第17話:気になる男子(ミズキ視点)
「今度こそ俺の勝ちでいいか?」
「はい…。」
わたしミズキ・オーヒュードルはロイスロット・シャッテンスカー君に敗北した。
見たことのない魔法、そして鎧をまとったままの高速移動、そして最後のわたしが魔法を放つ前に倒すという状況判断能力。
これが理論と実践の違いですか…
シャッテンスカー君が優しかっただけで、戦場だったら最初に接近を許した時点で負けていただろう。
本気で勝つのであれば、彼が魔法を使う前に早々に決着をつけておくべきだった。
3回も接近を許した上で負けたのだから完敗だ。
それとも手を抜かれていたのだろうか、それはそれで腹立たしいが負けは負けだ。
この学園で学ぶことがないと思ってましたが、ただの奢りでしたか…
魔法の才能には自信があったが、それだけではダメだった。
わたしを抱きとめているシャッテンスカー君の顔を見る。
どこかホっとしたような表情でわたしの方をじっと見つめていた。
わたしもなぜか彼の表情が気になって目が離せない。
ただ闘技場の真ん中という、学生たちの見ている前でずっとお姫様だっこをされているのはさすがに恥ずかしい。
「あの…シャッテンスカー君」
「ご無事ですか!?ミズキ様」
家の者が用意した護衛のジャドがわたしの方へ駆け寄ってくる。
「えぇ…このざまですが…」
大見栄を切ってこのざまだ、自虐せざるを得ない。
「何かあってからでは遅いです、治療をしましょう!さぁ早くミズキ様をお渡しください!」
なにやら過保護に感じますが、仕方ありませんね。
このままずっとシャッテンスカー君の腕の中というわけにもいきませんし。
わたしは彼から降りようとしたその時…
不意にシャッテンスカー君の腕に力が入るのを感じた。
「悪いが、彼女は俺が医務室まで連れて行く。」
シャッテンスカー君はジャドを睨んでいた。
「ですが…」
「医務室で診てもらったほうがいいだろ?本当に何かあるのだとしたら。」
「…わかりました。」
ジャドはシャッテンスカー君を睨み返していたが、シャッテンスカー君の言葉を聞いて大人しく引き下がった。
「すまないが、連れて行くぞ?」
「…負けた人間が選べる立場ではありませんし、どうぞ好きに連れて行ってください。」
彼が何か言いたげな表情を浮かべてわたしを見ているので、わたしも彼の言葉に逆らう気が起きなかった。
わたしはそのまま彼に抱えられたまま、医務室へと連れていかれた。
医務室に行っても、学園のかかりつけ医に軽く診てもらうくらいだ。
外傷くらいなら魔法で治せるので、診察は10分くらいで終わった。
医務室の外へ出ると、シャッテンスカー君が待っていた。
わたしを見るなり駆けつけてくる。
「大丈夫だったか?怪我とかなかったか?」
この人も過保護な人なのだろうか?とても心配そうな表情でわたしを見ている。
「えぇ、おかげさまで。それに怪我しても魔法で治せますし。」
「そっか…よかった…」
彼はホッとした表情を浮かべる。
さっきまで決闘してた相手にする表情だろうか。
「シャッテンスカー君」
「どうした?」
「立ち話もなんですし、今からお茶でもしませんか?」
わたしはもう少し彼とお話してみたくなってしまった。
「ここのカフェの紅茶は、なかなかおいしいのでお勧めですよ。」
「ありがとう、同じものを頼むよ。」
カフェにつき、わたしはシャッテンスカー君の真向かいに座った。
彼は妙にそわそわしている。
「あまりこういうところには来られませんか?」
「いやそういうわけじゃないんだが…」
彼は唇に手を当てて考えこみ始めた。
理知的な彼にはとても似合っているようにも思う。
彼が何か心配しているのだろう。
「別にこうやって二人でお茶をしているくらいで、ホノカさんは何とも思わないと思いますよ?」
「…なんでホノカがでてくるんだ?」
彼はむせながら聞いてきた。
「よく一緒に朝登校しているって噂になっておりますよ。」
「そうだったの!?」
「えぇ、わたしが聞いた範囲では。」
「ちなみにホノカとはそういうのじゃないし、そもそもリュウジがいるだろ?」
彼は顔赤らめて否定している、ちょっとかわいい。
「カグヅチ君とはあくまで幼なじみだったと思いますので、気にする必要はないかと。」
「それはそれで困るんだよな…」
どういうことだろう?噂とは言っても、実際にわたしも通学路でシャッテンスカー君とホノカさんが登校しているのを見たことがある。
