだ…
「風の精霊よ…」
サラが精霊を呼び出している。
「飛んで…」
精霊は空高く飛んでいく。
上空から何が起こっているのか探ってくれるようだ。
「!?」
「どうしたの!?サラちゃん!?」
普段は無表情なサラの驚きようは尋常ではない。
「…ドラゴン。」
「え?」
「ドラゴンがすごい勢いでこっちに迫ってきている…」
「ドラゴンってあの!?」
息一つで村一つが焦土と化す。
生ける天災の一つである生物、ドラゴン。
そんなのがこんな場所に?
「…おかしいですね。
生息地的にもこんなところにドラゴンがいるなんてありえないはずです。」
ミズキも困惑していた。
「でも実際いるんだよね!?」
「…間違いなくドラゴン。」
「急いで逃げるしかないな…」
向かってきていると言っても今から散り散りになって逃げればいけるかもしれない。
「!?伏せてください!」
ミズキの掛け声と同時に炎がこちらに飛んできていた。
「くっ…」
とっさにミズキが俺たちの周りを水の壁で覆ったおかげで事なきを得た。
だが周辺の木々は炎に包まれていた。
そして目の前に巨大なドラゴンの姿が見えていた。
全長は見えないが、山を彷彿とさせる大きさのドラゴンが俺達を見下ろしていた。
恐怖で体がすくんでしまう。
なんとか…なんとかしないと…
おそらく全員が恐怖のあまり思考が回っていないのか、一歩も動けずにいる。
「~~~~~~!!」
大きな咆哮とともに、俺達を飲み込もうと大きな口を開けて迫ってきていた。
なんとか動こうとするも足が言うことを聞かない。
このままだと食われてしまう。
「シャイニングシールド!」
ホノカが咄嗟に光の盾を出していた。
いつもより光量が大きい。
「~~~~~~!!」
ドラゴンが悶え苦しむ声が聞こえた。
目潰しに成功したらしい。
「今のうちに!逃げよう!」
ホノカがみんなに声をかける。
「おう!」
俺は他のメンバーの肩を押し逃げるようにうながした。
だが、ドラゴンは目をくらまされてもなお暴れ回っている。
そして…ホノカめがけて爪を振るった。
「くっ!」
咄嗟に後ろへ跳んで盾を構えたが、ドラゴンの爪は盾を砕き、ホノカの肩を切り裂いた。
勢いは止まらず、そのまま吹き飛ばされたホノカは、背後の木に叩きつけられた。
「ホノカ!」
急いでホノカを助けるべく、駆け寄ろうとした。
「だめ!」
ホノカは止める。
「今じゃないとダメだよ、行って!なんとかするから!」
「そんなわけにはいかないだろ!」
大事な幼なじみだ、助けずに自分だけ生き残っても必ず後悔する。
「ほら、つかまれ…」
俺はホノカのところまで走って、肩を貸す。
「…バカ。」
「悪い…」
正直悪手なのは認める。
だが俺にはそんなことできない。
振り返るとドラゴンがこちらを見ていた。
目潰しの効果はもうないらしい。
その口元に、再び炎が集まり始める。
どうやら逃がしてはくれないらしい。
どうにかホノカやほかの奴らを助けられないものか。
俺には何も手立てが思いつかない。
すまない、みんな…
俺は生きることを諦め、目を瞑った。
だが、衝撃は来ない。
代わりに爆発音とドラゴンのうめき声が聞こえた。
目を開けると、一人の男がドラゴンの目の前に立っていた。
黒い鎧に黒い剣。
「ロイ…?」
俺の声に反応してロイが振り返る。
「早くみんなを連れて逃げろ。」
「だけどロイ…」
「大丈夫だ、任せろ。」
そういって、高速で移動していった。
ドラゴンも怒ったのか、ロイの方向についていく。
「いきましょう、シャッテンスカー君の動きを無駄にするわけにはいきません。」
「…わかった。ホノカ背負うぞ。」
「…うん。」
だいぶ限界だったのだろう、疲労が顔にでていた。
「傷がふさがらない…」
ニーナは懸命に治癒魔法をかけているが、傷が深いのか治る様子がないようだ。
「移動しながらになりますが、根気強く治療を行ってください。
サラさんは精霊を使ってチェックポイントまでの道を案内してください。」
「わかった…」
ミズキはこの状況でも冷静に指示を出しながら動いている。
この時ばかりはいてくれて本当に助かった。
「…一難去ってまた一難ですか。」
ミズキは後方に魔法を放つ。
気が付くとハウンドウルフやゴブリンの群れがいた。
ドラゴンの影響なのか錯乱状態でこちらに向かってきている。
「仕方ありませんね…ここはわたしが引き受けましょう。」
「ミズキさん危ないよ!」
ニーナがミズキを止める。
「移動しながらの戦いは危険が伴います。
カグヅチ君はホノカさんを運ばないといけませんし、
ニーナさんは回復に専念してほしいです。
サラさん偵察と護衛は任せました。」
「…ミズキ。」
ミズキは俺達に背を向ける。
「わたしがこの道を選ぶよう誘導してしまった責任は果たさないといけません。
それに…」
ミズキは魔法を使って、モンスターたちを倒していく。
「わたしは強いですから。」
そう言って俺達に笑顔を向ける。
「早くいってください!」
「だけど…」
だが、ミズキを置いていっていいわけが…
「わたしではホノカさんを運べませんから、わたしが残った方がいいんですよ。カグヅチ君。」
ミズキは俺に笑いかける。
背中に感じるホノカの重みが、俺を現実に引き戻した。
俺は自分の無力さを痛感した。
「すぐに先生たちを呼んでくるからな…」
「えぇ、のんびり待ってます…」
そう言って俺たちは走り出した。
ロイを置いてミズキを置いて、走り出した。




