第16話:VSミズキ・オーヒュードル(後編)
「へぇ、おもしろい手品ですね、」
鎧に包まれた俺を見て、ミズキは笑う。
黒を基調とした特徴らしい特徴のない武骨な鎧…
「どれほどのものか試してみましょう。」
言い終わると同時に水の弾丸が2発飛んでくる。
肩と脚に命中した、がーー
『全然痛くないな…』
前世で体験したちょっとお高い水鉄砲が素肌に当たったのと同じくらいだ。
当たった感覚があるというだけ。
『耐魔法防御特化の魔法だからね、ただ長くは持たないよ。』
どうやら、鎧を着ている間は思考がリンクしている状態らしい。
『了解、一気にかたをつけるぞ』
俺はミズキに向かって走り出す。
武器である魔法の杖さえ奪い取れば勝てるだろう。
「さすがにこの程度では倒れませんか、それではこちらはいかがでしょう。」
さっきよりも大きな水の弾丸が胸や胴に当たる、ちょっと痛い。
それでも距離は詰めた、俺は彼女の右腕に手を伸ばす。
「まさか!?」
ミズキの表情から初めて余裕が失われる。
そのまま俺は彼女の手首をつかみーー
『取った…』
杖を奪い取ったその時。
「ウォーターシールド」
突如足元に水の壁が目の前に現れた、思わず弾き飛ばされる。
背中を地面に叩きつけられ、思わず呼吸ができなくなる。
何が起こったのかわからないままミズキを探すが、すでに距離を取られていた。
「魔法使い相手に杖を奪うという発想は素晴らしいですが、あくまで杖は魔法効率を高めるための手段に過ぎません…
わたしは杖なしでも魔法の行使はできますし、それに…」
「杖は一本とはかぎりません。」
彼女は微笑みながら服から別の杖を取り出した。
「まずは謝りましょう、わたしはあなたを少々舐めすぎておりました。
ただの鎧ではないようです。しかしあなたは最大のチャンスを見逃しました。杖を狙うのではなく、殴って私を気絶でもさせれば勝てていたでしょう…
ですが、タネが割れてしまえばこちらのものです。
あなたは遠距離攻撃もできないのならば、これ以上近づけさせなければいい。
痛い目にあいたくなければ、おとなしく負けを認めてくれませんか?」
ミズキは勝ち誇った表情で俺に問いかける。
「あいにく女の子に暴力をふるう趣味はないからな…」
「素敵な価値観ですが、この場では癇に障りますね。」
彼女から笑みが消える、どうやら俺が舐めていると思っているようだ。
さすがに気は進まないが、それこそ殴っても止めないといけないらしい。
『もう一度行くぞ!』
ロイに声をかけ、俺はミズキに向かって走り出す。
「バカの一つ覚えみたいに突っ込んできますね。
もう一度同じことをやるだけですよ?」
ミズキは杖を構える。
『ロイ、今だ!身体能力強化の魔法を使ってくれ!』
『わかった!』
身体能力を向上させることにより、ミズキに魔法の詠唱する隙を与えない。
タイミングをずらした。
「っっ!」
ミズキも計算外だったであろう動揺が垣間見える。
そして俺は水の壁が発生するよりも、先に彼女の目の前に行き拳を振り上げる。
殴ろうとした瞬間、彼女と目が合う…
彼女の瞳に恐怖が宿っていた。
俺は殴るのか?ゲームであんなに好きだったキャラを?
彼女たちを助けるために、転生させられたのに自らの手で傷つけるのか?
自分の行動に迷いが生じる、そして
「ウォーターシールド」
足元からまた水の壁が噴き出した。
『どうするのさ!?距離詰めてもこれじゃ意味ないし…そもそもなんで手加減したのさ』
『しょうがないだろ、そもそも前世で女の子殴るどころか喧嘩もしたことないんだぞ。
あとゲームでは2番目に攻略するくらいはミズキのこと好きだったし…』
『そこで1番言わないところが絶妙なラインだね…』
軽口を叩いているが、状況はよくない。
何せこちらに攻撃手段がないのだから…
「一度ならず二度までもわたしをバカにしているのですか?」
「いや、思ったより君の魔法詠唱が早かっただけだ。」
これ以上怒らせないように言い訳をする。
「…わかりました。
もうそのような減らず口を叩けないよう、こちらも全力でやりましょう。
わたしに本気を出させたこと誇ってもいいですよ?」
彼女は宙へうかび、自身の周りから大量の水が生成される。
そして水がドラゴンの姿へと変貌する。
「ハイドロドラゴン、これが直撃したらさすがにあなたの鎧でも無事ではすまないと思いますが?」
ゲームではお世話になった魔法だが、この時点でもう使えるのか。
「とても素晴らしい見た目だな、ただ一つ聞きたいんだが…
ドラゴンの見た目を形成する魔力を威力に回した方がいいんじゃないか?」
「わたしくらいの魔力量でしたら、そこまで差異はありません。
それにこちらの方がロマンがあるでしょう?」
彼女は俺に微笑む、まるで子供が初めてできたことを親に報告するように。
なんとかして打開策を考えているが、思いつかない。
それに今のミズキに言葉を尽くしたところで、考えは変わらないだろう。
このままだとハーレムルートが早々に崩壊してしまう。
『僕がこれから魔法で剣を生成するからそれで戦って!』
『いやいや殴ることもできないのに、剣で切りつけられるか!ケガってレベルじゃないだろ!』
『これから作る剣は魔法だけを斬る剣だよ、人を斬ろうとしても透過する。
ただ人を斬った場合一瞬魔力酔いみたいな症状が発生するけど…』
『魔力酔いなんて聞いたことない用語だが、大丈夫なのか?』
ヒロインに後遺症を与えるようなことあったら、目も当てられないぞ…
『…僕を信じて。』
どちらにしろ他に選択肢はないか。
『…わかった、合図をしたら残りの魔力をできるだけ身体能力強化に使ってくれ』
勝つにしても負けるにしても、これからのために諦めるわけにはいかない。
「名残惜しいですが、これで終わりにしましょう。
あなたは間違いなく強かった、ただわたしの方が強かっただけで何も恥じることはありません。
わたしのグループの元で力を発揮してください、」
「あいにくこちらも負けるわけにはいかないな、それにまだ勝負はついてないぜ。」
『影剣生成』
俺の右手に黒い剣が納まる。
「ここにきてまだそのような魔法を使えるのですか、興味深いです。
ですが…わたしの勝ちです!」
そう言って彼女は杖を振り上げるその瞬間ーー
『いまだ!』
思いっきり魔法で強化された体で地面を蹴り彼女の元へ飛び立つ。
魔法が放たれる前に彼女を剣で斬る。
「え?」
ミズキが驚いた顔を浮かべる。
影剣で斬りつけたことで、ミズキの魔力が一瞬途切れたらしい。
魔法の形成が維持できなくなり、水の龍が崩壊して水へ帰っていった。
ミズキはそのまま地面に落下しそうになるが、なんとか彼女を抱きとめて着地する。
「今度こそ俺の勝ちでいいか?」
「…はい…」
勝負は決した。