シャッテンスカー君はだいぶホノカさんに好意を寄せていると思っていたのだが…
まぁ、恋愛事というのはそういう単純なものではないのでしょう。
「恋愛トークがしたくて俺と話がしたかったのか?」
「いけませんか?わたしも女の子ですよ、そういう話には興味あります。」
「別に悪いわけじゃないが、特に面白い話はないぞ?」
彼が困惑している、ちょっといじわるしすぎたらしい。
「そうですね、本題に入りましょう。
先ほど決闘で使った魔法はなんですか?」
魔法が効かない黒い鎧に、おそらく魔法のみを斬る黒い剣…
そんな魔法をわたしは見たことも聞いたことがなかった。
小さいころから色々な魔法を勉強し、様々な魔道具の開発に携わってきた身としては気になって仕方がない。
「えっとそれは…」
シャッテンスカー君は難しい顔をしてまた考え込む。
おそらく独自開発の魔法なのだろう、だとするとそう易々と情報を開示はしてくれないでしょう。
「ごめんなさい、困らせてしまいましたね…」
「いや、そういうわけじゃ…」
自分と同じ年齢でここまで魔法の研究をしている人はなかなかいない。
わたしはシャッテンスカー君に興味を覚えた。
「話題を変えましょう。負けた身で言うのもなんですが…
わたしはこの年齢にしては様々な魔法を使えますし、理解していると自負しております。」
「それはもちろん知ってる。」
シャッテンスカー君は複雑な表情で答えてくれた。
あまり他人に興味がないのかと思っていたが、ちゃんと評価してくれていることが嬉しかった。
「その上で頼んで恐縮ですが、次の課外授業わたしとグループを組んでくれませんか?」
彼が考えていることや、魔法の仕組みを間近で見れば理解が深まるかもしれない。
「もちろん、その場合決闘の賭けの要求は変えてもらって構いません。
負けて選べる立場ではないのですが、わたしはあなたと一緒に次の課外授業を受けたいのです。」
「それは…」
わたしの言葉を聞いて彼は頭を抱えていた、どうやらだめだったらしい。
「やはりわたしは足手まといですか…」
そういわれても仕方のない結果だが、さすがに胸が痛む。
「そうじゃない…」
彼はわたしをじっと見つめて言った。
「本当は誰も足手まといだとは思ってない…」
「でしたら…」
「すまない、理由は言えないが俺ではなくリュウジ達のグループに入ってくれ。」
「リュウジは俺より素質がある、だから支えてやってくれないか?」
真剣にだが悲しい目をしてわたしにお願いしてきた。
どうやら考えを変えてはくれなさそうですね。
今回は諦めることにした。
「…負けた以上素直に従うしかないですね。」
「ありがとう…」
彼はホッとした表情を浮かべた。
クールなようでだいぶ考えていることが表情に出る人だ、見ていて楽しくはある。
誘いを断られて残念だが、切り替えていこう。
「それではわたしはこれにて、課外授業の準備もありますし。」
そうやってわたしは席を立つ。
「待ってくれ、1個だけ言っておきたいことがある。」
「なんでしょう?」
シャッテンスカー君が迷った表情を浮かべそして…
「護衛の人間ジャドだったか?あいつには気を付けたほうがいい。」
そう言ってきた。
わたしは彼の言っていることが理解できなかった。
「えぇと…一応家の者が用意した護衛ですので大丈夫だとは思いますが…」
「そうはいっても男だし、まぁ色々と気を付けるというか信用しないほうがいい。」
だいぶ言葉を濁しますね…
彼の慌てよう、護衛の人間に気を付けるよう忠告するとなると…
それに先ほどのジャドへの態度や、わたしに好意的な目つき…
つまりそういうことですか。
「もしかして、シャッテンスカー君。わたしに気でもあるのですか?」
「え!?ちがわい!」
彼は慌てて否定してくる、かわいい。
「安心してください、あくまでただの護衛です。
ジャドとは特に何もないですよ。」
「いやだから違うって!」
「だからわざわざシャッテンスカー君が医務室に連れて行こうとしたんですね。
ジャドに取られると思ったんですか?」
そう考えると彼の言動が微笑ましく思える。
「否定しにくいが、そういうのじゃないからな?」
「ふふっ、そういうことにしておきますね。
それではまた会いましょう、ロイスロット君。」
わたしは立ち去ることにする。
彼のおかげで退屈な学園生活に興味が湧いてきた。
ですがロイスロット君、今度はわたしが勝ちますからね。




